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カテゴリー「269 チェロソナタ第2番」の11件の記事

2016年8月12日 (金)

ひとまず信じる

ショップをうろついていて驚くべきCDに出会った。勢いで即買い。

チェロソナタ第一番ホ短調op38について、少し詳しい解説書では、この作品が元来4楽章であったことに言及される。事情があって緩徐楽章が省かれて現在流布する構成になったと説明される。クララや献呈先のゲンスバッヒャーは、本来の4楽章型を知っている。

ブラームス伝の著者カルベックは、省かれた緩徐楽章はチェロソナタ第2番の緩徐楽章に転用されたという説を唱える。2番の緩徐楽章を聴いた、ゲンスバッヒゃーやクララが沈黙している点と、これを主張するのがカルベック一人というのが難点だ。

このたび買い求めたCDは、チェロソナタ第1番本来版の世界初録音と謳っている。チェロソナタ第1番の第一楽章の後に、2番の緩徐楽章がおさめられているのだ。その次に平然とメヌエットとフィナーレが続く。カルベックの主張をひとまず信じて見せたということだ。このレアなCDがバッハの売り場に置かれていては見つけるのは至難だ。

チェリストはJuius BergerでピアニストはOliver Kernという。まあライブならともかくスタジオ録音だと、ありがたみは薄まる。この順で収録したのが世界初であるに過ぎない。古今のチェリストの帰依を勝ち取ってきたブラームスの両ソナタだから、2曲とも録音を残した者はあまたいて、とても世界初録音とは言えまい。

まあしかし、この手の乗りは嫌いではない。

2015年12月 1日 (火)

異例のPassionato

「Passionato」は情熱的にと訳される。意味が似ている「Apassionato」と合わせてブラームス作品における用例を以下に列挙する。訳あって冒頭のダイナミクスも添えておく。

  1. op47-2 Apassionato 「f」
  2. ラプソディー第2番ト短調 op79-2 Molto passionato,ma non troppo allegro 「f」
  3. ピアノ協奏曲第2番op83第2楽章 Allegro appassionato 「ff」
  4. 弦楽五重奏曲第1番op88第2楽章 Grave ed appassionato 「f」
  5. 交響曲第4番op98第4楽章 Allegro energico e passionato 「f」
  6. チェロソナタ第2番op99第3楽章 Allegro passionato 「p mezza voce」
  7. op103-11 Allegro passionato 「f」
  8. op116-3 Allegro passionato 「f」
  9. インテルメッツォop118-1 Allegro non assai,ma molto appassionato 「f」
  10. クラリネットソナタ第1番op120-1第1楽章 Allegro passionato 「f」
  11. クラリネットソナタ第2番op120-2第2楽章 Allegro passionato 「pocof」

以上11箇所。単語の意味からしてダイナミクスは概ね「強め」系統なのだが、チェロソナタ第2番だけが、「弱め」系になっている。

これには楽章の調性プランが少々反映していると見ている。記事「予行練習」でも述べたとおり、超遠隔調の嬰ヘ長調からヘ短調に繋ぐ工夫の一つと見た。前楽章が「pp」ながら、調的には明確に「嬰ヘ長調」で終わったあと、第3楽章がヘ短調で始まる。そのことを曖昧にする意味の「p mezza voce」だと解する。11小節目でチェロに輝かしい「f」がやっと現れるときには、今度は調が「ヘ短調」になっていない。恐らく安住の地としてのへ短調は103小節目まで待たねばならない。そこはもう中間部トリオの直前だ。

2015年11月30日 (月)

ハウスマン

ロベルト・ハウスマンRobert Hausmann(1852-1909)のこと。ヨーゼフ・ヨアヒムが主宰するヨアヒム四重奏団のチェリストだ。当時欧州最高の四重奏団の栄誉をほしいままにしていた団体のチェリストだ。相当の腕前であった。

ブラームスのチェロソナタ第2番を作曲者のピアノで初演したのは彼である。それからヨアヒムとともヴァイオリンとチェロのための協奏曲の独奏を受け持った。このほかクラリネット三重奏曲の初演の際には、ミュールフェルトとともにブラームスのお供をしている。

さらに下記諸作品の初演を担当したのがヨアヒム四重奏団だから、チェリストがハウスマンその人あった可能性が高い。

  • 弦楽四重奏曲第2番
  • 弦楽四重奏曲第3番
  • クラリネット五重奏曲

要するに只者ではないのだ。

こうなるとヨアヒム四重奏団の第二ヴァイオリンとヴィオラの奏者だってきっとそれなりの名人だったと思わざるを得ない。ヨアヒムやハウスマンに比べると話題にはならない。

2015年11月29日 (日)

筆耕者クプファー

筆耕とはいい言葉だ。ここでは写譜に近い。ウイリアム・クプファーはブラームスと同郷のチェリストで10歳年下だった。父同士が音楽仲間という間柄。ブラームスより3年遅れてウイーンに新出してキャリアを積んだ。

ブラームスの晩年の10年間、専属筆耕者の地位にあった。作品で言うなら第三交響曲以降だ。1886年11月29日のチェロソナタ第2番の試演にブラームス自ら招待の手紙を送っているほどの関係だ。
当時、ブラームス作品は出版前の初演が当たり前だったが、そのときに使うパート譜の作成はクプファーの尽力によるところが大きい。
写譜の正確性、見易さはクプファー自身の音楽的見識が反映していたと見るべきで、ブラームスの信頼は厚い。
クプファーは息子にヨハネスと名付け、ブラームス自身がその代父となったほどの間柄だ。

2015年11月28日 (土)

予行練習

チェロソナタ第2番は特異な調性配置で異彩を放っている。

  • 第1楽章 ヘ長調
  • 第2楽章 嬰ヘ長調
  • 第3楽章 ヘ短調
  • 第4楽章 ヘ長調

浮きっぷりという意味ではとりわけ第2楽章の嬰ヘ長調だ。調号で申せばシャープ6個になる。前後はフラット系の楽章に囲まれているから目立ちまくりだ。ちゃきちゃきの遠隔調で、古典派の伝統からみれば、逸脱もいいところだ。

さらにその浮きまくる第2楽章は、20小節ほど進んだところにある複縦線を境にフラット4個のヘ短調に転ずる。複縦線のアウフタクトのチェロは、FナチュラルからDesに飛躍する。同時にピアノはと見ると「Cis-Eis」を放ち嬰ハ長調で第一部を終えている。何のことはない。ピアノの放つ「Eis」は、実音「F」だ。

ピアノの放つ「Cis-Eis」をチェロの側では「Des-F」という具合に異名同音的に読み替えている。20小節目の冒頭、チェロが「Des」にたどり着いた瞬間、ピアノには休符が与えられ調の決定が保留されているように見える。主役のチェロはすぐさま2拍目に半音下の「C」にたどり着くのだが、今度はピアノの左手が「Des」に移ってしまう。気まぐれな追いかけっこのせいで、すっきりと調が確定しない。

この時点で意図も効果も曖昧ながら「フラット4個のFmoll」を見せておくことには、重要な意味がある。次の第3楽章ヘ短調への予行練習の意味がある。

2015年11月24日 (火)

記事配置のパズル

ブログの立ち上げが5月だったのだから、10周年の記念企画を5月に立ち上げるは自然なことだ。自然と言えば自然なのだが、悩ましい問題もあった。ブラームスの新作の初演が秋から冬に集中しているからだ。

5月に立ち上げてから秋が来るまでに言及される室内楽は、その初演日が言及の期間に収まらないということになる。次女の名づけに関与しているヴァイオリンソナタ第1番への言及記事を2か月強引っ張ったおかげで、初演ラッシュの11月に間に合った。

それでも1882年12月29日に同時に初演されたピアノ三重奏曲第2番と弦楽五重奏曲第1番は、言及期間にならなかった。そこの調整は本当に難しいのだが、パズルのようなやりがいもある。

今日11月24日は1886年にチェロソナタ第2番がウィーンで初演された日だ。ブラームスのピアノにハウスマンのチェロだった。

2010年7月12日 (月)

さざなみはソプラノ

事前に「お叱り覚悟」と宣言して、荒唐無稽な仮説をひけらかす癖が止まらない。昨日がそうだった。

ブラームスのチェロソナタ第2番(1887年)の冒頭と、弦楽五重奏曲第2番(1890年)の冒頭だ。この両者は以下の点において共通する。

  1. テノールの音域のチェロがフォルテで旋律を提示する。
  2. ソプラノの音域にて16分音符のさざなみが伴奏する。

この枠組みが1892年作のドヴォルザークの弦楽四重奏曲第12番ヘ長調「アメリカ」の冒頭にも現われるということを指摘し、偶然にしてはおいしいと私見を提示したつもりだ。唯一アメリカ四重奏曲の冒頭では旋律がヴィオラに差し替えられているが、テノールの音域であることは動かない。

さてドヴォルザークの名を世界に知らしめたスラブ舞曲の第2集の冒頭第9番の中間部には、アメリカ四重奏曲の冒頭旋律が短調で出現する。1度目の提示では明確ではないが、2度目に提示される時は「テノール音域の旋律&ソプラノ音域の16分音符の伴奏」という枠組みになっている。1886年の作品だ。

さらに6年遡る。ピアノ独奏曲「エクローグ第4番」op56-4にも全く同じ旋律が短調で出現する。驚いたことに旋律はピアノの左手、16分音符の伴奏が右手だ。つまり上記1,2の枠組みになっている。

アメリカ四重奏曲冒頭の名旋律は、12年前の初出の時から「テノール音域の旋律&ソプラノ音域の16分音符の伴奏」という枠組みだった。

恐ろしくなってきた。真似したのはブラームスかもしれない。

2010年7月11日 (日)

さざなみの系譜

「ブラームスの辞書」では2つの音が交互に繰り返される音形をしばしば「さざなみのような」と表現している。実例は以下の通りである。

  1. 弦楽六重奏曲第2番第1楽章冒頭 第1ヴィオラ。GとFisが移弦を伴って延々とくり返される。
  2. 交響曲第1番第4楽章31小節目 ヴァイオリンとヴィオラ。Piu Andanteの2小節目。アルペンホルンのバックに配されたさざなみだ。
  3. チェロソナタ第2番第1楽章冒頭 ピアノ。AとFisの交代だ。
  4. 弦楽五重奏曲第2番第1楽章 ヴァイオリン2本とヴィオラ2本。

見ての通り全てが伴奏のパートに現れる。さらにこのうちの3番目と4番目は1886年、1890年という具合に作曲年が近い。ソプラノ音域に置かれたさざなみの下、テナーまたはバリトンの音域で雄渾な旋律が放たれる。ダイナミクスはほぼフォルテと思われる。そしてどちらも第一楽章の冒頭つまり作品の冒頭だ。

まさかと思うことがある。

この作品冒頭におけるさざなみの系譜は、1892年に生まれたドヴォルザーク室内楽の最高傑作、弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」の冒頭にひそかに受け継がれているような気がする。

お叱りはもとより覚悟の上でござる。

2007年9月25日 (火)

ピツィカートオプション

9月18日の記事「ピツィカート」でブラームス作品に現われるお気に入りのピツィカートを列挙した。

その10番に挙げたチェロソナタ第2番第4楽章128小節目には「pizz」があり、「marcato」とも書かれているのだが、同時にもう一つ奇妙な指定が置かれている。

「ad lib col arco pp e staccato」アルコつまり弦楽器通常の弾き方でもよろしい。その場合は「pp e staccato」でねとひとまず読んでおく。

第4楽章冒頭主題が、最後に回想される大事な場所だ。この場所をアルコで弾いているCDには出会ったことがない。135小節目アウフタクトでアルコに復帰する際のピッツィカートとの音色の差が売り物だから、ここをわざわざアルコで弾く積極的な理由は無かろうと思う。アルコという選択の余地を与えるのはお節介だと感じる。

そこで「ad lib col arco pp e staccato」解釈の見直しを試みる。「アルコでもいいからね。その場合はpp e staccato」だよ」という解釈ではなく、「pp e staccatoで弾ける人はアルコで弾いてもかまわない」と解するべきだと思う。わずか16小節後に控えたエンディングへのアプローチの起点だと思えばけして突飛な解釈ではあるまい。

2007年1月20日 (土)

マイスキーの無言歌の続き

ミッシャ・マイスキーという名高いチェリストが、ブラームスの歌曲をチェロで演奏している。ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」のチェロ版の余白に入っている。血も涙もある選曲と配列になっていることは既に昨年11月4日の記事「マイスキーの無言歌」で言及した。

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2006/11/post_ab83.html

このほどその続編を見つけて購入した。前から出ていたのだが、ジャケットには「チェロソナタ」と大書されてあるので見落としていた。

ブラームスの2曲のチェロソナタの間に以下の7つの歌曲が置かれている。

  1. 「五月の夜」op43-2 変ホ長調
  2. 「ミンネリート」op71-5 ハ長調
  3. 「夏の宵」op85-1 変ロ長調
  4. 「月の光」op85-2 変ロ長調
  5. 「野に一人いて」op86-2 ヘ長調
  6. 「夢に遊ぶ人」op86-3 ハ長調
  7. 「死は冷たい夜」op96-1 ハ長調

見ての通り全部長調の曲だ。加えて作品番号に注目願いたい。アルバム冒頭のチェロソナタ第1番op38と末尾の同第2番op99の間に7曲全てが収まっている。しかも配列は作品番号の若い順になってるではないか。21年の間をおいて書かれた2曲のチェロソナタをお気に入りの歌曲で繋ぐという意図は明白である。全楽章が短調になっている唯一のソナタでアルバムを立ち上げることとのバランスか、7曲の歌曲は全て長調で、しかもフラット寄りになっている。この7つの歌曲にはアルバム全体の緩徐楽章か間奏曲のニュアンスが充満している。

前回のアルバムは「四つの厳粛な歌」からの3曲を中央に置き、長調短調を取り混ぜて自由に配置していた。

さらに、この2種のアルバムを両方手に入れても、重複する曲がないのも嬉しい。1枚目のアルバムにチェロソナタを持って来ずに温存した意図さえあったと思われる。

それにしても、今回の選曲もセンスと意図を感じさせるものだ。特に私のお気に入り「野に一人いて」は絶品である。このように弾けるのなら、必ずしも歌える必要はないとさえ思える。

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