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カテゴリー「272 FAEソナタ」の11件の記事

2016年1月30日 (土)

録音の状況

ご機嫌なCDに出会った。

アンネマリー・アストレムというフィンランドの女流ヴァイオリニストのCD。まずは収録された作品の顔ぶれに軽い驚きがある。FAEソナタ 全曲版 ブラームスが担当した第三楽章スケルツォを含む全楽章に加えて2つのクラリネットソナタの作曲者ブラームス自身の編曲によるヴァイオリン版。
驚きの理由は、正規のヴァイオリンソナタに目もくれていないことだ。そしてそこには意図がある。FAEソナタはヴァイオリンとピアノの二重奏のための現存作品としてはブラームス最古の作品だ。そしてクラリネットソナタのヴァイオリン編曲は、最新の作品ということになる。ヴァイオリンとピアノのデュオとして最古と最新の作品を収録したという意図は明白だ。
演奏の場所はオーストリア・ミュルツツーシュラークのブラームスムゼウム。使用されたピアノは同館所蔵の1880年製のシュトライヒャーのグランドピアノ。もともとはウィーンのフェリンガー家の屋敷にあったものだ。リヒャルト・フェリンガーは、ブラームスの友人でジーメンス社のハプスブルク支社長。屋敷にブラームスを招いてサロンコンサートを催した。後期ブラームスの室内楽のいくつかが初演前に私的に演奏されている。その屋敷にあったシュトライヒャーをリヒャルトのひ孫にあたる人物が寄贈したという伝説の逸品だ。
もちろんブラームスもこのピアノを弾いたことがある。エジソン発明の蓄音機にブラームス自身の演奏でハンガリア舞曲が録音されたが、そのときの使用楽器がこのピアノだ。そしてミュールフェルトとクラリネットソナタさえ演奏している。
またとない設定の演奏だ。クラリネットソナタのヴァイオリン版は、ヴィオラ版に比べるとCDの数が少ないから大変貴重だ。そしてそしてこのFAEソナタの演奏の出来映えが素晴らしい。

2015年5月31日 (日)

ツアコンの資格

ツアーコンダクターとは、団体旅行に同行して、円滑な旅行を進めるためにお世話をする人だ。日本語だと「旅行添乗員」となる。世界中を仕事で回れてうらやましいのだが、語学の知識以外にも、相応の資格が要るらしい。実際の現場では苦労もあると聞いている。厳密な話では、ガイドとは違うらしい。道中立ち寄ったり通過したりする名所について、お客様に説明するのは、ガイドの領分だという。

ブログ開設10周年を記念して室内楽ツアーを実施中だ。私はそのツアコン兼ガイド。ブラームスの室内楽を作品番号順に言及しながら、見どころ聴きどころに言及してゆく。資格要件があるとすれば、以下の通りになる。

  1. ブラームス室内楽の作品番号と調くらいは暗記。
  2. 全作品全楽章の冒頭主題くらいは即時歌える。
  3. 主要主題をチラリと聞いただけで、作品名と楽章を指摘できる。
  4. 初演日、初演地、メンバーくらいは暗記している。
  5. 全作品のスコアを所有している。
  6. 全作品のCDを持っている。
  7. おすすめ演奏家を1つや2つ簡単に想起出来る。
  8. 一部演奏したことがある。(完成度は問わない)
  9. 全作品の見せ場を1作品あたり3箇所はただちにおすすめできる。
  10. 無茶ブリされても1作品あたり30分は語れる。
  11. ドイツ語の知識 少々
  12. イタリア語の知識 少々
  13. 他の作曲家の話題 少々
  14. 日本語 演奏も聞かせず、譜例も見せずに伝えるには少々の小細工がいる。
一昨日の記事「Sinfonia in B」でピアノ三重奏曲第1番への言及を終えたと思われた方には、少々のお知らせがある。同三重奏曲は、後日ブラームス本人の手で改訂されている。今回の言及は改訂前の旧版のみとした。改訂は1891年だから、ピアノ三重奏曲第3番とヴァイオリンソナタ第3番の間に、また改訂版を話題に取り上げることにする。
芸が細かい。

2015年5月25日 (月)

ヨアヒムの見立て

FAEソナタ。親友ヨアヒムを迎えるために、ロベルト・シューマン、アルバート・ディートリヒそれにブラームスの3名が分担して1曲のソナタを仕上げた。

贈られたヨアヒムは、楽章毎の作者をたちどころに言い当てたというエピソードが微笑ましい。これらの作品に対するヨアヒムの感想は、そのときこれ以上語られる事はない。

ところが、そこから50年以上も経ってから、ヨアヒムは意思表示をした。1906年だからヨアヒム自身の死の前年になって、ヨアヒムは先のソナタのうちブラームスが担当した第3楽章スケルツォについて出版に同意したのだ。その他の楽章はヨアヒムの生前には出版されることはなく、全楽章の出版は1935年を待たねばならない。

何よりヨアヒム自身の死の前年というのが意味深だ。そしてそのソナタの関係者は最年少のブラームスでさえこの世を去っている。関係者最後の生き残りで、作品に対する詳しい評価を語ることが無かったヨアヒムの無言の意思表示である可能性が高い。

2015年5月24日 (日)

ただただ可憐

Isabelle van Keulen というヴァイオリニストがいる。オランダの女流ヴァイオリニストだ。彼女もブラームスのヴァイオリンソナタ第1番のCDがある。ほとんどのヴァイオリニストが、3曲を録音して「ブラームスのヴァイオリンソナタ全集」という体裁を志向する中、彼女は我が道をゆく。2番と3番は収録されていない。

1番に続くのは、FAEソナタだ。ヨアヒムの到着を待ちながら、ヴァイオリンソナタを共作した代物で、ブラームスの担当は第3楽章スケルツォだ。現在ブラームスのヴァイオリンソナタが収録されたCDにこの第3楽章だけが収録されることが多い。

ところがクーレンさんは、このソナタを第1楽章以下全曲収録してくれている。何を隠そうこのCDを買ったのは、こちらのFAEソナタ全曲が狙いだったほどだ。さらにその貴重な貴重なFAEソナタ全曲版に続くのは、クララ・シューマン作曲の「ヴァイオリンとピアノのための3つのロマンス」op22である。

ただただ可憐だ。

演奏の出来云々の前に、こうしたアルバムの構成を採用する彼女の主張に一票を投じたい。ブラームスとシューマン夫妻の関係を濃厚に意識させる選曲だ。しかも録音の場所がハンブルクというオチまでつく。

2015年5月23日 (土)

FAEな人たち

通称「FAEソナタ」は、ヨアヒムを迎えるためのサプライズソナタだ。ヴァイオリンとピアノの二重奏だが、シューマン、ディートリヒ、ブラームスの合作だ。ブラームスの担当は第3楽章スケルツォである。単独で演奏されれば、ざっと5分程度の小品。ブラームスのヴィオリンソナタ全3曲をCD1枚に収めた余白に、ひっそりと収録されているというパターンがほとんど。間違っても「珠玉のヴァイオリン名曲集」の中にクライスラーやチゴイネルワイゼンと並んで収録されることはない。

ブラームスのヴァイオリンソナタのCDをせっせと集めているといつの間にかたまっているという感じだ。以下録音年をキーに我が家のCDの所有状況を列挙する。

  1. 1983 Jaime Laredo              5:40
  2. 1987 Heinz Schunk              5:50
  3. 1990 Barbara Westphal(Va)   5:36
  4. 1990 Franco Gulli                5:36
  5. 1997 Andrew Hardy             4:55
  6. 1997 Isabelle van Keulen      4:56
  7. 2002 CHristian Tetzlaff        5:02
  8. 2003 Shlomo MIntz              5:33
  9. 2005 Michal Kanka(Vc)         5:20
  10. 2005 Renaud Capucon         5:35
  11. 2005 Iwao Furusawa            5:41
  12. 2010 Tomoko Kato              5:32
  13. 2014 Augstin Dumay            5:32

あまり昔の人は収録していない。このうち4番と6番は、ブラームス担当の第三楽章以外の楽章も収録している。学術上の価値は相当高い。

2015年5月21日 (木)

連歌

「れんが」と読む。中世に起源を持つ日本に特異な文学の形態。短歌(五七五七七)を上の句(五七五)下の句(七七)に分け、それを別人が詠むというのが発端。下の句の次にはまた五七五が加えられ、36句、百句になるまで続く。直前の歌の特徴を捉え巧みに続けて行く面白さを味わうものだ。

座を盛り上げるためにいくつかの決まりもある。

  • 発句 最初の句だ。季語と切れ字を必ず入れねばならない。
  • 挙句 最後の句。

複数の人が一つの作品を作るという意味では、興味深い例がある。

ご存知「FAEソナタ」だ。大ヴァイオリニスト・ヨアヒムの到着を待って、ロベルト・シューマン、アルバート・ディートリッヒそれにブラームスがヴァイオリンソナタを合作したのだ。第1楽章つまり発句はディートリッヒで第2楽章はシューマンだ。ブラームスはスケルツォ第3楽章を担当し、第4楽章すなわち挙句をシューマンが受け持った。この3人の中で一番年少のブラームスは発句や挙句を任せてもらえなかったという訳だ。

現在演奏会で取り上げられる機会は、ブラームスの担当した「第3句」が一番多くなっている。

2012年1月25日 (水)

FAF異聞

「ああ懐かしき青春の輝き」という学生歌がある。原題は「O alte Burschenherlichkeit」という。一番の歌詞の中程に以下のような一節がある。

so frei und ungebunden

「かくも自由で束縛無く」という程度の意味だ。この作品は学生歌のとしての知名度の点では「ガウデアムス」に匹敵する存在だから、複数の学生歌集に収載されているのだが、この部分の歌詞が、本によって違っている。

so froh und ungebunden

「かくも楽しく束縛無く」という具合だ。どちらが本来の姿なのか判らないらしい。日本の古典文学の場合、原本がすでに失われていて複数の写本でのみ伝えられていることがある。そうしたケースでは、写本間で細かな言い回しが微妙にズレているなどということが少なくない。本日の話題もその範疇だと感じる。私がわざわざブログで取り上げるのは、他でもないこの手の異同が「frei」(自由)と「froh」(楽しく)の間で起きていることだ。

ブラームス愛好家たるものこれをサラリと見過ごすのは野暮というものだ。ブラームスのモットーと伝えられる「FAF」は「Frei aber Froh」の頭文字を採った代物だ。ヨアヒムのモットー「Frei aber Einsam」を聞かされたブラームスがとっさにもじって見せたというのが私の見解だ。現実の文献上で「frei」と「froh」の錯綜を目の当たりにすると感慨深いものがある。ブラームスとヨアヒムがこの学生歌を知っていた可能性さえ夢見ている。

2008年3月29日 (土)

チェロ版FAEソナタ

ピアノとヴァイオリンのためのスケルツォハ短調。通称FAEソナタのヴィオラ版は既に手に入れたことは2006年12月10日の記事「意外な当たり」で述べた。

今度はそのチェロ版を見つけてしまった。「所詮編曲物だからねぇ」と憎まれ口をききながらホクホク顔で即買いしてしまった。

プラハ生まれのチェコ人、ミカエルなんとかという男性チェリストが弾いている。曲が好きなこともあって、結局何で弾かれてもそこそこ感動してしまう。CD批評家としては失格だ。

こうなるとコントラバス版でもありはしないかと心配になる。

2006年12月17日 (日)

FAEソナタ調査報告

12月12日の記事「FAEソナタ」の中で予告した通り、「FAEソナタ」をブラダスに取り込んだ。伝ブラームス作曲のピアノ三重奏曲イ長調の調査の一環にもなると考えた。

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2006/12/post_e66c_1.html

このほど「FAEソナタ」のブラダスへの取り込みと調査が完了したので報告する。

11月23日の記事「ピアノ三重奏曲イ長調調査報告」の中で「真作説に不利な所見」として、音楽用語の密度の薄さを挙げているが、これを撤回せねばならない。

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2006/11/post_4428.html

ピアノ三重奏曲イ長調のスケルツォつまり第2楽章は247小節の間に125の音楽用語がちりばめられていた。ピアノ三重奏曲第1番初版との比較においては、分布の密度が薄すぎることを根拠に「真作説に不利」と判定したが、FAEソナタは正真正銘の真作であるにもかかわらず、全259小節の間に音楽用語がわずかに54個だった。ピアノ三重奏曲イ長調の半分以下の密度だった。

うかつな断定は慎まねばならない。ここにお詫びして訂正するが、11月23日の記事本文の改訂は行わずに注意書きを付与する。

  1. FAEソナタの音楽用語は全体にシンプルである。ダイナミクスはほぼ「ff」「f」「p」「pp」の4種といえる。「mf」が2つだけあるが全体としては無視し得よう。
  2. シンプルな中ではあるが、「poco」は用いられているし「ritardando」も存在する。さらにテンポリセット系の「a tempo」「in tempo」も使われている。この両者の区別が曖昧なこともブラームスの癖をキチンとトレースしている。「poco」のような微調整語に加え「ritardando」「a tempo」「in tempo」のようなテンポ変動系の用語が出現しないイ長調三重奏曲の特異性を際だたせる結果になった。
  3. 特記すべきは「sf」スフォルツァンドの不在だ。FAEソナタにはスフォルツァンドが出現しない。これはきわめて特徴的な現象だが現段階でこれ以上の言及は保留したい。

イ長調三重奏曲の真作説に不利な所見は一つ撤回となったが、「微調整語の不在」「テンポ変動語の不在」の2つは相変わらず「真作説に不利」な状況だ。

2006年12月12日 (火)

FAEソナタ

12月10日の記事「意外な当たり」で「FAEソナタ」について言及した。↓

http://brahmsop123.air-nifty.com/sonata/2006/12/post_e66c.html

この作品、作品番号こそ振られていないものの、親友ヨアヒムが贈られた楽譜を大切に保存していたこともあって、真贋論争の発生する余地のない確かな地位を獲得している。

アルバート・ディートリヒ、ロベルト・シューマンというブラームスにとっては2人の先輩との合作だが、ヨアヒムは演奏してみて即座に作曲者を当てることが出来たという。作曲者的中の話題以外のコメント、特に作品の出来映えがヨアヒムの口から語られた記録はないが、おそらくヨアヒムは最年少のブラームスの才能を感じ取ったことだろう。ロベルト・シューマンにブラームスを紹介した自分の見識を再確認したと思う。我が家には何とブラームスの担当したスケルツォを含むFAEソナタ全曲のCDもあって、手軽にヨアヒム気分を味わうことが出来る。作曲当時20歳そこそこのブラームスの底力が判る。

後日シューマン自身がこの作品を完成させたが、現在それが演奏されることはほとんどない。だからFAEソナタは、事実上ブラームスが担当したスケルツォによって命脈を保っているということになる。

11月23日の記事「イ長調三重奏曲調査報告」で伝ブラームス作曲の三重奏曲についてブラダス取り込みの結果を報告した。正真正銘のブラームス作曲であるFAEソナタについてもブラダスに取り込んでみようと思う。「8分の6拍子のスケルツォ」である点、イ長調三重奏曲と似ている。何か興味深いことが判るかもしれない。

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