お盆のファンタジー57
「貴国のお盆という風習には新旧の区別があるのかね」と息を切らしながらブラームスが入ってきた。つい1ヶ月前に来たばかりなのにと驚きながらも「はい。ご指摘の通りです」と私。「新旧があるとはバッハの楽譜みたいじゃの」と鋭く切り返してくるブラームス先生だ。「お言葉ですが、バッハの楽譜は旧が先で新が後なのですが、お盆は新が7月に来たあと、旧が8月に来るのです」と私がやりかえす。
「おお」と爆笑するブラームス先生。
汗も拭かずに「初孫誕生おめでとう」とハグしてきた。「これが言いたくて旧盆とやらを利用させてもらったわ」「来年の7月では間が抜けるからのう」と相変わらず目端の利くブラームス先生である。「元気のいい男の子じゃの」とどこで見たのかなコメント。
「どうだい。おじいちゃんになった気分は?」と真顔で切り出してきた。「かわいくてかわいくて」「噂には聞いていましたがそれ以上ですわ」と返す私。「ですがこまったことに、どうにも旗色が悪くて」ともじもじしているとブラームス先生は「はて?」といぶかしげだ。
「私の初孫にはちがいないのですが、母にとってはUrenkelなのです」「日本語でひ孫といいますが、初孫よりは明らかに稀少なので、話題がそちらに行きがちなのです」
「そりゃ気の毒に」「ひ孫が孫より格上なのはドイツでも同じじゃがの」とまた爆笑のブラームス先生だ。
« 心せよ汝の敬神に偽りあらざるかを | トップページ | お盆のファンタジー58 »
コメント