こうもりの中のブラームス
クライバーのリハーサル風景の話。あんまり面白いのでスコア片手に見ていて驚いた。
「こうもり序曲」の中にブラームスが出てくる。
「こうもり序曲」のリハーサルが210小節目に差し掛かったころ。ホ短調アンダンテ・オーボエの泣きをうけてチェロが加わる場面。チェロに濃厚な表現を要求する説明が、かなり念入りに続く場面でクライバーは「ブラームスではないよ」という。字幕がどの程度ニュアンスを伝えきっているか不明なので、断言は慎むが興味深い。チェロの高い音域のソロはブラームスに頻発する。続けて「彼もそういっている」とクライバー。ここでいう「彼」はブラームスだろう。「ブラームスより濃厚に」という意味か。技術的にはビブラートのキャラに対する指摘と感じる。「ブラームス特有のチェロ高音域の見せ場より濃く」と解しておいてよさそう。あるいは「ブラームスより感情移入してよろしい」という含みもあるか。ブラームスの音楽、とりわけオケのチェロパートが持つ特徴については、ある程度楽団員も承知の上という認識で発せられているはずだ。
さらに少し後には、大げさな表現を強調する場面で「みなさんワグネリアンになった気分で」と訴える。大げさを求める要求が「ブラームスではないよ」「ワグネリアンになったつもりで」とクライバーは要求するのだ。いやはや、これはクライバーのブラームス観やワーグナー観の反映でなくてなんとする。
ブラームスは、ウイーンのオペレッタ愛好家で、作品の上演には欠かさず出かけていたから「こうもり序曲」にだって一家言持っていても不思議はない。だから「彼も言っている」というクライバーのトークに説得力が宿ってしまう。
ブラームスの4番のリハーサルが見てみたい。
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