お盆のファンタジー59
さてとブラームスが向き直る。今日はこの人をお連れしたわ。「ベルタ・ファーバーさんだ」
お祝いに誰を連れて行くのがいいかと少し考えたよ。とまたまたトークが止まらんブラームス先生だ。この人の出産を祝ってお贈りした子守歌がやけに有名になってしまってな。
「このたびはまことにおめでとうございます」とファーバー先生が握手を求めてきた。
ブラームス先生がファーバー先生に目配せするともうピアノが鳴りだした。
- シューベルト 子守歌
- モーツアルト 子守歌
- バッハ 「眠れ疲れた眼よ」BWV82より
- バッハ アリア ゴールドベルク変奏曲より
- ブラームス 「砂の精」
- ブラームス 「子守歌」
あっという間にこれを2人で演奏してくれた。4曲目はブラームスさんの独奏でファーバーさんの休憩にもなっていた。「なあに最後の2つが余計じゃがの」と謙遜しきりのブラームス先生だ。「本当は自作はやらないとおっしゃっていたのですが、それはだめと私が説得しました。とファーバー先生が小声で打ち明ける。
「てへ」とブラームス先生。「自作をやるのを認める代わりに、なんとかアルトの曲も歌ってはくれぬかとソプラノのファーバー先生を説得したわ」と。「???」意味が飲み込めない私にブラームス先生が楽譜を差し出した。「聖なる子守歌」op91-2ではないか。アルト用の独唱歌曲だが、珍しいことにヴィオラとピアノが伴奏につく作品だ。
「ほらおじいちゃん、さっさとあんたのヴィオラを持ってきなさい」とブラームス先生が得意げに促す。「私がアルトのパートを歌いますから、三人で一緒にやりましょう」とファーバー先生もせきたてる。
古いスコットランドの子守歌の旋律をヴィオラが受け持つ。楽譜を見てるのは私だけ。ブラームス先生もファーバー先生も楽譜なんか見ずに私の顔をのぞき込みながら悠々と演奏している。
ありがとうございます。と絞り出すのがやっとの私の肩を抱きながら「今日の演奏すべて、貴殿の好きなUSBとやらに録音しておいたから、お嬢様に渡してくれ」とウインクをかますブラームス先生だ。ファーバー先生はただにこにこと笑っているだけだった。
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