室内楽の中の変奏曲
変奏の大家ブラームスだから、室内楽作品の中にもその痕跡が色濃く宿る。作品中で変奏の技法を駆使するケースは、もはやカウント不能だ。室内楽の単一楽章が変奏曲になっているケースを以下に列挙する。
- 弦楽六重奏曲第1番op18第二楽章ニ短調
- 弦楽六重奏曲第2番op36第三楽章ホ短調
- 弦楽四重奏曲第3番op67第四楽章変ロ長調
- ピアノ三重奏曲第2番op87第二楽章イ短調
- 弦楽五重奏曲第2番op111第二楽章ニ短調
- クラリネット五重奏曲op115第四楽章ロ短調
- クラリネットソナタ第2番op120-2第三楽章変ホ長調
見ての通り全部で7曲だ。第一楽章には存在しない。第二楽章に3回、第三楽章に2回、第四楽章に2回となる。ただし、クラリネットソナタ第2番は第三楽章でありながらフィナーレである。だからフィナーレは3回。
二重奏から六重奏まで、もれなく分布する。
第4楽章に変奏曲をおくケース2件、どちらもその最終変奏で第一楽章冒頭主題が回帰するという共通点がある。クラリネット五重奏のフィナーレに変奏曲を置くのは、モーツアルトのクラリネット五重奏曲を踏まえているかもと妄想が膨らむ。
第二第三楽章に来る5例は緩徐楽章だ。このうちクラリネットソナタは、緩徐楽章として立ち上がりながらも、変奏の終末でアレグロに転じ、これが終楽章を兼ねているという、凝りまくった構造になっている。
ブラームスが弦楽五重奏で作曲の筆を折ろうとしていた話は、まことしやかに取りざたされる。もし、クラリネット奏者ミュールフェルトとの出会いがなかったら云々である。もしそうなっていたら、弦楽五重奏2番の変奏曲は、最初の変奏曲との共通点をもっと注目されていただろう。両者は表裏の存在だ。
史上最高の室内楽作曲家にして、史上最高の変奏の大家。その有力な証拠がこの7曲だ。
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