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カテゴリー「259 ピアノ四重奏曲第3番」の13件の記事

2015年8月23日 (日)

ドキドキの告白

室内楽特集真っ只中。ブラームスの室内楽全24曲から、一番好きな曲を無理やり決める。心情的には無理やりなのだが、実は古くから心の中では決まっていた。

ピアノ四重奏曲第3番ハ短調op60

これがブラームス室内楽の私的ベストだ。弾いていても楽しい。第3楽章冒頭は、ブラームスがチェロに与えた最高の出番だ。延々とピアノとのデュオが続く。

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第4楽章はピアノの相棒がヴァイオリンに代わる。これまた長大なソロ。

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ヴィオラの退屈は第一楽章の236小節目のソロで帳消しだ。

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曲の魅力は個々の楽器のソロの出番のかっこよさにとどまらない。第二楽章はおそらくブラームス最高のスケルツォだ。第一楽章からフィナーレまでのバランス、頑張るだけ報われる奥行き、突き詰めるほど湧いて出るアンサンブルの楽しみなど、褒め言葉はいくらも浮かぶ。

2015年8月22日 (土)

ヴィオラ弾きの祭典

大好きなピアノ四重奏曲第3番の売りは、ヴィオラ見せ場のてんこ盛りだ。そうでなくてもヴィオラへの偏愛を隠さないブラームスなのだが、同四重奏曲は本当においしい出番に満ちている。ヴィオラとピアノとの二重奏にはクラリネットソナタからの編曲によるヴィオラソナタが2曲あるのだが、出番としてのおいしさでは負けていない。

以下、我が家所有のCDをヴィオラ弾きをキーに録音年代順に列挙する。

①<Milton Katims>

  • 1952年録音。Vn:Josef Szigeti/Vc:Paul Tortelier/pf:Myra Hess
  • いやはや伝説の人。アメリカのヴィオラ奏者だが、楽譜の校訂や指揮でも名高い。1909年生まれ。
  • 錚々たるメンツ。私がヴィオラを習い始めたころ既に伝説だったヴィオラ奏者に加えてヴァイオリンもチェロもレジェンドだ。「スター掻き集め型」のメンバー構成。
②<Rudolf Streng>
  • 1956年録音。Vn:Walter Barylli/Vc:Emanuel Brabec/Jorg Demus
  • 早い話がバリリ四重奏団。これにデムスが加わるという黄金の布陣。2ndのオットーシュトラッサーが降り番で気の毒。良く見かける「常設カルテット-2nd+pf」なのだが、ウィーンフィルの1プルアンサンブルと見ることも出来る。
③<Wiliam Primrose>
  • 1958年録音。Vn:Szymon Goldberg/Vc:Nikolai Graudan/pf:Victor Babin
  • 大変珍しいピアノ四重奏専用の演奏団体フェスティヴァル四重奏団。アスペン音楽祭に集うマイスターが結成した。VnとVcは当時のベルリンフィルの主席奏者。
  • 私がヴィオラを習い始めたころプリムローズと言えば泣く子が黙った。
④<Micael Tree>
  • 1967年録音。Vn:Arnord Steihardt/Vc:David Soyer/pf:Artur Rubinstein
  • グアルネリ四重奏団とルービンシュタイン。「常設カルテット-2nd+pf」なのだが、一番のピアノ四重奏の録音では2nd奏者が弾いている。
⑤<Stefano Passagio>
  • 1968年録音。Vn:Eduard Drolc/Vc:Gorg Donderer/pf:Jorg Demus
  • ベルリンフィルの1プルアンサンブルだが、ピアノはチャキチャキのウィーン仕込というパターン。デムスはバリリとも協演していた。
⑥<Walter Trampler>
  • 1973年録音。Vn:Isidore Cohen/Vc:Bernard Greenhouse/pfMenahem Plesseler
  • ボサール三重奏団にトランプラーを招いたもの。「三重奏団+ヴィオラ奏者」というパターン。トランプラーは私がヴィオラを習い始めた頃既に、この道の権威だった。モーツアルトの五重奏では欠かせないメンバーだ。
⑦<Wolfram Christ>
  • 1982年録音。Vn:Thomas Brandis/Vc:Ottmar Borwitzky/pf:Tamas Vasary
  • ベルリンフィルの1プルアンサンブルだ。クリストの音、とても心地よく当時も今も憧れだ。今もまったく色褪せない。
⑧<Jaime Laredo>
  • 1986年録音。Vn:Isac Stern/Vc:Yo-Yo-ma/pf:Emanuel Ax
  • スターンとその仲間たち。いわゆる「スター掻き集め」型とも少し違って「お山の大将盛り立て型」とでもいうべきか。ラレドはヴァイオリンも達者。聴きどころはチェロのつもりで購入したが、ヴィオラも鳴っている。
⑨<Jiri Najnar>
  • 1988年録音。Vn:Pavel Hula/Vc:Vaclav Bernasek/pf:Jan Panenka
  • コチアン四重奏団をベースにした「常設カルテット-2nd+pf」だ。亡き妻の愛聴盤だ。
⑩<Bruno Giuranna>
  • 1996年録音。Vn:Isabelle Faust/Vc:Alain Meunier/pf:Derek Han
  • 国籍も世代もバラバラ。録音時20代の女流ファウストをベテランが取り囲むという「朝の連ドラ」型とでもいうべきか。
全10種。古い録音ばかりだ。

2015年8月20日 (木)

フェスティヴァル四重奏団

ピアノ四重奏専用の楽団。1955年ころ米国で結成された。

  • ピアノ ヴィクター・バビン
  • Vn シモン・ゴールドベルク
  • Va ウイリアム・プリムローズ
  • Vc ニコライ・グラウダン
いやはや珍しい。ピアノ四重奏曲演奏に特化した団体。ヴァイオリンとチェロはベルリンフィルのコンマスと主席チェロ奏者としてフルトヴェングラーの下で演奏していたという経歴。私はこのゴールドベルクが好きで、ヴァイオリンソナタのCDをよく聴いた。ヴィオラはプリムローズもこの道の名人だ。
ブラームスに限らず、ピアノ四重奏は、弦楽四重奏団を ベースにピアニストを別途連れてきて録音するか、スターソリスト4名をかき集めて録音するかどちらかであることが多い。この編成のためにわざわざ団体を結成するのは大変に珍しい。
遺されたブラームスのピアノ四重奏曲全3曲の録音は大変に素晴らしい。ひとことで何と言えば伝わるか難しいが、無理やり申せば「透明」かもしれぬ。つま先まで心配りが行き届いたとでも申すしか能が無い。どんな場所のいかなる「ff」でも均整を失わぬ演奏。3番の第三楽章に現れるブラームスが与えたチェロ最高の見せ場も、肩の力があり得ぬくらい抜けている。そそれでいて「pp」の引き出し数は数えきれない。
最年少のゴールドベルクでさえ49歳の頃の演奏。言ってみれば「親父四重奏」なのだが、澄み切った空を思わせる。果ては、こういう風に歳を重ねたいと。

2015年8月18日 (火)

はしゃぎ過ぎを戒める

別作曲家の作品の中にブラームスの作品と似た旋律を発見すると、それだけで盛り上がってしまう癖がある。脳味噌の中が酸っぱい液で満たされて、あくまで冷静に単なる偶然であるという可能性を考えることが出来なくなる。

メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲ハ短調op66とブラームスのピアノ四重奏曲ハ短調op60が似ているという話は、古来取り沙汰されてきたが、これについての興味深いエピソードが音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第1巻101ページに収録されている。

ブラームスは「あちらは旋律、こちらは伴奏」と言ってこれについて議論すること自体をナンセンスと言わんばかりの反応だ。

反省せねばならない。世の中類似性を指摘されている作品は数多いが、まずは偶然を疑ってかかるのが筋だ。わずかな類似点を根拠に、強引に論理を展開する風潮への警鐘と捉えたい。耳が痛い。

2015年8月17日 (月)

連続する長三度下降

ピアノ四重奏曲第3番の第3楽章の冒頭を思い出していただきたい。ブラームスがチェロに与えた最高の旋律が、「Gis-E-C-A」という具合に滑り出す。その最初の「Gis→E→C」は長三度の間隔で連続して下降する。

この現象実は大変珍しい。いかなる音を基音にしようとも、上昇でも下降でも、長三度の3連続は臨時記号無しには成立しない。旋律立ち上がりに置くのは異例なことだ。短三度の連続であれば「H→D→F」というパターンがあるけれど、長三度の場合はどう組み合わせても臨時記号の力を借りる必要がある。3度進行で名高いのは第4交響曲の冒頭だが、こちらは「長三度」と「短三度」が交互に現れるから、臨時記号は生じない。

先に紹介したピアノ四重奏曲第3番の第3楽章は、全体の調号としてシャープ4個が与えられたホ長調の枠組みでありながら、3拍目の「C」の瞬間イ短調に揺らぐ。6度の嬰へが鳴るので、何だかロマン的な感じがする。

訳アリ感満載の「連続長三度下降」なのだが、実は次の第4楽章の冒頭も同じ構造になっている。「G→Es→H」だ。第3楽章の冒頭の並びを、そっくりそのまま半音分下にずらしただけという代物だ。フラット3個ハ短調の枠組の中、3つめの「B」にナチュラルを奉ずることで「H」を導き出している。旋律的短音階の第7音で、導音を作り出している。第3楽章とは別の理屈ながら、結果として「連続長三度下降」が実現している。

滅多にない「連続長三度下降」を素材にしたブラームスのいたずらだ。絶対に意図的。

2015年8月16日 (日)

長いハミング

音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第1巻117ページに面白い話が載っている。1876年夏、バルト海に浮かぶリューゲン島でブラームスと休暇をともにしたジョージ・ヘンシェルの証言。

ピアノ四重奏曲第3番第3楽章アンダンテをハミングしていたら、ブラームスがお気に召したようで、50小節目の半音階的フレーズにさしかかったところで、拍子をとるように優雅に身体を動かして、伴奏をしてくれたとある。

いやはや興味深いのだが、謎も含まれる。この場所、掲載されている譜例は、同楽章の50小節目アウフタクトからのチェロの旋律だ。ヘンシェルはチェロの旋律をハミングしたとわかる。それでは、その場所で伴奏をしてくれたというのはどのパートだろう。急遽その場にあったピアノを鳴らしたのだろうか。本文の表現だけでは断定は出来ぬが、チェロ以外のどこかのパートをヘンシェル同様にハミングしたのではあるまいか。

ピアノのパートは、絶対にハミングにはなじまないフレーズになっているので、ハミングしたとすれば、ヴァイオリンかヴィオラのパートに違いない。直感ではヴィオラのパートを推したい。50小節の冒頭で、ブラームスはヴィオラの「Fis」を歌えば、ダブルシャープの「Fisis」を出すヘンシェルと8分音符一個分だけ可憐な衝突がおきるからだ。

さて、驚きは他にもある。ヘンシェルはそのハミングをどこから始めたのだろう。「アンダンテをハミングしていたら」という本文の表現だけでは、必ずしも明らかではない。楽章の途中からだったとしても何等不思議ではない。しかししかし、この作品この楽章を愛する者の一人として申し上げれば、絶対に楽章冒頭からハミングを開始したと確信している。

ヒントは譜例だ。これがチェロの旋律になっている。同楽章冒頭のチェロは、ブラームスがチェロに与えた最高の旋律だ。ヘンシェルはその最高のチェロのパートを最初からハミングしたのだ。

とすると、もっと凄いことがわかる。彼は冒頭から延々50小節間ハミングを続けたことになる。主旋律がヴァイオリンに移る箇所ではヴァイオリンのパートに乗り換えたかも知れぬが、作曲者の眼前で50小節ハミングで歌うというのは只者ではない。

ブラームスがお気に召したというのはそのトライだと思われる。

2015年8月15日 (土)

ヴィオラ最高音

日本最高峰の標高にちなんだ記事「富士山」の翌日に、満を持してヴィオラ最高音の記事。芸が細かい。

鉄道マニア向けの割と有名ななぞなぞがあった。日本の鉄道の駅でもっとも高いところにあるのはどこか?というものだ。「小海線の野辺山駅」と答えると「ブブー」である。正解は東京だという。到着する全ての列車が「上り」だからである。大宮を出た京浜東北線は、東京までは東北本線の上りで、東京から先が東海道本線の下りである。これでは面倒なので、「北行」「南行」という言い方もしている。

さてさて、ブラームスがヴィオラに与えた最高音はどこかというのが本日のお題である。

一般にブラームスはヴィオラに対してヒステリックに高音を求めないと思う。四苦八苦して音を出している時に、第2ヴァイオリンが休んでいたりすると、「何だかなぁ」という気にさせられる。「やっぱりヴィオラはC線ッス」みたいな捨てゼリフはこういうときに吐くものだ。

ハイポジション苦手の私には、いくつかの候補がすぐに嫌な思い出とともに思い浮かぶ。数住岸子先生の前で冷や汗ものだった弦楽六重奏曲第2番の第1楽章。有名なアガーテのテーマを第1ヴァイオリンとオクターブユニゾンで奏する場所がある。「A-G-A-H-E」である。このときの「H」を薬指でとっかたら第6ポジションだ。この「H」は高い方だ。この下の「B」や「A」には相当な数の実例がある。

ヴィオラソナタ第2番第1楽章7小節目に「C」が出て来る。これをブラームスにおけるヴィオラの最高音と認定したい。第一主題の提示の末尾、分散和音の到達点だ。曲の開始早々なので緊張感も相当な物で、さらに5連符であることも事態を混迷させている。あるいはヴィオラソナタ第1番第1楽章の終末も近い223小節にもこの「C」が出てくる。

しかし上記の2箇所は、ブラームス本人の編曲とは言え、あくまでもクラリネットソナタの話であった。真正のヴィオラの出番とは言い難い。正真正銘のヴィオラの出番となると、もう一つピアノ四重奏曲第3番第2楽章の終末も近い218小節目に出現する。H音のトリルの場面だ。トリルの上の音が間違いなくCになっているし、4小節後の222小節目には満を持してCが現れる。

ちなみに最低音は何だろう。C線の開放によって鳴らされる「C」に決まっている。決まってはいるのだが、記譜上の最低音となると「His」があるのだ。第1交響曲第2楽章39小節目、54~56小節目に出現する。五線の下に追加される2本目の仮線に下接する音符に「シャープ」が付与されている。どのみちC線が開放で鳴らされるのだが、気分の問題としてこれを最低音と認定したい。

2008年8月12日 (火)

ピストル

1875年8月12日、ブラームスは出版商ジムロックに宛てた手紙の中で、ピアノ四重奏曲第3番ハ短調op60を評して「楽譜の表紙にピストルを頭に向けている人を描くといい」と述べている。

この作品に言及する文章があればけして避けて通ることの出来ないエピソードである。作曲への着手から完成までに長い中断があったこともあって、古来憶測を呼んできた。作曲当時の心境を何らかの形で反映してるものと思われる。

ブログ「ブラームスの辞書」ではここで、新たに憶測を重ねる道を選ばない。独自の方向に話がそれて行くのだ。

ピストルとは英語で言う「ハンドガン」のことだ。片手で扱える小振りの銃器の総称だと解してよいのだと思うが、語源が定かではないらしい。

ドイツのピストルといえば、有名アニメの影響もあってワルサーP-38がすぐに思い浮かぶ。ブラームスがこれを思い浮かべていれば記事として完璧なのだが、そうも行かない。ワルサーP-38がドイツ軍の正式銃となるのは1938年を待たねばならない。ワルサー、ルガー、モーゼルなどで名高いドイツの実用自動拳銃の普及は1890年代なので、1875年の段階ではまだ知られていない。

恐らくアメリカ起点に1860年代末期から普及し始めたリヴォルバーだと思われる。庶民のブラームスが簡単にイメージできるほどドイツにおいても普及していたと思われる。

ビートルズのアルバムのタイトルにもなった回転式の拳銃のことである。

2008年3月11日 (火)

Tail to nose

カーレース系の用語。抜きつ抜かれつの大接戦のことだ。先行車の後端に、追い上げ車の先端がくっつかんばかりの状態を「尾と鼻」になぞらえたと思われる。日本語で言うなら「つばぜり合い」といったところか。

著書「ブラームスの辞書」の中でこの言葉が使われている。ピアノ四重奏曲第3番第1楽章177小節目から始まる一連のフレーズだ。全体を引っ張るのはヴィオラだ。同じ旋律をヴァイオリンが1小節つまり4分音符3個分遅れて模倣する。8小節後またヴィオラが同じ旋律を、まるで追いつかれまいと逃げるかように放つと、続くヴァイオリンは何と4分音符2個分遅れて追いすがる。つまり4分音符一個分差が詰まったということだ。3度目にはその差が4分音符一個になる。そして、ヴァイオリンがヴィオラに追いつく瞬間に、ピアノ、チェロまで全て動員して3連符の連打になる。196小節目のことだ。

繰り返すごとに追う側のヴァイオリンが4分音符1個分ずつ差を詰めて行き、やがては追いつく様子を「Tail to nose」と表現した。ブラームスの対位法的技法の粋を集めた見せ場である。追われるヴィオラ、追うヴァイオリンがこの部分のこうした構造を知っておくことは有意義である。フレーズの切れ目でピチカートの合いの手を差し挟むチェリスト氏にだってこのデッドヒートを味わう権利がある。もちろんピアニストまでもが、この理屈を知った上でこの曲に挑むべきである。

味わいが数段深まることをお約束する。全員が参加する3連符強打の意味が身にしみるはずである。

2007年12月21日 (金)

ソミシド

ブラームスはハ短調のソナタを以下の通り4つ書いている。

  • 弦楽四重奏曲第1番op51-1
  • ピアノ四重奏曲第3番op60
  • 交響曲第1番op68
  • ピアノ三重奏曲第3番op101

一昨年11月5日の記事「踏ん切りとしてのハ短調」にも書いている。

この中でも言及しているピアノ四重奏曲第3番の話である。第3楽章アンダンテは、思い込みの部分を含めるとブラームスがチェロに与えた最高の旋律だ。「最高の旋律の一つ」のような腰の砕けた表現では役不足である。批判覚悟で断言せねば私の思いは伝わらない。付け加えるとすれば、これがヴィオラではない無念さだけだ。

ハ長調で終止した第2楽章スケルツォを受けて鳴るGisのなまめかしさを味わいたい。調号はシャープ4つを背負っているがチェロは「Gis-E-C-A」と始まる。つまり放置するとCisになってしまう音にナチュラルが付与されている。ホ長調とイ短調の境目をさまよう旋律だ。試しにピアノで「Gis-E-Cis-A」と弾いてみて欲しい。悪くはないが単に甘いだけの長調である。続いて「Gis-E-C-A」と弾くとたちまち私の言いたいことが判るはずだ。一瞬「C」に触ることで広がる世界の奥深さを味わうべきだ。甘さに加えて切なさも同居している。

「Gis-E-C」というこの音型は、「ホ長調発イ短調行き」を暗示する一方で「C」を「His」と読み替えると、たちどころに嬰ハ短調の色彩を帯びる。もし終着が「A」でなく「Cis」ならば「Gis-E-C(His)-Cis」となるからだ。このことはやがて来る第4楽章で重要な鍵となる。

第3楽章の冒頭にこの音型を採用したブラームスの頭にはそのことがあったと推測できる。謎解きは第4楽章にある。ピアノのシンプルな伴奏に乗って走り出すヴァイオリンの旋律の冒頭が「G-Es-H-C」になっている。第3楽章冒頭の「Gis-E-C」という音型をそっくり半音下にずらした形になっている。こちらの「H」は強く「C」を求める音になっていて、ハ短調を強く印象づける。

実は、密かに確信していることがある。バッハの無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調の第4曲の冒頭との関係だ。このサラバンドもまた「ソミシド」で立ち上がっている。「G-Es-H-C」だ。ここでは重音奏法が使われないことに加えて、「シド」に代表される半音の進行が随所にちりばめられていて、さめざめとした空気を作り出す。

あるいは、ジンクアカデミーデビューの演奏会で取り上げたカンタータ21番の第3曲の冒頭もオーボエが「G-Es-H-C」と奏して立ち上がる。

この音列の中央に鎮座する「Es-H」はハ短調の第3音と第7音が作る長3度である。実は昨日の話の続きになっている。

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ブラームスの辞書写真集

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    はじめての自費出版作品「ブラームスの辞書」の姿を公開します。 カバーも表紙もブラウン基調にしました。 A5判、上製本、400ページの厚みをご覧ください。
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