お盆のファンタジー50
いつもの夏に比べて遅い到着だった。「牛に引かせる車は遅くてな」と汗を拭き拭きあがってきた。「鎌倉の右大臣・源実朝殿じゃ」とブラームス先生が振り向く。「おおっ」てなもんだ。ラフな狩衣姿の精悍な紳士だ。「昨年は私の生誕830年を話題にしてくれてありがとう」と手を差し伸べてきた。昨年ブログで展開した源実朝特集のことだ。今年はこの方をお連れするかベートーヴェン先生をお連れするか迷った。乗り物は牛車をとおっしゃるので従ったが、やけに時間がかかったとあきれ顔のブラームスさんだ。「おかげで和歌とやらのレクチャが受けられたわ」と付け加える。
音楽のブラームス、歌の実朝の訪問を受け、茫然とするばかりの私に気付いてブラームス先生が「ビール、ビール」と切り出す。
揺り超すばかりの泡を見て実朝先生が目を丸くしている。
「大麦の香りほどろに立つる泡盛りて弾けて揺れて飲むかも」とさっそく即興の一首。キャーってなもんだ。
そこで私も
「麦醸し黄金たちたるギヤマンに揺り超す程ぞ泡もほどろに」と即詠で師匠に切り返す。
「ほどろには万葉っぽいな」と真顔の実朝先生だ。「はい先生。旅人テイストです」と私。「酒の場での座興に、即詠のやりとりとは嬉しい限りだ。」と実朝先生に褒められた。
さっきからブラームス先生は何やら指を折っている。「五七五七七」を数えているのだろう。相変わらず律儀だ。「ネイティブの日本語スピーカーなら、数えんでも大体五七調になるんですわ」と私が説明すると「ほんとだ」と感心している。
こんなんでどうじゃろとブラームス先生がおずおずと切り出す。
「毒消しの験と麦酒飲みほして心慰むこの夕べかも」
実朝先生も私も凍り付いた。ブラームス先生が即詠とは。しかも結句に「この夕べかも」を配してさっき話題になった旅人の息子大伴家持テイストになっているではないか。「なあにあんたのブログを読んでいて勉強させてもらったからな」と涼しい顔で言い放つ。我々の驚きをよそに、ブラームス先生は「そんなことより、これにどういう旋律をあてるかだな」と思案顔だ。
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