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カテゴリー「272 FAEソナタ」の13件の記事

2019年9月10日 (火)

スタジオとライヴ

竹澤恭子先生のヴァイオリンソナタ第3番。我が家には2009年5月録音のCDがあった。ソナタ3曲に加えFAEソナタの収録に5日かけているからスタジオ録音で間違いない。

一方、最近某ショップをうろついていてライヴ録音を入手した。2009年12月8日のリサイタルだそうで収録は下記。

  1. FAEソナタ
  2. ヴァイオリンソナタ第2番
  3. ヴァイオリンソナタ第3番
  4. ハンガリー舞曲第1番(ヨアヒム編曲)

帰宅して再生したら、びっくり仰天。すごい演奏だ。「私のヴァイオリンの音聴いてちょうだい」という気迫。ヌヴーっぽい。ただただ溜息。同時に先のスタジオ録音が控え目過ぎると感じた。ピアノは同一人物なのにこの差はいったいなんだろう。

一番が聴けないのはもはや拷問の域だ。

2019年4月 5日 (金)

わざとか

一昨日、ということはつまり4月3日、ブラームスの命日に演奏会に出かけた。東京文化会館小ホール。川本嘉子先生のコンサート。ブラームスの室内楽チクルスの6回目。プログラムは下記の通り。

  1. ピアノ三重奏曲第1番ロ長調op8(ヴィオラ版)
  2. FAEソナタ(ヴィオラ版)
  3. ピアノ五重奏曲ヘ短調op34

ほんとにブラームスお好きなんだなあ思うばかり。上記1も2も通常ヴァイオリンのパートをヴィオラで弾いてしまうという趣向。特に1は我が家にこの編成のCDがない。上記2だってたった1種類しかない。ピアノは小山実雅恵先生をお迎えしているばかりか、ヴァイオリンには先般ニ短調のソナタを聞かせてくれた竹澤先生だ。竹澤先生をお呼びしながら出番は五重奏にしかないという贅沢三昧だ。全部大好きな曲、そしてこのメンツならばと奮発したS席のお値段が5700円なのは、ブラームスの誕生日5月7日に因んでいると思う。わざとに違いない。。

さてさて、つくづく興味深いトリオは、意外なほどあっけなく始まった。この日の小山先生のピアノには終始「聞こえているのに邪魔じゃない」という魔法がかけられていた。ほどなくかぶってくるチェロも、ヴァイオリンから差し替えられたヴィオラも、拍子抜けするほど自然だった。ヴァイオリン版と見分けがつかぬ。川本節の炸裂は第二楽章スケルツォの中間部を待たねばならなかった。予想通りの場所でほほえましかった。

FAEソナタは、もはや「自家薬籠中」の域だ。意図された解放弦の響きがとてもチャーミングだ。やはり聞かせどころはここでも中間部。4分の2拍子に転じるフレーズがピタリとはまる。コーダで回想されるときのために塗り残しておく余裕が感じられた。

休憩後、クインテット。

弦楽器4名の椅子がやけに固めて置いてある感じ。「本当は私がFAE弾きたかった」オーラが見え隠れする竹澤先生。第一ヴァイオリンに譲ると見せて、ところどころ見せ場をちりばめるブラームスのご配慮に川本先生がさりげなく応じる。最初の川本節炸裂は第二楽章に第二主題だったと記憶する。ああそしてスケルツォ。チェロのピチカートのとき、竹澤先生と川本先生が身をかがめんばかりにしている。クレッシェンドとともに段々背筋が伸びていく様は、花開く瞬間のよう。このヴィジュアルやはり生で聴くに限るなとつくづく。そしてフィナーレ。ずっとアンサンブルを引っ張てきたチェロ向山先生が、またまた精緻な序奏を先導する。本当はチェロのための曲なんだよと。コーダに入ったところで「もう終わりか」と思った。

素晴らしい夜。バロック特集が1年3か月経過し、バロック漬けになった脳みそに「やっぱブラームスでしょ」とばかりにしみ込んできた。

 

2016年1月30日 (土)

録音の状況

ご機嫌なCDに出会った。

アンネマリー・アストレムというフィンランドの女流ヴァイオリニストのCD。まずは収録された作品の顔ぶれに軽い驚きがある。FAEソナタ 全曲版 ブラームスが担当した第三楽章スケルツォを含む全楽章に加えて2つのクラリネットソナタの作曲者ブラームス自身の編曲によるヴァイオリン版。
驚きの理由は、正規のヴァイオリンソナタに目もくれていないことだ。そしてそこには意図がある。FAEソナタはヴァイオリンとピアノの二重奏のための現存作品としてはブラームス最古の作品だ。そしてクラリネットソナタのヴァイオリン編曲は、最新の作品ということになる。ヴァイオリンとピアノのデュオとして最古と最新の作品を収録したという意図は明白だ。
演奏の場所はオーストリア・ミュルツツーシュラークのブラームスムゼウム。使用されたピアノは同館所蔵の1880年製のシュトライヒャーのグランドピアノ。もともとはウィーンのフェリンガー家の屋敷にあったものだ。リヒャルト・フェリンガーは、ブラームスの友人でジーメンス社のハプスブルク支社長。屋敷にブラームスを招いてサロンコンサートを催した。後期ブラームスの室内楽のいくつかが初演前に私的に演奏されている。その屋敷にあったシュトライヒャーをリヒャルトのひ孫にあたる人物が寄贈したという伝説の逸品だ。
もちろんブラームスもこのピアノを弾いたことがある。エジソン発明の蓄音機にブラームス自身の演奏でハンガリア舞曲が録音されたが、そのときの使用楽器がこのピアノだ。そしてミュールフェルトとクラリネットソナタさえ演奏している。
またとない設定の演奏だ。クラリネットソナタのヴァイオリン版は、ヴィオラ版に比べるとCDの数が少ないから大変貴重だ。そしてそしてこのFAEソナタの演奏の出来映えが素晴らしい。

2015年5月31日 (日)

ツアコンの資格

ツアーコンダクターとは、団体旅行に同行して、円滑な旅行を進めるためにお世話をする人だ。日本語だと「旅行添乗員」となる。世界中を仕事で回れてうらやましいのだが、語学の知識以外にも、相応の資格が要るらしい。実際の現場では苦労もあると聞いている。厳密な話では、ガイドとは違うらしい。道中立ち寄ったり通過したりする名所について、お客様に説明するのは、ガイドの領分だという。

ブログ開設10周年を記念して室内楽ツアーを実施中だ。私はそのツアコン兼ガイド。ブラームスの室内楽を作品番号順に言及しながら、見どころ聴きどころに言及してゆく。資格要件があるとすれば、以下の通りになる。

  1. ブラームス室内楽の作品番号と調くらいは暗記。
  2. 全作品全楽章の冒頭主題くらいは即時歌える。
  3. 主要主題をチラリと聞いただけで、作品名と楽章を指摘できる。
  4. 初演日、初演地、メンバーくらいは暗記している。
  5. 全作品のスコアを所有している。
  6. 全作品のCDを持っている。
  7. おすすめ演奏家を1つや2つ簡単に想起出来る。
  8. 一部演奏したことがある。(完成度は問わない)
  9. 全作品の見せ場を1作品あたり3箇所はただちにおすすめできる。
  10. 無茶ブリされても1作品あたり30分は語れる。
  11. ドイツ語の知識 少々
  12. イタリア語の知識 少々
  13. 他の作曲家の話題 少々
  14. 日本語 演奏も聞かせず、譜例も見せずに伝えるには少々の小細工がいる。
一昨日の記事「Sinfonia in B」でピアノ三重奏曲第1番への言及を終えたと思われた方には、少々のお知らせがある。同三重奏曲は、後日ブラームス本人の手で改訂されている。今回の言及は改訂前の旧版のみとした。改訂は1891年だから、ピアノ三重奏曲第3番とヴァイオリンソナタ第3番の間に、また改訂版を話題に取り上げることにする。
芸が細かい。

2015年5月25日 (月)

ヨアヒムの見立て

FAEソナタ。親友ヨアヒムを迎えるために、ロベルト・シューマン、アルバート・ディートリヒそれにブラームスの3名が分担して1曲のソナタを仕上げた。

贈られたヨアヒムは、楽章毎の作者をたちどころに言い当てたというエピソードが微笑ましい。これらの作品に対するヨアヒムの感想は、そのときこれ以上語られる事はない。

ところが、そこから50年以上も経ってから、ヨアヒムは意思表示をした。1906年だからヨアヒム自身の死の前年になって、ヨアヒムは先のソナタのうちブラームスが担当した第3楽章スケルツォについて出版に同意したのだ。その他の楽章はヨアヒムの生前には出版されることはなく、全楽章の出版は1935年を待たねばならない。

何よりヨアヒム自身の死の前年というのが意味深だ。そしてそのソナタの関係者は最年少のブラームスでさえこの世を去っている。関係者最後の生き残りで、作品に対する詳しい評価を語ることが無かったヨアヒムの無言の意思表示である可能性が高い。

2015年5月24日 (日)

ただただ可憐

Isabelle van Keulen というヴァイオリニストがいる。オランダの女流ヴァイオリニストだ。彼女もブラームスのヴァイオリンソナタ第1番のCDがある。ほとんどのヴァイオリニストが、3曲を録音して「ブラームスのヴァイオリンソナタ全集」という体裁を志向する中、彼女は我が道をゆく。2番と3番は収録されていない。

1番に続くのは、FAEソナタだ。ヨアヒムの到着を待ちながら、ヴァイオリンソナタを共作した代物で、ブラームスの担当は第3楽章スケルツォだ。現在ブラームスのヴァイオリンソナタが収録されたCDにこの第3楽章だけが収録されることが多い。

ところがクーレンさんは、このソナタを第1楽章以下全曲収録してくれている。何を隠そうこのCDを買ったのは、こちらのFAEソナタ全曲が狙いだったほどだ。さらにその貴重な貴重なFAEソナタ全曲版に続くのは、クララ・シューマン作曲の「ヴァイオリンとピアノのための3つのロマンス」op22である。

ただただ可憐だ。

演奏の出来云々の前に、こうしたアルバムの構成を採用する彼女の主張に一票を投じたい。ブラームスとシューマン夫妻の関係を濃厚に意識させる選曲だ。しかも録音の場所がハンブルクというオチまでつく。

2015年5月23日 (土)

FAEな人たち

通称「FAEソナタ」は、ヨアヒムを迎えるためのサプライズソナタだ。ヴァイオリンとピアノの二重奏だが、シューマン、ディートリヒ、ブラームスの合作だ。ブラームスの担当は第3楽章スケルツォである。単独で演奏されれば、ざっと5分程度の小品。ブラームスのヴィオリンソナタ全3曲をCD1枚に収めた余白に、ひっそりと収録されているというパターンがほとんど。間違っても「珠玉のヴァイオリン名曲集」の中にクライスラーやチゴイネルワイゼンと並んで収録されることはない。

ブラームスのヴァイオリンソナタのCDをせっせと集めているといつの間にかたまっているという感じだ。以下録音年をキーに我が家のCDの所有状況を列挙する。

  1. 1983 Jaime Laredo              5:40
  2. 1987 Heinz Schunk              5:50
  3. 1990 Barbara Westphal(Va)   5:36
  4. 1990 Franco Gulli                5:36
  5. 1997 Andrew Hardy             4:55
  6. 1997 Isabelle van Keulen      4:56
  7. 2002 CHristian Tetzlaff        5:02
  8. 2003 Shlomo MIntz              5:33
  9. 2005 Michal Kanka(Vc)         5:20
  10. 2005 Renaud Capucon         5:35
  11. 2005 Iwao Furusawa            5:41
  12. 2010 Tomoko Kato              5:32
  13. 2014 Augstin Dumay            5:32

あまり昔の人は収録していない。このうち4番と6番は、ブラームス担当の第三楽章以外の楽章も収録している。学術上の価値は相当高い。

2015年5月21日 (木)

連歌

「れんが」と読む。中世に起源を持つ日本に特異な文学の形態。短歌(五七五七七)を上の句(五七五)下の句(七七)に分け、それを別人が詠むというのが発端。下の句の次にはまた五七五が加えられ、36句、百句になるまで続く。直前の歌の特徴を捉え巧みに続けて行く面白さを味わうものだ。

座を盛り上げるためにいくつかの決まりもある。

  • 発句 最初の句だ。季語と切れ字を必ず入れねばならない。
  • 挙句 最後の句。

複数の人が一つの作品を作るという意味では、興味深い例がある。

ご存知「FAEソナタ」だ。大ヴァイオリニスト・ヨアヒムの到着を待って、ロベルト・シューマン、アルバート・ディートリッヒそれにブラームスがヴァイオリンソナタを合作したのだ。第1楽章つまり発句はディートリッヒで第2楽章はシューマンだ。ブラームスはスケルツォ第3楽章を担当し、第4楽章すなわち挙句をシューマンが受け持った。この3人の中で一番年少のブラームスは発句や挙句を任せてもらえなかったという訳だ。

現在演奏会で取り上げられる機会は、ブラームスの担当した「第3句」が一番多くなっている。

2012年1月25日 (水)

FAF異聞

「ああ懐かしき青春の輝き」という学生歌がある。原題は「O alte Burschenherlichkeit」という。一番の歌詞の中程に以下のような一節がある。

so frei und ungebunden

「かくも自由で束縛無く」という程度の意味だ。この作品は学生歌のとしての知名度の点では「ガウデアムス」に匹敵する存在だから、複数の学生歌集に収載されているのだが、この部分の歌詞が、本によって違っている。

so froh und ungebunden

「かくも楽しく束縛無く」という具合だ。どちらが本来の姿なのか判らないらしい。日本の古典文学の場合、原本がすでに失われていて複数の写本でのみ伝えられていることがある。そうしたケースでは、写本間で細かな言い回しが微妙にズレているなどということが少なくない。本日の話題もその範疇だと感じる。私がわざわざブログで取り上げるのは、他でもないこの手の異同が「frei」(自由)と「froh」(楽しく)の間で起きていることだ。

ブラームス愛好家たるものこれをサラリと見過ごすのは野暮というものだ。ブラームスのモットーと伝えられる「FAF」は「Frei aber Froh」の頭文字を採った代物だ。ヨアヒムのモットー「Frei aber Einsam」を聞かされたブラームスがとっさにもじって見せたというのが私の見解だ。現実の文献上で「frei」と「froh」の錯綜を目の当たりにすると感慨深いものがある。ブラームスとヨアヒムがこの学生歌を知っていた可能性さえ夢見ている。

2008年3月29日 (土)

チェロ版FAEソナタ

ピアノとヴァイオリンのためのスケルツォハ短調。通称FAEソナタのヴィオラ版は既に手に入れたことは2006年12月10日の記事「意外な当たり」で述べた。

今度はそのチェロ版を見つけてしまった。「所詮編曲物だからねぇ」と憎まれ口をききながらホクホク顔で即買いしてしまった。

プラハ生まれのチェコ人、ミカエルなんとかという男性チェリストが弾いている。曲が好きなこともあって、結局何で弾かれてもそこそこ感動してしまう。CD批評家としては失格だ。

こうなるとコントラバス版でもありはしないかと心配になる。

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