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カテゴリー「318 ヨハン・シュトラウスⅡ」の12件の記事

2023年11月10日 (金)

こうもりの中のブラームス

クライバーのリハーサル風景の話。あんまり面白いのでスコア片手に見ていて驚いた。

「こうもり序曲」の中にブラームスが出てくる。

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「こうもり序曲」のリハーサルが210小節目に差し掛かったころ。ホ短調アンダンテ・オーボエの泣きをうけてチェロが加わる場面。チェロに濃厚な表現を要求する説明が、かなり念入りに続く場面でクライバーは「ブラームスではないよ」という。字幕がどの程度ニュアンスを伝えきっているか不明なので、断言は慎むが興味深い。チェロの高い音域のソロはブラームスに頻発する。続けて「彼もそういっている」とクライバー。ここでいう「彼」はブラームスだろう。「ブラームスより濃厚に」という意味か。技術的にはビブラートのキャラに対する指摘と感じる。「ブラームス特有のチェロ高音域の見せ場より濃く」と解しておいてよさそう。あるいは「ブラームスより感情移入してよろしい」という含みもあるか。ブラームスの音楽、とりわけオケのチェロパートが持つ特徴については、ある程度楽団員も承知の上という認識で発せられているはずだ。

さらに少し後には、大げさな表現を強調する場面で「みなさんワグネリアンになった気分で」と訴える。大げさを求める要求が「ブラームスではないよ」「ワグネリアンになったつもりで」とクライバーは要求するのだ。いやはや、これはクライバーのブラームス観やワーグナー観の反映でなくてなんとする。

ブラームスは、ウイーンのオペレッタ愛好家で、作品の上演には欠かさず出かけていたから「こうもり序曲」にだって一家言持っていても不思議はない。だから「彼も言っている」というクライバーのトークに説得力が宿ってしまう。

ブラームスの4番のリハーサルが見てみたい。

 

2023年11月 9日 (木)

こうもり序曲

 マイシアターが実現したせいで、ショップのDVD売り場を徘徊する癖がついた。都内某ショップにて驚くべき発見があった。

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裏面を見ると収録曲は、「こうもり序曲」と「魔弾の射手序曲」2つだけ。それではDVDの収録時間に広大な余白が出てしまう。そう、これはリハーサル風景を収めたDVDだったのだ。即買い一択。

オケは南ドイツ放送交響楽団。1970年前後の収録なのでクライバーは40そこそこ。「こうもり」も「魔弾の射手」もクライバー指揮のCDは持っている。「こうもり」はDVDもある。序曲はニューイヤーコンサートのDVDにも入っている。それらのリハーサル風景とは、クライバー好きにはたまらん内容だ。

転げ込むように帰宅して、手洗いうがいもそこそこに再生。

そりゃあ画面はモノクロだけれど、若き日のクライバーが躍動する。90年代の演奏と枠組みは変わっていない。楽団員への働きかけ、説明がキレッキレだ。ドイツ語でのトークだが、字幕がうまくニュアンスまで伝えてくれてありがたい。「みなさんが楽しんでください」「私は方向性ときっかけをあたえるだけ」などとクライバー節が随所に炸裂する。精神面、技術面の両面にわたる踏み込んだ説明なのだが、もたれないのは最早名人芸だ。説得力がすごいのだろう。注意の前と後ではオケの鳴りが変わる。

ストーリーの見せ場が手際よくという類のオペレッタの序曲だからか、クラーバーはストーリーの進行や場面に寄り添って説明する。喜劇ならではの大げさ感を求める。「クラシックであることは忘れて」「酒場で弾いてる感じで」など。

細かい突込みどっころはまだある。ヴィオラの二列目、チェロとの境目付近に、サウスポーがいる。左手で弓を持ってビオラを弾いている。気になりだすと気になる。

「こうもり」では練習番号が数字だったのに対し「魔弾の射手」ではアルファベットになるようだ。練習番号「G」を「Gustav」と呼んでいるのがおしゃれだ。

で、最後に演奏会の様子も収録されている。

飽きない。

 

 

 

 

 

2022年2月11日 (金)

作曲家生活50年祝賀会

1894年に行われたヨハン・シュトラウス2世の作曲家生活50周年記念祝賀会の話題が、ブラームスとホイベルガーの会話に出現する。音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第2巻の117ページだ。

せっかくの祝賀会に楽友協会の幹部3人が揃って欠席だった話。その理由にブラームスが言及している。ブラームスはその理由を「許されざる結婚」と称している。ヨハン・シュトラウスの3度目の結婚を指している。2番目の妻リリーが劇場支配人シュタイナーと駆け落ちして、その後アデーレと結婚したのだが、2番目の妻とは死別ではない。カトリックは離婚を認めないから、アデーレとの結婚には道義的な問題が生じるという筋立てだ。

楽友協会の上層部に加え、大臣や政府高官などのVIP、あるいは宮廷の音楽家たちも軒並み出席を見送った他、ウィーン市は名誉市民権も贈らずにお茶を濁した。

カトリックの街ウィーンにとってはゆゆしき結婚だったという訳だ。

2022年2月10日 (木)

シュトラウスの妻たち

1862年8月27日37歳のヨハン・シュトラウス2世が最初の結婚をした日だ。ブラームスがウィーンに進出する3週間ほど前の話。花嫁の名はヘンリエッテ。新郎よりも7歳年上だったといわれている。年長の妻と並んで舐められないようにというのが髭をたくわえはじめたキッカケだったと噂されている。ヘンリエッテが卒中で亡くなるまでの16年間、充実した結婚生活をベースに旺盛なペースで作品を生み出した。

2番目の妻との結婚は、先妻の死から6週間後で、花嫁は25歳年下のリリーという学生だったが、およそ4年後に某劇場支配人と駆け落ちしてしまう。こうした場合の再婚には難儀な手続きが要るが、シュトラウスはめげずに再婚に踏み切った。カトリックの街ウィーンはつめたい視線を送る。

3人目の妻をアデーレという。彼女の連れ子だった娘に、サインをねだられたブラームスは、差し出された扇子に「美しく青きドナウ」の一節をしたため、「残念ながらヨハネス・ブラームスの作にあらず」と記した。

2016年7月 9日 (土)

恋人の名前

元婚約者アガーテの名前が音名に分解されて主題に採用されている話はしばしば出てくる。そんなことをされているのはアガーテだけだが、ヨハン・シュトラウス2世ともなるとなかなか華麗である。妻3人婚約者13人という話はけして大げさではない。このことが作品のタイトルにも反映している。

  1. アニカ・カドリールop53
  2. アデーレ・ワルツop424
  3. ヨゼフィーネ舞踏曲
  4. ファニー行進曲
  5. オルガポルカop196
  6. チェチーリエポルカ
  7. エリーゼポルカop151
  8. ヘレーネポルカop203

こうした華麗な遍歴は皇帝の覚えめでたきにはつながりにくい。暗殺事件の現場に居合わせて、皇帝を助けた勲功で肉屋を貴族に列したりしているのにヨハン・シュトラウス2世は宮廷舞踏音楽監督官止まりだった。当時皇帝の次に有名なオーストリア人は彼であった可能性が高いにもかかわらず、皇帝は貴族への取立てに同意しなかった。

2016年5月15日 (日)

ラデツキー行進曲

新春恒例のニューイヤーコンサートのラストで演じられる名高い行進曲。手拍子によってステージと客席が一体になる感じが心地よい。

1848年2月パリに始まった革命は、3月にはドイツ各地に飛び火した。ハプスブルク帝国内も同様でウイーンでも市民が蜂起したくらいだから、地方の主要都市は軒並みだった。当時ハプスブルク帝国の支配下にあったイタリアでも事情は似ていた。市民勢力の勢いは大したものだったが、悲しいかな横の連携が取れていなかったから、体制側はそこに付け込んで各個撃破して鎮圧した。

イタリアはベネチアの革命勢力を鎮圧したのがオーストリアのラデツキー将軍だった。申すまでもない。ラデツキー行進曲は見事ベネチアを鎮圧した将軍に対する讃歌だったということだ。

次女の高校オケでは、スペシャルコンサートで必ずアンコール曲となる。引退する3年生と1年生が唯一協演する。演奏後ステージ上で3年生から1年生まで入り乱れてハイタッチになることもある。わずか1ヶ月しか重ならない1年生と3年生の絆を象徴する作品だ。

本日14時開場15時開演のスペシャルコンサートのラストナンバーになる。恐らく18時を過ぎてからの演奏になるはずだ。

2015年1月22日 (木)

ラムザウアー

ブラームスの立ち寄りが確認されているイシュルのカフェ。1828年創業の老舗で建物が現存しているばかりか営業中でもある。

ブラームスの立ち寄りの目的はヨハン・シュトラウス2世との懇談だったと目される。この店はブラームスのゆきつけではなくて、ヨハン・シュトラウス2世のごひいきだったという。

2014年1月20日 (月)

鉄道関連の楽曲

音楽ブログたるものもっと早く記事にしておかねばならなかった。鉄道特集の冒頭を飾ってもいいハズなのだが、ズルズルと遅れてしまうあたりブログ「ブラームスの辞書」の音楽系ブログとしての限界を垣間見せる。

ワルツやポルカには鉄道に題材を求めた作品が見られる。以下一部を紹介する。

<ワルツ「蒸気機関車」>1835年ヨーゼフ・ランナー作曲「Dampf-Walzer」 オーストリアに鉄道が開通する2年前の作品だ。鉄道は人々にとっての一大関心事だったからそれにさっそくあやかったということなのだろう。

<ワルツ「鉄道の楽しみ」>1836年ヨハン・シュトラウス1世作曲「Eisenbahn-Lust Walzer」 

<「蒸気鉄道ギャロップ」>1838年ヨゼフ・グングル作曲「Eisenbahn-Dampf Galopp」

<「機関車ギャロップ」>1838年フィリップ・ファールバッハ作曲「Lokomotiv-Galopp」

<ポルカ「ミュンヘンからの挨拶」>1860年ヨセフ・シュトラウス作曲「Gruss an Munchen」 これには少々の説明が要る。1860年ウィーンーミュンヘン間が鉄道で結ばれたことを祝賀する意図がある。

<ポルカ「観光列車」>1864年ヨハン・シュトラウス2世作曲「Vergnugungszug」 1854年に開通した初のアルプス越え鉄道のセメリンク鉄道開通10周年記念作品である。

<パシフィック231>スイスの作曲家オネゲルによる作品。231は機関車の動輪の車軸配置を意味するほどのオタクさがたまらない。蒸気機関車の発する音の忠実な再現になっている。

<鉄道の歌>なんとなんとベルリオーズだ。1846年の作品でop19-1を背負う。パリとリールを結ぶ北部鉄道の開通を祝して作曲されたらしく、開通式において演奏されたという。

ブラームスやドヴォルザークに明らかにそれと判る作品がないのが残念だ。

 

2011年12月19日 (月)

三月革命

ナポレオン後の欧州の秩序を定めた「ウィーン体制」を崩壊させた革命。1848年3月に起きたから三月革命と呼ばれる。このときドイツやオーストリアでは学生有志が軍団を組織した。彼等に同調する音楽家がこれを鼓舞する作品を残している。

それらは1848年作曲のものが目立つ。ズッペ、シュトラウス一家、スメタナ、シューマンがその代表だ。

学生たちの行動は、世の中の動きに大いなる影響があったのだ。だから一部の作曲家がこれに同調したと見るべきだろう。シューマンに至ってはドレスデンで騒ぎに巻き込まれている。

ブラームスはと申せばこのときまだ15歳だ。公の場での演奏デビュウがあったばかりだが、15歳ともなれば、世の中のこうした動きにも聞き耳を立てていたと思われる。

2011年12月16日 (金)

学生歌を織り込む

学生歌を自作に織り込むことにかけてはブラームスの「大学祝典序曲」op80があまりに有名だ。念のため他の作曲家の作品においてもそういう現象が起きていないか調べてみたら、これが望外の大漁だった。

  1. モーツアルト これはいささか無理目。「Bruder,recht die Hand zum Bunde」(友よ同盟のために手をさしのべよ)がオーストリア学生歌として刊行されている。「オーストリア共和国歌」としても名高い。古い歌集ではモーツアルト作とされているものの、現代では別人の作と判明している。
  2. ズッペ 「陽気な仲間たち」の中で「ガウデアムス」を含むいくつかの学生歌を引用。
  3. スメタナ 「学生部隊の行進曲」の中で「ガウデアムス」と「Das Fuchslied」を引用。
  4. ウェーバー 「日は昇り」「僕は学生生活を支える」の2曲を作曲。
  5. シューベルト 「何が向こうの森で輝いているのか」D205を作曲。
  6. シューマン 「何千回も挨拶を」「黒赤金」に作曲。
  7. メンデルスゾーン 「神の御心のままに」op47 メンデルスゾーン本人に学生歌という認識があったかどうかは不明ながら、一部の学生歌集に採録されている。
  8. ヨハン・シュトラウス1世 「学生軍団行進曲」を作曲。
  9. ヨハン・シュトラウス2世 「学生行進曲」「学生ポルカ」「学生諸歌」「学生賛歌」を作曲
  10. ヨゼフ・シュトラウス 引用多数。
  11. エドゥワルド・シュトラウス 引用多数。
  12. リスト 「ガウデアムス」を複数回引用。

これら全ての用例がブラームスの「大学祝典序曲」に先行する。学生歌の作曲やその引用は、ブラームスに始まった訳ではないことが判る。ブラームスはむしろ総仕上げに関与したと申し上げるべきだろう。

こうなるとドヴォルザークがいないのが残念だ。

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