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カテゴリー「213 カノン」の7件の記事

2019年2月13日 (水)

レアな編成

パッヘルベルのカノンと言えば、相当な知名度。ヴィヴァルディの「四季」と何ら遜色はない。卒業式で流れたりもするのでかなりなものだ。

現代風にいろいろアレンジされているのだが、オリジナルは「3本のヴァイオリンと通奏低音」という編成になる。なんでもありのバロック時代でもなかなか珍しい。品揃え豊富なテレマンに1曲あるらしい。(TWV43:BA1)

バッハにもヴィヴァルディにも見当たらない。そもそも「カノンとジーク」という組み合わせもパッヘルベルでは唯一のものだ。

あまりに有名なのにさまざまな点で例外だらけな作品だ。

オーケストラからメンバーを探すとなるとヴィオラは退屈だ。オリジナルになかったパートを弾かされることになる。通奏低音のチェンバロ奏者が数字譜を見て即興で付ける音をピチカートでやらされたりという理不尽も付きまとう。かといって3つめのヴァイオリンのパートをヴィオラで弾くとなるとこれが割と厄介だったりもする。見せ場で第4ポジションになるのが厳しいところだ。思い切ってヴァイオリンへの持ち替えのほうがましだ。

「3本のヴァイオリンと通奏低音」のレア度ありがたみを味わうには有名になりすぎた。

2019年2月 9日 (土)

パイヤール室内管弦楽団

ジャン・フランソワ・パイヤールに率いられたフランスのアンサンブルだ。私の中では、「四季」といえば「イムジチ」であるのと同等に「パッヘルベルのカノン」と言えば「パイヤール」だった。当時は泣く子も黙ったし、飛ぶ鳥も落としていた。

今ほど古楽器演奏に光が当たる前だったこともあって、極端に遅いテンポもアレンジも気にならなかった。今だって大好きだが、3つのヴァイオリンと通奏低音で演奏された場合とではもはや別作品だ。

2016年1月13日 (水)

よく見りゃカノン

クラリネット三重奏曲の第4楽章にブラームスらしいカノンがある。冒頭チェロが第一主題を放つ。クラリネットは休みでピアノが伴奏に回る。あまりにチェロのソロがカッコいいので、CDを繰り返し聴いていても気付かないが、ピアノの右手が8分音符2個分遅れてチェロの主題そのものを模倣する。チェロは「アウフタクト→拍頭」という具合に決然と進行するが、おいかけるピアノは拍頭に休符を据えた後打ちになっているから、楽譜を見てもわかりにくい。音形が違う上に、チェロにはハ音記号が混入しているから楽譜を見ながらCDを聴いていてもボンヤリやり過ごしてしまいがちだ。

楽譜を見ながら繰り返しCDを聴いていても判りにくいようなカノンを、楽章冒頭の主題提示にもぐりこませるとは念が入っている。

2008年3月16日 (日)

カノン

何と言っても代名詞はパッヘルベルだ。

同じ旋律が異なるタイミングで開始される曲とでも申し上げればいいのだろうか。音の高さが同じでないこともある。先のパッヘルベルや「カエルの歌」などは音の高さまで同じである。小学校の頃に輪唱という言い回しを習った。バッハの「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」ニ短調の第2楽章の独奏ヴァイオリンとオーボエがカノンになっている。他に有名なところではフランクのヴァイオリンソナタの終楽章だ。

バッハの時代に隆盛を極めるが、ホモフォニーに押されて下火となるも、曲の一部としてカノンの手法が採用されることも少なくない。

さてブラームスにもカノンがある。よく目立つところでは下記の通り。

  1. 宗教的な歌曲op30 9度の音程差で追いかける「9度のカノン」しかも2つの旋律がからむ2重カノンだが、屁理屈は邪魔なだけの美しさだ。
  2. 女声合唱のための13のカノン op113
  3. ミサカノニカ WoO17およびWoO18。

実は、1曲丸々カノンの作品よりも、曲の一部にカノンの手法が取り入れられているケースの方が多い。

  1. 「愛の誠」op3-1 冒頭からいきなりのカノン。ピアノの左手が歌のパートに1拍だけ先行するカノンになっている。
  2. チェロソナタ第1番第1楽章第2主題57小節目。チェロのパートをピアノの右手が1拍遅れて追いかける。
  3. ピアノ四重奏曲第3番第1楽章の177小節目。先行するヴィオラを追うヴァイオリンは、3拍、2拍、1拍と差を詰める緊迫のカノンだ。いわゆる「Tail to nose」である。
  4. 交響曲第4番第1楽章冒頭。ヴァイオリンの主旋律に2拍遅れて弱拍に和音を差し挟む木管楽器をカノンと申しては行儀が悪いだろうか。
  5. 「4つの厳粛な歌」の3番目「死よ何と苦しいことか」op121-3の6小節目。葬列が粛々と歩みを始める場所。ピアノが歌のパートに4分音符2個分先行するカノンになっている。ダイナミクスはとっておき感溢れる「mp」だ。

注目すべきは上記の1と5だ。リート作曲家ブラームスはキャリアの最初の歌曲をカノンで始め、最後もカノンで締めくくっていることになる。リートにおけるピアノを声と対等の位置まで引き上げる試みを始めたのはシューベルトだという。その正当な後継者たる自覚に溢れたブラームスが示した回答の一つがこれだ。ピアノと声がカノンの声部を形成するとは、これ以上ない対等振りではないか。

なかなか出来ることではない。

2008年3月11日 (火)

Tail to nose

カーレース系の用語。抜きつ抜かれつの大接戦のことだ。先行車の後端に、追い上げ車の先端がくっつかんばかりの状態を「尾と鼻」になぞらえたと思われる。日本語で言うなら「つばぜり合い」といったところか。

著書「ブラームスの辞書」の中でこの言葉が使われている。ピアノ四重奏曲第3番第1楽章177小節目から始まる一連のフレーズだ。全体を引っ張るのはヴィオラだ。同じ旋律をヴァイオリンが1小節つまり4分音符3個分遅れて模倣する。8小節後またヴィオラが同じ旋律を、まるで追いつかれまいと逃げるかように放つと、続くヴァイオリンは何と4分音符2個分遅れて追いすがる。つまり4分音符一個分差が詰まったということだ。3度目にはその差が4分音符一個になる。そして、ヴァイオリンがヴィオラに追いつく瞬間に、ピアノ、チェロまで全て動員して3連符の連打になる。196小節目のことだ。

繰り返すごとに追う側のヴァイオリンが4分音符1個分ずつ差を詰めて行き、やがては追いつく様子を「Tail to nose」と表現した。ブラームスの対位法的技法の粋を集めた見せ場である。追われるヴィオラ、追うヴァイオリンがこの部分のこうした構造を知っておくことは有意義である。フレーズの切れ目でピチカートの合いの手を差し挟むチェリスト氏にだってこのデッドヒートを味わう権利がある。もちろんピアニストまでもが、この理屈を知った上でこの曲に挑むべきである。

味わいが数段深まることをお約束する。全員が参加する3連符強打の意味が身にしみるはずである。

2008年2月25日 (月)

ミサカノニカ

ヨアヒムとの対位法課題の意見交換の中から生まれた作品。作品番号は付与されていない。WoO17およびWoO18が、ミサを構成するアカペラ合唱曲の集合体になっている。

ミサはキリスト教の行事の中でも重要かつ日常的な行事だ。教会暦に従って、厳密にテキストが決まっているが、一年を通じて不変の部分がある。

  • キリエ
  • グローリア
  • サンクトゥス
  • クレド
  • アニュスデイ

一般にミサ曲とはこの5つの部分をテキストにした楽曲を指す。時代により地域により無視し得ない数の例外もあるが、概ねこの通りだ。古来、有名無名含めておびただしい数の作曲家がミサ曲を残している。ミサ曲の歴史を俯瞰すれば同じテキストに曲を付与する作曲コンテストの様相を呈することになる。

ブラームスは作品番号のある作品としてミサ曲を残してはいないが、先に述べたうちのWoO18は、サンクトゥス、アニュスデイ、ドナ・ノビスで構成されるミサの一部と見なしうる。これが1984年になって出版され「ミサカノニカ」と通称されているという寸法だ。

ヨアヒムとの対位法研究の成果だけあって、カノンの手法が盛りだくさんになっている。「カノニカ」というネーミングは「カノン風の」とでも解するのが自然だ。

2008年2月 3日 (日)

13のカノン

ブラームスの晩年を著述した書物ではたびたび言及されていることがある。作品111の弦楽五重奏曲第2番の完成後、創作力の衰えを感じたために、以後作曲するまいとブラームスが決意した話だ。

もう作曲はやめて古い作品の整理や推敲に徹する決意をしたという。その決意によっていくつかの古い作品が整理推敲されたのだとは思うが、その結果出版に結びついたケースは少ない。WoO33を背負った名高い民謡集もその一つだ。

これが作品番号有りの作品となると、該当する作品はおそらく「女声合唱のための13のカノン」op113だけだ。作品に含まれる13曲は全て1859年からの約10年の間に作曲されている。今日のような静かに雪の降る午後に、ピタリとはまり込む清らかなアカペラの女声合唱だ。民謡に題材を求めながら、カノンの装いを巧みに付加している。4番の子守唄はWoO31「子供のための民謡」の11番と同じ旋律、同じテキストだ。つまり、過去に書き溜めた作品からお気に入りを取り繕ってカノンに仕立てたという性格を帯びている。自らの音楽を世に問う野心のこもった作品ではない。最晩年の珠玉のピアノ曲集、一連のクラリネット室内楽、「4つの厳粛な歌」、そしてコラール前奏曲を発表する前の露払いにも見える。

全体の曲数が13で、作品番号が113というのは、はたして偶然だろうか。ブラームスのいたずらである可能性もあると感じる。

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