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カテゴリー「231 交響曲第1番」の77件の記事

2023年11月13日 (月)

叩き台

会社という組織に属していると大小を問わずプロジェクトに参画することも多い。社内外の複数の組織から何人かずつ集まって一つの目標を達成しようという趣旨であることがほとんどだ。

何故かそのプロジェクトの会合の初回は「キックオフ」と呼ばれることが多い。議事は大抵お決まりである。プロジェクトの趣旨、目標達成の時期が決められる。作業に当っての役割分担とともに計画達成に向けたスケジュールも必須事項だ。

きれい事ばかりでもない。集まったメンバーのほとんどは「総論賛成」なのだが、「変に仕事を持ち帰りたくはない」「座長は引き受けたくない」みたいな思惑もある。時間ばかりが過ぎて行き最後は、次回までに事務局が「叩き台」を作るという落としどころが待っている。「半先送り」状態だ。

その「叩き台」をいくつか作ったことがある。次回会合に間に合うよう根を詰めるのだが、当日は大抵集中砲火を浴びる。断言してもいいが、「叩き台」を作る方が数段大変である。出来上がった叩き台を見てあれこれコメントするほうが数段簡単である。知識はなくても通り一遍のコメントは出来るが、叩き台を作るほうは、手間も知識もいるのだ。

ブラームスの第一交響曲が出現する前夜、ドイツ・オーストリアの交響曲業界の状況に似ている。ベートーヴェンの9曲が不可侵の規範となり、それと比較するという手法で次々と新作交響曲が叩かれていった。規範を神格化するあまり作品批評の舌鋒は過激さを増す一方だった。批判に代えて自作を提案する批評家は皆無であった。自らはけして交響曲を作らない者たちが批判を繰り返していたことになる。

ブラームスの第一交響曲はそうした業界の実情の中で世に出たのだ。「また新たな叩き台が出てきたぞ」とばかりに無数の批評が浴びせられたことは想像に難くない。

ブラームスの第一交響曲がそれらの批判に耐えたということ、周知の通りである。

2023年11月 4日 (土)

ケンブリッジ大学

英国ケンブリッジにある総合大学だが、複数のカレッジの集合体に対する総称と見ることも出来る独特な形態で知られる。こうした形態の精神的よりどころは、大学教会の存在だ。大学がオフィシャルに教会を持っているようなものだが、ミッションスクールとも違う。その教会は聖メアリー教会である。大学の授業期間中、学生はこの教会から2マイル以内に居住することが義務付けられているらしい。

1877年にブラームスの第一交響曲の英国初演を画策して実現にこぎつけたのは、ケンブリッジ大学音楽協会である。

その第一交響曲のクライマックス第4楽章の序奏で、「歓喜の歌」の第一主題を導くアルペンホルンのコラールが流れて、ケンブリッジ大学の関係者一同は、度肝を抜かれる。大学教会・聖メアリーの時を告げる鐘と寸分違わぬ同じ旋律だったからだ。同初演の大成功はこの瞬間に約束されたようなものだ。

 

 

2023年10月 8日 (日)

サポーターソング

スポーツの中に音楽がある。高校野球では勝利チームの校歌が歌われるし、オリンピックでは優勝者の国歌が演奏されるのが恒例だ。フィギアスケートにも音楽は欠かせない。サッカーの代表戦を前にした両国の国家演奏も定着してきている。ドイツ代表の屈強な選手たちが手を胸に当てて「皇帝賛歌」にじっと聴き入る様子は否応なく感動させられる。

けれども国家や校歌はもちろん、フィギアスケートの音楽もスポーツのためにある訳ではない。スポーツの場面に転用しているに過ぎない。

それではとばかりにスポーツのための音楽を別途探すと、メジャーリーグベースボールで7回に演奏される「Take me out to the ballpark」がすぐに思い浮かぶ。しかしこれはどこのチームも同じ曲だ。日本の球場でも聴かれるくらいである。

特定のチームのために存在するとなると、やはり「六甲颪」だろう。甲子園球場で歌われると有り難みは倍増する。これはイングランドサッカーのサポーターが歌う「You never walk alone」に匹敵していると感じる。

まくらが長くなった。ブラームス作品の中からサッカーのサポーターソングを選ぶとどうなるかが本日の話題である。

サッカーのクラブ育成のシュミレーションゲームがある。お気に入りの旋律を入力してやると、自チームの試合の場面でサポーターがその旋律を演奏してくれるという優れものだ。ブラームスの作品からこれはという旋律を入力して「はまり度」を確認することが出来るのだ。大勢のサポーターが声を合わせるのだから、あまり入り組んだ旋律はだめだ。親しみ易くてシンプルで、格調高くて気品があって、選手を奮い立たせるような旋律はありはしないかといくつか試したが良い作品が見つかった。

交響曲第1番第4楽章の主題だ。ベートーヴェンの第九交響曲の「歓喜の歌」との関係ばかりが強調されるあの旋律だ。これ以外にはない。

試合に勝った後で歌う心地よさはもちろんだが、絶対に勝たねばならぬ試合が、後半も残り15分となって依然0対0で膠着しているようなケースでこれが歌われると元気が出る。

我が育てるチームなら、この歌をサポーターソングにしたい。

もしハンブルグあたりのチームがホームグランドでこの旋律を歌われた場合の説得力たるや半端ではなかろう。

2023年6月10日 (土)

ミュンシュ

つくづく刷り込みは恐ろしい。「パズル交響曲の13人 」で10番つまりブラームスの1番は半ば自動的に決まっていた。シャルルミュンシュ指揮パリ管弦楽団である。この人一応フランス人ということなのだが、古来ドイツとの間で領有権が行き来していたアルザスの出身だから、ドイツ語の話者だ。

私のコレクションでいうなら、今までの9人はクライバーとフリッチャイ以外の6人みな、ベートーヴェンとブラームスの交響曲全集を持っている。ところがこのミュンシュはブラームスの1番しかない。13曲中たった1曲が選定されてしまうということだ。

大学時代にブラームスに目覚めたころ聴きまくった記憶には勝てない。

2022年4月 3日 (日)

誇り高き戦場

父は洋画が好きだった。その影響で小学校から中学にかけて私もよく映画を見た。戦争映画と西部劇中心だった。

私の好きな映画は、「大脱走」「戦場に架ける橋」で、父のお薦めは「眼下の敵」や「ナバロン要塞」だ。「誇り高き戦場」もその一つだった。今は亡きチャールトン・ヘストン演じる高名な指揮者が、慰問演奏中オーケストラもろともドイツ軍の捕虜となる。ドイツの将軍との奇妙な友情が描かれる。記憶が曖昧で気持ちが悪いのだが、クライマックスで用いられたのがブラームスの交響曲だった記憶がある。当時はバリバリのベートーヴェン少年だったから気にも留めなかった。確認したくてDVDを探しているがなかなか見当たらない。

見当たらないと無性に見たいのが人情だ。思い詰めてあちこち当たっているうちにお宝情報を発見。

この映画「誇り高き戦場」はもちろん日本公開にあたっての題名、つまり邦題だ。オリジナルのタイトルは「Counterpoint」ということが判った。

のけぞった。

「Counterpoint」とは英語で「対位法」のことなのだ。アメリカの高名な指揮者と、ドイツの将軍という2人のやりとりがおそらくネーミングの肝なのだと思う次第だが、何というセンスだろう。ますますブラームスだったような気がしてきた。

本日4月3日はもちろんブラームスの命日。没後125年のメモリアルデーではあるのだが、亡き父の誕生日でもある。生きていれば87歳。

2022年2月 7日 (月)

ヘルベック

ヨハン・フォン・ヘルベック(1831-1877)は、ウィーン生まれの作曲家、指揮者だ。20代で頭角を現し、宮廷楽団楽長、宮廷オペラ指揮者、楽友協会芸術監督を歴任した。ブラームスがウィーンに進出した頃には既に、そこそこの地位にあった。

ブラームスは1862年にウィーン進出を果たすと、まずは室内楽のピアニストとして楽壇にデビューした。いくつかの演奏会のセッティングではヘルベックの世話になっているし、ヘルベックはブラームスの作品を評価した。同世代の音楽家として意気投合したというニュアンスだ。

ところが1872年になると、この同じ人物が違うニュアンスで描写される。この年ブラームスはウィーン楽友協会芸術監督に就任するが、ヘルベックはその前任だ。ヘルベックがその地位に未練があり、ブラームス在任中に水面下で復帰を画策したとされている。1873年5月にウィーンはバブル経済が崩壊し、演奏会の入りが悪化した。これをブラームスのプログラミングのせいだとする一派が、ヘルベックを担ぎ出したとも考えられているが、10年前の意気投合もどこへやらという感じである。

ブラームスはこの手の非音楽系の揉め事に嫌気がさしたのか1875年春をもって退任し、その後任にはヘルベックが収まった。

1876年12月18日、このとき楽友協会芸術監督だったヘルベックの指揮によりブラームスの交響曲第1番がウィーンで初演された。ハンスリックの批評が遺されているが概ね好意的だ。このシーズンはヘルベック最後のシーズンになった。翌年ヘルベックは46歳の若さで急死する。

ブラ1で最後の花道かもしれない。

 

 

2021年5月22日 (土)

ブラームス作の賛美歌

賛美歌集の索引を見ていて驚くべき発見があった。賛美歌第二編の59番「すべてのもの統らすかみよ」という賛美歌がブラームス第一交響曲フィナーレの主題だった。

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オリジナルのハ長調をト長調に移調しているけれど、紛れもなく「ブラームスの歓喜の歌」だ。1918年にErnestine Hoff Emrickという人が編曲していた。ブラームス本人の死後だから、厳密にはブラームス作曲の賛美歌とは言えない。ブラームスを代表する旋律を後世の人物が賛美歌に仕立てたということだ。

器楽由来の旋律を歌に移殖する場合、あるいはその逆において、移調はもはや一般的かと思われる。

 

 

2021年3月15日 (月)

交響曲集「四季」

お隣中国では、物事を4つに分けて分類する思想あった。四神というそうだ。

  • 春、青、東、竜
  • 夏、朱、南、雀
  • 秋、白、西、虎
  • 冬、黒、北、亀

古来こうした組み合わせが申し合わせになっていた。思い当たる熟語も多い。「青春」「白虎隊」「北原白秋」「朱雀門」などが有名である。世の中の事象を抽象化して整理する独特の思想だ。相撲の土俵上四隅の房も確かこの方式だったと思う。

さてさて4つと言えばブラームスの交響曲である。ブラームスが四神思想を考慮したなどとはいくら私でも申し上げるつもりはない。他愛のないお遊びとして4つの交響曲を無理矢理四季にあてはめてみた。単なる思いつきである。

春は第2交響曲だ。春のキャピキャピ感は2番以外ではピタリと来ない。夏は第4交響曲だ。実はこれ苦肉の策。消去法だ。秋は黙って第3交響曲だ。これ以外の選択ではブログ炎上のキッカケになりかねない。残るは第1交響曲で、これが冬だ。第4楽章で春の息吹が感じられる。先の表にこの結果を当てはめる。

  • 春、青、東、竜、交響曲第2番ニ長調
  • 夏、朱、南、雀、交響曲第4番ホ短調 
  • 秋、白、西、虎、交響曲第3番ヘ長調
  • 冬、黒、北、亀、交響曲第1番ハ短調

こうすると冬を先頭に冬春夏秋で「CDEF」つまり「ドレミファ」になる。

日本の花札は12種類、各月に割り振られていて季節感がもう少し細かい。12番まであるジャンルがブラームスにあったら、トライしてたかもしれない。

 

 

2017年11月 4日 (土)

C音連打

断り無くいきなり「C音連打」などど申せば、第一交響曲の冒頭を思い出す人は多いだろう。ましてや本日11月4日は第一交響曲の初演記念日でもある。

ところがもうひとつささやかだが印象的な「C音連打」がある。

交響曲第2番第3楽章だ。中間部「Presto ma non assai」の中ほど、51小節目、第3楽章ではじめて「フォルテ」が出現する場所でもある。ここから10小節間ホルンとコントラバスが20個の四分音符を羅列する。すべて「C音」だ。第1交響曲の冒頭に比べればささやかなもので一瞬の出来事ではあるのだが、まことに印象深い。さらにそのあと71小節目からの10小節でも、「C音連打」がおぼろげに仄めかされる。

先の記事「もしかしてC」で、4つの交響曲の中で、第二交響曲にだけ「C」を主音にする楽章が存在せずに、残念だという趣旨の話をしたが、この「C音連打」はそれを補うような感じである。

2015年8月24日 (月)

ラスカー

ドイツの政治家。ビスマルクに対する反対勢力・国民自由党左派の領袖だ。ドイツ帝国成立後ビスマルクの政策にことごとく反対した政敵でもある。国民自由党の党首ではない。

さて、音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第3巻173ページに大変興味深い記述がある。チャールズ・スタンフォードの証言だ。彼は1876年当時、完成したばかりのブラームス第一交響曲を英国で、作曲者本人に指揮させようと画策していた。ケンブリッジ大学からの学位授与とも関連するタイミング。彼の証言は貴重だ。ブラームスはヨアヒムやクララの説得の甲斐あって、渡英する気になっていたのだ。1877年のタイムズ紙の勇み足までは、その気でいたらしい。

第一交響曲の英国初演を1877年春と定めその準備が進められていた。その最終打ち合わせがベルリンで行われたと証言する。弦楽四重奏曲第3番の演奏の後ベルリンジンクアカデミーで打ち合わせたと明記されている。おお。何を隠そうこれは同四重奏曲の初演だ。この打ち合わせの席で、スタンフォードの隣に座った話好きの愉快な男がラスカーだったと断言されている。

ブラ1の英国初演の最終打ち合わせに帝国議会有力会派の領袖が同席していたということだ。その席にブラームスがいたかどうか明記されていないが、いたと考える方が自然だ。カールスルーエでの第一交響曲の初演のわずか5日前のことなので不安だが、第一交響曲の作曲者にして英国初演の指揮者であるブラームス無しに最終打ち合わせとは考えにくい。

ビスマルクに心酔していたブラームスが、ビスマルクの政敵と同席していたかもしれない話。

おっと、今日から12番目の室内楽、弦楽四重奏曲第3番だ。

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