お盆のファンタジー53
「そりゃあんた、今年はこの人しかおらんやろ」とドヤ顔のブラームスさんだ。後ろにいる紳士を「マエストロ・リヒターだ」と言って紹介してくれた。おおおおお。昨年末から「カンタータでたどる教会暦」という企画が進行中で、リヒター盤をその主役に据えているのもすっかりお見通しという風情だ。
「よろしく」と手を差し出すリヒター先生。「実は」ともったいを付けながら「私の本名はカール・フェリクス・ヨハネス・リヒターなんです」と名乗りだした。おおおってなもんだ。「それはメンデルスゾーンとブラームス先生にあやかっているのですか?」と真顔の私に、「もちろんです」と即答のリヒター先生だが、「本当は偶然かも」と小声でしゃしゃり出るブラームスさんだ。
「バッハの伝道師とも賞賛されるリヒター先生のミドルネームにメンデルスゾーンとブラームスが関わっているのはド納得ですね」と私が切り出すと「わしならヨハネスをはずしてセバスチャンをからめるがな」とブラームス先生も譲らない。リヒター先生はこのやりとりをにこにこと聞いている。
「そりゃ私だって今年はリヒター先生がおいでになるかもと予想してましたわ」と私がドヤ顔の番。
ミュンヘンのリヒター先生をもてなすならシュパーテンですわいと付け加えた。
ブラームス先生とリヒター先生が顔を見合わせていたが、不意にブラームス先生が「バッハに乾杯」と言ってジョッキを高々とさしあげた。
「ビールはミュンヘン、音楽はバッハですな」と上機嫌のブラームス先生だ。「僕の好みをよくご存じで」とはリヒター先生。ミュンヘンのビールの中でもシュパーテンがお気に入りらしく「アウクスティーナーかシュパーテンばかり飲んでました」と地元っぽく笑う。
何からお話しましょうかと学者っぽい仕草のリヒター先生だ。
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