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カテゴリー「211 オルガン」の30件の記事

2018年1月25日 (木)

Ernst-Erich Stender

ドイツバロック伝統のオルガン曲のジャンルに「コラール前奏曲」がある。ブラームスの最後の作品がこの形態を採用していることで、ブラームスその人を、直接バロック時代に連れ出して、ドイツバロックの巨匠たちと比較鑑賞できると喜んだばかりだ。

教会で、聖歌隊や会衆がコラールを歌う前にオルガンで耳慣らしをするというのが、本来の機能だが、時代が下るに連れて、装飾や変奏が華麗に付加されるに至るのだが、本来の機能はあくまでも音取りだ。

ブラームス最後の作品「オルガンのための11のコラール前奏曲」op122の第1番は、コラール「わがイエスよ、我を導き給へ」がベースになっている。

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見ての通り、冒頭赤枠の中が「HGEC」となっている。第4交響曲第一楽章冒頭と完全に一致する。

おそらく同じことに気付いたのが本日のタイトルにもなっているエルンスト・エーリッヒ・シュテンダーさんだ。オルガニストのこの人、ブラームスの第4交響曲をオルガン用に編曲してCDを出してくれている。オルガンで第4交響曲第1楽章を弾かれてしまうと、それはコラール「わがイエスよ、我を導き給へ」の音取りとして不足なく、機能してしまう。ご承知の通り同交響曲はフィナーレ第4楽章末尾で第一楽章第一主題が力強く回帰することを思うと、交響曲全体がコラール「わがイエスよ、我を導き給へ」の巨大な前奏曲と位置付け得る。

そう思って聴くとこのオルガン編曲にはただならぬ説得力が宿る。4つの中からもし一つだけオルガン編曲をするなら4番しかないとも思えてくる。

そしてそして、交響曲の余白には「オルガンのための11のコラール前奏曲」op122から、2番5番、8番~11番が本当に収録されている。シュテンダーさんは実際のコラール前奏曲と並置させているのに第4交響曲とかぶる第1番「わがイエスよ、我を導き給へ」を省いているのも見識の反映だろう。

2018年1月24日 (水)

コラール前奏曲の元ネタ

ブラームスの最後の作品「オルガンのための11のコラール前奏曲」op122は、バロック以来の伝統にのっとり、「コラールの前弾き」という体裁をとる。実際には教会での演奏という側面は失われていながら、形だけを誠実にトレースした代物。既存既知のコラールをベースにした変奏曲となっている。

本日は11曲すべてについてその原曲の出所を一覧化しておく。

<第1番>「Mein Jesu,der du mich」わがイエスよわれを導き給へ

  • Darmstadt Gesangebuch 1698
  • 6小節目の後半から足鍵盤に低旋律が現れる。「H-G-E-C」とは第四交響曲冒頭と完全に一致する。

<第2番>「Herzliebster Jesu」敬愛するイエスよ

  • Johann Crueger 1640
  • マタイ受難曲BWV244第3曲に現れる。

<第3番><第11番>「O Welt,ich muss sich lassen」おおこの世よ我汝を去らねばならず

  • 不詳。ニュルンベルク1555年頃

<第4番>「Herzlich tut mich erfreuen」わが心は喜びに満ちて

  • 不詳。Wittenburg1552年頃

<第5番>「Schmuecke dich,Liebe Seele」装え愛する魂よ

  • Johann Crueger 1649
  • BWV654にある。

<第6番>「O wie selig seid ihr doch.ihr Frommen」おお汝、信心深い人々はいかに至福なるか

  • Johann Crueger 1647

<第7番>「O Gott,du frommer Gott」お神よ、汝やさしき神よ

  • 不詳。ブラウンシュヴァイク1648年頃

<第8番>「Es ist ein Ros'entsprungen」一輪のバラが咲いて

  • 不詳。最古の出版は1599年。
  • 讃美歌96番「エサイの根より」に一致。

<第9番><第10番>「Herzlich tut mich verlangen」心から私は願う

  • Hans Leo Hassler1601年
  • 書籍「ブラームスの辞書」の口絵は「10番の手稿譜」1ページ目になっている。
  • バッハのBWV727のオルガンコラールと同一だ。BWV161のカンタータにも登場する他、マタイ受難曲にも同じ旋律が現れる。

以上。最古のものは1552年。ただし8番は出版こそ1599年だがもっとさかのぼる。最新のものでも1698年だ。

クララを失った傷心のブラームスがイシュルに戻って書き上げた11曲。ウィーンの自宅に資料を取りに戻ることなく書けたということは、これらオリジナルが頭に入っているということだ。ドイツの古い音楽がすっかりなじんでいたということだ。

2018年1月22日 (月)

同じ土俵としてのコラール前奏曲

そもそもの話として「コラール前奏曲」とはなんぞやという問いを議論しておきたいが、実はかなり複雑で私ごときの手には余る。会衆や聖歌隊が教会で歌うコラールの前にオルガンで示される音取りを兼ねた小品というくらい。形式的には、コラールの定旋律がほのめかされる。コラールのオルガン伴奏とは厳に区別される。

プロテスタント系の音楽史上では避けて通れぬ歴史がある。サムエル・シャイトが17世紀前半にその規範を示して以降、プロテスタント圏内で発展を遂げる。ブクステフーデ率いる北ドイツとパッヘルベル率いる中部ドイツで特色ある発展を遂げたあと、バッハがさらに統合発展させた。

同じコラールをベースに複数の作曲家がコラール前奏曲を仕上げることもあった。

ブラームスは人生の終盤に差し掛かって「オルガンのための11のコラール前奏曲」op122を作曲した。クララ没後に自らの死さえ予見しながらだ。

これがどんだけすごいことか。

おかげで、バッハよりさらに数世代遡るドイツ音楽の巨星たちと同一のジャンルで比較することが出来る。バッハ以前のメンバーは教会を職場にしていたから、本当にコラールの前に演奏するためのものだったが、ブラームスではその側面は薄れ、事実上「コラール〇〇の主題によるオルガンのための変奏曲」という位置づけになっている。ブラームスは「コラール前奏曲」というジャンルの歴史的意義を深く認識していながら、実演の可能性を棚上げにして、あえて同じ形態を世に問うた。創作人生の最後にだ。

これを「バロック音楽への没入」と称してどれほどの誤謬を含むことになるのだろう。op122にちなんで1月22日の公開だ。

2018年1月21日 (日)

ブラームスはオルガンを弾いたか

作曲家ヨハネス・ブラームスはオルガンを弾けたのかという疑問が本日の話題である。

通常作品を残すことイコール楽器の演奏が出来ることにはつながらない。管弦楽作曲家がオーケストラの全ての楽器演奏に長けていることなどあり得ない。知識や理屈に精通していることと演奏できることは別物だ。

バッハは、オルガン演奏の名手にして、クラヴィーア演奏も相当のレベルだった。あるいは、ヴィオラやヴァイオリンも並以上の弾き手だったという。そしてそれらの楽器のために数多くの作品を残した。

ご存知の通り、ブラームスはピアノ演奏においても上級の腕前を披露した。到達度を問わないならば、幼い頃にヴァイオリンやチェロも習った事がある。

ピアノ演奏の大家であれば、オルガンも相当に弾けたのではないかと想像してしまう。ライプチヒ・トマス教会のカントル就任を要請されるくらいだから、オルガンも相当な腕前だったのではないだろうか?

2014年6月24日 (火)

避暑地への持ち物

ブラームスの伝記を読んでいると、ときどき疑問が湧いてくる。本日もそうした疑問の一つだ。

1896年5月20日にクララ・シューマンが没したときブラームスは既にウィーンを離れ、なじみの避暑地イシュルにいた。だからクララの死を知らせる電報はウィーン経由で届けられた。そのためブラームスが受け取ったのは5月22日になってしまったという。5月のこの時期に早くも避暑地にいたのだ。

ブラームスの本拠地は申すまでもなくウィーンだ。ウィーンを離れて避暑地に赴く際、ブラームスの持ち物にはどんなものがあったのだろう。ブラームスが所有していた膨大な蔵書と楽譜は、普段ウィーンの自宅にあったと考えるのが自然だ。避暑地へそれらが丸ごと運ばれたとは考えにくい。

ブラームス最後の作品は「オルガンのためのコラール前奏曲」op122である。解説書を読むとクララの死後イシュルで作曲されたとされている。これらが古いコラールを下敷きに書かれたことは既に2008年8月25日の記事「蓄積の賜物」で言及した。説明を読む限り若い頃から集めたり書き留めたりした古いコラールを参考に作曲したことは確実である。

ブラームスはクララの葬儀の後、しばらくボン周辺をさまよってから、ウィーンを経由せずに直接イシュルに帰っている。つまりウィーンの自宅にある古いコラールの資料を取りに戻ってはいないのだ。

  1. クララの死に関係なく既に構想があって関連資料を持ち込んだ。
  2. クララの死後イシュルに入った後、ウィーンから資料を送らせた。
  3. 関連資料が無いまま作曲した。つまり該当のコラールが頭に入っていた。

直感としては3のような気がする。

ちゃきちゃきのプロテスタントであったブラームスは、主要なコラールは和声付きで暗譜していたと解したい。あるいは暗譜するほど気に入っていたコラールに曲をつけたと考えたい。

1896年6月24日友人のホイベルガーはブラームス本人のピアノでコラール前奏曲を聴いたことを証言している。

2009年12月24日 (木)

オルガニスト

オルガン奏者のことだ。ブラームスは、創作人生の初期と末期に素晴らしいオルガン作品を遺した。作品番号の最大値122を背負った「オルガンのための11のコラール前奏曲」は1902年4月24日に初演された。作品番号付きの作品が、ブラームスの生前に初演されなかったのは、日時が判明している作品では、おそらくこれだけだ。

著名な作曲家が、オルガニストでもあったというケースは珍しくない。ブラームスが敬愛してやまないバッハは、生前はオルガン奏者としての名声が勝っていたという。レーガー、ブルックナーも忘れてはならない。フランスにもいる。メシアン、フランク、サンサーンスという面々だ。

彼らに共通なのは、オルガンのための作品を書き残しているということだ。素晴らしい作品を書いたブラームスは、ライプチヒのトマス教会がカントルへの就任を打診したくらいだからオルガン演奏も達者だったと思われる。

ここにささやかな謎がある。ドヴォルザークだ。

18歳からプラハオルガン学校に学んだドヴォルザークは12人中2番目の成績で卒業する。オルガン、ヴァイオリン、ヴィオラの演奏は一定の評価をされたが、作曲は芳しくなかった。その能力を生かすべくオルガニストになった時期がある。1874年から1877年までの3年間だ。聖アダルペルト教会のオルガニストに就任したのだ。この時期はオーストリア国家奨学金に応募していた時期に重なる。半ば賞金を目当てに毎年せっせと作曲していたのだ。名だたる作曲家兼オルガニストの諸先輩はオルガン作品も遺しているのだが、ドヴォルザークの作品一覧にはオルガン作品は合唱曲の伴奏に用いているケースを加えてもホンの数例である。ましてやCDにはさっぱりお目にかかれない。

オーストリア国家奨学金の応募規定にオルガン作品が入っていなかったのだろうか。オルガン曲は書いても売れないという現実的な落としどころが見えている。

もっと素朴な疑問は、聖アダルペルト教会のオルガニストとしてどんな作品を弾いていたのだろう。敬虔なカトリックだったドヴォルザークの就職先がプロテスタント教会であるハズがない。だからバッハ作品は演奏していないと推定したら行き過ぎだろうか。

けれどもクリスマスのミサでオルガンを弾いたことだけは確実と思われる。

2009年5月 6日 (水)

イブに聴きたいブラームス

イブと言ってもクリスマスイブではない。明日がブラームスの誕生日だから今日はブラスマスイブである。イブに聴きたいブラームス作品をいくつかあげる。

  1. Weihnachten WoO31-12 これまさにドイツ語でクリスマスそのもののことだ。ロベルト・シューマンの子供たちへとの献辞が誇らしげな「子供のための14の民謡」のうちの一つだ。
  2. In stiller Nacht  Woo33-42 「49のドイツ民謡集」の42番目、つまり独唱の大トリを飾る絶唱。テキストは直接クリスマスと関係がないが、雰囲気は「聖しこの夜」に匹敵する。
  3. 「五月の夜」op43-2 5月6日の夜に聴くにはピッタリの作品である。今夜はサンタにならねばならぬ。
  4. 「一輪のバラが咲いて」op122-8。ブラームス最大の作品番号122を背負うオルガンのためのコラールから。元になったコラールはドイツの古いクリスマスキャロルだが、バラと言うからには今が聴き頃かもしれない。
  5. 宗教的な歌曲 op30。これもテキストは本当のクリスマスとは関係が無い。敬虔な気持ちにさせられるという点に関しては折り紙つきである。「澄み切った長調は悲しい」を雄弁に物語る。

失笑は元より覚悟の上だ。

2008年12月24日 (水)

一輪のバラが咲いて

ブラームスの最後の作品「オルガンのための11のコラール前奏曲」の8番のタイトルだ。その可憐なたたずまいはまさに「オルガンのためのインテルメッツォ」と呼ぶにふさわしい。今のところ、その11曲の中では一番のお気に入りである。

無知というのは困ったものだ。最近バッハのカンタータに触れる機会が多いので、キリスト教と音楽の関係をいろいろ調べていたら、興味深いことが見つかった。

「一輪のバラが咲いて」は古いドイツのクリスマスソングだというのだ。賛美歌96番と同じ「賛美歌21」の246番として賛美歌集にも載っているという。一昨年の8月にオルガン強化月間の最大の収穫としたが、まさかクリスマスソングだとは思わなかった。

賛美歌集に楽譜が載っている。それを見ると2分の2拍子、ヘ長調の4声体だ。調と拍子は一致しているもののブラームスのコラール前奏曲とは似ても似つかない。この旋律を元にした精巧な変奏になっているのだろう。

2008年12月 4日 (木)

ブクステフーデ

Dieterich Buxtehude(1637?-1707.5.9)は17世紀北ドイツを代表する作曲家、オルガニストだ。出生に関しては判らないことが多い。デンマークの出身らしい。活躍したのはバルト海沿岸の北ドイツだ。

この人も例によって長らく忘れられていた。19世紀後半のバッハルネサンスの過程で、バッハ研究の掘り下げの中から、再評価が行われた。バッハが若い頃ブクステフーデを研究したことは確実である。17世紀の北ドイツを代表する巨匠としてバッハに先行する位置付けを与えたのは、19世紀最高のバッハ研究家で、ブラームスの友人フィリップ・シュピッタであった。

ブラームスの最後の作品「オルガンのための11のコラール前奏曲」の9番と10番は同じコラールに基づいている。「Herzlich tut mich verlangen」「我心より願う」である。ブクステフーデも同じタイトルの声楽曲を残している。BuxWV42だ。ブクステフーデがブラームスの研究対象であったこともまた確実だという。

さてブラームスの故郷ハンブルクから南西にわずか20km。ブクステフーデという街が実在する。Buxtehudeというスペルまで完全に一致する。これもまたブラームスの生涯には直接関係が無いが、白水社刊行のジョゼ・ブリュイール著「ブラームス」の79ページ、「ヘンデルの主題による変奏曲」の説明の中で、いささか唐突に言及されている。よってブログ「ブラームスの辞書」の地名リストでも収録の対象とした。

2008年11月17日 (月)

遺作

故人が遺した作品のうち未発表のものとでも定義されよう。

発表を前提とした芸術作品でなければならない。プライベートな文書や遺書、あるいは書き置きは含まれない。マニアにとってのお宝度、骨董的な価値とは関係がない。「発表を前提とした」というところがミソだ。故人が発表の意思を持っていたということが前提だ。本人は発表に値しないと考えていた作品が、ひょんなことから廃棄を免れて、死後発表されるケースを含めてはいけないのだ。

このような定義を厳密に適用するとブラームスには遺作が無いということになる。

父が11年前に亡くなった時、遺品の中から自作の俳句集が見つかった。俳句が晩年の父の生活を豊かに潤していたこと疑う余地はない。句作のメモに混じって一冊の句集が見つかった。タイトルは「初孫」だった。父にとっての初孫つまり私の長男の誕生から1年間、折に触れて作った句から孫に関するものだけを抜き出して、簡単な詞書きとともに書き記した物だ。孫といっしょの泣き笑いが活写されている。「孫に名句無し」と自嘲していた父が、言葉とは裏腹に初孫の句集を残したのだ。

3人の子供に残してやる記録について、我が家には方針があった。「記録が年長の子供ほど手厚いという状態に断固陥らない」というものだった。初めての子供である長男が誕生したとき、日記、写真の残し方を決めた。「第2子以下にもやってあげられることしかやらない」という観点から熟考した。だから我が家の子供たちの日記や写真は皆同等の濃さであり分量なのだ。

しかし、父の句集「初孫」は、大きな例外になった。3人の子供たちの中で長男にだけ、おじいちゃんの句集が残っているのだ。父が亡くなった時、5歳だった長男にとっては宝物だ。

厳密な遺作の定義とははずれるが、私にとっては十分に遺作である。

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