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カテゴリー「271 クラリネットソナタ第2場」の17件の記事

2016年2月 8日 (月)

室内楽の中の変奏曲

変奏の大家ブラームスだから、室内楽作品の中にもその痕跡が色濃く宿る。作品中で変奏の技法を駆使するケースは、もはやカウント不能だ。室内楽の単一楽章が変奏曲になっているケースを以下に列挙する。

  1. 弦楽六重奏曲第1番op18第二楽章ニ短調
  2. 弦楽六重奏曲第2番op36第三楽章ホ短調
  3. 弦楽四重奏曲第3番op67第四楽章変ロ長調
  4. ピアノ三重奏曲第2番op87第二楽章イ短調
  5. 弦楽五重奏曲第2番op111第二楽章ニ短調
  6. クラリネット五重奏曲op115第四楽章ロ短調
  7. クラリネットソナタ第2番op120-2第三楽章変ホ長調

見ての通り全部で7曲だ。第一楽章には存在しない。第二楽章に3回、第三楽章に2回、第四楽章に2回となる。ただし、クラリネットソナタ第2番は第三楽章でありながらフィナーレである。だからフィナーレは3回。

二重奏から六重奏まで、もれなく分布する。

第4楽章に変奏曲をおくケース2件、どちらもその最終変奏で第一楽章冒頭主題が回帰するという共通点がある。クラリネット五重奏のフィナーレに変奏曲を置くのは、モーツアルトのクラリネット五重奏曲を踏まえているかもと妄想が膨らむ。

第二第三楽章に来る5例は緩徐楽章だ。このうちクラリネットソナタは、緩徐楽章として立ち上がりながらも、変奏の終末でアレグロに転じ、これが終楽章を兼ねているという、凝りまくった構造になっている。

ブラームスが弦楽五重奏で作曲の筆を折ろうとしていた話は、まことしやかに取りざたされる。もし、クラリネット奏者ミュールフェルトとの出会いがなかったら云々である。もしそうなっていたら、弦楽五重奏2番の変奏曲は、最初の変奏曲との共通点をもっと注目されていただろう。両者は表裏の存在だ。

史上最高の室内楽作曲家にして、史上最高の変奏の大家。その有力な証拠がこの7曲だ。

2016年2月 7日 (日)

多機能楽章

ブラームスはソナタの楽章の数を大筋で4と決めていた。2005年11月13日の記事「楽章の数」で述べた通りだ。

ところが実際には楽章の数3個にも挑戦している。まずは二重奏ソナタの最初と2回目だ。1回目はチェロソナタ第1番である。このときは中間楽章のうち緩徐楽章を省いた。2回目がヴァイオリンソナタ第1番で、今度は舞曲楽章を省いた。4楽章制を3楽章制にするにあたって、中間楽章のどちらかを丸ごと省略する道を試したのだ。

次の3楽章ソナタは弦楽五重奏曲第1番だ。 ブラームスの工夫は遅い舞曲を置いたことだ。テンポは緩徐楽章だが、形式は舞曲だ。さらにこの遅い舞曲・サラバンド風の主部の後に急速な舞曲風のエピソードが続く。つまり緩徐楽章の中間部が急速な舞曲になっているのだ。緩徐楽章が舞曲楽章を呑み込んだ形であり、本日のお題「多機能楽章」の走りである。実は続く4番目の3楽章ソナタであるヴァイオリンソナタ第2番でもこの「多機能楽章」が採用されている。

緩徐楽章に舞曲がサンドイッチされるアイデアの原型はなんと作品5のピアノソナタ第3番に遡るかもしれないと考えている。スケルツォの第3楽章は緩徐楽章に挟まれていると見ることが可能だ。第4楽章は第2楽章のエコーになっているからだ。ピアノソナタ第3番の5楽章制は、「多機能楽章」の実験であったと位置付け得るのではないかと思う。

さてさて、この多機能楽章の系譜には続きがある。ブラームス最後のソナタ、クラリネットソナタ第2番である。この曲の第3楽章は、緩徐楽章と終曲が合体している。終楽章が「Andante」で立ち上がるブラームス唯一の事例だ。このこと自体が聴き手への謎かけかもしれない。聴き手に緩徐楽章の始まりだと錯覚させる狙いがあった可能性がある。案の定70小節目で「Allegro」に転じて、そのままエンディングまで押し通す。フィナーレはやはりアレグロでなければという考えの反映だろう。

「終楽章がアンダンテだなんて珍しいな」と感じる聴き手の裏をかく狙いがあると思われる。

2016年2月 6日 (土)

三楽章の根拠

まずは以下のリストをご覧いただく。

  1. チェロソナタ第1番ホ短調op38
  2. ヴァイオリンソナタ第1番ト長調op78
  3. 弦楽五重奏曲第1番ヘ長調op88
  4. ヴァイオリンソナタ第2番イ長調op100
  5. クラリネットソナタ第2番変ホ長調op120-2

結論を先に申すなら、これら5作品は三楽章制を採用している。多楽章ソナタをいくつの楽章から構成させるかは、作曲家の自由だ。2楽章以上任意といっていい。ブラームスにおいて、この値は3~5になる。ピアノソナタ第3番だけが5楽章制だ。上記以外の室内楽20曲は全部4楽章となる。

3楽章制は、その組成から2種類に分類できる。

<A型> 標準の4楽章から舞曲が削除されたケース。上記では2番~4番、両ヴァイオリンソナタと弦楽五重奏曲第1番が、これに該当するとひとまず落としておく。残存した緩徐楽章の中に、急速なテンポになる部分があるかないかで細分出来る。無いのが1番。あるのが2番と弦楽五重奏曲第1番だ。この2曲では緩徐楽章の中間部がスケルツォを兼ねている。

<B型> 標準の4楽章から緩徐楽章が削除されたケース。チェロソナタ第1番とクラリネットソナタ第2番がこれにあたる。終楽章の冒頭が緩いテンポになっているのが、クラリネットソナタ第2番だ。同楽章はアンダンテで始まることで、聞き手は一瞬緩徐楽章が始まったものと錯覚する。

A型にもB型にも、削除された楽章の機能をカバーするような部分が、残った楽章に埋め込まれているケースとそうでないケースがある。

2016年2月 5日 (金)

アルバムの曲順

ブラームスの室内楽はどのジャンルも最高で3曲にとどまっている。CDに収録するのにはたいそう都合が良い。1枚のCDに1ジャンルが大抵全部収まるからだ。特に二重奏ソナタは、大抵の演奏家がセットで録音している。

収録は番号の若い順というのが基本だ。つまり1番2番の順である。

ところがクラリネットソナタだけはどうも勝手が違う。2番を先に収録しているCDがやけに目立つのだ。我が家にあるCDだけをとってみると2番が先というのは下記の通りだ。

  1. Stephanie Jutt フルート
  2. Sabine Meyer クラリネット
  3. Kim Kashkashian ヴィオラ
  4. 今井信子 ヴィオラ
  5. Henri Xereb ヴィオラ

バシュメット、ウラッハ、ライスター、ズーカマン、ミンツ、ガンデルスマンの6名は1番が先である。偶然か2番を先に収録しているのは女性が多い。

想像するに1番はピアノのイントロに続いてクラリネットが合流するが、2番は冒頭いきなりクラリネットが第一主題を奏する。この入りの違いがポイントだろうか。女性の奏者たちが、立ち上がりいきなり独奏楽器のアマービレを聞かせたいと考えたのかもしれない。あるいは2番のフィナーレより1番のフィナーレの方がラストに相応しいから、1番を2曲目にしたいという可能性も考えられる。

ヴァイオリンソナタのアルバムで3番からという例は記憶にない。チェロソナタも2番が先のアルバムは無いだろう。どちらの曲にも女性演奏家のCDが無視しえぬ数存在するといのに収録順の逆転はない。

この種のどうでもいい話を放置しないのがブログ「ブラームスの辞書」である。

お気づきの通り、最後の室内楽、クラリネットソナタ第2番の話題に入った。

2016年1月30日 (土)

録音の状況

ご機嫌なCDに出会った。

アンネマリー・アストレムというフィンランドの女流ヴァイオリニストのCD。まずは収録された作品の顔ぶれに軽い驚きがある。FAEソナタ 全曲版 ブラームスが担当した第三楽章スケルツォを含む全楽章に加えて2つのクラリネットソナタの作曲者ブラームス自身の編曲によるヴァイオリン版。
驚きの理由は、正規のヴァイオリンソナタに目もくれていないことだ。そしてそこには意図がある。FAEソナタはヴァイオリンとピアノの二重奏のための現存作品としてはブラームス最古の作品だ。そしてクラリネットソナタのヴァイオリン編曲は、最新の作品ということになる。ヴァイオリンとピアノのデュオとして最古と最新の作品を収録したという意図は明白だ。
演奏の場所はオーストリア・ミュルツツーシュラークのブラームスムゼウム。使用されたピアノは同館所蔵の1880年製のシュトライヒャーのグランドピアノ。もともとはウィーンのフェリンガー家の屋敷にあったものだ。リヒャルト・フェリンガーは、ブラームスの友人でジーメンス社のハプスブルク支社長。屋敷にブラームスを招いてサロンコンサートを催した。後期ブラームスの室内楽のいくつかが初演前に私的に演奏されている。その屋敷にあったシュトライヒャーをリヒャルトのひ孫にあたる人物が寄贈したという伝説の逸品だ。
もちろんブラームスもこのピアノを弾いたことがある。エジソン発明の蓄音機にブラームス自身の演奏でハンガリア舞曲が録音されたが、そのときの使用楽器がこのピアノだ。そしてミュールフェルトとクラリネットソナタさえ演奏している。
またとない設定の演奏だ。クラリネットソナタのヴァイオリン版は、ヴィオラ版に比べるとCDの数が少ないから大変貴重だ。そしてそしてこのFAEソナタの演奏の出来映えが素晴らしい。

2016年1月29日 (金)

ザビーネ・マイヤー

クラリネット奏者。カラヤンに認められてベルリンフィルに入団したが、このことで楽団とカラヤンの確執が表面化した。おそらくベルリンフィル初の女性団員だったと思う。そのために話題が先行したが、現在では世界最高のクラリネット奏者の一人だ。

モーツアルトのクラリネット五重奏曲のレコードを持っていた。

彼女の演奏するブラームスのクラリネットソナタの余白に、歌曲「甲斐なきセレナーデ」op84-4のクラリネットバージョンが収録されている。

ブラームスの歌曲の編曲ではチェロのミッシャ・マイスキーが有名だが、たった1曲とは言えこちらも貴重。男女のコミカルな押し問答を題材にした曲だから、キビキビとしたクラリネットの演奏にピッタリだ。

2016年1月28日 (木)

逆は真にあらずか

著名なヴァイオリニストが、しばしば楽器をヴィオラに持ち替えて妙技を披露してくれることがある。ズーカマン、ミンツ、スークなどの面々はブラームスのヴィオラソナタも録音してくれている。彼らはけしてチェロソナタには手を出さない。ヴィオラまでと心に決めているのだろう。ヴァイオリンとヴィオラの奏法は重なる部分が多いのだ。ヴァイオリンの名人ならばそこそこヴィオラも弾きこなすものだ。

しからば問う。その逆はと。

バシュメット、カシュカシュアン、今井信子、ウォルフラム・クリフト、プリムローズ、ジュランナ、トンブラーたちはヴァイオリンを弾くのだろうか?バシュメットの「雨の歌」を聴きたいという願いはかなうのだろうか?ヴィオラでなら弾いてのけるだろう。そうではなくてヴァイオリンに持ち替えて弾くことはないのだろうか?

現代を代表するヴィオラ奏者のバシュメットはしばしば演奏会でヴァイオリンを弾いてみせるそうだ。ブラームスのヴィオラソナタのヴァイオリン版をバシュメットで聴いてみたいものだ。あれだけヴィオラを弾くのだから、耳を覆うほどの惨状ということはあるまい。

2016年1月14日 (木)

24という数

バッハの金字塔「平均律クラヴィーア曲集」は、オクターブに含まれる12の音全てについて、これを主音として前奏曲とフーガを連ねた代物だ。長短あるから2倍の24曲になる。

バッハ以降の作曲家たちに影響を与えたと思われる。コンセプトはさておき、「24」という数にこだわった人も多い。ショパンの前奏曲は特に名高い。パガニーニの無伴奏ヴァイオリンのためのカプリースも怪しい。

バッハラブのブラームスにも「24」にこだわった作品がありはせぬかと捜したが、見当たらない。「24の~」という作品は存在しない。後期のピアノ小品は20曲にしかならず、それではとばかりに中期のop76を加えると28曲になってしまう。存在しないからこそ「平均律ブラヴィーア」曲集を作ってみたという訳だ。

ところが、相変わらずのお叱り覚悟ネタがある。

ブラームスの室内楽を考える。二重奏から六重奏までだ。これを数えると全部で24曲になる。1890年弦楽五重奏曲第2番の作曲を終えたブラームスは創作力の枯渇を自覚し、作曲から手を引く決意をする。このときまでに残した室内楽は20曲だ。

クラリネットの名手ミュールフェルトの出会いによって一連のクラリネット入り室内楽が生まれることになる。

  1. クラリネット三重奏曲イ短調
  2. クラリネット五重奏曲ロ短調
  3. クラリネットソナタ第1番ヘ短調
  4. クラリネットソナタ第2番変ホ長調

ご覧の通りの4曲が、既存の室内楽に加わることにより合計24曲になった。ミュールフェルトが創作欲を刺激したことは間違い無いのだとは思うが、その結果生み出された作品が4曲だというのは、ミュールフェルトではなくバッハの影響かもしれない。

2015年12月 4日 (金)

Amabile

「愛らしく」と解されるお気に入りの楽語のひとつ。文字通り何だか「甘い」感じ。

ブラームスにおいては単独使用例はない。「Allegro amabile」としての使用に限られる。ヴァイオリンソナタ第2番とクラリネットソナタ第2番においてともに第1楽章で用いられている。一見しただけでは共通項は無さそうなのだが、この2作品だけがブラームスにとっての「アマービレ」なのだと思われる。手がかりはない。作品番号で言うと100と120だ。晩年の作と思っていい。

「Allegro」であることをしばしば忘れてしまう心地よさである。

2015年8月15日 (土)

ヴィオラ最高音

日本最高峰の標高にちなんだ記事「富士山」の翌日に、満を持してヴィオラ最高音の記事。芸が細かい。

鉄道マニア向けの割と有名ななぞなぞがあった。日本の鉄道の駅でもっとも高いところにあるのはどこか?というものだ。「小海線の野辺山駅」と答えると「ブブー」である。正解は東京だという。到着する全ての列車が「上り」だからである。大宮を出た京浜東北線は、東京までは東北本線の上りで、東京から先が東海道本線の下りである。これでは面倒なので、「北行」「南行」という言い方もしている。

さてさて、ブラームスがヴィオラに与えた最高音はどこかというのが本日のお題である。

一般にブラームスはヴィオラに対してヒステリックに高音を求めないと思う。四苦八苦して音を出している時に、第2ヴァイオリンが休んでいたりすると、「何だかなぁ」という気にさせられる。「やっぱりヴィオラはC線ッス」みたいな捨てゼリフはこういうときに吐くものだ。

ハイポジション苦手の私には、いくつかの候補がすぐに嫌な思い出とともに思い浮かぶ。数住岸子先生の前で冷や汗ものだった弦楽六重奏曲第2番の第1楽章。有名なアガーテのテーマを第1ヴァイオリンとオクターブユニゾンで奏する場所がある。「A-G-A-H-E」である。このときの「H」を薬指でとっかたら第6ポジションだ。この「H」は高い方だ。この下の「B」や「A」には相当な数の実例がある。

ヴィオラソナタ第2番第1楽章7小節目に「C」が出て来る。これをブラームスにおけるヴィオラの最高音と認定したい。第一主題の提示の末尾、分散和音の到達点だ。曲の開始早々なので緊張感も相当な物で、さらに5連符であることも事態を混迷させている。あるいはヴィオラソナタ第1番第1楽章の終末も近い223小節にもこの「C」が出てくる。

しかし上記の2箇所は、ブラームス本人の編曲とは言え、あくまでもクラリネットソナタの話であった。真正のヴィオラの出番とは言い難い。正真正銘のヴィオラの出番となると、もう一つピアノ四重奏曲第3番第2楽章の終末も近い218小節目に出現する。H音のトリルの場面だ。トリルの上の音が間違いなくCになっているし、4小節後の222小節目には満を持してCが現れる。

ちなみに最低音は何だろう。C線の開放によって鳴らされる「C」に決まっている。決まってはいるのだが、記譜上の最低音となると「His」があるのだ。第1交響曲第2楽章39小節目、54~56小節目に出現する。五線の下に追加される2本目の仮線に下接する音符に「シャープ」が付与されている。どのみちC線が開放で鳴らされるのだが、気分の問題としてこれを最低音と認定したい。

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