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カテゴリー「261 ピアノ三重奏曲第2番」の6件の記事

2016年2月 8日 (月)

室内楽の中の変奏曲

変奏の大家ブラームスだから、室内楽作品の中にもその痕跡が色濃く宿る。作品中で変奏の技法を駆使するケースは、もはやカウント不能だ。室内楽の単一楽章が変奏曲になっているケースを以下に列挙する。

  1. 弦楽六重奏曲第1番op18第二楽章ニ短調
  2. 弦楽六重奏曲第2番op36第三楽章ホ短調
  3. 弦楽四重奏曲第3番op67第四楽章変ロ長調
  4. ピアノ三重奏曲第2番op87第二楽章イ短調
  5. 弦楽五重奏曲第2番op111第二楽章ニ短調
  6. クラリネット五重奏曲op115第四楽章ロ短調
  7. クラリネットソナタ第2番op120-2第三楽章変ホ長調

見ての通り全部で7曲だ。第一楽章には存在しない。第二楽章に3回、第三楽章に2回、第四楽章に2回となる。ただし、クラリネットソナタ第2番は第三楽章でありながらフィナーレである。だからフィナーレは3回。

二重奏から六重奏まで、もれなく分布する。

第4楽章に変奏曲をおくケース2件、どちらもその最終変奏で第一楽章冒頭主題が回帰するという共通点がある。クラリネット五重奏のフィナーレに変奏曲を置くのは、モーツアルトのクラリネット五重奏曲を踏まえているかもと妄想が膨らむ。

第二第三楽章に来る5例は緩徐楽章だ。このうちクラリネットソナタは、緩徐楽章として立ち上がりながらも、変奏の終末でアレグロに転じ、これが終楽章を兼ねているという、凝りまくった構造になっている。

ブラームスが弦楽五重奏で作曲の筆を折ろうとしていた話は、まことしやかに取りざたされる。もし、クラリネット奏者ミュールフェルトとの出会いがなかったら云々である。もしそうなっていたら、弦楽五重奏2番の変奏曲は、最初の変奏曲との共通点をもっと注目されていただろう。両者は表裏の存在だ。

史上最高の室内楽作曲家にして、史上最高の変奏の大家。その有力な証拠がこの7曲だ。

2015年11月17日 (火)

減七の味付け

ピアノ三重奏曲第2番ハ長調の話。

第3楽章冒頭には「Scherzo」と明記された8分の6拍子。調号としてフラット3つが奉られている。8分の6拍子のスケルツォがいつもハ短調になるというブラームスの癖通りの展開だ。「pp」が「sempre」でと念押しされながら、ヴァイオリンとチェロがユニゾンで、「C→Es→G」という具合に、ハ短調主和音を刻みながら登って行く。テンポがPrestoということもあって何やら神秘的な感じがする。

ピアノパートに目を転ずる。そこには「pp sempre」に「leggiero」が追加される。小節の前半6個の16分音符を見るといい「C→D→Es→Fis→A→C」になっている。最初の3つはともかく、ラストの3つ「Fis→A→C」から小節後半の「Es」にかけての並びは「Cm」から減七和音に逸脱している。1小節目と2小節目は、小節の途中で減七和音に揺らぐということだ。ダイナミクスが「pp」な上に、テンポが速いので聴き手がはっきり確信出来ないまま通り過ぎてしまう。「8分の6拍子のスケルツォは、いつもハ短調」というブラームス自身の癖を逆手に取るスパイスだ。

こうした揺らぎの構造は、フィナーレの冒頭1~2小節でも保存される。小節後半に減七和音への揺らぎが見られる。

2015年11月16日 (月)

ユニゾンの効果

ピアノ三重奏曲第2番の話をする。まずは以下のリストを黙ってご覧いただきたい。

  • 第一楽章 12小節目の途中まで
  • 第二楽章 23小節目まで
  • 第三楽章 5小節目の途中まで
  • 第四楽章 10小節目の途中まで

各々の楽章の冒頭から、上記の位置まで、ヴァイオリンとチェロがオクターブユニゾンになっている。4つある楽章全てにおいて、ヴァイオリンとチェロのオクターブユニゾンで曲を立ち上げているということだ。きわめて異例だ。ブラームスの24の室内楽で、こうしたケースはもちろんこの曲だけだ。

ブラームスのひらめきとしか、言いようが無い。オクターブユニゾンの緊張感を欲したものとおもわれる。他の作品にだってオクターブユニゾンは現れる。しかし、毎楽章必ずオクターブユニゾンで立ち上げるほど徹底されてはいない。

2015年11月15日 (日)

最後のスケルツォ

ブラームスが楽譜上に明記したという意味において、ピアノ三重奏曲第2番op87の第3楽章が最後のスケルツォとなる。op99のチェロソナタの第3楽章には「スケルツォ」と明記されない。

ブラームスがシューマンらとともに合作したFAEソナタでスケルツォを担当して、ハ短調8分の6拍子でスケルツォを書いて以来、もはや伝統となった「ハ短調のスケルツォ」の最後の作品である。
以下に8分の6拍子のスケルツォを列挙する。
  1. FAEソナタ第3楽章 ハ短調8分の6拍子
  2. ピアノソナタ第2番第3楽章 ロ短調8分の6拍子
  3. ピアノ四重奏曲第1番 ハ短調8分の9拍子 インテルメッツォに改名
  4. ピアノ五重奏曲第3楽章 ハ短調8分の6拍子
  5. ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調8分の6拍子
  6. ピアノ三重奏曲第2番 ハ短調8分の6拍子
  7. チェロソナタ第2番 ヘ短調8分の6拍子 スケルツォと明記されない。
見ての通り、ハ短調のスケルツォはいつも必ず8分の6拍子になる。興味深いのは上記3番だ。ピアノ四重奏曲第1番の第三楽章には元々「スケルツォ」と書いてあったのだが、現在流布する楽譜では「インテルメッツォ」と差し替えられている。これがもし、放置されていたら「ハ短調のスケルツォはいつも8分の6拍子」という命題が偽となっていた。
さらに上記の表の作品は全て短調だし、全てピアノ入りの作品となっている。FAEソナタはブラームス自身出版に同意していないからノーカウントとして、ピアノソロ、二重奏、三重奏、四重奏、五重奏に各1種ずつだ。

2015年11月14日 (土)

人騒がせな断言

音楽之友社刊行「作曲家別名曲解説ライブラリー」第7巻ブラームスの251ページ末尾から252ページにかけて、興味深い記述がある。ピアノ三重奏曲第2番ハ長調の第1楽章第一主題についての記述だ。以下に原文のまま引用する。

この主題は、ガイリンガーも指摘しているとおり、弦にあまりにも適合しているので、その後もほとんどつねに弦だけでうたいだされている。しかし、この主題の性格から、この楽章に対してわかりやすい印象をあたえる代わりに、第2主題の魅力的なのにもかかわらず、人を引きつける情熱的なものにいくぶん不足しているともいえる。

以上だ。

わかりにくい。一読しただけでは何を言っているのかわからない。解説になっていない。以下に不可解な点を列挙する。

  1. まず、不必要な平仮名の多用が理解の足を引っ張る。「つねに」「うたいだされている」「わかりやすい」「あたえる」など漢字書きにしてもらいたい。
  2. 第一主題自体は弦楽器にピッタリと評しているのはよしとして、その結果楽章の判りやすい印象をあたえているという趣旨なのに、何故逆説の接続詞「しかし」挟まれるのか理解に苦しむ。
  3. 「弦楽器に適合した第一主題が、わかりやすい印象をあたえるかわりに」つまりわかりやすい印象をあたえることと引き換えに」というトーンで「人を引きつける情熱的なものにいくぶん不足している」と評している。その間「第二主題が魅力的にもかかわらず」というニュアンスが付加されている。それをいうなら「情熱的なものに」ではなく「情熱的なものが」であるべきだ。
  4. 「いくぶん不足している」という断言をせずに「いくぶん不足しているともいえる」と婉曲に婉曲を重ねていて、何が言いたいかはっきりしない。
  5. 同解説冒頭の第一楽章第一主題については「完全にベートーヴェン的な性格の、しかものちの発展の可能性を十分に予知させる」とポジティブな形容をしていることと整合しない。
  6. おまけに、これら主張のどこまでがガイリンガーの主張で、どこまでが筆者の主張なのかはっきりしない。

入門者初心者にとって必要な情報なのか理解に苦しむ。この第一楽章に対する筆者の冷めた見方だけが十分に伝わってくる。不足しているのは、執筆者の愛情ではあるまいか。

2010年7月 8日 (木)

mp espressivo

ブラームスにおいては、「mp」も「espressivo」もお宝度が高いというのが「ブラームスの辞書」の主張である。その融合体「mp espressivo」には下記の通り21箇所の用例がある。

  1. ホルン三重奏曲op40第1楽章166小節
  2. 交響曲第2番op73第1楽章477小節
  3. 交響曲第2番op73第1楽章482小節
  4. 2つのモテットop74-2 56小節
  5. 2つのモテットop74-2 57小節
  6. ヴァイオリンソナタ第1番op78第2楽章32小節
  7. 大学祝典序曲op80 138小節
  8. 大学祝典序曲op80 323小節
  9. 大学祝典序曲op80 324小節
  10. 悲劇的序曲op81 106小節
  11. 悲劇的序曲op81 302小節
  12. 悲劇的序曲op81 366小節
  13. 哀悼歌op82 132小節
  14. 哀悼歌op82 133小節
  15. ピアノ協奏曲第2番op83第1楽章48小節
  16. ピアノ協奏曲第2番op83第3楽章冒頭 名高いチェロのソロ。
  17. ピアノ三重奏曲第2番op87第3楽章62小節
  18. ピアノ三重奏曲第2番op87第3楽章64小節
  19. 交響曲第3番op90第1楽章47小節
  20. 交響曲第3番op90第1楽章156小節
  21. ピアノ三重奏曲第3番op101第4楽章191小節

おいしい場所ばかりという印象だ。ドヴォルザークでもおいしい箇所で使われてないかと調べていて、お宝を発見した。

弦楽四重奏曲第12番ヘ長調「アメリカ」の第2楽章の冒頭に「mp molto espressivo」があった。単なる「mp espressivo」よりも「molto」一個分手厚いと解されようが、肝心のブラームスは一度も使っていない。お宝指数の高さをドヴォルザーク本人も自覚していたと考えたい。

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