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カテゴリー「263 ホルン三重奏曲」の17件の記事

2017年4月16日 (日)

いやはやレア

とうとう、とうとう念願のホルン三重奏曲のヴィオラ持ち替え版にありついた。CDが見つかったのではない。生の実演を鑑賞できた。

上野の東京文化会館小ホール

  1. ヴァイオリンソナタ第2番イ長調op100(ヴィオラ版)
  2. ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調op108
  3. 主題と変奏 op18b
  4. ホルン三重奏曲変ホ長調op40(ヴィオラ版)

最初のヴァイオリンソナタは、ヴァイオリンのパートをヴィオラで弾いてくれたもの。演奏者本人の編曲。曲のラストで重音が連なるところが目立ったくらいで、全体にC線の使いっぷりも自然でキュート。ヴィオラの丸みを堪能した。

ニ短調ソナタもまた秀逸。しっとり感あふれる第2楽章と小洒落た第3楽章をはさむ両端楽章の高い集中力とキビキビと確信に満ちたアーティキュレーションが、イ長調ソナタとよい対照になっていた。

「弦楽器が上手っていいなあ」と心の底から思えた。同時に「ブラームスって天才」だと再確認できた。

ヴィオラ版が2番、オリジナル通りのヴァイオリン版が3番、これが逆じゃないことを、「プログラミング上の見識の高さ」と読み替えては飛躍が過ぎるだろうか。1番「雨の歌」を聞きたくなった。ヴィオラ版も悪くあるまい。

特筆すべきはピアノだ。勘所をおさえたと申すか、メリハリの利いたと申すか、上手な弦楽器2名を包み込んで余りある圧倒的な余裕感が心地よいなどどと思っていたら、休憩空け再開後の「主題と変奏」ではまた別の引き出しから職人芸を取り出して見せた。弦楽六重奏曲第1番の第2楽章をクララのために自らピアノ独奏用に編曲した小品なのだが、中間部の長調に転ずる一帯の聞かせ方ではまた小洒落た感じに戻していた。

さてメイン。

ソナタでは立って弾いていた弦楽器奏者が腰かけて演奏する。椅子不要を思わせる気合で、時々腰が椅子から浮くほどの熱演。ホルンの代わりにヴィオラを据えるのはブラームス本人の編曲だが、単なる「差し替え」というのはもはや無理。弓の動きや体のスイングがヴィオラとヴァイオリンでシンクロするので、視覚的には別物だ。第3楽章、変ホ短調の緩徐楽章と周辺楽章の対照っぷりはおそらく意図されたものだろう。フィナーレ第4楽章がきびきびと入りだした瞬間の解放感がその証拠。

大満足。

この編成で何をやるのだろうと心配だったアンコールは、ヴィオラ奏者が「熊本地震1周忌の祈りを込めてバッハ・グノーのアヴェマリアを」と紹介した。「バッハを尊敬していたブラームスにちなんで」と付け加える周到さも鑑賞の対象と見た。中途半端にハンガリア舞曲あたりを持ってこないところもスマートだ。

などと感心していたら、アヴェマリアの冒頭ピアノの弱音にはっとさせられた。結局今宵の主役はこのピアノだったのかもと思いながら帰路についた。

スペシャルコンサートまであと28日。

2015年8月 1日 (土)

ファウスト

我が家にはホルン三重奏曲のCDが5種類ある。このうち2種類がバルヴホルンによるものだ。あとはホルンパートをチェロで演奏したもの、トロンボーンで演奏したものが各1種あり、もう1種がナチュラルホルン版である。ヴィオラ版を探しているのだがなかなか見つからない。

イザベル・ファウストというドイツの女流ヴァイオリニストがテウニス・ファン・デル・ツヴァルトというホルン奏者と組んで録音している。ナチュラルホルン版ホルン三重奏目当てで購入したら、ヴァイオリンソナタ第一番も素晴らしい演奏だったのでお買い得だった。さらに作品116のピア小品も収められている。3人の奏者がかわるがわる主役を演じるという凝った構成だ。使われている楽器にも主張がある。
  • ヴァイオリン ストラディヴァリ 「スリーピングビューティー」 1704年
  • ナチュラルホルン ロレンツ 1845年
  • ピアノ ベーゼンドルファー 1875年
ナチュラルホルンで聴くと、本当に響きが多彩だ。三重奏には聞こえない。音によって音色がガラリと代わるナチュラルホルンの特性を、ブラームスが利用しているとわかる。ホルン1本で2つの楽器の掛け合いにも聞こえる。ナチュラルホルンの特性を知り尽くしていて、フレーズ毎に音色が代わるよう工夫されている。
バルヴホルンの演奏に慣れてしまっていると最初のうちは戸惑うが、ブラームスの意図があとからじんわりと判ってくる。
惜しむらくは、このCDジャケットに強烈な誤植がある。凝り性丸出しの選曲や楽器の選択など、気合とやる気が伝わってくるほか、ディスクやジャケットのデザインも美しいだけに、誤植だけは残念だ。

2015年7月31日 (金)

種明かしの瞬間

ホルン三重奏曲の第3楽章の話。8分の6拍子変ホ短調のアダージョ。楽章を構成する主題は3通り。

  1. 1小節目 ピアノ 
  2. 5小節目 ヴァイオリンとホルン
  3. 19小節目 ホルン 
  4. 59小節目 ヴァイオリンとホルン

これらのうちの3つめは、8分音符が4個ずつでグルーピングされているヘミオラで、前2つの主題とは、拍節的に対照を成す。

4つ目は、再現部にしか現れない要素。印象的な「molt p」を配されて、終末感を仄めかす。

とりわけ話題にしたいのは43小節目。いわゆる再現部。ピアノはきっちりと上記1を再現する。冒頭では「p」だったはずなのに「pp」で再現される。するとここで驚くべき現象。上記3のホルンの主題がヴァイオリンで現れる。第1主題と第3主題が、対位法的に処理されて同時に鳴る。単独で鳴らされていたのでは感じにくかったヘミオラも実感できる。

注目すべきはここのダイナミクス。「ppp quasi niente」とは、ブラームス生涯で唯一ここだけの表現で「ほとんど無音で」と解される。第一主題と第三主題を同時に鳴らすという楽章中のエポックだというのに、「無音で」と釘を刺す。楽章中この両主題が同時に鳴るのはここだけだというのに、くれぐれも「無音」と言い張るかのようだ。

ピアノ側に置かれたのが「pp」であることを思えば、「ピアノよりも弱く弾かれること」をブラームスは期待している。CDで聞く限り、ピアノよりも強く聞こえる演奏も見かける。

ホルン三重奏曲最高の見せ場。

2015年7月30日 (木)

「mesto」が似合う調

「悲しげに」と解される。ブラームスは下記の2回「mesto」を使用しているが、単独では用いていない。またパート系には出現しない。

  1. ホルン三重奏曲作品40第三楽章冒頭「Adagio mesto」
  2. インテルメッツォ作品118-6冒頭「Andante,largo e mesto」

ベートーヴェンも2回しか使っていない。ラズモフスキー四重奏曲第一番と、7番のピアノソナタどちらも緩徐楽章に現れる。ブラームスもベートーヴェンも「短調の遅い音楽」に使用している。おまけにブラームスの場合、2例とも変ホ短調になっている。全部で8つしかない貴重な変ホ短調である。フラット6個の調号が楽譜に座っているだけで、演奏前から重々しい気分が充満する。平行長調の変ト長調はさらに少なく作品33-8の歌曲に1回だけしかないので、この調号もっぱら変ホ短調用である。嬰ニ短調と見てもシャープ8個になってしまうし、アマチュアには鬼門である。そのあたりのうらぶれた感じがこの調の特徴かもしれない。

2015年7月29日 (水)

擬似ユニゾン

ホルン三重奏曲の第2楽章での出来事。287小節目から中間部が始まる。大変珍しい変イ短調のトリオだ。フラット7個の現場は滅多にないから要チェックだ。

287小節目から12小節間、ヴァイオリンとホルンがオクターブユニゾンだなどと思っていたら、ところがどっこい3度だった。ホルン側の記譜が「in Es」だから「C」から始まる旋律と見えて、実音は「Es」からになる。楽譜上の見かけはオクターブユニゾンだが、実音上では3度進行になっている。ちょっと面白い現象。

2015年7月28日 (火)

ジュピタースケルツォ

モーツアルトの交響曲第41番ハ長調の終楽章は「C→D→F→E」という主題で始まる。いわゆる「ジュピター音型」だ。ブラームスの4つ交響曲の調性を順に並べると「CDFE」となるなど、興味本位も含めて話題には事欠かない。

ホルン三重奏曲変ホ長調op40の第2楽章の冒頭を見て欲しい。ピアノが2オクターブにまたがるユニゾンで立ち上がる。その最初の4つの音を順に並べると「Es→F→As→G」になっている。これを変ホ長調の移動ドで読むと「ドレファミ」になる。つまりジュピター音型である。

何せテンポが速い上に、ピアノなのでから耳を澄ましていなければ聴き逃がす。このスケルツォ全体にこの音型が織り込まれている。

2015年7月25日 (土)

Blechbratsche

ブラームスはしばしば、ナチュラルホルンのことを半ば自嘲的に「Blechbratsche」と呼んだ。「Blech」は英語でいう「Brass」のことで「金管楽器」を指す。「Bratsche」はもちろん「ヴィオラ」のことだ。だからナチュラルホルンとはつまり「金管のヴィオラ」である。

一般にナチュラルホルンとは、バルヴを持たないホルン。自然倍音だけしか出せない。18世紀中ごろには、ベルの中に差し込んだ手の位置を操作することで、自然倍音プラスマイナス2度の音程が出せるようになる。両者は開放音とストップ音と言って区別されるが、音色の均質性は犠牲になる。古典派のホルンパートの動きはこの制約にさらされているということだ。
1815年頃そうした制約から解放されたバルブホルンが登場することになる。急速に普及するが一部ではナチュラルホルンが愛用され続けた。
ブラームスはまさにその愛用者だった。ブラームスの管弦楽におけるホルンは、ナチュラルホルンの使用が前提になっている。そしてホルン三重奏曲もナチュラルホルンのために書かれている。ブラームスは音程による音色の違いを「制約」とは受け取らず、むしろそれを逆手にとって、音色の違いを楽想の表情付与に利用した。ホルン三重奏曲の作曲は、バルヴホルンの登場から50年経過したあとだというのに、断固ナチュラルホルンにこだわったということだ。
ブラームスが様々な楽曲でホルンに与えた楽想を思うとき、あるいは彼自身がピアノのほかにホルンやヴィオラの演奏も出来たこと思うとき、「金管のヴィオラ」という表現は示唆に富んでおり含蓄があると感じる。

2015年7月23日 (木)

聴衆の無関心

後にブラームスザールと改称されることになる楽友協会小ホールの「こけら落とし」公演にクララ・シューマンが出演した話を昨日しておいた。そこで、当日のプログラムの冒頭がブラームスのホルン三重奏曲変ホ長調op40だと書いてはしゃいだ。

ところが、クララは後日友人に「聴衆には全く受けなかった」と書き送っている。クララ自身はこの三重奏曲を「真に精神性に溢れ、どこから見ても全く持って興味深い作品」と評価している。それなのに聴衆の反応が冷たいと嘆いているのだ。

ある程度は仕方が無い。当時クララは欧州最高のピアニストの位置にあった。シューマンとベートーヴェン作品の当代一の解釈者という位置づけだ。その彼女が満を持して杮落とし公演にのぞむのだから、ましてそのプログラムに冒頭には、絢爛豪華で華麗な作品を期待するのが人情というものだ。

ホルン三重奏曲は、1870年1月の同公演の段階で、ピアノ入りの室内楽としては最新の作品だ。クララの意気込みも判らぬでもないが、聴衆の期待するカリスマピアニスト、クララという価値観を存分に反映する演目とは言えない。クララの思いと聴衆の期待が完全にずれている。しかしクララの手紙には半ば想定内という諦めも見え隠れする。

後世の愛好家である私は、聴衆の好みとのズレも省みず、こけら落とし公演の冒頭にホルントリオを持ってきたクララの英断に心から拍手を送るものである。

申し遅れた。昨日8番目の室内楽ホルン三重奏曲にたどり着いた。

2015年7月22日 (水)

こけら落とし

劇場やホールのオープン公演のことだ。

1870年1月19日が、ウィーン楽友協会小ホールのこけら落としだった。現在ではブラームスザールと呼ばれているあのホールのことだ。

私も新婚旅行でウィーンを訪れた際に出かけたことがある。ヘルマン・プライのシューベルトの夕べだった。演奏もなのだが、トークが面白い感じのリサイタルだった記憶がある。その会場に上る階段踊り場に、クララ・シューマンの胸像が置かれていて嬉しかった覚えがある。

実は、ブラームスザールと後に命名されることになる、ウィーン楽友協会小ホールの杮落とし公演に出演したのは、他でもないクララ・シューマンだったのだ。後にブラームスの名前が奉られるなどとは誰も思っていなかったに違いないが、その動機のひとつになったような気がする。

今と違って、さまざまなジャンルがごちゃ混ぜのプログラムなのだが、最初の演目がブラームス作曲のホルン三重奏曲変ホ長調op40だった。ピアノを受け持ったのはもちろんクララだ。ブラームスザールの最初の演目が、ブラームスの室内楽で、あろうことかクララが出演していたというだけで半端無い由緒を感じる。

2010年7月 8日 (木)

mp espressivo

ブラームスにおいては、「mp」も「espressivo」もお宝度が高いというのが「ブラームスの辞書」の主張である。その融合体「mp espressivo」には下記の通り21箇所の用例がある。

  1. ホルン三重奏曲op40第1楽章166小節
  2. 交響曲第2番op73第1楽章477小節
  3. 交響曲第2番op73第1楽章482小節
  4. 2つのモテットop74-2 56小節
  5. 2つのモテットop74-2 57小節
  6. ヴァイオリンソナタ第1番op78第2楽章32小節
  7. 大学祝典序曲op80 138小節
  8. 大学祝典序曲op80 323小節
  9. 大学祝典序曲op80 324小節
  10. 悲劇的序曲op81 106小節
  11. 悲劇的序曲op81 302小節
  12. 悲劇的序曲op81 366小節
  13. 哀悼歌op82 132小節
  14. 哀悼歌op82 133小節
  15. ピアノ協奏曲第2番op83第1楽章48小節
  16. ピアノ協奏曲第2番op83第3楽章冒頭 名高いチェロのソロ。
  17. ピアノ三重奏曲第2番op87第3楽章62小節
  18. ピアノ三重奏曲第2番op87第3楽章64小節
  19. 交響曲第3番op90第1楽章47小節
  20. 交響曲第3番op90第1楽章156小節
  21. ピアノ三重奏曲第3番op101第4楽章191小節

おいしい場所ばかりという印象だ。ドヴォルザークでもおいしい箇所で使われてないかと調べていて、お宝を発見した。

弦楽四重奏曲第12番ヘ長調「アメリカ」の第2楽章の冒頭に「mp molto espressivo」があった。単なる「mp espressivo」よりも「molto」一個分手厚いと解されようが、肝心のブラームスは一度も使っていない。お宝指数の高さをドヴォルザーク本人も自覚していたと考えたい。

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