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カテゴリー「253 弦楽五重奏曲第2番」の13件の記事

2016年2月 8日 (月)

室内楽の中の変奏曲

変奏の大家ブラームスだから、室内楽作品の中にもその痕跡が色濃く宿る。作品中で変奏の技法を駆使するケースは、もはやカウント不能だ。室内楽の単一楽章が変奏曲になっているケースを以下に列挙する。

  1. 弦楽六重奏曲第1番op18第二楽章ニ短調
  2. 弦楽六重奏曲第2番op36第三楽章ホ短調
  3. 弦楽四重奏曲第3番op67第四楽章変ロ長調
  4. ピアノ三重奏曲第2番op87第二楽章イ短調
  5. 弦楽五重奏曲第2番op111第二楽章ニ短調
  6. クラリネット五重奏曲op115第四楽章ロ短調
  7. クラリネットソナタ第2番op120-2第三楽章変ホ長調

見ての通り全部で7曲だ。第一楽章には存在しない。第二楽章に3回、第三楽章に2回、第四楽章に2回となる。ただし、クラリネットソナタ第2番は第三楽章でありながらフィナーレである。だからフィナーレは3回。

二重奏から六重奏まで、もれなく分布する。

第4楽章に変奏曲をおくケース2件、どちらもその最終変奏で第一楽章冒頭主題が回帰するという共通点がある。クラリネット五重奏のフィナーレに変奏曲を置くのは、モーツアルトのクラリネット五重奏曲を踏まえているかもと妄想が膨らむ。

第二第三楽章に来る5例は緩徐楽章だ。このうちクラリネットソナタは、緩徐楽章として立ち上がりながらも、変奏の終末でアレグロに転じ、これが終楽章を兼ねているという、凝りまくった構造になっている。

ブラームスが弦楽五重奏で作曲の筆を折ろうとしていた話は、まことしやかに取りざたされる。もし、クラリネット奏者ミュールフェルトとの出会いがなかったら云々である。もしそうなっていたら、弦楽五重奏2番の変奏曲は、最初の変奏曲との共通点をもっと注目されていただろう。両者は表裏の存在だ。

史上最高の室内楽作曲家にして、史上最高の変奏の大家。その有力な証拠がこの7曲だ。

2016年1月 6日 (水)

音強のバランス

弦楽五重奏曲第2番ト長調op111の成立を巡るエピソードだ。

第1楽章はチェロの雄渾な旋律によって立ち上がる。チェロの登場に先立つこと1小節、ヴァイオリンとヴィオラ各2本の計4本は協同してさざ波状の分散和音を響かせる。ブラームスはこの伴奏声部のダイナミクスに「f」を使用している。

初演を担ったロゼ四重奏団のチェリストやヨアヒムはこの「f」に疑問を差し挟んだ。この場面主役はチェロであるから、他の楽器のダイナミクスは「f未満」であるべきだというのがその論旨である。24あるブラームスの室内楽の20番目の室内楽だけに、意見をした仲間もブラームスの嗜好には知悉した上での助言である。一応ブラームスはあれこれ対応策を提示して議論するが、結局元のままになった。現在流布する楽譜は「f」となっている。チェロは「sempre f」だから、主旋律のチェロに音強表示上の優越を発生させていない。ヨアヒムを筆頭とする知人たちは、この点を不審に思ったと解される。チェロに主旋律マーカーを付与するか、他のパートに微調整語を与えてチェロの優越権の表明があっても不思議ではないところだ。ブラームスの語法に精通している者ほどそう感じるはずだ。

これらの議論についてどちらかの陣営に軍配を上げるのが本稿の主意ではないし、私にその能力もないが、実は嬉しいことがある。ブラームスがこれらのダイナミクスの微細な違いに対して非常に敏感だという事実一点である。それでこそ「ブラームスの辞書」を書いた甲斐があるというものだ。

ブラームスが信頼するに足る友人の助言を一旦は受けて、あれこれと代案を模索したが、結局元のままに落ち着いたという事実は重大だ。いろいろなこと全てを承知でやっぱり全パートに「f」を奉ったと思わざるを得ない。チェロパートに置かれた「smepre f」は意味深である。結果として助言を退けざるを得なかったブラームスのせめてもの譲歩だと思えてならない。つまりこの「sempre」「常に」には軽い強調が意図されていると見たい。「継続のsempre」ではない、第二の「sempre」いわば「強調のsempre」を提唱する理由の一つがこれである。

2016年1月 5日 (火)

晩年の創作

誰にも晩年は訪れる。本人が「晩年」と自覚しているかどうかは別にして、後世に生きる我々愛好家は作曲家の没年を知っているから、作品名を見ればそれが晩年の作品かどうかわかる。

モーツアルト、シューベルト、シューマンなど死が早く訪れた作曲家は、死期を悟った作品を残しにくい。後世の愛好家はいかようにもこじつけるが、当人の自覚は薄かろう。

ベートーヴェンは、本人が意識していたかどうか不明ながら、人間離れした作品が出現する。14番嬰ハ短調の弦楽四重奏曲や、大フーガで名高い変ロ長調13番の弦楽四重奏曲だ。あるいはイ短調の15番も加えていかもしれない。常人の理解を超えてしまっている。ピアノソナタの30番31番32番あたりも同様で、ある種の狂気を感じる。お叱りを覚悟で付け加えるならば、第九交響曲にもその萌芽を感じてしまっている。そしてバッハには「フーガの技法」がある。「音楽の捧げ物」や「ロ短調ミサ」など集大成を狙った巨人のような作品もその仲間だ。

バッハ、ベートーヴェンとともに3大Bに数えられるブラームスの晩年は、少し勝手が違う。伝記を読めば分かるとおり、弦楽五重曲第2番を仕上げた後、ブラームスははっきりと創作力の衰えを自覚し、クララの死以降は自らの死期まで悟ったと思われる。

一連のクラリネット入り室内楽、ピアノ小品、4つの厳粛な歌、オルガンのためのコラール前奏曲といったラインアップを見ると、響きや表現の簡素化を指向する傾向こそあれ、そこには狂気と名付けたくなる要素は少ない。そしてさらに死の3年前には「49のドイツ民謡集」が刊行される。枯淡の境地とはこういものなのだろうと思えてくる。特別なことは何もないシンプルさがかえって心に響く。そこではバッハやベートーヴェンの晩年の作品に感じてしまう近寄り難さを感じることは少ない。

個々の作品の優劣を断じようという意図は全く無いが、私がブラームスのことを深く愛する原因の一つであることは疑えない。

2016年1月 4日 (月)

創作力の衰え

1890年11月11日ウィーンにおいて弦楽五重奏曲第2番ト長調op111が初演された。op111の初演が11月11日とは芸が細かい。

出来映えはいつも通りの素晴らしさだったが、本人は創作力の衰えを感じて、今後大作の創作をやめ、過去の作品の整理に没頭しようと思いつめる。この決定はやがて翻意されるが当時は真剣だったと見える。

ドヴォルザークにおいては、弦楽四重奏曲第13番変イ長調をもって、いわゆるブラームス型の絶対音楽の創作を打ち切る。これ以降創作の軸足はオペラに移るが、傑作を生み出せぬまま8年を過ごしてこの世を去る。ドヴォルザークの伝記の中でさえ、この時期を評して「創作力の衰えが伺える」とする論調も多い。

私のような素人には伺い得ぬ感覚があるのだと思う。作曲家は創作力の衰えを自覚するものなのだろうか。

その疑問に迫るための実験を思いついた。

今私はブログ「ブラームスの辞書」のための記事を溢れるように思いつく。無論ブラームスやドヴォルザークほどの普遍性は持ち合わせていないが、私自身はそう感じている。小さな波はあるが、記事の着想が途絶えることがない。この先この状態がいつまで続くのか自分で自分を見守りたい。

衰えの兆候は、記事の質に現われるのか、単位時間当たりの着想量に現われるのか、そしてそれがいつなのか自分で見極めたい。難しいのは質だ。量の衰えと時期は明確に自覚できるが、質は難しい。あるいは質の劣化に気付かなくなる感性の衰えは客観的な測定が難しかろう。

読者に指摘されて気付くか、ブログのアクセス減として思い知らされることもあろう。その最初の兆候に気付くのが自分であって欲しいと心から思う。

2016年1月 3日 (日)

ロゼー四重奏団

ウィーンフィルのコンサートマスタだったアーノルト・ロゼーによって1882年に創設された弦楽四重奏団。ウィーン最高の弦楽四重奏団の地位をへルメスベルガー四重奏団から引き継いだ形となる。ロゼーは1863年ルーマニア生まれだ。17歳でウィーン宮廷歌劇場管弦楽団のコンサートマスターに就任した。以後58年間コンサートマスターとして活躍した。もはや伝説上の人物だ。大変な実力者で、エピソードには事欠かない。クライスラーの読譜力に疑問符を投げかけたのも彼と言われている。マーラーの妹ユスティーネと結婚して授かった娘の名前は、マーラーの妻にちなむ「アルマ」だった。

コンマスへの就任は1880年で、四重奏団の創設は1882年。つまりブラームスの壮年期と重なっている。弦楽四重奏曲第2番を得意としていたと伝えられるが、弦楽五重奏曲第2番を世界初演している。ブラームスの信頼は厚く、室内楽のウィーン初演を次々と担って行く。ブラームスの推薦によりウィーンに進出したドヴォルザーク作品の初演にも尽力した。

2016年1月 2日 (土)

打ち上げ

イベント終了後に行われる関係者の懇親会のことだ。音楽家にとっては演奏会後の打ち上げでの語らいとビールは、大きな楽しみである。

1897年1月2日ウィーンでヨアヒム四重奏団が演奏会を開いた。演奏の呼び物はブラームスの弦楽五重奏曲第2番ト長調op111だ。このころ既にブラームスは死に至る病に取り憑かれていたが、大晦日のプローベから立ち会っていた。終演後聴衆の反響は凄まじく、楽屋にいたブラームスをヨアヒムがステージに引っ張り出したという。

その後、当然のごとく打ち上げになだれ込む。ブラームスとヨアヒムは大いに語り合いお開きの頃には日付が変わっていた。

これが1853年5月にはじめて出会った2人の最後の対面になった。このときブラームスの命は残り3ヶ月に迫っていたからだ。

何を話したのだろう。

2010年7月12日 (月)

さざなみはソプラノ

事前に「お叱り覚悟」と宣言して、荒唐無稽な仮説をひけらかす癖が止まらない。昨日がそうだった。

ブラームスのチェロソナタ第2番(1887年)の冒頭と、弦楽五重奏曲第2番(1890年)の冒頭だ。この両者は以下の点において共通する。

  1. テノールの音域のチェロがフォルテで旋律を提示する。
  2. ソプラノの音域にて16分音符のさざなみが伴奏する。

この枠組みが1892年作のドヴォルザークの弦楽四重奏曲第12番ヘ長調「アメリカ」の冒頭にも現われるということを指摘し、偶然にしてはおいしいと私見を提示したつもりだ。唯一アメリカ四重奏曲の冒頭では旋律がヴィオラに差し替えられているが、テノールの音域であることは動かない。

さてドヴォルザークの名を世界に知らしめたスラブ舞曲の第2集の冒頭第9番の中間部には、アメリカ四重奏曲の冒頭旋律が短調で出現する。1度目の提示では明確ではないが、2度目に提示される時は「テノール音域の旋律&ソプラノ音域の16分音符の伴奏」という枠組みになっている。1886年の作品だ。

さらに6年遡る。ピアノ独奏曲「エクローグ第4番」op56-4にも全く同じ旋律が短調で出現する。驚いたことに旋律はピアノの左手、16分音符の伴奏が右手だ。つまり上記1,2の枠組みになっている。

アメリカ四重奏曲冒頭の名旋律は、12年前の初出の時から「テノール音域の旋律&ソプラノ音域の16分音符の伴奏」という枠組みだった。

恐ろしくなってきた。真似したのはブラームスかもしれない。

2010年7月11日 (日)

さざなみの系譜

「ブラームスの辞書」では2つの音が交互に繰り返される音形をしばしば「さざなみのような」と表現している。実例は以下の通りである。

  1. 弦楽六重奏曲第2番第1楽章冒頭 第1ヴィオラ。GとFisが移弦を伴って延々とくり返される。
  2. 交響曲第1番第4楽章31小節目 ヴァイオリンとヴィオラ。Piu Andanteの2小節目。アルペンホルンのバックに配されたさざなみだ。
  3. チェロソナタ第2番第1楽章冒頭 ピアノ。AとFisの交代だ。
  4. 弦楽五重奏曲第2番第1楽章 ヴァイオリン2本とヴィオラ2本。

見ての通り全てが伴奏のパートに現れる。さらにこのうちの3番目と4番目は1886年、1890年という具合に作曲年が近い。ソプラノ音域に置かれたさざなみの下、テナーまたはバリトンの音域で雄渾な旋律が放たれる。ダイナミクスはほぼフォルテと思われる。そしてどちらも第一楽章の冒頭つまり作品の冒頭だ。

まさかと思うことがある。

この作品冒頭におけるさざなみの系譜は、1892年に生まれたドヴォルザーク室内楽の最高傑作、弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」の冒頭にひそかに受け継がれているような気がする。

お叱りはもとより覚悟の上でござる。

2008年2月 4日 (月)

ニ短調の緩徐楽章

誰にでもあるのかどうかはわからないが、私はたまにある。特にブラームスに関してだ。根拠を言葉で説明出来ないのに、ある考えが頭から離れないというケースのことだ。本日の話題はその手である。

多楽章の器楽曲においてブラームスは大抵緩徐楽章を置く。室内楽24曲、交響曲協奏曲8曲、ピアノソナタ3曲の計35曲のうち、緩徐楽章が無いのはチェロソナタ第1番くらいだ。全34個の緩徐楽章のうちニ短調になっているケースが2回ある。弦楽六重奏曲第1番作品18と弦楽五重奏曲第2番作品111だ。前者は1860年出版、後者は1890年だ。きっかり30年を隔てる両者は、弦楽器だけの室内楽の第一作と最終作になっている。この両者はニ短調であること以外にも何だか共通点が多い。

  1. 第二楽章に置かれている。
  2. 変奏曲になっている。
  3. ヴィオラが旋律を受け持って立ち上がる。
  4. 曲の末尾で冒頭の主題がほぼ原型のまま回想される。
  5. 4分の2拍子である。

他にもある。前者はリピート記号だらけなのであくまでも参考だが、作品18が159小節で作品111が80小節と倍の開きがある一方、後者は前者の倍のテンポになっている。

弦楽六重奏曲第1番の第2楽章。このほとばしるニ短調にどれほど胸を熱くしたことだろう。ベートーヴェンからブラームスへの嗜好の転換を決定づけた交響曲が第2交響曲だとすれば、室内楽ではこの六重奏曲とりわけ第2楽章だと申していい。室内楽といえばベートーヴェンの弦楽四重奏ばかり聴いていた若造の心を真正面からえぐったような感じだ。恋の相談をしたらベ-ト-ヴェンよりも聞いてくれそうなのがブラームスと感じたのだ。この第2楽章は回答の代わりの身の上話を聴いている感じだ。

さて何だかベートーヴェンのラズモフスキー1番の緩徐楽章にも似ている作品111の緩徐楽章は、作品18の変奏曲の解答なのではないだろうか。根拠レスながらこれが頭にこびりついて離れない。作品18の変奏曲がピアノ独奏に編曲してクララ・シューマンに捧げられたのだから、当然作品111の方もクララへの告白でなければならぬ。類似点がかなりありながら、いささか肩に力の入った前者に比べ後者はすっきりと力みがない。水が低いところに流れ下るように必然性だけで音楽が進行しているかのようだ。肩の力を抜くというのはこういうことなんだという好例である。

さて作品111の五重奏曲を書き終えてブラームスが創作意欲を失った話は、どんな伝記にも大抵載っている。創作意欲を失ったのではなく、クララへの解答を為し終えた安堵感だったなどというオチもひょっとするとひょっとするかもしれないと感じている。

根拠の無い直感である。根拠は無いが、愛情だけはあるつもりである。

2008年1月28日 (月)

カデンツァもどき

1月22日の記事「独奏する弦楽器」の中にヴィオラの晴れ舞台は現れなかった。そしてブラームスはヴィオラのための協奏曲を残していないので、ブラームスにおいてはヴィオラためのカデンツァは存在しない。

厳密なカデンツァの定義からはずれるものの、いわゆる「カデンツァっぽい場所」でよければ、実例が無い訳ではない。

  1. 弦楽四重奏曲第3番第3楽章106小節
  2. 弦楽五重奏曲第2番第2楽章66小節

どちらも室内楽だ。共に長くはないが、ヴィオラが他の楽器を半ば沈黙させた中で、ソリスティックに動く点が共通している。譜例を掲載できなくて残念だが、ヴィオラ弾きとしては相当カッコいい場所である。偶然なのだろうと思うがこの両者には共通点がある。どちらもニ短調だということに加え、楽章の冒頭で旋律を奏するのがヴィオラになっている。

前者は楽章冒頭のみならず、全曲を通じてヴィオラが大活躍をする。音域も第3ポジション止まりで手頃だ。後者は第5ポジションの4の指のBが最高音だ。厄介ではあるが挑戦する価値は十分の見せ場だ。

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