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カテゴリー「270 クラリネットソナタ第1番」の16件の記事

2016年2月 3日 (水)

ルチアーノ・ベリオ

1925年生まれのイタリアの作曲家。1986年にブラームスのクラリネットソナタ第1番のピアノパートを管弦楽用に編曲している。長らくCDを探していたが、やっと見つけ出した。2700円を迷わず購入である。いやはや難儀であった。

第1楽章で、まず否応なく気付くのは、冒頭10小節少々にわたってオリジナルにない走句が提示されることだ。再生のトラックを間違えたかと思った。それ以降は大きな違和感もなく、7分少々を退屈せずに聴けた。第2楽章にも2小節程のイントロが付加されている。ごくごく控え目、薄皮のような伴奏には好感が持てる。第3楽章冒頭アウフタクトの弦楽器がなまめかしい。音響的なヤマは第4楽章だ。

ホルンとトランペットの使用が控えめなことや、ティンパニ以外の打楽器が無いことなどブラームスの手法が墨守されている。おそらく独奏クラリネットのパートには手を付けていないと思う。木管の音色の微妙な違いを用いたニュアンスの使い分けも好ましい。フルートの低音域やオーボエの出番に工夫が感じられる。

誰かクラリネットをヴィオラに持ち替えて録音してはくれないものか。

2016年2月 2日 (火)

和声の文脈

妻の生前、よくアンサンブルを楽しんだ。ヴィオラソナタ第1番の第2楽章がお気に入りだった。全長81小節の小品ながら、何度弾いても飽きることがない。長男がおなかにいた頃は毎日のように合わせていた。パパが音を間違えるとママのおなかを内側から蹴っ飛ばす男の子だった。

フラット4個を背負って始まった「子守唄」はヴィオラC線の3ポジションあるいは4ポジションにしがみつくような難所を過ぎると35小節目からシャープ4個に置き換わる。再現部への歩みが始まるのだ。45小節目から4小節間ヴィオラは休みになる。やれやれといった感じだ。

その45小節目の冒頭「piu p」ピアノの右手がドミソと鳴らす。何と言う可憐な響きだろう。休みの小節を数えながらいつもそう感じた。なんの変哲もない「CEG」なのに何故こうもチャーミングに響くのだろうと、妻と語り合った。

「CEG」はハ長調の曲で鳴らされればトニカとして機能する。けれどこの素晴らしい子守唄はフラット4個の変イ長調だ。変イ長調のこの文脈の中に置かれるとかくも可憐なのだ。「CEG」だけを単独にポンと鳴らしたのでは、こうした感慨に浸ることはない。前後の文脈や背景の中で語られてこそ意味がある。和声の文脈とはつまり「和音進行」だ。

再現部の準備の中で鳴るということが大事だ。今いる場所、次に進む場所、そして最終的な目的地。それらを脈絡として意識する中で鳴ってこその和音なのだと心から思う。

没後20年の妻に捧げる記事。

2016年1月30日 (土)

録音の状況

ご機嫌なCDに出会った。

アンネマリー・アストレムというフィンランドの女流ヴァイオリニストのCD。まずは収録された作品の顔ぶれに軽い驚きがある。FAEソナタ 全曲版 ブラームスが担当した第三楽章スケルツォを含む全楽章に加えて2つのクラリネットソナタの作曲者ブラームス自身の編曲によるヴァイオリン版。
驚きの理由は、正規のヴァイオリンソナタに目もくれていないことだ。そしてそこには意図がある。FAEソナタはヴァイオリンとピアノの二重奏のための現存作品としてはブラームス最古の作品だ。そしてクラリネットソナタのヴァイオリン編曲は、最新の作品ということになる。ヴァイオリンとピアノのデュオとして最古と最新の作品を収録したという意図は明白だ。
演奏の場所はオーストリア・ミュルツツーシュラークのブラームスムゼウム。使用されたピアノは同館所蔵の1880年製のシュトライヒャーのグランドピアノ。もともとはウィーンのフェリンガー家の屋敷にあったものだ。リヒャルト・フェリンガーは、ブラームスの友人でジーメンス社のハプスブルク支社長。屋敷にブラームスを招いてサロンコンサートを催した。後期ブラームスの室内楽のいくつかが初演前に私的に演奏されている。その屋敷にあったシュトライヒャーをリヒャルトのひ孫にあたる人物が寄贈したという伝説の逸品だ。
もちろんブラームスもこのピアノを弾いたことがある。エジソン発明の蓄音機にブラームス自身の演奏でハンガリア舞曲が録音されたが、そのときの使用楽器がこのピアノだ。そしてミュールフェルトとクラリネットソナタさえ演奏している。
またとない設定の演奏だ。クラリネットソナタのヴァイオリン版は、ヴィオラ版に比べるとCDの数が少ないから大変貴重だ。そしてそしてこのFAEソナタの演奏の出来映えが素晴らしい。

2016年1月29日 (金)

ザビーネ・マイヤー

クラリネット奏者。カラヤンに認められてベルリンフィルに入団したが、このことで楽団とカラヤンの確執が表面化した。おそらくベルリンフィル初の女性団員だったと思う。そのために話題が先行したが、現在では世界最高のクラリネット奏者の一人だ。

モーツアルトのクラリネット五重奏曲のレコードを持っていた。

彼女の演奏するブラームスのクラリネットソナタの余白に、歌曲「甲斐なきセレナーデ」op84-4のクラリネットバージョンが収録されている。

ブラームスの歌曲の編曲ではチェロのミッシャ・マイスキーが有名だが、たった1曲とは言えこちらも貴重。男女のコミカルな押し問答を題材にした曲だから、キビキビとしたクラリネットの演奏にピッタリだ。

2016年1月28日 (木)

逆は真にあらずか

著名なヴァイオリニストが、しばしば楽器をヴィオラに持ち替えて妙技を披露してくれることがある。ズーカマン、ミンツ、スークなどの面々はブラームスのヴィオラソナタも録音してくれている。彼らはけしてチェロソナタには手を出さない。ヴィオラまでと心に決めているのだろう。ヴァイオリンとヴィオラの奏法は重なる部分が多いのだ。ヴァイオリンの名人ならばそこそこヴィオラも弾きこなすものだ。

しからば問う。その逆はと。

バシュメット、カシュカシュアン、今井信子、ウォルフラム・クリフト、プリムローズ、ジュランナ、トンブラーたちはヴァイオリンを弾くのだろうか?バシュメットの「雨の歌」を聴きたいという願いはかなうのだろうか?ヴィオラでなら弾いてのけるだろう。そうではなくてヴァイオリンに持ち替えて弾くことはないのだろうか?

現代を代表するヴィオラ奏者のバシュメットはしばしば演奏会でヴァイオリンを弾いてみせるそうだ。ブラームスのヴィオラソナタのヴァイオリン版をバシュメットで聴いてみたいものだ。あれだけヴィオラを弾くのだから、耳を覆うほどの惨状ということはあるまい。

2016年1月14日 (木)

24という数

バッハの金字塔「平均律クラヴィーア曲集」は、オクターブに含まれる12の音全てについて、これを主音として前奏曲とフーガを連ねた代物だ。長短あるから2倍の24曲になる。

バッハ以降の作曲家たちに影響を与えたと思われる。コンセプトはさておき、「24」という数にこだわった人も多い。ショパンの前奏曲は特に名高い。パガニーニの無伴奏ヴァイオリンのためのカプリースも怪しい。

バッハラブのブラームスにも「24」にこだわった作品がありはせぬかと捜したが、見当たらない。「24の~」という作品は存在しない。後期のピアノ小品は20曲にしかならず、それではとばかりに中期のop76を加えると28曲になってしまう。存在しないからこそ「平均律ブラヴィーア」曲集を作ってみたという訳だ。

ところが、相変わらずのお叱り覚悟ネタがある。

ブラームスの室内楽を考える。二重奏から六重奏までだ。これを数えると全部で24曲になる。1890年弦楽五重奏曲第2番の作曲を終えたブラームスは創作力の枯渇を自覚し、作曲から手を引く決意をする。このときまでに残した室内楽は20曲だ。

クラリネットの名手ミュールフェルトの出会いによって一連のクラリネット入り室内楽が生まれることになる。

  1. クラリネット三重奏曲イ短調
  2. クラリネット五重奏曲ロ短調
  3. クラリネットソナタ第1番ヘ短調
  4. クラリネットソナタ第2番変ホ長調

ご覧の通りの4曲が、既存の室内楽に加わることにより合計24曲になった。ミュールフェルトが創作欲を刺激したことは間違い無いのだとは思うが、その結果生み出された作品が4曲だというのは、ミュールフェルトではなくバッハの影響かもしれない。

2015年8月 6日 (木)

作品番号の相乗り

同じ作品番号に複数の作品が収まっているケースは少なくない。歌曲では全てこの形だ。歌曲1曲で一つの作品番号を占めている例はない。管弦楽付きの合唱曲だとさすがに作品一つに一つの番号という例が現れる。声楽曲の場合、演奏時間が長い大作や編成の大きい曲が「1曲1番号」になっていると断言してよさそうだ。

ところが器楽曲は少し事情が変わる。ベートーヴェン、ブラームスでは交響曲協奏曲全て「1曲1番号」 になっているが、室内楽や独奏曲では対応が割れる。ベートーヴェンの初期では複数の作品が同一の番号に押し込まれていることが多い。作品1にはピアノ三重奏曲が3つ入っているし、作品2にはピアノソナタが3つ属している。作品18は弦楽四重奏曲が6個だ。エロイカに始まる傑作の森に突入すると頻度は減るものの、作品59にはラズモフスキー四重奏曲が3つもてんこ盛だ。その後も作品70、102と続く。

ブラームスにもそうした例がある。晩年のピアノ小品は皆その手である。毛色が違うのは作品21だ。自作の主題による変奏曲とハンガリーの歌による変奏曲が同居している。これなど作品番号が2つに割れても不思議ではない。また弦楽四重奏曲第1番と第2番が作品51を共有しているし、ヴィオラソナタ第1番と第2番は作品120を共有している。弦楽四重奏曲第2番を作品52にしなかったのは何故だろう。あるいは変ホ長調ヴィオラソナタを作品121にしなかったのは理由があるのだろうか。単なる出版の都合なのかも知れぬが、気持ちが悪い。データベース化するときに作品番号の下にハイフンを振って枝番管理をするものとしないものが混在するのは少々厄介なのだ。

作品番号には、理屈では説明の出来ない神秘的なものを感じるから、出来れば「1曲1番号」の方がイメージを膨らませ易いのだが。

2015年7月17日 (金)

長い坂道

チェロソナタ第1番ホ短調の第1楽章の40小節目にさしかかると、いつもある錯覚に襲われる。何だか長い坂道の入り口に居るような錯覚だ。2分の2拍子の第1楽章が第1主題を一通り歌い終えた後のことである。

40小節目から2小節間、チェロは2分音符4個を連ねて「F-E-D-F」と歌う。このゆったりとした感じこそが、これから登る長い坂道の前に広がる踊り場に感じられる。58小節目から始まる第2主題に続く登山道だ。19小節かけて音楽がじっくりとせり上がって行く。この19小節自体が魅力溢れる旋律なのだが、おそらく聴き手の脳裏には続く第2主題が鳴っていることは間違いない。旋律の行き着く先に鎮座する第2主題の前触れであること自体が魅力の一部になっているのだ。

その第2主題は、チェロとピアノが名高いカノンを紡ぎ出す。思うに名旋律だ。ブラームスは、この名旋律をあっさり提示しはしない。19小節かけて晴れ舞台を掃き清めて機が熟すのを待つのだ。この19小節間を「第2主題そのもの」とした解説書などありはしないのだが、音楽的には必要不可欠だ。

今日から7番目の室内楽チェロソナタ第1番だ。よい具合にあったまってきた。

2009年2月 3日 (火)

Oroboros

ギリシャ語。多分「オロボロス」と読んで良いのだと思う。

本日の記事は昨日の記事「尾を咬む」の続編である。「尾を咬む」という言い回しがドイツ語に存在しやせぬかと思ったが違っていた。

蛇が自らの尾を咬むという図案または構図がギリシャ語で「Oroboros」と呼ばれているのだ。この図案には「循環」「再生」という意味がある。

疑問は氷解する。そしてこのことは一昨日の記事「ひそやかに月は昇りて」にも鮮やかに呼応する。

作品1を背負うピアノソナタのモチーフが、最晩年の2作品に用いられているというのは、まさに循環・再生という概念にピタリとはまる。作品121と作品122はクララ自身の死によって、出版前にクララに見せることが出来なかった。だからクラリネットソナタop120と「49のドイツ民謡集」はクララに見せたという意味では最後の作品と申して良い。

ブラームスはオロボロスを知っていた。そしておそらくクララもだろう。話の出し手と受け手双方がオロボロスを知っていてこそ「尾を咬む」という比喩が生きてくる。

実は今日の本論はここからだ。

私はオロボロスの話を関西在住の女性からご教授いただいた。彼女は現在「ブラームスの辞書」op97の持ち主でもある。本年初荷に相当する嬉しい注文を頂き、その後のやりとりからドイツ語がご専門ということが判った。失礼を顧みずドイツ語に「尾を咬む」という言い回しがあるのかお尋ねした。

インフルエンザで療養中にもかかわらず、あっという間の即答だった。ドイツ語に「尾を咬む」という慣用句ないし諺があるわけでもない。しかし「蛇が尾を咬むという図案」に「再生」「循環」の意味があるとご教示いただいた。一昨日、昨日そして本日の記事を公開に踏み切ることが出来たのは彼女のお陰である。面と向かっては言えないほどの感謝をこの記事に盛り込んだ。

欧州の知識人にとっては常識なのだと自分を納得させようとも試みたが、実は日本の知識人にとっても常識だったに違いない。

山ほどの感謝と喜び、そして軽い落胆。

2009年2月 2日 (月)

尾を咬む

最後に至って最初に戻る。

音楽作品にもその手は多い。ブルックナーではそれをしないと交響曲が終われないかのようにも見える。ブラームスにも終楽章の結尾で第1楽章の主題が回帰するケースが以下の通り存在する。

  1. 弦楽四重奏曲第3番
  2. 交響曲第3番
  3. クラリネット五重奏曲

さらにもっと後退してブラームス自身の創作活動全体を俯瞰する。ピアノソナタ第1番の緩徐楽章のテーマが、創作人生の末期に回想されることについては昨日の記事で述べた通りである。「49のドイツ民謡集」WoO33の終曲49番だ。

ブラームス自身この事実に言及して「尾を咬む」という比喩を用いている。あるいは、同じくピアノソナタ第1番の第2楽章54小節目とクラリネットソナタ第1番の冒頭にからんで「尾を咬む」の比喩が取り沙汰されることもあるようだ。

クラリネットソナタ第1番は120という作品番号を背負う。「49のドイツ民謡集」WoO33と同様に最晩年の作品である。これら最晩年の作品が、作品番号1のピアノソナタと主題的に関連があるというのは大変興味深い。いくらブラームスでも、作品1のピアノソナタの作曲時点で、創作人生の最末期におけるこのオチを想定してはおるまい。創作人生の終焉を自覚した中で湧いた構想だと思われる。作品1の選定に当たっては、あれこれと考えたハズだから、ちょっとした弾みで別の作品が作品1になっていた可能性もある。

作品1が仮にどんな作品になっていたとしても、そこに出現する主題を用いた作品を書くことなど朝飯前だろう。そのことを芸術上のパートナーであるクララに仄めかすために用いたのが「尾を咬む」という言い回しだった。

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