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カテゴリー「264 クラリネット三重奏曲」の7件の記事

2016年1月15日 (金)

スランプの名残り

例によってまたまた音楽之友社刊行の「作曲家別名曲解説ライブラリー」第7巻ブラームスの話だ。クラリネット三重奏曲に言及する261ページの出来事である。クラリネット三重奏曲を指して、唖然とするような解説を提示する。同曲が現代ではあまり演奏されない理由として下記のような記述を展開している。

それは、聴いて人をそれに没頭させるというよりは、むしろ一種の倦怠感をもよおさせることにもよるし、主題の取り扱いが他の曲のようには魅惑的でないことにもよるだろう。とにかく創作力減退のスランプは、この曲の頃までには完全には回復していなかったようである。

あんまりな言われ方だ。何があんまリか順を追って列挙する。

  1. 「聴いて人をそれに没頭させるというよりは、むしろ一種の倦怠感をもよおさせることにもよる」とあるが何が言いたいのか。筆者がこう感じるのは自由だが、初心者を含む広い読者層を前に、わざわざこう告げる必要があるのか疑問だ。
  2. 「倦怠感をもよおす」とは言いがかりもいいところだ。
  3. 「主題の取り扱いが他の曲のように魅惑的ではない」のうちの「他の曲」ってどの曲だろう。いったいどこがどう魅惑的ではないのだろう。これに続く解説文の中では一切説明が無い。思い切った断定の割には根拠への言及がない。
  4. 弦楽五重奏曲第2番完成後の創作意欲の減退のことを指す「スランプ」だと思うが、恣意的だ。それでいて続く262ページの中ほどで、「スランプから完全に抜け出してはいないものの、ブラームスの優れた腕を見せ付けられた気がする」と持ち上げている。見苦しい。

残念ながらピアノ四重奏曲第2番、ピアノ三重奏曲第2番と並んであんまりな言われ方の三本柱を形成してしまっている。少なくとも作品解説は、読後に「聴いてみたい」と思わせる余韻が残る方がいいに決まっている。つまらぬ作品だと思うなら、名曲解説本に収載しなければいい。名曲認定しなければいいのだ。

構うことは無い。有名作曲家による作品でも、同シリーズに取り上げられていない室内楽作品は山ほどある。出版されておおやけになった室内楽24曲全てが名曲扱いされているブラームスはむしろ例外だ。

2016年1月14日 (木)

24という数

バッハの金字塔「平均律クラヴィーア曲集」は、オクターブに含まれる12の音全てについて、これを主音として前奏曲とフーガを連ねた代物だ。長短あるから2倍の24曲になる。

バッハ以降の作曲家たちに影響を与えたと思われる。コンセプトはさておき、「24」という数にこだわった人も多い。ショパンの前奏曲は特に名高い。パガニーニの無伴奏ヴァイオリンのためのカプリースも怪しい。

バッハラブのブラームスにも「24」にこだわった作品がありはせぬかと捜したが、見当たらない。「24の~」という作品は存在しない。後期のピアノ小品は20曲にしかならず、それではとばかりに中期のop76を加えると28曲になってしまう。存在しないからこそ「平均律ブラヴィーア」曲集を作ってみたという訳だ。

ところが、相変わらずのお叱り覚悟ネタがある。

ブラームスの室内楽を考える。二重奏から六重奏までだ。これを数えると全部で24曲になる。1890年弦楽五重奏曲第2番の作曲を終えたブラームスは創作力の枯渇を自覚し、作曲から手を引く決意をする。このときまでに残した室内楽は20曲だ。

クラリネットの名手ミュールフェルトの出会いによって一連のクラリネット入り室内楽が生まれることになる。

  1. クラリネット三重奏曲イ短調
  2. クラリネット五重奏曲ロ短調
  3. クラリネットソナタ第1番ヘ短調
  4. クラリネットソナタ第2番変ホ長調

ご覧の通りの4曲が、既存の室内楽に加わることにより合計24曲になった。ミュールフェルトが創作欲を刺激したことは間違い無いのだとは思うが、その結果生み出された作品が4曲だというのは、ミュールフェルトではなくバッハの影響かもしれない。

2016年1月13日 (水)

よく見りゃカノン

クラリネット三重奏曲の第4楽章にブラームスらしいカノンがある。冒頭チェロが第一主題を放つ。クラリネットは休みでピアノが伴奏に回る。あまりにチェロのソロがカッコいいので、CDを繰り返し聴いていても気付かないが、ピアノの右手が8分音符2個分遅れてチェロの主題そのものを模倣する。チェロは「アウフタクト→拍頭」という具合に決然と進行するが、おいかけるピアノは拍頭に休符を据えた後打ちになっているから、楽譜を見てもわかりにくい。音形が違う上に、チェロにはハ音記号が混入しているから楽譜を見ながらCDを聴いていてもボンヤリやり過ごしてしまいがちだ。

楽譜を見ながら繰り返しCDを聴いていても判りにくいようなカノンを、楽章冒頭の主題提示にもぐりこませるとは念が入っている。

2016年1月12日 (火)

un poco f

クラリネット三重奏曲第1楽章4小節目のピアノパートに唯一存在する指定。

これに先立つこと4小節の楽章冒頭でチェロが第一主題を奏でる際のダイナミクスは「poco f」であることが事態を厄介にしている。さらにピアノとほぼ同時に立ち上がるクラリネットにも「poco f」が存在するのだ。つまりブラームスは「poco f」と「un poco f」を明確に書き分けていることになる。「クラリネットはチェロと同じだけど、ピアノは少し違うンですよ」というメッセージだ。

日本語訳なんぞ恐ろしくて出来たものではない。ダイナミクスとしてどちらが強いかも、にわかには断言しにくい。単なる伴奏心得とするにしても「un」だけの差では微妙過ぎる。同じ言い回しが他に存在しない「むすめふさほせ」型だから比較対照もお手上げだ。

演奏者に対する「考えよ」というメッセージかもしれない。「un poco f」に直面するピアニストだけではない。「poco f」が記されたチェロやクラリネットさえも無関心にはさせない凄味がある。

2015年11月30日 (月)

ハウスマン

ロベルト・ハウスマンRobert Hausmann(1852-1909)のこと。ヨーゼフ・ヨアヒムが主宰するヨアヒム四重奏団のチェリストだ。当時欧州最高の四重奏団の栄誉をほしいままにしていた団体のチェリストだ。相当の腕前であった。

ブラームスのチェロソナタ第2番を作曲者のピアノで初演したのは彼である。それからヨアヒムとともヴァイオリンとチェロのための協奏曲の独奏を受け持った。このほかクラリネット三重奏曲の初演の際には、ミュールフェルトとともにブラームスのお供をしている。

さらに下記諸作品の初演を担当したのがヨアヒム四重奏団だから、チェリストがハウスマンその人あった可能性が高い。

  • 弦楽四重奏曲第2番
  • 弦楽四重奏曲第3番
  • クラリネット五重奏曲

要するに只者ではないのだ。

こうなるとヨアヒム四重奏団の第二ヴァイオリンとヴィオラの奏者だってきっとそれなりの名人だったと思わざるを得ない。ヨアヒムやハウスマンに比べると話題にはならない。

2007年2月 7日 (水)

三重奏の決め事

昨日の記事と密接に関係がある。

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2007/02/post_42db.html

世の中「三重奏曲」と言えば「ピアノ三重奏曲」である。ピアノ、ヴァイオリン、チェロのこの編成は、弦楽四重奏と双璧を為す室内楽の根幹だ。古来名曲には事欠かない。この編成があまりにオーソドックスなものであるがゆえに、悪戯したい作曲家も少なくない。この編成以外の編成の曲を作りたいと思うのが人情だ。

ブラームスにも以下の通り少し変わった編成の三重奏曲がある。

  • ホルン三重奏曲op40 ピアノ、ヴァイオリン、ホルン
  • クラリネット三重奏曲op114 ピアノ、クラリネット、チェロ

ところが上記2作品ともよくよく見ると、原点たるピアノ三重奏曲の編成から1個だけ楽器を差替えたに過ぎない。チェロをホルンに代えればホルン三重奏曲だし、ヴァイオリンをクラリネットに差替えればクラリネット三重奏曲になるという訳だ。このあたり何だか慎重派のブラームスらしい。原点たるピアノ三重奏曲から総入れ替えでは、知見の蓄積が足りなくて厄介だとでも思ったのではあるまいか。代えるなら一個ずつに限ると考えていたのかもしれない。

この両者には他にも意外な共通点がある。差替えられた2種類の管楽器ホルンとクラリネットをヴィオラに持ち替えることをブラームス本人が承認していたという。クラリネット三重奏曲は自らヴィオラ版を編曲している。ホルン三重奏のホルンをヴィオラに差替えたバージョンには一定の理解を示していた一方で、チェロ版の出版を承認しなかった逸話もあるそうだ。それはもっともな話だ。クラリネットをヴァイオリンに戻したり、ホルンをチェロに戻したりしたら、単なるピアノ三重奏曲の編成に逆戻りするだけだ。それでは何のための風変わりな編成だか分らなくなるというものだ。

それにしても「アルトとヴィオラとピアノのための歌曲作品91」は上記の原則から見れば相当思い切った編成だ。ピアノ以外は入れ替えということになるからだ。風変わり度で言うならこちらが一枚上手である。

2005年12月15日 (木)

糸引き四連4分音符

これは完全に私の造語。四つの4分音符が連続し、しかもそれらがスラーで繋がっている音形で始まる旋律のこと。どちらかというとゆっくり目のテンポを取っている。早い話、おいしい旋律が多いので、私はこれを「糸引き四連4分音符」と命名した。4分音符ではないが、連続する同じ音価の音符4個という擬似型もある。

  1. バラードop10-2冒頭
  2. ピアノ四重奏曲第一番op25第一楽章冒頭
  3. ピアノ四重奏曲第ニ番op26第二楽章冒頭
  4. 弦楽六重奏曲第二番op36第三楽章冒頭
  5. アルトラプソディop53 116小節目
  6. ピアノ四重奏曲第三番op60第三楽章冒頭 
  7. クラリネット三重奏曲op114第一楽章冒頭

4分音符に捉われない擬似型としては下記の用例を考えている。

  1. 弦楽四重奏曲第二番op51-2第一楽章冒頭
  2. ヴァイオリン協奏曲op77第二楽章冒頭

少し定義からははずれるけれどもチェロソナタ第二番op99第二楽章冒頭のピチカートも入れてあげたい気がしている。またピアノ四重奏曲第二番の第三楽章冒頭も怪しい気がしている。

用例はどれも「トロトロのブラームス節」が聞けるところである。譜例を示せないのが大変残念である。著書「ブラームスの辞書」ではこのことには全く触れていないが、今日は特別に取り上げた。演奏や鑑賞には全く役に立たないが、ブログ「ブラームスの辞書」ならではのネチっこい話題である。

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