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カテゴリー「236 ヴァイオリン協奏曲」の20件の記事

2013年6月17日 (月)

ゲーゲン協奏曲

一般に「ヴァイオリン協奏曲」といわれているが、正式には「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲」だ。ドイツ語では「Konzert fur Violine」(赤文字はウムラウト)だ。つまり「fur」は「のための」と訳されている。英語で申すなら「for」に相当する。

ブラームスのヴァイオリン協奏曲がヨアヒム独奏により世に出たとき、実は実はその評判は厳しいものだった。ヨアヒムが各地で演奏旅行をする際、その出演契約書には「ブラームスのコンチェルトを演奏しない」という特約が付与されたこともあるという。

当時ウィーンにおけるヴァイオリン演奏の泰斗だったヘルメスベルガーも反対派の一員で、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を「Konzert gegen Violine」と称した。「fur」を「gegen」に代えた言い回しだ。「この作品はヴァイオリンのために書かれていませんよ」「ヴァイオリンに拮抗するために書かれていますよ」というニュアンスを一言で言い表している。「gegen」は英語で申すなら「against」だ。ゴルフの世界なら逆風を意味する。もちろん誉め言葉であるハズがない。

サッカーの世界で今「Gegen」は「トレンド」だ。チャンピオンズリーグ準決勝で、ドイツのクラブが、スペインの両雄を撃破したキーワードが「ゲーゲンプレッシング」という。「Gegenpressing」と綴る。冒頭に本日話題の「ゲーゲン」が来る。味方が相手にボールを奪われた瞬間に、すぐさまボールを奪い返す戦術のことだ。味方がボールを奪われ、相手が攻撃に転ずる瞬間こそが、相手守備体制が最も弱い瞬間だと認識している。これがドイツ勢の台頭を支えた思想だという。

昨日FIFAコンフェデレーションズカップが開幕した。

2011年4月24日 (日)

コンチェルトのお好み

グスタフ・マーラー書簡集の中に興味深い記事を見つけた。ニューヨーク着任後のある日、大ヴァイオリニスト、クライスラーを招いた演奏会での、演目について知人に意見を求めている。

マーラーは、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスの中から選べと言っている。表向きの効果を狙った作品ではダメだといって、別に2人の作曲家の実名を上げている。なるほどマーラーは1910年3月10日と11日にブラームスのヴァイオリン協奏曲を演奏している。このときのヴァイオリン独奏がクライスラーだった。昨日の話の前にあったエピソードということになる。

ヴァイオリン協奏曲には「表向きの効果を狙った曲」とそうでない曲があると、指揮者マーラーは認識していたということだ。そうでない曲を演奏したいと考えていたことは確実で、その中にブラームスのヴァイオリン協奏曲があったということだ。

2011年4月23日 (土)

独奏クライスラー

指揮者としてのグスタフ・マーラーがブラームス作品をどの程度取り上げたのか2008年7月7日の記事「指揮者マーラー」で述べた。

そこには交響曲ばかりでなく協奏曲も載せておいた。ヴァイオリン協奏曲が3回と、ピアノ協奏曲第1番が1回だった。ところが悩ましいことにソリストが不明だった。

このうち1910年3月10日のニューヨークでのヴァイオリン協奏曲についてソリストが判明した。フリッツ・クライスラーだったのだ。

となるとその翌日3月11日のヴァイオリン協奏曲もソリストはクライスラーという可能性が高まる。

いやはや何とも羨ましいメンツである。

2011年1月 3日 (月)

ライプチヒの誇り

11月26日の記事「都市対抗初演ダービー」の優勝をライプチヒに決定する。受賞理由は以下の通りだ。

  1. 対象7曲全てに加えピアノ協奏曲第1番を含めた8曲全てを、完成後初のシーズン中に取り上げている。
  2. ヴァイオリン協奏曲の世界初演を開催している。
  3. 4つの協奏曲全てが1月に演奏され、とりわけ対象となる3つの協奏曲の初演が全て元日になっているこだわりがある。偶然ならなおのこと凄い。
  4. ピアノ協奏曲第1番に寄せられた、不評を覆す大方針転換を感じさせる。

上記4にも書いた通り、1859年1月27日のピアノ協奏曲第1番の初演は、大抵の伝記が言及している大失敗だった。さらに第一交響曲も他の都市に比べて冷ややかな反応だったっと伝えられている。加えてライプチヒを本拠とする大出版社ブライトコップフとは、弦楽六重奏曲第2番にからむトラブルから絶縁状態に至っていた。

ライプチヒの鮮やかな方針転換の原因は何だろう。

1879年1月1日のヴァイオリン協奏曲の初演ではないかと感じている。本来初演は1878年のうちに別の都市で済ますはずが、作曲の微調整が長引き結果としてライプチヒに初演のお鉢が回ってきたと推定した。それが良いキッカケになったのだ。バッハが永らく奉職したことで知られる、ライプチヒ・トマス教会が、ブラームスにカントル就任のオファーを出したのが、まさにその年1879年だった。

1886年2月18日にはピアノ協奏曲第2番がライプチヒで演奏された。第1番のリヴェンジを果たす大成功となった。

おめでとうライプチヒ。

2011年1月 1日 (土)

元日症候群

昨日大晦日の記事「越年」で、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の初演が越年したと書いた。1879年1月1日ライプチヒが初演だった。奇妙な偶然がある。一昨日の記事「皆勤都市」を注意深く読むと判る。

初演ダービーの対象となった3つの協奏曲のライプチヒ初演を見るがいい。

  1. ヴァイオリン協奏曲 1879年1月1日(世界初演)
  2. ピアノ協奏曲第2番 1882年1月1日
  3. ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 1888年1月1日

全部元日だ。これが交響曲ともなるとライプチヒ初演は全て元日ではない。だから協奏曲がいっそう際立つ。私好みの偶然。この話を本日公開したいがために、「ワイン特集」の次に「初演特集」を持ってきたおめでたい脳味噌。今年もまたこの手のおバカなこだわりと共に。

あけましておめでとうございます。

2010年8月15日 (日)

まさかの助言

ブラームスとドヴォルザークはヴァイオリン協奏曲をそれぞれ1曲ずつ残した。1878年に完成させたブラームスに2年遅れてドヴォルザークも発表にこぎつけた。ほぼ同時期の作品である。

そしてもう一つ両者に共通することがある。当時欧州楽壇に君臨していた大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムが作品の成立に深く関与している。

ブラームスとヨアヒムのやりとりは有名だ。フィナーレのテンポについてのヨアヒムの助言が記録されている。当初「Allegro giocoso」としたブラームスに対しヨアヒムは「ma non troppo vivace」を加えないと難しいと主張した。だからブラームスのヴァイオリン協奏曲の第3楽章冒頭には「Allegro giocoso,ma non troppo vivace」と書かれている。

まさかと思うことがある。

ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲の第3楽章冒頭の指定は「Allegro giocoso,ma non troppo」となっている。ブラームスと似ている。

ヨアヒムの助言の賜物かもしれない。今日はヨアヒムの命日だ。

2010年1月16日 (土)

ピアノ協奏曲第3番

ブラームスはピアノ協奏曲を2つ残した。だから今日のタイトルは変だ。しかしト短調ピアノ四重奏曲のシェーンベルク編曲版が「交響曲第5番」と言われていたり、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の独奏をピアノに差し替えた演奏が「ピアノ協奏曲第6番」と呼ばれていたり、奇妙な前例には事欠かない。何よりもブラームスの交響曲第1番はベートーヴェンの「第十」などと称されている。

だから察しのいい人々にはオチが読まれている。

ブラームスのヴァイオリン協奏曲の独奏ヴァイオリンを、独奏ピアノに差し替えたバージョンのCDを購入してしまった。管弦楽をピアノに差し替えたのでは有り難みが薄いが、ソロをピアノに差し替えたとあっては、お宝度はかなりのものだ。これを買わずに踏みとどまるようなこらえ性は持ち合わせていない。独奏はデヤン・ラディックというクロアチアのピアニストだ。独奏者自らの編曲である。ピアノ版用にカンデンツァも書き下ろしている。昨年10月の世界初演のライブ録音だそうだ。

当たり前だが第1楽章と第2楽章冒頭の管弦楽の導入は、オリジナルのままだと思う。第1楽章90小節目の独奏の出には、ワクワクさせられた。オリジナルを忠実にトレースしている感じ。348小節目から380小節目までがヤマで、このあたりのみかなり感じが違う。もちろん見せ場はカデンツァだ。

オリジナルの管弦楽がガッシリと緻密に書かれているから、独奏ピアノだけを律儀に転写すれば様になってしまう。違和感があるとすればカデンツァ明けの薄靄が、ピアノだとくっきりし過ぎてしまうことで、第1楽章結末に向かう高揚感が削がれる点くらいだ。

キーワードを申すなら「大真面目」だ。どうせ編曲物といういじけた感じはまるでない。照れ笑いも一切封じて天下の大曲に真正面から挑む感じ。ピアノ協奏曲としての難易度もかなりのモンなのだと思う。

2009年12月16日 (水)

新世界交響曲初演

本日の記事は1年続くドヴォルザーク特集のエポックの一つになる。

1893年12月16日、今から116年前の今日、ニューヨーク・カーネギーホールで、ドヴォルザークの交響曲第9番ホ短調「新世界より」が初演された。アントン・ザイドル指揮ニューヨークフィルハーモニックによる演奏が、カーネギーホール始まって以来の熱狂を巻き起こしたことは、ほとんどの伝記に書いてある。

大抵の記述は初演の成功にのみ熱狂的に言及するだけだが、演奏会である以上サブプログラムがあった。

  1. メンデルスゾーン 「真夏の夜の夢」序曲
  2. ブラームス ヴァイオリン協奏曲 独奏Vn:アンリ・マルトー
  3. ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調「新世界より」

新世界交響曲の世界初演に先立って演奏されたのは、ブラームスのヴァイオリン協奏曲だったのだ。独奏者マルトー(1874-1934)のことは2006年6月23日の記事「カデンツァ・コレクション」でも言及した。つまりこの人ブラームスのヴァイオリン協奏曲用にカデンツァを作曲しているのだ。新世界交響曲初演の当日に演奏されたブラームスのヴァイオリン協奏曲で自作カデンツァを弾いていた可能性があるということだ。1907年に没したヨアヒムの後任としてベルリン高等音楽院でヴァイオリンを教えたらしい。

単に新世界交響曲初演の話だけなら私がドヴォルザーク特集のエポックとまで思い詰めることは無い。

2008年7月 7日 (月)

指揮者マーラー

本日はグスタフ・マーラーの誕生日だ。1860年7月7日の生まれである。現在では押しも押されもせぬ交響曲作曲家として君臨しているが、当初は指揮者として台頭した。晩年のブラームスと気鋭の作曲家マーラーとのやりとりは有名である。

そうしたやりとりは後世の愛好家にとって興味深いので、多く語られているうちに尾ひれが付いてしまう可能性も低くない。一方で指揮者マーラーが取り上げたブラームスの作品は、尾ひれの付きようがない現実である。

ハンブルグ時代<1891年~>ハンブルグは申すまでもなくブラームスの故郷だ。若い頃ハンブルグでのポストを渇望したブラームスだったが、なかなか思うに任せず、一時はわだかまりもあったらしいが、1889年ブラームスはハンブルグの名誉市民に列せられてそれも解消したと見るべきだろう。マーラーが就任したのはハンブルグ市立劇場の音楽監督だ。ブラームス存命中であることが注意を惹く。ハンブルグでマーラーが取り上げたブラームス作品は以下の通りである。

  • 1894/11/19 交響曲第3番
  • 1895/02/18 ピアノ協奏曲第1番 ソリストは誰だろう。

ウイーン時代<1898年~>1897年に没したブラームスと入れ替わるようなタイミングで、マーラーはウイーンフィルの指揮者となる。

  • 1898/12/04 交響曲第2番
  • 1899/12/03 交響曲第3番
  • 1899/12/17 ヴァイオリン協奏曲 ソリストが知りたい。
  • 1900/04/01 ハイドンの主題による変奏曲

ニューヨーク時代<1904年~>ニューヨークフィルの指揮者に就任する。

  • 1909/11/25  交響曲第3番
  • 1909/11/26 交響曲第3番
  • 1910/01/26 交響曲第3番
  • 1910/01/28 交響曲第3番
  • 1910/03/10 ヴァイオリン協奏曲 ソリストは誰だ。
  • 1910/03/11 ヴァイオリン協奏曲
  • 1910/03/27  フィンガルの歌op17-4
  • 1910/11/15 交響曲第1番
  • 1910/11/18 交響曲第1番
  • 1910/11/20 交響曲第1番

以上だ。彼は1911年5月18日に没するから、人生最後の秋にブラームスの第一交響曲を初めて取り上げたことになる。本日はマーラーが演奏で取り上げたブラームス作品だけを列挙したから、全体に占めるブラームスの割合は伝わらない。彼のレパートリー全体から見るとブラームスはけして中心とはいえない。

それにしても作品17-4とは渋過ぎる。

2007年10月29日 (月)

主題提示の隠蔽

おかしな用語だ。もちろん私の造語である。「主題再現部の隠蔽」であれば、少々詳しいブラームス関連本では言及されている。主題の再現を意図的にぼかすというブラームスの手法のことを指している。

それに対して本日のお題「主題提示の隠蔽」は、主題の最初の提示がぼかされているまたは意図的に省略されているケースだ。主題提示が隠蔽されているのだから、その瞬間はわかりにくい。後で振り返ってみて「そう言えばあのとき」というパターンのことを指している。そのぼかし方のさじ加減は簡単ではない。ボカシがきつすぎて、「そう言えばあのとき」と気づいてもらえなかったら元も子ないからだ。

ヴァイオリン協奏曲の第1楽章。61小節目から木管楽器が1小節毎に下降する。行き着く先の65小節目からグルグルと渦巻くような螺旋階段状の動機が現れる。2小節後にこれが弦楽器に受け継がれることになる。何かが始まりそうな予感に満ちてはいるのだが、このときには何も起きない。

さてさてやがて独奏ヴァイオリンが登場した後、198小節でも上記61小節と同じ局面が現れる。螺旋階段状動機までキチンと現れる。また何も起きないのかと思いいきや、今度は独奏ヴァイオリンが満を持して華麗な第2主題を提示する。206小節目のことだ。この一連の流れは延々と20小節も続き第1楽章の見せ場の一つになっている。ここに至って聴き手は管弦楽のみの提示部69小節目からこの20小節がゴッソリと省略されていたと気付くという寸法である。

同様な例は、第3交響曲第4楽章にも存在する。240小節目のチェロとコントラバスに第4楽章第1主題が出現するに及んで、同楽章の98小節目ではこれが伏せられていたことが判明する。

第1交響曲第4楽章にもある。ベートーヴェンの歓喜の主題との類似がいつも取り沙汰されるあの主題が奏でられるとき、実は、第4楽章の冒頭でその旋律の亡霊がヴァイオリンによって仄めかされていることが判る。

ブラームスの作品はしばしば「噛めば噛むほど」と表現される。この表現は言外に「一度聴いただけでは判らない」というニュアンスを匂わせている。主題提示を隠蔽なんぞされたら一度聴いても判らないのは当たり前である。しかししかし、この辺りがブラームス節の根幹のような気がしている。

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