熱海
都より巽にあたり出で湯あり名は東路のあつ海と言ふ SWV756
「都の巽」といえば、宇治だ。小倉百人一首・喜撰法師の「わが庵は都の巽しかぞ住む世をうぢやまと人は言ふなり」がすぐに思い出される。巽は「たつみ」と読まれて東南を表す。西北とともに縁起のいい方角だから、京都の東南にある宇治が貴族の別荘地になる。本作もまた都の東南に温泉があるという。「あつ海」は「熱海」でこれは現在の静岡県熱海温泉を指す。「あ」音の心地よい連鎖が湧出の勢いをも指し示すか。熱海礼賛のお歌だ。実朝は熱海を詠むにあたり、都の巽と言っているからこれは幕府のある鎌倉のことではなく京都のことだとわかる。確かに東南には違いあるまいが、距離が遠い。宇治を説明する起点に京都を据えるのは自然だけれど、熱海の説明を京都から語り起こすおおらかな感覚を味わいたい
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