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カテゴリー「268 チェロソナタ第1番」の9件の記事

2016年8月12日 (金)

ひとまず信じる

ショップをうろついていて驚くべきCDに出会った。勢いで即買い。

チェロソナタ第一番ホ短調op38について、少し詳しい解説書では、この作品が元来4楽章であったことに言及される。事情があって緩徐楽章が省かれて現在流布する構成になったと説明される。クララや献呈先のゲンスバッヒャーは、本来の4楽章型を知っている。

ブラームス伝の著者カルベックは、省かれた緩徐楽章はチェロソナタ第2番の緩徐楽章に転用されたという説を唱える。2番の緩徐楽章を聴いた、ゲンスバッヒゃーやクララが沈黙している点と、これを主張するのがカルベック一人というのが難点だ。

このたび買い求めたCDは、チェロソナタ第1番本来版の世界初録音と謳っている。チェロソナタ第1番の第一楽章の後に、2番の緩徐楽章がおさめられているのだ。その次に平然とメヌエットとフィナーレが続く。カルベックの主張をひとまず信じて見せたということだ。このレアなCDがバッハの売り場に置かれていては見つけるのは至難だ。

チェリストはJuius BergerでピアニストはOliver Kernという。まあライブならともかくスタジオ録音だと、ありがたみは薄まる。この順で収録したのが世界初であるに過ぎない。古今のチェリストの帰依を勝ち取ってきたブラームスの両ソナタだから、2曲とも録音を残した者はあまたいて、とても世界初録音とは言えまい。

まあしかし、この手の乗りは嫌いではない。

2016年2月 7日 (日)

多機能楽章

ブラームスはソナタの楽章の数を大筋で4と決めていた。2005年11月13日の記事「楽章の数」で述べた通りだ。

ところが実際には楽章の数3個にも挑戦している。まずは二重奏ソナタの最初と2回目だ。1回目はチェロソナタ第1番である。このときは中間楽章のうち緩徐楽章を省いた。2回目がヴァイオリンソナタ第1番で、今度は舞曲楽章を省いた。4楽章制を3楽章制にするにあたって、中間楽章のどちらかを丸ごと省略する道を試したのだ。

次の3楽章ソナタは弦楽五重奏曲第1番だ。 ブラームスの工夫は遅い舞曲を置いたことだ。テンポは緩徐楽章だが、形式は舞曲だ。さらにこの遅い舞曲・サラバンド風の主部の後に急速な舞曲風のエピソードが続く。つまり緩徐楽章の中間部が急速な舞曲になっているのだ。緩徐楽章が舞曲楽章を呑み込んだ形であり、本日のお題「多機能楽章」の走りである。実は続く4番目の3楽章ソナタであるヴァイオリンソナタ第2番でもこの「多機能楽章」が採用されている。

緩徐楽章に舞曲がサンドイッチされるアイデアの原型はなんと作品5のピアノソナタ第3番に遡るかもしれないと考えている。スケルツォの第3楽章は緩徐楽章に挟まれていると見ることが可能だ。第4楽章は第2楽章のエコーになっているからだ。ピアノソナタ第3番の5楽章制は、「多機能楽章」の実験であったと位置付け得るのではないかと思う。

さてさて、この多機能楽章の系譜には続きがある。ブラームス最後のソナタ、クラリネットソナタ第2番である。この曲の第3楽章は、緩徐楽章と終曲が合体している。終楽章が「Andante」で立ち上がるブラームス唯一の事例だ。このこと自体が聴き手への謎かけかもしれない。聴き手に緩徐楽章の始まりだと錯覚させる狙いがあった可能性がある。案の定70小節目で「Allegro」に転じて、そのままエンディングまで押し通す。フィナーレはやはりアレグロでなければという考えの反映だろう。

「終楽章がアンダンテだなんて珍しいな」と感じる聴き手の裏をかく狙いがあると思われる。

2016年2月 6日 (土)

三楽章の根拠

まずは以下のリストをご覧いただく。

  1. チェロソナタ第1番ホ短調op38
  2. ヴァイオリンソナタ第1番ト長調op78
  3. 弦楽五重奏曲第1番ヘ長調op88
  4. ヴァイオリンソナタ第2番イ長調op100
  5. クラリネットソナタ第2番変ホ長調op120-2

結論を先に申すなら、これら5作品は三楽章制を採用している。多楽章ソナタをいくつの楽章から構成させるかは、作曲家の自由だ。2楽章以上任意といっていい。ブラームスにおいて、この値は3~5になる。ピアノソナタ第3番だけが5楽章制だ。上記以外の室内楽20曲は全部4楽章となる。

3楽章制は、その組成から2種類に分類できる。

<A型> 標準の4楽章から舞曲が削除されたケース。上記では2番~4番、両ヴァイオリンソナタと弦楽五重奏曲第1番が、これに該当するとひとまず落としておく。残存した緩徐楽章の中に、急速なテンポになる部分があるかないかで細分出来る。無いのが1番。あるのが2番と弦楽五重奏曲第1番だ。この2曲では緩徐楽章の中間部がスケルツォを兼ねている。

<B型> 標準の4楽章から緩徐楽章が削除されたケース。チェロソナタ第1番とクラリネットソナタ第2番がこれにあたる。終楽章の冒頭が緩いテンポになっているのが、クラリネットソナタ第2番だ。同楽章はアンダンテで始まることで、聞き手は一瞬緩徐楽章が始まったものと錯覚する。

A型にもB型にも、削除された楽章の機能をカバーするような部分が、残った楽章に埋め込まれているケースとそうでないケースがある。

2015年7月20日 (月)

意外なはまりっぷり

Barbara Westphal さんはアメリカの女流ヴィオラ奏者だ。ブラームスが相当お好きとお見受けする。クラリネットソナタのヴィオラ版の録音があるのは自然としても、そのCDに「FAEソナタ」のヴィオラ版が、ひっそりと収録されていた。

彼女のブラームスラブを追認するCDに出会った。2015年に入ってからの発売だ。「Convergendes」とタイトリングされたCD。「集中」とか「集約」あるいは「収束」の意味だ。
収録されているのは、ヴァイオリンソナタ第1番ト長調のヴィオラ版。ニ長調に移調されたチェロ版のCDはよく見かけるが、ヴィオラ版は我が家にも他に1枚あるだけの少数派だ。チェロ版にニ長調をオクターブ上げてではなく、オリジナルのト長調を踏襲しているのが嬉しい。場所によってはかなりのハイポジションを要求されるが、まあ涼しげにさくっと弾かれていてストレスはない。ヴァイオリンに比べて発音がマイルドなのをカバーする意図があるのかどうか、第二楽章のテンポが速い。総演奏時間6分23秒は、我が家のコレクション中最短の第二楽章だ。それでも全然バタついた感じがしないのは、ヴィオラ特有の音質のせいかと。
前置きが長くなった。
私がこのCDに飛びついたのはアッと驚く、チェロソナタ第1番のヴィオラ版だ。楽譜だけは我が家にもあるが、実際に演奏され、CDになっているケースにお目にかかれずにいた。
聴いてみる。チェロオリジナル版ホ短調をオクターブ上げている。ヴィオラの弦の配置がチェロのオクターブ上への転写だから全く無理が無い。第一楽章冒頭は、ヴィオラC線を深々とえぐって立ち上がる。第二楽章のトリオ、切ない八分音符の連続もきっちりとはまりこむ。注目はフィナーレで、チェロソナタよりやさし気に響く。
相当ブラームスが好きなんだと思う。ヴァイオリンソナタやチェロソナタ、他の作品も収録してくれないものか。

2015年7月19日 (日)

メヌエットのテンポ

アクセス解析を見ていて興味深い現象に出会うことがある。今日の話題もそれだ。どうも「メヌエット」「テンポ」というキーワードでたどり着かれることが多い。メヌエットの適正なテンポを求めてネット検索をしていると想像出来る。

ブログ「ブラームスの辞書」に関する限り徒労に終わる。ブラームスは「メヌエット」の適正なテンポを、既に明らかで説明不要と位置づけている。作品冒頭のテンポ指示で「メヌエットのテンポで」「Tempo di menuetto」あるいは「Quasi menuetto」と謳うことはあっても、それ以上深入りして説明することはない。メヌエット自体にはけしてテンポの指示をしていない。メヌエット以外の曲が、たまたまメヌエットのテンポを必要している場合のみ「メヌエットのテンポで」と指定しているに過ぎない。「ご存知の通りのメヌエットです」というニュアンスだ。

「16のワルツ」op39では、冒頭に「im Landler tenpo」と明記する。「ワルツ」というタイトルを掲げながら、テンポはレントラーなのだから、この指示は当たり前だ。

ブラームスにとっては「メヌエット」も「レントラー」も説明不要のテンポだということだ。

ところが私のブログアクセスへのキーワードを眺めている限り、現代日本では「メヌエット」のテンポが説明不要ではないようだ。ブラームスが想定した楽譜の読者層と違っているということかもしれない。

チェロソナタ第1番第二楽章に「Allegretto quasi Menuetto」と書かれている。

2015年7月18日 (土)

短調まみれ

ソナタと称する多楽章の器楽作品において、全ての楽章が長調になっているケースは割と頻繁に見かける。ブラームスでもそうだ。第2交響曲やヴァイオリン協奏曲などさっと思い出すことが出来る。

ところがその逆、全楽章が短調の曲となると大変珍しくなる。

ブラームスでは唯一チェロソナタ第1番だけがそれに該当する。全部の楽章が短調だからそれらの第一主題が短調になっているのは当然として、第1楽章の第2主題も短調で、第2楽章の中間部も短調だ。フィナーレ第3楽章で現れる諸主題も短調である。まさに異例中の異例と言えよう。

だから母の死が反映しているという俗説が変に説得力をもってしまうのだと思う。

2010年9月27日 (月)

コントラバスソナタ

えらいCDを見つけた。ブラームスのチェロソナタ第1番のコントラバス版だ。我慢は100%無理で、即購入。

転がり込むように帰宅してさっそく再生。

元がいい曲だから、弾けさえすれば形になるに決まっているが、フィナーレはどうするのだろうという怖い物見たさが先に立った。いやはや凄い。ほぼ全域でオクターブ下げられている。伴奏のピアノはオリジナルな音域だからそれだけで既に気分が違う。とりわけ第3楽章。コントラバスが弾いているところを想像するとそれだけでテンションがあがる。根を詰める仕事をしながらは聴けない。流して聴いたら失礼。

2007年1月20日 (土)

マイスキーの無言歌の続き

ミッシャ・マイスキーという名高いチェリストが、ブラームスの歌曲をチェロで演奏している。ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」のチェロ版の余白に入っている。血も涙もある選曲と配列になっていることは既に昨年11月4日の記事「マイスキーの無言歌」で言及した。

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2006/11/post_ab83.html

このほどその続編を見つけて購入した。前から出ていたのだが、ジャケットには「チェロソナタ」と大書されてあるので見落としていた。

ブラームスの2曲のチェロソナタの間に以下の7つの歌曲が置かれている。

  1. 「五月の夜」op43-2 変ホ長調
  2. 「ミンネリート」op71-5 ハ長調
  3. 「夏の宵」op85-1 変ロ長調
  4. 「月の光」op85-2 変ロ長調
  5. 「野に一人いて」op86-2 ヘ長調
  6. 「夢に遊ぶ人」op86-3 ハ長調
  7. 「死は冷たい夜」op96-1 ハ長調

見ての通り全部長調の曲だ。加えて作品番号に注目願いたい。アルバム冒頭のチェロソナタ第1番op38と末尾の同第2番op99の間に7曲全てが収まっている。しかも配列は作品番号の若い順になってるではないか。21年の間をおいて書かれた2曲のチェロソナタをお気に入りの歌曲で繋ぐという意図は明白である。全楽章が短調になっている唯一のソナタでアルバムを立ち上げることとのバランスか、7曲の歌曲は全て長調で、しかもフラット寄りになっている。この7つの歌曲にはアルバム全体の緩徐楽章か間奏曲のニュアンスが充満している。

前回のアルバムは「四つの厳粛な歌」からの3曲を中央に置き、長調短調を取り混ぜて自由に配置していた。

さらに、この2種のアルバムを両方手に入れても、重複する曲がないのも嬉しい。1枚目のアルバムにチェロソナタを持って来ずに温存した意図さえあったと思われる。

それにしても、今回の選曲もセンスと意図を感じさせるものだ。特に私のお気に入り「野に一人いて」は絶品である。このように弾けるのなら、必ずしも歌える必要はないとさえ思える。

2007年1月14日 (日)

フーガの技法

バッハの作品目録番号BWVの最大番号1080を背負っている。対位法の集大成だ。演奏に参加する楽器が特定されていない。さらに何と言ってもこの作品を特徴付けるのは、未完であるということだ。自身の名前「BACH」のスペルに由来する主題が現れて筆が途絶えている。「1080という番号を背負った作品がバッハを象徴する主題をもって未完に終わる」というだけで襟を正したくなる厳粛さが充満している。

ブラームスはバッハを敬愛し、研究の対象とした。「フーガの技法」はまさにその研究の対象の一つであった。研究の成果はブラームス自身の作品に反映されている。チェロソナタ第1番ホ短調op38がそれだ。第1楽章はフーガの技法の中のコントラプンクトゥス第4番を借用した第一主題によって立ち上がっている。第3楽章は同13番の投影である。

1871年1月14日、つまり136年前の今日チェロソナタ第1番が初演された。

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