Presto energico
「速く力強く」と解される。辞書的な解釈としては、あるいは試験での模範解答としてはこれでいいのだと思うが、何だか味わいが無さ過ぎる。
「energico」のキャラは特徴がある。ブラームスはトップ系において生涯で8回使用している。ダイナミクスは「f」または「ff」に限られている。8例中7例が短調だ。弦楽五重奏曲第1番の第3楽章にのみ長調の用例がある。また「energico」単独での用例は存在せず、必ず何か別の用語との併用になっている。パガニーニの主題による変奏曲第2巻157小節目第10変奏が「Feroce,energico」になっている以外は「allegro」または「presto」との併用に限られている。「速め系の短調が強く走り出す」ことに特化していると考えていい。「appassionato」よりは響きが厚い印象だ。
「Presto energico」はそういう流れの中で捉えられるべきだと思う。作品116-1のニ短調の「カプリチオ」に一回だけ出現する。「短調、f」の枠組みはキチンと守られている。ブラームスにおいては「presto」は制御の対象であり、しばしば意味を弱める抑制系を伴うが、本例はどちらかというとテンポを煽る意味合いが込められている。
このカプリチオはブラームスの一連のピアノ小品の中では、難曲の部類だ。演奏者のリズム感が絶え間なく試される。アクセントの位置が小節の頭と一致しない。いっそ小節線が8分音符一個分前にズレていたらいいと思う。拍節のズレが延々と続くストレスと、たまに訪れるズレの回復の快感が本質なのではとさえ思わせるものがある。
そうした緊張は、テンポが速くてこそ味わえるということが、この「Presto energico」にはこめられている。







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