師走の室内楽
師走の室内楽に行ってきた。「小山実雅恵の室内楽」と銘打ったシリーズ。
当然全てブラームス。
- ヴィオラソナタ第2番変ホ長調op120-2
- ピアノ三重奏曲ハ短調op100
- ピアノ四重奏曲第1番ト短調op25
ピアニストは全て小山先生。
で、川本先生は、元気そうだった。
師走の室内楽に行ってきた。「小山実雅恵の室内楽」と銘打ったシリーズ。
当然全てブラームス。
ピアニストは全て小山先生。
で、川本先生は、元気そうだった。
一部の楽器に装着されるツール。装着を始める場所に「con sord.」と記され、使用解除の場所に「senza sord.」が置かれる。字義通り「音を弱める」という機能もあるにはあるのだが、音色の変更の側面の方がより強いとも感じている。
弦楽器の場合には駒に装着される。弦の振動をボディーに伝える通路に当たる駒に取り付けることによって、結果としてボディーへ伝達される振動を抑制することで音が弱くなる。しかしながら、音を弱くするだけならダイナミクス記号を調節すれば事足りると思われる。むしろ装着することによる音質の変化が狙いである場合がほとんどだと言えよう。あるいは、特定のパートを際立たせるためにその他の楽器に装着させるというような用法が一般的だ。
もちろんブラームスにもいくつかの実例がある。
最後にヴィオラ弾きとしては絶対に忘れられない箇所を一つ。弦楽四重奏曲第3番第3楽章だ。四重奏曲の4つの楽器のうちヴィオラを除く3つの楽器に弱音器装着が求められている。ヴィオラはお構いなしだ。協奏曲の独奏楽器クラスの持ち上げられ方である。ここでも続く第4楽章冒頭には「senza sord.」の書き込みが抜けている。
大好きなピアノ四重奏曲第3番の売りは、ヴィオラ見せ場のてんこ盛りだ。そうでなくてもヴィオラへの偏愛を隠さないブラームスなのだが、同四重奏曲は本当においしい出番に満ちている。ヴィオラとピアノとの二重奏にはクラリネットソナタからの編曲によるヴィオラソナタが2曲あるのだが、出番としてのおいしさでは負けていない。
以下、我が家所有のCDをヴィオラ弾きをキーに録音年代順に列挙する。
①<Milton Katims>
ピアノ四重奏専用の楽団。1955年ころ米国で結成された。
転勤族をしている間、電子ピアノは重宝だった。サイズは手ごろだし、調律もいらない。
けれどもピアノ四重奏曲第1番第4楽章を練習しているとき、妻が困ったと言い出した。また鍵盤の数が足りない話かと思ったがそうでもない。いくら練習しても一定のテンポ以上早くは弾けないらしい。
ピアノでも電子ピアノでも一旦押した鍵盤から手を離すと、鍵盤は元に戻る。何度繰り返しても同じだ。電子ピアノは本物のピアノに比べてこの時の元に戻るスピードが遅いのだという。どんなに練習して早く弾けるようになっても、鍵盤が元に戻るスピードより早くは弾けないというのだ。ピアノ四重奏曲第1番第4楽章には46小節目でピアノにはじめて16分音符が現れるが、このことを言っている。80小節目以降115小節目までの16分音符も相当なモンである。
CDで聴く限りアルゲリッチなどは相当なテンポで弾いている。この曲に限らねば速いテンポの16分音符はもっとある。キーシンのハンガリア舞曲も大変なものだ。つまり猛烈なテンポで弾かれるそばから、次々と鍵盤が元の位置に復帰しているということなのだ。ピアノはピアノで、そのグレードによって性能に違いもあるのだろうが本物のピアノは大したものである。
ピアノのメカニックの精度と耐久性には今更ながら驚くばかりである。
そうそう、今日は亡き妻の誕生日だ。
ピアノ四重奏曲第1番ト短調op25のフィナーレ第4楽章は、「Rondo alla zingarese」と書かれている。古来「ジプシー風ロンド」と解されている。「ジプシー風」の定義は、わかる人にはわかると言わんばかりに明示されていない。
32小節目に初めて現れる音階は以下の通りだ。
普通の旋律的短音階である。いわゆる「ジプシー音階」にはなっていない。ジプシー音階であるなら、「ハ」が「嬰ハ」に、「ホ」が「変ホ」でなくてはならない。属音「ニ」を半音で囲む必要がある。このあと同楽章には、この音型が繰り返し現れるが、「ジプシー音階」になっているところは一か所も無い。
同楽章が「ジプシー風」と呼ばれている根拠は音階以外の別の部分に求めねばならない。
シューベルトの「未完成交響曲」が未完である理由が「3楽章連続の3拍子」であるという説に触発されて、ブラームス作品にその例がありはせぬかと調べてみたのが記事「未完の理由 」だった。単一楽曲内において連続する3つの楽章が3拍子になるケースは1例も発見できなかった。
ところが、これに抵触する怪しいケースを新たに発見した。ピアノ四重奏曲第1番だ。
記譜上の拍子は上記のとおり。3拍子は3楽章に1個あるだけだ。ところが、この2楽章は特殊な音楽。3拍子系の複合拍子だから、振るなら3つ振りだ。メヌエットとスケルツォの融合ともいうべき構造になっている。広い意味では間違いなく3拍子だ。
加えてフィナーレも興味深い。記譜上は4分の2拍子なのだが、冒頭からしばらく、3小節単位のフレージングが続く。1小節を1拍と数えて、3つ振りするとはまる。
つまり第二楽章から3つ連続事実上の3拍子になっている。
poco意訳委員会の裁定に従えば「いくぶんクレッシェンド気味に」とでも解されよう。
上記の4箇所が存在するだけのレア指定である。一目で気付くのは初期の作品に限られていることだ。しかも全用例を通じて前後のダイナミクス表示が変化しない。つまり「un poco crescendo」は「pp」を「p」にしたり、「p」を「mp」にしたりも出来ないほどの微妙なダイナミクスの揺れと解し得る。起点のダイナミクスは上記の1番が「pp」であるが、残る3例は全部「p」になっている。つまり「f」系には縁のない指定だということになる。
「un」が脱落した「poco crescendo」は全部で90箇所を数える。用例が多いだけに分析の手がかりも多い。同時に存在する複数のクレッシェンドに度合いの差別化をする機能がはっきりと認められるのに対して、「un」が付着してしまうとその傾向もうかがえない。
この微妙さが、普段見過ごされていないか少し心配である。
昨日の記事「様式法則に対する悪行」で、ピアノ四重奏曲第1番ト短調が「様式法則に対する悪行」と形容されていると書いた。日本屈指の音楽系出版社の解説書でそう断言されているが、私は同意できないとも書いた。同意できない理由は3点。1つは「悪行」という語感について。2つ目は具体的根拠を欠く記述についてだ。3点目は、この表現の位置づけ。2番のオーソドックスさを強調する手段として言及されている点だ。
嘆いてばかりもいられない。
ブラームスの室内楽全24曲を俯瞰してみて、ピアノ四重奏曲第1番が抱える特異性をあれこれと挙げることは可能だ。
最低上記のような特色には、一通り言及した上で同四重奏曲が「特異だ」と言わないと、不親切だ。思い切った断言をするなら当然の措置である。
それにしてもなぜこれが悪行なのか理解できない。
音楽之友社刊行「作曲家別名曲解説」第7巻ブラームスの230ページに存在する厄介な記述。ト短調ピアノ四重奏曲を指して
「様式法則に対する悪行」と言われたくらいにアブノーマル。
と記述している。同社刊行の「作曲家別名曲解説」は、ブラームス作品の全貌を手軽に俯瞰するには便利で、大変貴重だ。広く一般に浸透していると思われるが、時々大胆なことを根拠を示さないまま断言することがあり、面食らう。本件はその実例だ。
「様式法則に対する悪行と言われた」という書き方から見て、「過去に誰かが言っていた」ということなのだろうと推測する。カルベックのブラームス伝あたりは、こうした突発的な表現が多いから、あるいはという気もする。
これだけなら、「過去の批評家が言っていた」だけとも受け止められるが、そう楽観的でもない。なぜならこの「様式に対する悪行」という表現は、ピアノ四重奏曲第1番の解説ではなく、その次の2番イ長調を解説するページに存在するからだ。2番イ長調のピアノ四重奏曲が、かなりオーソドックスな形式で書かれていることを対比強調するために、1番ト短調を「形式法則に対する悪行」と形容しているのだ。1番ト短調について筆者は「自分も変だと思う」ということが前提だからこそ、それに対するノーマルな2番と言っているのだ。「過去の誰かが言っていたけどオレもそう思う」ということに他ならない。
一方同書におけるピアノ四重奏曲第1番についてのページを隅から隅まで見渡しても、何故「様式法則に対する悪行」と言われているのか書いていない。これだけ大胆に断言しているのに、根拠を示さないと同解説書の読み手は消化不良だろう。
私はそうは思わない。仮にカルベックが出典元だったとしても私はこの表現には同意しない。少なくとも「悪行」という表現は当たらないと感じている。
今日から、3番目の室内楽、ピアノ四重奏曲第1番。
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