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カテゴリー「251 クラリネット五重奏曲」の15件の記事

2016年2月 8日 (月)

室内楽の中の変奏曲

変奏の大家ブラームスだから、室内楽作品の中にもその痕跡が色濃く宿る。作品中で変奏の技法を駆使するケースは、もはやカウント不能だ。室内楽の単一楽章が変奏曲になっているケースを以下に列挙する。

  1. 弦楽六重奏曲第1番op18第二楽章ニ短調
  2. 弦楽六重奏曲第2番op36第三楽章ホ短調
  3. 弦楽四重奏曲第3番op67第四楽章変ロ長調
  4. ピアノ三重奏曲第2番op87第二楽章イ短調
  5. 弦楽五重奏曲第2番op111第二楽章ニ短調
  6. クラリネット五重奏曲op115第四楽章ロ短調
  7. クラリネットソナタ第2番op120-2第三楽章変ホ長調

見ての通り全部で7曲だ。第一楽章には存在しない。第二楽章に3回、第三楽章に2回、第四楽章に2回となる。ただし、クラリネットソナタ第2番は第三楽章でありながらフィナーレである。だからフィナーレは3回。

二重奏から六重奏まで、もれなく分布する。

第4楽章に変奏曲をおくケース2件、どちらもその最終変奏で第一楽章冒頭主題が回帰するという共通点がある。クラリネット五重奏のフィナーレに変奏曲を置くのは、モーツアルトのクラリネット五重奏曲を踏まえているかもと妄想が膨らむ。

第二第三楽章に来る5例は緩徐楽章だ。このうちクラリネットソナタは、緩徐楽章として立ち上がりながらも、変奏の終末でアレグロに転じ、これが終楽章を兼ねているという、凝りまくった構造になっている。

ブラームスが弦楽五重奏で作曲の筆を折ろうとしていた話は、まことしやかに取りざたされる。もし、クラリネット奏者ミュールフェルトとの出会いがなかったら云々である。もしそうなっていたら、弦楽五重奏2番の変奏曲は、最初の変奏曲との共通点をもっと注目されていただろう。両者は表裏の存在だ。

史上最高の室内楽作曲家にして、史上最高の変奏の大家。その有力な証拠がこの7曲だ。

2016年1月25日 (月)

リピートの戻り先

ソナタ形式を採用する楽章において、提示部の末尾にリピート記号が置かれ、提示部の繰り返しが意図されている場合がある。提示部の末尾にリピート記号を置く置かないの基準が曖昧なことは既に述べた。リピート記号に従って指定の位置まで戻ると、提示部が繰り返されるのだ。

提示部の繰り返しという言葉を鵜呑みに出来ない例が一つある。クラリネット五重奏曲だ。リピート記号に従って戻る先が第一主題の冒頭になっていない。リピート記号は4小節目と5小節目の間にある。冒頭の両ヴァイオリンによる3度のハモリは繰り返しの対象ではないのだ。いきなりクラリネットの上行する分散和音に直結するのだ。136小節目の再現部ではこのハモリがキチンと再現されるから、提示部の繰り返しにおける別扱いが際だって聞こえる。

理由なんぞわからない。繰り返しを置く置かぬが既に難問である上に、さらに完全には繰り返さぬ例もあるということだ。クラリネット五重奏曲だけは、リピート記号を守らないと、醍醐味が一つ減る。

ブラームスの本能だとしか言えない。

2016年1月22日 (金)

クラ5をヴィオラで

ヨアヒムがヴィオラを弾いたのではないかと半ば確信していることは一昨日の記事「ヨアヒムはヴィオラを弾いたか」で述べた。

もう一つ手掛かりがある。音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻81ページの原注13だ。1891年12月15日のウィーンにおけるヨアヒム四重奏団のコンサートでブラームスのクラリネット五重奏曲が演奏されたとある。このときクラリネットのパートがヴィオラで弾かれたことが明言されている。ヨアヒムがそのヴィオラパートを担当したと読めなくもない文脈だ。

クラリネット五重奏は、「弦楽四重奏プラスクラリネット」だ。ブラームス本人がクラリネットをヴィオラに代えた版を編曲している。CDも出ている。

ヨアヒムはやはりヨアヒム四重奏団のコンサートマスターとしてヴァイオリンを弾いたのか、クラリネット代わりのヴィオラを弾いたのか興味深い。

ヨアヒムのヴィオラなら聴いてみたいものだ。

2016年1月21日 (木)

不思議な音

クラリネット五重奏曲の話をする。この作品はロ短調とされている。

第1楽章の冒頭は2本のヴァイオリンで始まる。D音とFis音だ。調号はシャープ2個なので、この瞬間はロ短調という感じがしない。聴きようによってはニ長調とも感じるハズだ。音楽が進むにつれてだんだん短調の影が忍び寄って来る感じだ。ブラームスは全て承知でこうした効果を狙ったと思う。

この旋律のどこで短調と判るかが本日の話題だ。私の感覚だと3小節目8分音符で数えて4拍目の嬰イ音(Ais)が決め手と思う。この音が鳴ることで冒頭の曖昧さが完全に払拭されて「ああ短調なのだな」と判る。ロ短調の主音であるH音ではないところが面白い。

試しに娘にこの旋律4小節をピアノで聴かせる。第1ヴァイオリンのパートだ。長調か短調かと問えば、少し考えて短調と答えてきた。「おおお」ってなもんだ。彼女はこの作品のことを全く知らないから「ロ短調」という先入観が無い。にもかかわらず短調だと言うのは、旋律自体に何かを感じる証拠だ。さらに「旋律がどの音にさしかかった時、短調だと感じたか」と問う。短調と感じた瞬間に手を上げさせる。念のためピアノを弾く私に背を向けさせて聴かせる。私の弾き方や表情を読ませない為だ。

結果はやはり「嬰イ音」だ。これを正解と言っていいのか自信が無いが嬉しい。

2016年1月20日 (水)

Quasi sostenuto

思うに難解である。ひとまず「ほとんどソステヌートで」と解しておく。クラリネット五重奏曲第1楽章98小節目にトップ系として生涯たった1度の出番がある。ソナタ形式を採用する第1楽章の中ほど展開部の後半だ。実演奏上は「テンポダウン」として処理されることが多いし、後方127小節目に「in tempo」が置かれていることからもブラームス自身テンポの変動を念頭においていたと考えられる。

何故単なる「Sostenuto」とせずに「Quasi」を添えたのかが難解と申し上げた最大の理由だ。「ほとんどソステヌート」というのは結局は正真正銘のソステヌートではないという意思表示に見える。ブラームスの基準に照らした正真正銘のソステヌートではないからこそ「Quasi」を配さざるを得なかったと解したい。

「Sostenuto」という単語の出現は、トップ系21箇所、パート系164箇所に及ぶがピアノを含まない作品に現れるのは、わずか11箇所6%に過ぎない。クラリネット五重奏曲にはもちろんピアノは用いられていないからこの6%の側である。

この「Quasi」には「ピアノの入っていない曲だけどね」の意味が込められていたかもしれないというのが私の第一感である。とりわけパート系においては、「sostenuto」をピアノの楽譜の上に出現させてきた自らの癖に反していることの仄めかしの意味で「Quasi」を添えたとひとまず考えておく。

2016年1月19日 (火)

ソロシンコペーション

勝手気ままな私の造語。複数パート作品で、他のパートが全て通常ビートを刻む中、1つのパートだけが単独でシンコペーションを奏しているケースを指す。シンコペーション大好きなブラームスだが、シンコペーションとしてリズム的な衝突を意図しながら、その衝突をたった一つのパートにゆだねているケースだ。理屈の上では、ヴァイオリンソナタにおいて、ピアノが通常ビートを刻む中、ヴァイオリンがシンコペーションを打った場合、この定義を満足してしまうにはしまうのだが、通常ビートを打つパートが多ければ多いほど、それらしい。

第4交響曲第3楽章275小節目には、我がヴィオラにソロシンコペーションが現れる。オーラスのフォルテシモに到達する直前だから、大見せ場なのだが、なかなか聞こえない場所でもある。

さて、ソロシンコペーションの最大の名所がクラリネット五重奏曲第一楽章に存在する。24小節目と148小節目。提示部と再現部に割れた同じ景色と思っていい。

クラリネットはお休み。セカンドヴァイオリンとチェロが付点四分音符2個で、8分の6拍子1小節を2分するのに対し、ファーストヴァイオリンは4分音符3個を並べる。真ん中の四分音符には装飾音符が付与されて強調され、4分の3拍子が形成されている。ヴィオラは微妙。スラーのかかりかたは、小節を2分する8分の6なのだが、音の割付が4分の3拍子のシンコペーションに聞こえる。このときファーストヴァイオリンがシンコペーションにも聞こえるのだが、ヘミオラと解することも可能だ。ヴィオラの音の割付こそがシンコペーションと判定するべきだろう。

この場所、ファーストヴァイオリンとの呼吸合わせにこそ、アンサンブルの醍醐味が凝縮されている。1小節後のフォルテの総奏の準備としても秀逸である。

2016年1月18日 (月)

卒業演奏

1982年2月、大学4年の私は団内の室内楽演奏会においてブラームスのクラリネット五重奏のメンバーとして演奏を披露した。同期のクラリネット吹き、チェロ弾きと企んで、前年にはモーツアルトのクラリネット五重奏曲を演奏していたから、最後にブラームスで仕上げたいと臨んだ第一楽章だった。

メンバーは全部男性で以下の通り。

  • クラリネット 私の同期。4年生だが工学部の大学院に進学予定。悲愴交響曲での華麗なリードミスで一生語られる実直な男。
  • 第一ヴァイオリン 私が初心者としてオケに入り、1からヴィオラを教わった2コ上の先輩。元コンマス。工学部の大学院生。
  • 第二ヴァイオリン 3年で私がヴィオラトップだったときの1コ上の先輩。元コンマス。医学部5年生。
  • ヴィオラ 私。
  • チェロ 私の同期。4年生だが工学部の大学院に進学予定。

早生まれの私は、この中では一番年下だった。なのに他のメンバーは医学部やら大学院やらでみな、大学に残る中、最年少の私だけが卒業だった。だからこの演奏はただただ私だけの卒業演奏になった。

男5人のマジな練習を繰り返して大好きなブラームスに臨んだ。私が大学オケで記した最後の演奏が、ブラームスのクラリネット五重奏だった。実はオケで最初の演奏は、1年冬のブラームス第二交響曲だった。オープニングの「マイスタージンガー」やサブのラヴェル「マ・メール・ロア」にはステージに乗らなかったから、ブラ2が正真正銘のデビュー。つまり私の大学オケ生活は、第二交響曲で明けて、クラリネット五重奏曲で締めたということだ。

果報者というべきだろう。

2016年1月14日 (木)

24という数

バッハの金字塔「平均律クラヴィーア曲集」は、オクターブに含まれる12の音全てについて、これを主音として前奏曲とフーガを連ねた代物だ。長短あるから2倍の24曲になる。

バッハ以降の作曲家たちに影響を与えたと思われる。コンセプトはさておき、「24」という数にこだわった人も多い。ショパンの前奏曲は特に名高い。パガニーニの無伴奏ヴァイオリンのためのカプリースも怪しい。

バッハラブのブラームスにも「24」にこだわった作品がありはせぬかと捜したが、見当たらない。「24の~」という作品は存在しない。後期のピアノ小品は20曲にしかならず、それではとばかりに中期のop76を加えると28曲になってしまう。存在しないからこそ「平均律ブラヴィーア」曲集を作ってみたという訳だ。

ところが、相変わらずのお叱り覚悟ネタがある。

ブラームスの室内楽を考える。二重奏から六重奏までだ。これを数えると全部で24曲になる。1890年弦楽五重奏曲第2番の作曲を終えたブラームスは創作力の枯渇を自覚し、作曲から手を引く決意をする。このときまでに残した室内楽は20曲だ。

クラリネットの名手ミュールフェルトの出会いによって一連のクラリネット入り室内楽が生まれることになる。

  1. クラリネット三重奏曲イ短調
  2. クラリネット五重奏曲ロ短調
  3. クラリネットソナタ第1番ヘ短調
  4. クラリネットソナタ第2番変ホ長調

ご覧の通りの4曲が、既存の室内楽に加わることにより合計24曲になった。ミュールフェルトが創作欲を刺激したことは間違い無いのだとは思うが、その結果生み出された作品が4曲だというのは、ミュールフェルトではなくバッハの影響かもしれない。

2009年5月16日 (土)

もう一つのナイチンゲール

5月10日の記事「愛鳥週間」で、ブラームスの歌曲に出現する鳥のリストを作り、ナイチンゲールつまり小夜鳥が、最多登場だと書いた。鳴き声の美しい鳥として認知されているようだ。

さて、ブラームスは弦楽五重奏曲第2番の完成後、創作力の衰えを自覚し、作曲を控える決断をした。ところが、この決意はあるクラリネット奏者との出会いによって撤回される。

彼の名はリヒャルト・ミュールフェルトだ。独学でクラリネットを学んだらしいが、その表現力は素晴らしく、ブラームスはたちまち虜になった。

ブラームスはミュールフェルトを指して「私のナイチンゲール」と呼んだのだ。歌曲最多出場のナイチンゲールの売りは、その美しい鳴き声だ。ミュールフェルトの操るクラリネットがそれにあやかるほどの音色だったということに他ならない。

その考えに同調する人はきっと多かったのだと思う。ヨアヒム四重奏団は、結成以来はじめてクラリネットとの競演に踏み切った。それは、ミュールフェルトを加えて、ブラームスの新作クラリネット五重奏曲を演奏するためだった。

愛鳥週間今日まで

2009年2月 2日 (月)

尾を咬む

最後に至って最初に戻る。

音楽作品にもその手は多い。ブルックナーではそれをしないと交響曲が終われないかのようにも見える。ブラームスにも終楽章の結尾で第1楽章の主題が回帰するケースが以下の通り存在する。

  1. 弦楽四重奏曲第3番
  2. 交響曲第3番
  3. クラリネット五重奏曲

さらにもっと後退してブラームス自身の創作活動全体を俯瞰する。ピアノソナタ第1番の緩徐楽章のテーマが、創作人生の末期に回想されることについては昨日の記事で述べた通りである。「49のドイツ民謡集」WoO33の終曲49番だ。

ブラームス自身この事実に言及して「尾を咬む」という比喩を用いている。あるいは、同じくピアノソナタ第1番の第2楽章54小節目とクラリネットソナタ第1番の冒頭にからんで「尾を咬む」の比喩が取り沙汰されることもあるようだ。

クラリネットソナタ第1番は120という作品番号を背負う。「49のドイツ民謡集」WoO33と同様に最晩年の作品である。これら最晩年の作品が、作品番号1のピアノソナタと主題的に関連があるというのは大変興味深い。いくらブラームスでも、作品1のピアノソナタの作曲時点で、創作人生の最末期におけるこのオチを想定してはおるまい。創作人生の終焉を自覚した中で湧いた構想だと思われる。作品1の選定に当たっては、あれこれと考えたハズだから、ちょっとした弾みで別の作品が作品1になっていた可能性もある。

作品1が仮にどんな作品になっていたとしても、そこに出現する主題を用いた作品を書くことなど朝飯前だろう。そのことを芸術上のパートナーであるクララに仄めかすために用いたのが「尾を咬む」という言い回しだった。

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