テーマルッセ
ロシアの貴族ラズモフスキーさんに捧げられたからと理由付けられながら、7番ヘ長調のフィナーレと8番ホ短調の3楽章にロシア主題が現れる。楽譜上に「テーマルッセ」(Theme russe)と書かれているのですぐにそれとわかる。伯爵の依頼ともベートーヴェンの忖度とも言われている。
当時ロシアは欧州の強国。一方でウィーンはこれもまた天下のハプスブルク家の本拠地。ドイツはまだ小国の集まりに過ぎず、すぐ西側にはナポレオンが君臨するフランスがいた。海を隔てて英国もいた。大国がしのぎをけずる外交の舞台がウイーンだから駐ウィーン大使には有能な人材があてがわれた。そう、ラズモフスキー伯爵はウィーン駐在ロシア大使だから、相当有力な外交官だ。けれども外交面よりは芸術面に軸足を置いていたとも言われている。
ナポレオンに蹂躙される前の古きよき欧州と、ウィーンだ。
中学時代から歴史大好きだった私にはわくわくする時代背景であった。こうした史的側面が音楽鑑賞に影響を与えていたことは間違いない。ベートーヴェンはそうした点でも格好の存在だった。
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