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カテゴリー「258 ピアノ四重奏曲第2番」の8件の記事

2015年8月22日 (土)

ヴィオラ弾きの祭典

大好きなピアノ四重奏曲第3番の売りは、ヴィオラ見せ場のてんこ盛りだ。そうでなくてもヴィオラへの偏愛を隠さないブラームスなのだが、同四重奏曲は本当においしい出番に満ちている。ヴィオラとピアノとの二重奏にはクラリネットソナタからの編曲によるヴィオラソナタが2曲あるのだが、出番としてのおいしさでは負けていない。

以下、我が家所有のCDをヴィオラ弾きをキーに録音年代順に列挙する。

①<Milton Katims>

  • 1952年録音。Vn:Josef Szigeti/Vc:Paul Tortelier/pf:Myra Hess
  • いやはや伝説の人。アメリカのヴィオラ奏者だが、楽譜の校訂や指揮でも名高い。1909年生まれ。
  • 錚々たるメンツ。私がヴィオラを習い始めたころ既に伝説だったヴィオラ奏者に加えてヴァイオリンもチェロもレジェンドだ。「スター掻き集め型」のメンバー構成。
②<Rudolf Streng>
  • 1956年録音。Vn:Walter Barylli/Vc:Emanuel Brabec/Jorg Demus
  • 早い話がバリリ四重奏団。これにデムスが加わるという黄金の布陣。2ndのオットーシュトラッサーが降り番で気の毒。良く見かける「常設カルテット-2nd+pf」なのだが、ウィーンフィルの1プルアンサンブルと見ることも出来る。
③<Wiliam Primrose>
  • 1958年録音。Vn:Szymon Goldberg/Vc:Nikolai Graudan/pf:Victor Babin
  • 大変珍しいピアノ四重奏専用の演奏団体フェスティヴァル四重奏団。アスペン音楽祭に集うマイスターが結成した。VnとVcは当時のベルリンフィルの主席奏者。
  • 私がヴィオラを習い始めたころプリムローズと言えば泣く子が黙った。
④<Micael Tree>
  • 1967年録音。Vn:Arnord Steihardt/Vc:David Soyer/pf:Artur Rubinstein
  • グアルネリ四重奏団とルービンシュタイン。「常設カルテット-2nd+pf」なのだが、一番のピアノ四重奏の録音では2nd奏者が弾いている。
⑤<Stefano Passagio>
  • 1968年録音。Vn:Eduard Drolc/Vc:Gorg Donderer/pf:Jorg Demus
  • ベルリンフィルの1プルアンサンブルだが、ピアノはチャキチャキのウィーン仕込というパターン。デムスはバリリとも協演していた。
⑥<Walter Trampler>
  • 1973年録音。Vn:Isidore Cohen/Vc:Bernard Greenhouse/pfMenahem Plesseler
  • ボサール三重奏団にトランプラーを招いたもの。「三重奏団+ヴィオラ奏者」というパターン。トランプラーは私がヴィオラを習い始めた頃既に、この道の権威だった。モーツアルトの五重奏では欠かせないメンバーだ。
⑦<Wolfram Christ>
  • 1982年録音。Vn:Thomas Brandis/Vc:Ottmar Borwitzky/pf:Tamas Vasary
  • ベルリンフィルの1プルアンサンブルだ。クリストの音、とても心地よく当時も今も憧れだ。今もまったく色褪せない。
⑧<Jaime Laredo>
  • 1986年録音。Vn:Isac Stern/Vc:Yo-Yo-ma/pf:Emanuel Ax
  • スターンとその仲間たち。いわゆる「スター掻き集め」型とも少し違って「お山の大将盛り立て型」とでもいうべきか。ラレドはヴァイオリンも達者。聴きどころはチェロのつもりで購入したが、ヴィオラも鳴っている。
⑨<Jiri Najnar>
  • 1988年録音。Vn:Pavel Hula/Vc:Vaclav Bernasek/pf:Jan Panenka
  • コチアン四重奏団をベースにした「常設カルテット-2nd+pf」だ。亡き妻の愛聴盤だ。
⑩<Bruno Giuranna>
  • 1996年録音。Vn:Isabelle Faust/Vc:Alain Meunier/pf:Derek Han
  • 国籍も世代もバラバラ。録音時20代の女流ファウストをベテランが取り囲むという「朝の連ドラ」型とでもいうべきか。
全10種。古い録音ばかりだ。

2015年8月20日 (木)

フェスティヴァル四重奏団

ピアノ四重奏専用の楽団。1955年ころ米国で結成された。

  • ピアノ ヴィクター・バビン
  • Vn シモン・ゴールドベルク
  • Va ウイリアム・プリムローズ
  • Vc ニコライ・グラウダン
いやはや珍しい。ピアノ四重奏曲演奏に特化した団体。ヴァイオリンとチェロはベルリンフィルのコンマスと主席チェロ奏者としてフルトヴェングラーの下で演奏していたという経歴。私はこのゴールドベルクが好きで、ヴァイオリンソナタのCDをよく聴いた。ヴィオラはプリムローズもこの道の名人だ。
ブラームスに限らず、ピアノ四重奏は、弦楽四重奏団を ベースにピアニストを別途連れてきて録音するか、スターソリスト4名をかき集めて録音するかどちらかであることが多い。この編成のためにわざわざ団体を結成するのは大変に珍しい。
遺されたブラームスのピアノ四重奏曲全3曲の録音は大変に素晴らしい。ひとことで何と言えば伝わるか難しいが、無理やり申せば「透明」かもしれぬ。つま先まで心配りが行き届いたとでも申すしか能が無い。どんな場所のいかなる「ff」でも均整を失わぬ演奏。3番の第三楽章に現れるブラームスが与えたチェロ最高の見せ場も、肩の力があり得ぬくらい抜けている。そそれでいて「pp」の引き出し数は数えきれない。
最年少のゴールドベルクでさえ49歳の頃の演奏。言ってみれば「親父四重奏」なのだが、澄み切った空を思わせる。果ては、こういう風に歳を重ねたいと。

2015年6月21日 (日)

無残な解説

音楽之友社刊行の「作曲家別名曲解説ライブラリー」第7巻ブラームスの232ページのことだ。ピアノ四重奏曲第1番を「様式法則に対する悪行」と形容してまで第2番イ長調をオーソドックスだと断ずる。問題はその後、2番イ長調を第1番ト短調と比較する文脈で

  1. ト短調ほどのポピュラリティを持っていない。
  2. 創意というか工夫というものに乏しい。
  3. 聴く者の幻想を容易に喚起し、耳に早く印象付ける特性的な主題を持たない。
  4. 外面的な効果でも劣る。

という具合に言いたい放題の論評を展開する。入門書としては大胆な踏み込みだ。筆者が誰なのか確定しない体裁なのが残念だ。

曲を聴いてどう感じるかは個人の自由だから、突っ込みどころでは無いと承知はしているが、同書の影響力を考えると無残といわざるを得ない。予備知識無く読まされたら、当時対立中のワーグナー陣営の評論家の台詞かと思われかねない。

私としてはイ長調ピアノ四重奏曲は聴いても弾いても楽しい。とりわけ第二楽章は絶品だ。同書の解説を読んで聴かず嫌いになる人が続出しないよう祈るばかりである。

2015年6月20日 (土)

英国への伝播

ブラームスの初期の室内楽を、世間に紹介するという意味で、クララ・シューマンの功績は誠に大きい。

クララは自身の演奏会で進んでブラームスの室内楽を取り上げた。当時のプログラミングの習慣として、ピアノ独奏曲だけのリサイタルは、むしろ稀にしかありえなかった。室内楽や歌曲を織り交ぜるのが恒例だったから、室内楽の採用それ自体は珍しくも無かったが、気鋭の作曲家ブラームスの作品を取り上げたという点が、ユニークだったということだ。ブラームス作品の常として、演奏家のテクニックの披露は第一義ではなくなっている。ましてや室内楽は、作品への深い理解と様式感を持ち合わせねばならない。要求されるテクニックは高いのに、聴衆にはそう聞こえないという厄介な一面を持つ。聴衆の期待は絢爛豪華なピアノ曲だったに違いないのだが、クララは自分の流儀を押し通し、やがて英国の聴衆にそれがクララのスタイルであると認知されるに至った。

ピアノパートはもちろんクララが受け持つ。演奏の準備としてのリハーサルは、独奏曲以上に手間がかかる。

作曲家ロベルト・シューマンの妻にして当代最高のピアニストであるクララのおメガネに叶うということが、どれほど強い後ろ盾だったか想像に難くない。

生涯に19度の英国遠征を企てたクララは、その初期において、ブラームスの無名作品をしきりに取り上げた。ピアノ四重奏曲第2番、ピアノ五重奏曲の英国初演はクララの手によるものだ。

2015年6月18日 (木)

p poco espressivo

いやはや恐れ入る。ピアノ四重奏曲第2番の第1楽章144小節目と152小節目に実在する。前者は弦楽器3本、後者はピアノのパートである。第1楽章の展開部の途中。

「espressivo」は、ブラームス作品においてはおなじみの楽語。一般に「表情豊かに」と解されるが、一筋縄ではゆかない。「ブラームスの辞書」では、同時に走る複数の声部のうちより優先順位の高い側に付与されるという解釈を柱に据えている。いわゆる「主旋律マーカー」だ。

ところがその「主旋律マーカー」を、「poco」で抑制するとは、よほどのことだ。「ブラームスの辞書」本文では、「少しニュアンスを異にして」という解釈を試みている。

パガニーニの主題による変奏曲op35第2巻193小節目に全く同じ指定がある。その都度全力で考えないとたちまち行き詰まる。

2015年6月17日 (水)

ポコポコ

ピアノ四重奏曲第2番についての話。楽章冒頭の発想記号を以下に記す。

  • 第1楽章 Allegro non troppo
  • 第2楽章  Poco Adagio
  • 第3楽章  Poco Allegro
  • 第4楽章  Allego

第2楽章と第3楽章に注目願いたい。「Poco Adagio」「Poco Allegro」だ。「Poco」が2回続く。同一作品の連続する楽章が「Poco」で始まるのはここだけである。

「Poco」は一般に「少し」と解されて疑われることはないが、何せブラームスは生涯にわたって「poco」を楽譜上にばら撒いた。だから時と場合に応じて柔軟に解釈する必要がある。意訳委員会では「poco」について「~気味に」という解釈も試みている。

言われてみるとピアノ四重奏曲第2番には「poco」の微妙な用例が多い。第一楽章に現れる「p poco espressivo」や「poco crescendo」がその実例だ。

本日から4番目の室内楽ピアノ四重奏曲第2番。

2011年8月 9日 (火)

レージンク夫人

1860年からハンブルク郊外のハムにある家をブラームスに貸した。つまり大家だ。古来日本では大家といえば親も同然だった。落語の中には面倒見のいい大家と気のいい店子の話が数多く出てくる。

レージンク夫人がブラームスを知ったのは姪っ子である姉妹を通じてのことだった。ベティとマリーのフェルカース姉妹はブラームスを中心に組織されたハンブルク女声合唱団のメンバーだった。優秀な歌い手であった姉妹は、合唱団のメンバーから選抜された女声四重唱団のメンバーでもあった。

レージンク夫人はこの姉妹からブラームスの人柄、そして何よりも才能を聞かされていたと思われる。作曲家にとって理想的な環境の家をブラームスに貸すことになった。アガーテとの破局、ピアノ協奏曲第1番の初演失敗という痛手のほか、両親の不和にも悩まされていたブラームスにとって願っても無い環境だった。

ブラームスはそこで作曲に精を出した。そして大家への恩に作品を献呈することで謝意をしめした。ピアノ四重奏曲第2番op26は、レージンク夫人に捧げられている。

2005年12月15日 (木)

糸引き四連4分音符

これは完全に私の造語。四つの4分音符が連続し、しかもそれらがスラーで繋がっている音形で始まる旋律のこと。どちらかというとゆっくり目のテンポを取っている。早い話、おいしい旋律が多いので、私はこれを「糸引き四連4分音符」と命名した。4分音符ではないが、連続する同じ音価の音符4個という擬似型もある。

  1. バラードop10-2冒頭
  2. ピアノ四重奏曲第一番op25第一楽章冒頭
  3. ピアノ四重奏曲第ニ番op26第二楽章冒頭
  4. 弦楽六重奏曲第二番op36第三楽章冒頭
  5. アルトラプソディop53 116小節目
  6. ピアノ四重奏曲第三番op60第三楽章冒頭 
  7. クラリネット三重奏曲op114第一楽章冒頭

4分音符に捉われない擬似型としては下記の用例を考えている。

  1. 弦楽四重奏曲第二番op51-2第一楽章冒頭
  2. ヴァイオリン協奏曲op77第二楽章冒頭

少し定義からははずれるけれどもチェロソナタ第二番op99第二楽章冒頭のピチカートも入れてあげたい気がしている。またピアノ四重奏曲第二番の第三楽章冒頭も怪しい気がしている。

用例はどれも「トロトロのブラームス節」が聞けるところである。譜例を示せないのが大変残念である。著書「ブラームスの辞書」ではこのことには全く触れていないが、今日は特別に取り上げた。演奏や鑑賞には全く役に立たないが、ブログ「ブラームスの辞書」ならではのネチっこい話題である。

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