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カテゴリー「140 ソナタ」の34件の記事

2016年2月 7日 (日)

多機能楽章

ブラームスはソナタの楽章の数を大筋で4と決めていた。2005年11月13日の記事「楽章の数」で述べた通りだ。

ところが実際には楽章の数3個にも挑戦している。まずは二重奏ソナタの最初と2回目だ。1回目はチェロソナタ第1番である。このときは中間楽章のうち緩徐楽章を省いた。2回目がヴァイオリンソナタ第1番で、今度は舞曲楽章を省いた。4楽章制を3楽章制にするにあたって、中間楽章のどちらかを丸ごと省略する道を試したのだ。

次の3楽章ソナタは弦楽五重奏曲第1番だ。 ブラームスの工夫は遅い舞曲を置いたことだ。テンポは緩徐楽章だが、形式は舞曲だ。さらにこの遅い舞曲・サラバンド風の主部の後に急速な舞曲風のエピソードが続く。つまり緩徐楽章の中間部が急速な舞曲になっているのだ。緩徐楽章が舞曲楽章を呑み込んだ形であり、本日のお題「多機能楽章」の走りである。実は続く4番目の3楽章ソナタであるヴァイオリンソナタ第2番でもこの「多機能楽章」が採用されている。

緩徐楽章に舞曲がサンドイッチされるアイデアの原型はなんと作品5のピアノソナタ第3番に遡るかもしれないと考えている。スケルツォの第3楽章は緩徐楽章に挟まれていると見ることが可能だ。第4楽章は第2楽章のエコーになっているからだ。ピアノソナタ第3番の5楽章制は、「多機能楽章」の実験であったと位置付け得るのではないかと思う。

さてさて、この多機能楽章の系譜には続きがある。ブラームス最後のソナタ、クラリネットソナタ第2番である。この曲の第3楽章は、緩徐楽章と終曲が合体している。終楽章が「Andante」で立ち上がるブラームス唯一の事例だ。このこと自体が聴き手への謎かけかもしれない。聴き手に緩徐楽章の始まりだと錯覚させる狙いがあった可能性がある。案の定70小節目で「Allegro」に転じて、そのままエンディングまで押し通す。フィナーレはやはりアレグロでなければという考えの反映だろう。

「終楽章がアンダンテだなんて珍しいな」と感じる聴き手の裏をかく狙いがあると思われる。

2016年2月 6日 (土)

三楽章の根拠

まずは以下のリストをご覧いただく。

  1. チェロソナタ第1番ホ短調op38
  2. ヴァイオリンソナタ第1番ト長調op78
  3. 弦楽五重奏曲第1番ヘ長調op88
  4. ヴァイオリンソナタ第2番イ長調op100
  5. クラリネットソナタ第2番変ホ長調op120-2

結論を先に申すなら、これら5作品は三楽章制を採用している。多楽章ソナタをいくつの楽章から構成させるかは、作曲家の自由だ。2楽章以上任意といっていい。ブラームスにおいて、この値は3~5になる。ピアノソナタ第3番だけが5楽章制だ。上記以外の室内楽20曲は全部4楽章となる。

3楽章制は、その組成から2種類に分類できる。

<A型> 標準の4楽章から舞曲が削除されたケース。上記では2番~4番、両ヴァイオリンソナタと弦楽五重奏曲第1番が、これに該当するとひとまず落としておく。残存した緩徐楽章の中に、急速なテンポになる部分があるかないかで細分出来る。無いのが1番。あるのが2番と弦楽五重奏曲第1番だ。この2曲では緩徐楽章の中間部がスケルツォを兼ねている。

<B型> 標準の4楽章から緩徐楽章が削除されたケース。チェロソナタ第1番とクラリネットソナタ第2番がこれにあたる。終楽章の冒頭が緩いテンポになっているのが、クラリネットソナタ第2番だ。同楽章はアンダンテで始まることで、聞き手は一瞬緩徐楽章が始まったものと錯覚する。

A型にもB型にも、削除された楽章の機能をカバーするような部分が、残った楽章に埋め込まれているケースとそうでないケースがある。

2016年1月25日 (月)

リピートの戻り先

ソナタ形式を採用する楽章において、提示部の末尾にリピート記号が置かれ、提示部の繰り返しが意図されている場合がある。提示部の末尾にリピート記号を置く置かないの基準が曖昧なことは既に述べた。リピート記号に従って指定の位置まで戻ると、提示部が繰り返されるのだ。

提示部の繰り返しという言葉を鵜呑みに出来ない例が一つある。クラリネット五重奏曲だ。リピート記号に従って戻る先が第一主題の冒頭になっていない。リピート記号は4小節目と5小節目の間にある。冒頭の両ヴァイオリンによる3度のハモリは繰り返しの対象ではないのだ。いきなりクラリネットの上行する分散和音に直結するのだ。136小節目の再現部ではこのハモリがキチンと再現されるから、提示部の繰り返しにおける別扱いが際だって聞こえる。

理由なんぞわからない。繰り返しを置く置かぬが既に難問である上に、さらに完全には繰り返さぬ例もあるということだ。クラリネット五重奏曲だけは、リピート記号を守らないと、醍醐味が一つ減る。

ブラームスの本能だとしか言えない。

2015年10月17日 (土)

フェイクもどき

ソナタ形式楽章で、提示部の末尾にリピート記号がついている場合と、そうでない場合とがある。今話題のヴァイオリンソナタ第1番は、提示部の末尾にリピート記号を置かないパターン。これらのパターンのうち提示部に続く展開部の冒頭で、第一主題が原調で提示される場合がある。

交響曲第4番、ピアノ四重曲第1番がその代表だ。楽器の使い方を含めて、第一主題の冒頭が正確に模倣されている。つまり、その瞬間聴き手に、リピート記号によって冒頭に戻ったと錯覚させる効果がある。

ところが、ヴァイオリンソナタの第1番は、リピート記号なしで、なおかつ冒頭主題が原調で回帰するパターンだが、聴き手はリピート記号があったとは錯覚しない。なぜなら主題を奏するのが冒頭と違ってピアノになっているからだ。さらにヴァイオリンはピチカートによって和音を指し挟んでいる。同ソナタ初のピチカートの出番であり、その響きは冒頭からそこまでの流れとは一線を画す。

展開部に入ったということがバレバレになる。その先の展開部は、調を変えながらしばしば第一主題がほのめかされ、再現部が準備されること5回に及ぶ。じらしもいいところだ。

2015年10月 2日 (金)

再現の妙

ヴァイオリンソンタ第1番第一楽章において、「con anima」36小節目を準備する位置づけとして29小節目の意義は既に強調しておいた。同じ「con anima」は再現部174小節にも登場する。子細に調べると驚かされる。

再現部においては、提示部の19小節目に相当するポジションから「con anima」の第二主題が走りだす。18小節目後半を8分音符で順次下降して第二主題になだれ込む。つまり、提示部の19小節目からの17小節分がゴッソリ省略されている。

鑑賞のポイントとして強調した29小節目からの7小節に相当する部分が省略されているということになる。

冒頭のテンポは緩むことなく維持されているばかりか、173小節目後半の音階を滑り降りる5つの8分音符によって気持ちテンポが煽られる。174小節でテンポが変わらないように聞こえる演奏が多い。

29小節目からの7小節でテンポ操作する余地のあった提示部に比べ、テンポ操作の選択肢は少なくなっている。「con anima」という指示は共通しているものの、提示部はニ長調だが、再現部ではト長調だし、ダイナミクスも提示部では「p」で、再現部は「poco f」に変わる。ヴァイオリンの旋律が4小節目からオクターブ上がった提示部に対し、再現部では同音の繰り返しだ。

再現部を単なる繰り返しにさせないブラームスの癖だ。聴き手の想定を上回るタイミングで第二主題に突入する手抜きの妙技を味わうべきだ。

2015年8月25日 (火)

Allegro不在のソナタ

ブラームスの作品において、ソナタ形式と「Allegro」の間に偶然では収まらぬ相関関係を想定していることは、既に何度も述べてきた。ソナタの中に必ず「Allegro」を置くことに関しては、ベートーヴェンよりも数段頑なである。ベートーヴェンにはしばしば「Allegro楽章不在のソナタ」が出現する。有名なところでは「月光ソナタ」「クロイツェルソナタ」が「Allegro不在」である。本能が命じる場合には容赦なく「Allegro不在」に踏み切っている感じである。

ブラームスは、第一楽章に「Allegro」を据えない場合でもフィーナーレでその償いをしているケースがほとんどである。

全35曲のソナタのうちたった1曲、全楽章を通じて「Allegro」が現われない曲がある。弦楽四重奏曲第3番変ロ長調op67だ。

  1. Vivace
  2. Andante
  3. Agitato(Allegretto non Troppo)
  4. POco Allegretto con Variazioni

見ての通りである。全曲を通じて速いのか遅いのか一見しただけでは判りにくい表現ばかりである。特にヴィオラ弾きの聖域として名高い第3楽章は厄介だ。カッコ入りの捕捉つきとはいえ「Agitato」がプレーンで用いられるのは異例である。さらにカッコの中「Allegretto non Troppo」は難解を極める。「non troppo」で何を抑制するのだろう。縮小語尾「~etto」によって減じられるテンポの幅を抑制している可能性さえある。

大胆な想像をする。この第3楽章のテンポは本来「Allegro」なのではあるまいか?何らかの理由でこの作品中の楽章に「Allegro」と表示したくなかったのではないだろうか。「Allegrettoだけれど遅くしすぎるな」「訳あってAllegroとは書かぬけれども」というメッセージを感じてしまう。

2015年8月19日 (水)

郊迎

賓客をもてなすために天子自ら迎えに出ること。言葉の出所は中国だ。天子がわざわざ出迎えるために宮殿を出るのだから、そんじょそこらの客ではない。郊迎と称してやばい客を首都に入れないという側面がありはしなかったか疑っている。ちなみに郊迎する場所を郊外といった。さしずめ副都心であろうか。

ソナタ形式最後の使い手ブラームスは(この断言も凄い)、主題再現に趣向を凝らす。主題の旋律が原調で再現するのが普通なのだが、原調での再現の前に一瞬原調以外の調で主旋律を歌うことがある。主旋律が郊迎に出るかのような感じである。いくつかの実例を紹介する。

  1. ピアノ四重奏曲第1番第3楽章151小節目 中間部の後の主題再帰は原調の変ホ長調ではなく、ハ長調だ。本来の変ホ長調が回帰する時には、肝心の主題は少し変奏されてしまう。変ホ長調の主題再帰に先立ってハ長調が躍り出るのは、ベートーヴェンの第3交響曲の第1楽章に輝かしい先例がある。ベートーベンの影響を云々されることの多いブラームスだが、このネタはとっておきである。
  2. ピアノ四重奏曲第3番第4楽章188小節目 本来ハ短調で回帰すべきところ、半音下のロ短調が現れる。ここから本来のハ短調に戻って行く過程こそが曲中最大の見せ場になっている。213小節目からのヴァイオリンのシンコペーションとピアノの左手の下降が華麗である。
  3. ピアノ協奏曲第2番第3楽章78小節目 本来変ロ長調のはずが、一旦嬰ヘ長調が出現する。何たる遠い調と思ってはいけない。嬰へを変トと読み替えると、変ロの3度下だということが判る。独奏チェロは正しくない調に乗って、それでも陶酔の境地をさまようが、途中で違いに気付いて変ロ長調に立ち返る。目指すは冒頭と同じ「D音」だ。既にゴールの2小節前に「D音」に到達しているのだが、主題回帰の直前に「Es-Cis」と迂回してためらいを見せる。ゴルファーがグリーン上でやらかすと恥ずかしいが、ここでは的を射ている。

断るまでもないが、これらは典型的なブラームス節である。一旦正しくない調で主題を再現し、聴き手につかの間の安堵感を与えはする。旋律は再現されているのに調が正しくないという状態を意図的に作り出している。作りはするのだが、程なくそれが束の間の安息だと悟らせもする。かくなる手続きの後、待ちこがれた原調が回帰して、「やはりここしかない」と思わせる寸法だ。「正しくない調」にいるとわかった瞬間の心の揺れも鑑賞の目的の一つだ。よくある手とわかっても感動させられる。

2015年3月 3日 (火)

未完の理由

シューベルトの交響曲ロ短調は「未完成」として名高い。これを第8番として認識していたがどうも怪しいらしい。未完の交響曲に番号が与えられているのも不思議と言えば不思議である。

このロ短調交響曲が「未完」であることの原因として、「3拍子の連続」を指摘する人がいる。

第1楽章が4分の3拍子、第2楽章が8分の3拍子、さらにスケルツォをお決まりの4分の3拍子で書き始めて行き詰まったというのがその根拠だ。

3拍子の連続がそれほど珍しいのかブラームスで確かめてみた。対象は全室内楽24曲、交響曲協奏曲全8曲、これにピアノソナタ3曲を加えた35曲である。つまり多楽章ソナタだ。

第1楽章から第3楽章が同じ拍子というケースは1件も無かった。第1楽章と第2楽章が同じ拍子というケースでさえたった1件、ピアノ協奏曲第1番だけである。第2楽章と第3楽章が同じというケースは何件か発見できた。

危ないのはピアノ四重奏曲第3番。第1楽章が4分の3拍子で、第2楽章がスケルツォだから、相当ピンチだが、スケルツォを8分の6拍子とすることで回避している。ピアノ五重奏の第3楽章も同様だ。

3連続3拍子というのは確かに異例だ。ましてや3月3日の記事としても若干無理があろう。

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2012年12月26日 (水)

トリオのテンポ

ソナタの中間楽章に現われがちな舞曲楽章は全て三部形式で書かれている。そのまた中間部は一般にトリオと呼ばれている。三楽章制を採用するソナタには出現しないからカウントがややこしいがひとまず34曲としておく。これに作品4の変ホ短調のスケルツォと、FAEソナタの中のハ短調のスケルツォを加えた36曲が本日のお話の対象である。なお同一曲の中にトリオが二度出現する場合もそれぞれ1曲とした。ちなみに第4交響曲の第3楽章は、ソナタ形式なのでカウントに入れていない。

今日のお話はこれらのトリオのテンポが直前の主部に比べて上がるのか下がるのかを議論したい。まず最初に主部からトリオに行く際にテンポが速まるものを列挙する。

  1. ピアノソナタ第1番「Allegro molto con fuocoPiu mosso」
  2. 管弦楽のためのセレナーデ第1番「Allegro non troppoPoco piu moto」
  3. 弦楽六重奏曲第1番「Allegro moltoAnimato」
  4. ピアノ四重奏曲第1番「Allegro ma non troppoAnimato」
  5. 弦楽六重奏曲第2番「Allegro non troppoPresto giocoso」
  6. 弦楽四重奏曲第1番「Allegretto molto moderato e comodoUn poco piu animato」
  7. 弦楽四重奏曲第2番「Quasi menuetto,moderatoAllegretto vivace」
  8. 交響曲第2番「Allegretto grazioso(quasi andantinoPresto non assai」
  9. クラリネット五重奏曲「AndantinoPresto non assai,ma con sentimento」

上記1番および3番を例外とすれば主部のテンポは全概ね「Allegro未満」になっている。逆にトリオに行く際にテンポが下がるものは下記の通りだ。

  1. FAEソナタ「AllegroPiu moderato」
  2. ピアノソナタ第2番「Allegro→「Poco piu moderato」
  3. ピアノ三重奏曲第1番「Allegro moltomeno allegro」
  4. ホルン三重奏曲「AllegroMolto meno allegro」
  5. ピアノ三重奏曲第2番「PrestoPoco meno presto」
  6. クラリネットソナタ第2番「Allegro appasionatoSostenuto」

初期に集中して現われた後、一番最後に一花咲かせている感じである。

もっとも大切なことはテンポが上がるケース、下がるケース合計で15例にとどまる。つまり残り21のケースにおいては、テンポが変わらないということだ。少なくともブラームスはトリオの冒頭でテンポを直接いじる指示をしていない。「いじって欲しいところにはそう書いてある」というブラームスの考えに従えば、「書いていないところでいじるな」とも解釈出来る。たとえばトリオの冒頭に「espressivo」「legato」「dolce」等の語が置かれているケース(全て実在する)において慣習としてテンポが変動している事例が後を絶たないが、安易な解釈は慎まねばなるまい。

次女たちふくだもな五重奏団が挑むピアノ五重奏第3楽章のトリオには、速度の指示がない。テンポ変動が必要な場合、必ず明記するのがブラームス流だから、表示の無い同曲トリオにおいてブラームスはテンポの変更を求めていないということだ。求めているのは気分の変更だけにとどまる。

2012年7月20日 (金)

リストのソナタ

一昨日の記事「私事都合」で、ビューローネタに触れた。そこでピアニストとしてのビューローがフランツ・リストの弟子であると書いた。だから今日はそのリストネタ。

何の断りもなくただ「リストのソナタ」と言えば1853年に書かれたピアノソナタロ短調を指すと思って間違いない。

実はロベルト・シューマンに献呈されている。1854年5月25日にシューマン邸に届いたらしい。この日のクララの日記で言及されている。ロベルト・シューマンへの献呈と申しても、ライン川への投身後ただちにエンデニヒの病院に収容されたから、献呈相手のシューマンは既に不在であった。

このときのクララの日記は、作品への嫌悪を隠さずにぶちまけている。あまりにストレートなので内容は省略する。作品についての愚痴は別として「ブラームスがさっそく弾いて聴かせてくれた」と書かれている。ブログ「ブラームスの辞書」としては、ブラームスが演奏したリストのソナタの方が気になる。クララは作品のまずさの指摘に余念がない感じで、ブラームスの演奏の出来映えには言及がない。

さらに、「それでも礼ぐらいは言わねばならないと思うと大儀で仕方がない」とこぼしている。

当時、シューマン一家の一大事と聞いてはせ参じたブラームスは、シューマン邸に頻繁に出入りし、家計簿の記入さえ任されていたくらいだから、礼状の代筆くらいは朝飯前だったと思われる。

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