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カテゴリー「230 ドイツレクイエム」の3件の記事

2016年3月24日 (木)

ドイツの象徴か

「ハンガリア舞曲」と並ぶブラームスの出世作「ドイツレクイエム」第一曲の冒頭を思い浮かべてほしい。その出だしが「ドイツ国歌」に似ていると感じている。ほんの一瞬だけの瞬間芸だ。

「ドイツレクイエム」の完成は1868年だ。「ドイツの」「ドイツ語の」「ドイツ人の」というような意味を併せ持った普遍性あるタイトルだ。普墺戦争勝利後、統一ドイツへまい進する機運の中で、ワーグナーの楽劇「マイスタージンガー」とともに統一ドイツの象徴とばかりに大衆に受け入れられた。

はたして「ドイツレクイエム」と「ドイツ国歌」の冒頭の類似は偶然以上の何かがあるのか。「ドイツ国歌」の旋律は1797年ハイドンによってオーストリアに奉られたものだ。テキストはファーラースレーベンで、1848年ドイツ三月革命の折に「ドイツの歌」として普及が進んだ。ブラームスは15歳だから、当然その経緯と旋律を知っていた。

似ているのは冒頭の音4個の進行だけだ。そりゃあ異論も山ほどあろう。

  1. 「ドイツ国歌」は移動ドで「ドーレミーレー」なのに対し、「ドイツレクイエム」は「ソーラシーラー」だ。
  2. 「ドイツ国歌」は弱起だ。「ドーレミーレー」のうちの「ミ」が小節の頭にくるのに対し「ドイツレクイエム」は冒頭の「ソ」が小節の頭だ。

理屈では分かっているのだが、どうも釈然としない。レクイエムは冒頭以降でも「ソーラシーラー」が音の高さを変えながら、エコーのように何度も強調される。「ドイツレクイエム」冒頭に「ドイツ国歌」がエコーのように繰り返されても何ら不都合はないと思っている。

2014年4月10日 (木)

全曲初演

ドイツレクイエムの初演といえば1868年4月10日ブレーメンとされている。ところがこのときはソプラノ独唱を伴う第5曲が省かれていた。第5曲を含む完全版の初演は1869年2月18日ライプチヒを待たねばならない。この周辺の演奏会の開催を調べていて興味深い鉄道ネタにたどり着いた。

2月18日のレクイエム、演奏はライネッケ指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団だ。この演奏会にブラームスが立ち会っていたと仮定する。伝記を丹念に読むと翌々日の2月20日には、ウィーンでシュトックハウゼンのリサイタルが開かれていることがわかる。ブラームスはピアノ伴奏者だ。レクイエムの演奏に立ち会ったブラームスが、中1日でウィーンのリサイタルに出演するとなると、ライプチヒ-ウィーン間588kmの移動は絶対に鉄道利用でなければならない。

ベルリン-ハンブルク間285kmが急行馬車で丸2日かかっていたことを考えると、ライプチヒ-ウィーン間は4日かかる計算だ。

鴎外の「独逸日記」に現れる主要都市間の所要時間によれば、ライプチヒ-ウィーンは、おそらくドレスデン、プラハ経由で14時間になる。14時間列車に揺られるのは、現代の感覚からは辛い部類に属するが、中1日で移動が完了する。

2012年6月14日 (木)

ドイツレクイエムの位置

あまり政治的な記述には深入りしないブラームスの伝記だが、ドイツレクイエム成立の時期には、そうした記述も現れる。1862年のビスマルクの登場以降、統一への足取りが急速に早まる。ビスマルクは大事な戦いでことごとく勝利して、世論をたくみに誘導する。1871年までの10年はドイツ統一の奔流の中にあった。

だから1868年のドイツレクイエム初演は、統一にむけた民族意識の高揚と結びつけて考えられている。このあたりで歴史的な記述が集中する理由はそこにある。後世の愛好家はその3年後の1871年に普仏戦争に勝利してドイツ帝国が成立したことを知っているから、辻褄だけは合いまくる。しかし初演の時点ではそれは明らかではなかった。むしろその前年1867年7月発足の北ドイツ連邦の方がふさわしい。

後のドイツ帝国の胎動としての北ドイツ連邦の発足により、具体的な統一ドイツの枠組みが、市民に示された意味は大きい。小領邦の主権を温存した連邦の姿を見せることで、その後のドイツの行くべき姿を見本として提示した。このときは連邦に加わらなかった南ドイツは、北ドイツ連邦の始動を見て態度を決めることが出来る。

ただし、当のブラームスはそうした世の中の動きには一線を画す。「ドイツレクイエム」の「ドイツ」には民族的な意味合いは無いと、しばしば漏らしている。「ドイツの」を「人間の」に差し替えてもいいとまで言う。

しかしそこはタイミング。この時期にドイツレクイエムを聴かされた人々が、そこに民族的な意義を見出しても責めることは出来まい。

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