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カテゴリー「254 弦楽四重奏曲第1番」の6件の記事

2015年8月11日 (火)

クヮルテットの楽しみ

私が古くから愛読する書物のタイトル。エルネスト・ハイメランとブルーノ・アウリヒさんの共著。オリジナルは「Das Stillvergnungte Streichquartett」という。ドイツ語の本だ。私が持っているのは16版の第一刷で1975年に刊行されている。版を改めながら装丁を変えて出続けていると聞いた。

アマチュア演奏家の立場から古今の弦楽四重奏を弾きこなすためのバイブル・指南書という体裁に徹している。アマチュアが弦楽四重奏を演奏するささやかなコンサートを開く前提で、それをアシストするという姿勢がほほえましい。肝心な選曲のもとになる弦楽四重奏リストでは、各々の作品がスパイスの効いたコメントとともに紹介されている。「作曲家名」「調」「難易度」「出版社」が基本情報で、一貫性があって楽しい。弦楽四重奏を中心に別の編成にも言及しているものの、二重奏が収録対象になっていないのが至極残念だ。

この書物の中で、ブラームスは褒められている。「とにかくブラームスはよい弦楽のための作品がたくさんある」などなど。何だか鼻が高い。「アマチュアの指ではなかなかこなしきれるものではない」と釘を刺す一方で「ある程度以上のプレーヤーなら大変よく響くようにできている」と上々の評価。

1番ハ短調は、「経験豊かなアマチュアなら十分響かせられる」とおっしゃっている。各楽章へのコメントでは、第3楽章が「大変独創的」となっているのが印象的。

2番イ短調は、「1番より比較にならぬほど難しい」とされる一方「しかし大変美しい」と賛美する。フィナーレを称して「野蛮なシンコペーションに気をつけよ」とはどこまでも優しい。

3番変ロ長調について、「愉快に開放されている」という。第三楽章のヴィオラの活躍が特筆されていて嬉しい。

2015年8月 6日 (木)

作品番号の相乗り

同じ作品番号に複数の作品が収まっているケースは少なくない。歌曲では全てこの形だ。歌曲1曲で一つの作品番号を占めている例はない。管弦楽付きの合唱曲だとさすがに作品一つに一つの番号という例が現れる。声楽曲の場合、演奏時間が長い大作や編成の大きい曲が「1曲1番号」になっていると断言してよさそうだ。

ところが器楽曲は少し事情が変わる。ベートーヴェン、ブラームスでは交響曲協奏曲全て「1曲1番号」 になっているが、室内楽や独奏曲では対応が割れる。ベートーヴェンの初期では複数の作品が同一の番号に押し込まれていることが多い。作品1にはピアノ三重奏曲が3つ入っているし、作品2にはピアノソナタが3つ属している。作品18は弦楽四重奏曲が6個だ。エロイカに始まる傑作の森に突入すると頻度は減るものの、作品59にはラズモフスキー四重奏曲が3つもてんこ盛だ。その後も作品70、102と続く。

ブラームスにもそうした例がある。晩年のピアノ小品は皆その手である。毛色が違うのは作品21だ。自作の主題による変奏曲とハンガリーの歌による変奏曲が同居している。これなど作品番号が2つに割れても不思議ではない。また弦楽四重奏曲第1番と第2番が作品51を共有しているし、ヴィオラソナタ第1番と第2番は作品120を共有している。弦楽四重奏曲第2番を作品52にしなかったのは何故だろう。あるいは変ホ長調ヴィオラソナタを作品121にしなかったのは理由があるのだろうか。単なる出版の都合なのかも知れぬが、気持ちが悪い。データベース化するときに作品番号の下にハイフンを振って枝番管理をするものとしないものが混在するのは少々厄介なのだ。

作品番号には、理屈では説明の出来ない神秘的なものを感じるから、出来れば「1曲1番号」の方がイメージを膨らませ易いのだが。

2015年8月 4日 (火)

ロマンツェ

ドイツ語では「Romanze」と綴られる。手許の音楽事典では、「地域、時代によって様々の楽曲に用いられていて特定の内容や形式を定義できない」とある。元来「ロマン語による俗謡や詩」を意味したから恋愛歌が主流だが、ドイツでは叙情的な気分の器楽曲に用いられている。

ブラームスでは以下の通りの実例がある。

  1. リートとロマンツェ作品14(どの作品がリートでどの作品がロマンツェか不明)
  2. ティークのマゲローネのロマンツェ作品33
  3. 弦楽四重奏曲第一番作品51-1第二楽章ロマンツェ
  4. バラードとロマンツェ作品75(どの作品がバラードでどの作品がロマンツェか不明)
  5. ロマンツェとリート作品84(どの作品がロマンツェでどの作品がリートか不明)
  6. ロマンツェ作品118-5

器楽に出現するのが3番と6番で、残りは声楽だ。声楽に出現する場合、複数の作品をまとめている場合が多く全曲がロマンツェと解される作品33を除くと、どの楽曲がロマンツェなのか推定が難しい。たとえば作品14の全8曲の場合、どれがロマンツェなのか特定が出来ない。内容が恋愛ものかどうかで単純に判断していいものかどうかも確信がもてない。どの曲がロマンツェなのかさえ特定出来ない事情のためにロマンツェの性格を深く吟味することが出来ない。

作品84の5曲は全て対話体のテキストを持っている。「母と娘」あるいは「男と女」である。「男と女」の対話になっている作品がロマンツェなのではないかという推定が成り立つ。つまり作品84-4「甲斐なきセレナーデ」と作品84-5「危機」がロマンツェである。前半がリートで後半がロマンツェという訳である。ところが作品84のタイトルは「ロマンツェとリート」という具合にロマンツェを先に出している。作品14の「リートとロマンツェ」のようにリートを先に出す形になっていなければなるまい。

器楽に出現する2例についても何故この2つだけにという疑問は残る。

曖昧で輪郭がはっきりしないというのが最大の特色かもしれない。

2015年8月 3日 (月)

ハ調の刻印

ベートーヴェンの器楽作品を眺めてみる。

32曲残したピアノソナタ、16曲書いた弦楽四重奏、そして9曲ある交響曲。この3つを創作の柱と位置づけても、お叱りが殺到することはあるまい。後世の作曲家たちの規範となり今日に至っている。ハイドン、モーツアルト、ベートーヴェンを列挙して語られることの多い「ウィーン古典派」の到達点を示す作品群だ。

後に続くロマン派の作曲家たちは、これら偉大な到達点から出発し、ある者は継承しある者は解体し、ある者は迂回した。

ブラームスも書いた。ピアノソナタを3曲、弦楽四重奏を3曲、交響曲を4曲だ。

<ピアノソナタ>

  1. ハ長調op1
  2. 嬰ヘ短調op2
  3. ヘ短調op5

<弦楽四重奏>

  1. ハ短調op51-1
  2. イ短調op51-2
  3. 変ロ長調op67

<交響曲>

  1. ハ短調op68
  2. ニ長調op73
  3. ヘ長調op90
  4. ホ短調op98

また、しょうもないことを考えている。ベートーヴェンのホームグランドとも言えるこれらのジャンルの1番を見て欲しい。全部ハ調になっている。ベートーヴェンへの敬意か、はたまた偶然か。

2005年11月 7日 (月)

踏ん切りとしてのハ短調

第一交響曲がある種の葛藤を背負っているという話、中国出張中の「のだめ」系の記事で言及した。今回はさらにこの周辺の議論を煮詰めてゆきたい。

第一交響曲の持つハ短調という調性を前に人々は何を想像するだろう。おそらく十中八九はベートーヴェンとの関連を想像すると見て間違いはない。ベートーヴェンにはハ短調の楽曲が多い。短調では第一位だ。ちなみに長調では変ホ長調なので、ベートーヴェンのフラット3個への執着が見て取れる。その象徴は第五交響曲。ブラームスの第一交響曲とベートーヴェンの第五交響曲がハ短調を共有することは象徴的だ。

ブラームスの第一交響曲の直前にもハ短調の室内楽が相次いで生まれている。第一交響曲と同様に「情熱」と「絶望」を内包する曲調だ。ピアノ四重奏曲第三番op60と弦楽四重奏曲第一番op51-1だ。これに第一交響曲を加えた3曲は、調性のほかにも一致点が少なくない。緩徐楽章の直前楽章がハ長調で終わること。緩徐楽章の旋律がソのシャープまたはラのフラットで始まること。作曲の途中に長い中断があったこと。創作経歴の最初期で着手されながら完成までの間に15年~20年のブランクが横たわる。その間、作曲に忙殺されていたわけではない。棚上げされていたのだ。最後の1ピースを見つけるために、あるいは余分な1ピースを取り去るためにかもしれない。

さらに作品番号できわめて近い53番「アルトラプソディー」も、中断は見受けられないながらもハ短調のこの系譜に属していると思われる。周知の通りクララ・シューマンの娘ユーリエへの失恋が反映しているのだ。

作品番号で言うと51、53、60という具合に「情熱」と「絶望」を背負ったハ短調の楽曲を、執拗に繰り返してきたブラームスは、一連の締めくくりとしての第一交響曲op68ではじめて歓喜への到達を実現させる。クララ・シューマンへの誕生日の旋律を先導役として、歓喜の旋律が降臨する。のだめの作者様が、このあたりを捉えて、千秋真一の葛藤からの開放をトレースして見せたことは、記憶に新しい。

おそらく、この時期のハ短調の密集と、作曲の中断はクララ・シューマンに関係があると思われる。ゆえにハ短調を過剰にベートーヴェンと結び付けてはならない。第一交響曲は、この渋滞からの開放の象徴なのだ。だから千秋のトラウマ脱出のドラマを余すところ無く反映させることが可能だったのだ。

実際用語使用面でも第一交響曲が分水嶺となっているケースが後を絶たない。「pesante」「mp」などは、第一交響曲を境に意味合いに変化が起きているようにも見える。第一交響曲を完成させる課程で何かがあったと考えねば辻褄が合わない。そしておそらくそれは、クララ・シューマンに関係がある。

過剰な想像は慎まねばならない。

ブラームスの伝記を紐解くと、数多くの音形遊びに溢れている。「FAF」や「AGATHE」などがその典型だ。私もひとつオリジナルの音形遊びを提案する。

特定の調性を音2つで代表させるとしたらどうなるだろう。多分主音と第三音だろう。ハ長調なら「C」と「E」だ。この調子で行くと今回話題のハ短調は「C」と「Es」になる。「Es、Es」と続けてつぶやくといい。いつのまにか「S」(エス)になってしまう。そう「CとEs」は「CとS」なのだ。「CS」・・・・・・。なんということだ。これは「クララ・シューマン」のイニシャルではないか!ブラームスの数多いハ短調の楽曲全てと申し上げるつもりはないが、少なくとも第一交響曲とその直前の3曲のハ短調は、クララ・シューマンとの「踏ん切り」を象徴しているのではないかと密かに考えている。

2005年9月30日 (金)

落差

音楽の聞こえと、楽譜の印象の違いを指す。

耳からの聞こえを頼りに、勝手に想像していた「譜面面」と、実際の楽譜とが大きく違うという現象がブラームスではしばしば起きる。

たとえば弦楽六重奏曲第一番第一楽章は、春を思わせる無垢で明るい立ち上がりだ。実際の楽譜はスラーのかかり方が複雑で微妙だ。第一弦楽四重奏曲の第三楽章は、まさか弱起だとは思わなかった。第二交響曲第四楽章には4分の5拍子から4分の3拍子に聴こえる場所があるけれど、楽譜上は2分の2拍子で押し通されている。4分の3拍子と8分の6拍子の騙し絵状態はしばしば見られるし、2分の3拍子と4分の6拍子も同様だ。

聞こえと記譜の落差を、ブラームスは楽しんでいたのではないだろうか?聴き手や弾き手をメビウスの帯やエッシャーの騙し絵のような感覚にさせることを楽しんでいたように感じられる。あるいは、その矛盾から解き放たれる瞬間の爽快感そのものを、音楽の目的を達するためのツールと考えていたフシがある。精巧に計算された字余りの短歌と同じニュアンスかもしれない。

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