ブラームスはソナタの楽章の数を大筋で4と決めていた。2005年11月13日の記事「楽章の数」で述べた通りだ。
ところが実際には楽章の数3個にも挑戦している。まずは二重奏ソナタの最初と2回目だ。1回目はチェロソナタ第1番である。このときは中間楽章のうち緩徐楽章を省いた。2回目がヴァイオリンソナタ第1番で、今度は舞曲楽章を省いた。4楽章制を3楽章制にするにあたって、中間楽章のどちらかを丸ごと省略する道を試したのだ。
次の3楽章ソナタは弦楽五重奏曲第1番だ。 ブラームスの工夫は遅い舞曲を置いたことだ。テンポは緩徐楽章だが、形式は舞曲だ。さらにこの遅い舞曲・サラバンド風の主部の後に急速な舞曲風のエピソードが続く。つまり緩徐楽章の中間部が急速な舞曲になっているのだ。緩徐楽章が舞曲楽章を呑み込んだ形であり、本日のお題「多機能楽章」の走りである。実は続く4番目の3楽章ソナタであるヴァイオリンソナタ第2番でもこの「多機能楽章」が採用されている。
緩徐楽章に舞曲がサンドイッチされるアイデアの原型はなんと作品5のピアノソナタ第3番に遡るかもしれないと考えている。スケルツォの第3楽章は緩徐楽章に挟まれていると見ることが可能だ。第4楽章は第2楽章のエコーになっているからだ。ピアノソナタ第3番の5楽章制は、「多機能楽章」の実験であったと位置付け得るのではないかと思う。
さてさて、この多機能楽章の系譜には続きがある。ブラームス最後のソナタ、クラリネットソナタ第2番である。この曲の第3楽章は、緩徐楽章と終曲が合体している。終楽章が「Andante」で立ち上がるブラームス唯一の事例だ。このこと自体が聴き手への謎かけかもしれない。聴き手に緩徐楽章の始まりだと錯覚させる狙いがあった可能性がある。案の定70小節目で「Allegro」に転じて、そのままエンディングまで押し通す。フィナーレはやはりアレグロでなければという考えの反映だろう。
「終楽章がアンダンテだなんて珍しいな」と感じる聴き手の裏をかく狙いがあると思われる。
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