微調整
細かな調整という意味だが、物事の最終段階での仕上げというニュアンスを含む場合もある。各方面に気を配りながら、全体のバランスに配慮するのは日本的な感覚と感じる。
ブラームスの交響曲4曲、全16楽章のうち、管弦楽のオリジナル版と本人編曲の連弾版の発想記号を比較すると、1箇所だけ相違が見つかる。第4交響曲の第1楽章だ。
- オリジナル Allgero non troppo
- 連弾 Allegro non assai
困った。どちらが速いのか判らない。オリジナルの方「Allegro non troppo」は「アレグロの過剰をそぎ落とせ」というブラームスのソナタ楽章独特の表現だ。難解なのは連弾版の「assai」である。「assai」の全用例は下記の通りだ。
- 弦楽四重奏曲第2番第4楽章冒頭 Allegro non assai
- 交響曲第2番第3楽章33小節目 Presto ma non assai
- 交響曲第2番第3楽章126小節目 Presto ma non assai
- ピアノ三重奏曲第3番第2楽章冒頭 Presto non assai
- クラリネット五重奏曲第3楽章34小節目 Presto non assai ,ma con sentimento
- インテルメッツォop118-1 Allegro non assai ma molto appassionato
すぐに気付くのは「Allegro」または「Presto」という速めの用語に付着していることと、必ず「non」が先行した「non assai」と言いまわされていることだ。「assai」単独ならば「非常に」とか「十分に」という意味で、主たる単語の意味を煽る機能があるのだが、「non」が先行することで、雲行きが怪しくなる。
ブラームスは管弦楽や合唱など大規模作品の適正なテンポをピアノ編曲で演奏して測定しようとすると、楽器の特性から、大抵は不必要に速くなると警告を発している。
つまり管弦楽のピアノ編曲は、オリジナルより演奏が速くなるとブラームスが言っているのだ。第4交響曲ピアノ版第1楽章の「Allegro non assai」は、「Allegro non troppo」以上にテンポの上がり過ぎを戒めていると解したい。
最近のコメント