中米キューバに起源を持つ舞曲で「Habanera」と綴られる。そういえばキューバの首都はハバナだった。やがて船乗りの手によりスペインに伝えられ、そこを起点にブレークする。その独特なリズムが欧州を席捲しスペイン以外の地域では、スペインの舞曲であるという勘違いまで起きた。
申すまでも無く名高いのはビゼーの歌劇「カルメン」に登場するハバネラだ。人呼んで「恋は野の鳥」である。奔放なヒロインのキャラを一瞬で説明する圧倒的な説得力が売り物だ。パリ市民がスペイン情緒を楽しむための小道具でもある。
ここで終わってしまうと「どこがブラームスと関係があるのか」という疑問が生じてしまう。
カルメンの楽譜「ハバネラ」のページ冒頭には「Allegretto quasi Andantino」と書かれている。音楽用語の大御所「Allegro」や「Andante」が、縮小語尾によってモデファイされている上に、解釈が難儀な「quasi」に橋渡しされている。曖昧でつかみ所のない用語キャラがそのまま、どこか移り気なカルメンというキャラにかぶって見える。
「Allegrretto」と「Andantino」の拮抗は、ハバネラだけにとどまらずカルメン全体に露見している。ハイライトに取り上げられるような有名な歌には「Allegretto」や「Andantino」が多い。さらに「アルルの女」第2組曲の中、フルートのソロで名高い「メヌエット」は「Andantino quasi allegretto」だ。どうやらビゼーはこのあたりの微妙な出し入れが好きと見たが、もっと詳しく楽譜を当たらないと断言は出来ない。「ビゼーの辞書」でも書かねばいけない。
私が「ビゼーの辞書」とまで思い詰めるには、訳がある。「Allegretto」と「Andantino」の拮抗ならブラームスにもある。
交響曲第2番の第3楽章冒頭だ。「Allegretto grazioso quasi andantino」と書かれている。「アレグレット・グラツィオーソ」がほとんど「アンダンティーノ」だとおっしゃっている。ブラームス交響曲の第3楽章に特有の曖昧指定だ。
どちらも「Allegretto」と「Andantino」の拮抗を味わう音楽だとひとまず解しておく。
いつにも増して強引。
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