ブラームスは作曲家である。音楽作品を作ることが本職である。他に指揮者、ピアノ演奏家という側面もあった。謝礼を取ってピアノを教えていたこともあるだろう。それから忘れてならないのは、楽譜校訂者という一面だ。古今の作曲家の楽譜校訂は本職顔負けである。
本日の話題はもう一つの一面「バッハ研究家」についてのものだ。ブラームスが一流のバッハ研究家から一目置かれていた点については既に何度も述べてきた。ブラームスの見識は当時第一級の研究家のそれに勝るとも劣らない。
作品の様式を分析させたら超一流だったのだ。当時バッハの真作と目されていた「ルカ受難曲」を偽作と決め付けた裏には、確固たる様式上の根拠があったに違いない。
バッハの「平均律クラヴィーア」曲集についていろいろ調べている中で、興味深い事例を発見した。
ブラームスのバッハ研究に言及する複数の資料に、ブラームスが平均律クラヴィーア曲集の第1巻ハ長調のフーガについて、論文を発表していたことが言及されている。論文自体を掲載している資料はないが、その研究が評価されていた事実が仄めかされている。フーガの主題に含まれる4度音程についての論評らしい。
読んでみたい。どんなことが書かれているのだろう。
音楽之友社から出ている「ブラームス回想録集」第1巻、クララ・シューマンの高弟フローレンス・メイの回想の中にブラームスのピアノレッスンの様子が描写されている。165ページ以下だ。そこにはレッスンの教材にしばしば「平均律クラヴィーア曲集」が用いられたことや、息抜きにブラームスが暗譜で何曲か弾いたことがいきいきと回想されている。特に167ページの3行目には以下の記述がある。
ブラームスが「48の前奏曲とフーガ」を解説し演奏してくれたのは本当に楽しかった。
そりゃそうだろう。何と羨ましい。超一流の作曲家にしてピアニストであり、かつ第一級のバッハ研究家のブラームスが、プライヴェートに「平均律クラヴィーア曲集」を模範演奏付きで解説してくれるのだから、つまらぬなどと言ったらバチが当たる。
フローレンス・メイは後にブラームス作品の有力な演奏家になったばかりか、「バッハの生涯」という著作も発表した程の才女だ。そんな彼女に楽しいと言わせるような解説だったのだ。
そんなブラームスの論文が読みたいのは私ばかりではあるまい。
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