お盆のファンタジー52
すっかり意気投合した二人に私が割って入る。
「いつの日かお歌を作りためて私歌集を出したいのですが、その題名を銀槐和歌集にしてもいいですか」と。
実朝先生はビクンとこちらを向き直って私の目を見る。「いいですよ」と言ってほほ笑んでくれた。「その代わり、出版前に私が合点を付して差し上げますよ」と先生の口ぶりでおっしゃる。
嬉くて一首「しろがねの槐と敢えて名付くるにためらはぬ我右府の愛弟子」「槐」は「えんじゅ」と読む。いぶかるブラームスさんには「師匠の歌集が金槐和歌集なので、私は銀ですから」と説明したら、実朝先生が「銀は金より良いと書くけどな」としゃしゃり出るおかげで、ブラームスさんはますます混乱していている。漢字の成り立ちを説明するのはあきらめた。
ブラームス先生がふと私に向き直って、「昨年だったか貴国の公共放送で話題になった鎌倉殿の13人とやらに実朝先生は出ていたのか」と聞いてきた。「おおっ」てなもんだ。「いやいや主役級でしたわ」と実朝先生が割って入る。「言いたいことは山ほどあるがの」とため息も混じる。「ですよね」と私「ありゃあ北条目線ですわ」とついムキになる。「まあでもフィクションと割り切ればな」と実朝先生。まさか実朝先生がなだめ役に回るとは思わなかった。
やりとりを聞いていたブラームスさんは、「その13人は最後の晩餐に関係がおありか」と真顔の質問。「いやいや私らの国で13人といえば半ば自動的に最後の晩餐を連想するんでな」と。「お説興味深くはありますが、偶然です」と私が説明すると、実朝先生は「いやどちらも裏切りがテーマですから」としたり顔で切れ込んできた。
するどい。大喜利なら座布団がもらえる。
さっき牛車で帰っていった。出がけに歌をさらさらと書きつけて渡してくれた。
「やよ励め水と清きを競ひつつ山と高きを争へや君」
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