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カテゴリー「352 ヨアヒム」の42件の記事

2023年3月11日 (土)

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲

1848年3月11日だから今から175年前の今日だ。ヨアヒムがブラームスの故郷ハンブルクで演奏会を開いた。ハンブルクフィルハーモニー主催のコンサートに出演したのだ。そこでヨアヒムが弾いたのが本日のお題「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲」だ。

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、初演後あまり弾かれなくなった。現在の位置づけとは雲泥の差だ。押しも押されもせぬ現在の位置づけに引き上げた功労者がヨアヒムその人だった。バッハの「マタイ受難曲」の復活にメンデルスゾーンが果たした役割に似ている。ヨアヒムを見いだしたのはメンデルスゾーンだというのは奇遇である。

この時ヨアヒム弱冠17歳だ。

ブラームスは、この演奏を聴いていた。聴衆の中に15歳のブラームスがいたということだ。このときブラームスは、はじめてヨアヒムの存在を知った。無論ヨアヒムはまだブラームスを知らない。ブラームスとヨアヒムの間に生涯の友情が芽生えるまでまだあと5年が必要だった。

東日本大震災の日と重なるため、ずっとこの記事の公開を控えてきたが、ベートーヴェン特集の流れの中で自然に公開に漕ぎつけた。

ご加護を。

 

 

 

2021年6月 8日 (火)

ヨアヒムの長男

1月23日の記事「ヨアヒムはヴィオラを弾いたか 」でブラームスの「アルトとヴィオラのための2つの歌曲」op91は、親友ヨアヒムの長男誕生を祝う作品だと書いた。ブラームスから夢のような祝福をされたヨアヒムの長男の名前を調べて驚いた。

Johannes Joachim、ヨハネス・ヨアヒムだ。もしこれが偶然だったら、神も仏もない。父親ヨアヒムの意思に違いない。ヨアヒムは大親友のブラームスのファーストネームを長男に与えたのだ。ヨハン・セバスチャン・ヨアヒムでもなく、ルードヴィッヒ・ヨアヒムでもなく、フェリックス・ヨアヒムでもなく、ロベルト・ヨアヒムでもないことに計り知れない意味がある。

おそらくブラームスは事前に打診を受けていたのだろう。「もし男の子なら」と。

だからブラームスは、いっそう張り切ってお祝いの作品を書いたと解したい。

2021年6月 7日 (月)

離婚訴訟

19世紀きっての大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムの夫人はアマーリエといって、優れたコントラルト歌手だった。ドイツレクイエム初演の際にはヘンデルのアリアを歌った。

もちろんヨアヒムは夫人を愛したが、後年しばしば常軌を逸するほどの嫉妬心を燃やすようになった。年々エスカレートし、レッスンも取れない状況に陥って、とうとう離婚にまで発展した。そしてお決まりの訴訟だ。

実はヨアヒムが夫人との仲を疑った相手こそ、ブログ「ブラームスの辞書」で頻繁に話題にしている出版商フリッツ・ジムロックだった。

ヨアヒムの大親友だったブラームスは、ヨアヒム夫人に深く同情し慰める手紙を書いた。この手紙が、夫人の側から潔白の証拠として法廷に提出された。これにヨアヒムは激怒し、両者は絶交状態になり、回復には数年を要した。

激怒したヨアヒムだったが、親友のブラームスが夫人を潔白だと信じていたことを、心の底では喜んでいたという後日談もある。

 

 

2021年6月 5日 (土)

ヨアヒムはヴィオラを弾いたか

ヴィオラは私の愛奏する楽器だ。ヴァイオリンと同様に首に挟んだ状態で弓を弦にあてて演奏する。ヴァイオリンより5度低い音域となる。厳密なことを言い始めるといろいろあるのだが、演奏の方法はヴァイオリンと同じである。独特なハ音記号に慣れてしまえば、奏法自体には共通する部分が多い。古来ヴァイオリンの名手たちの何人かはヴィオラでも名人芸を披露している。スーク、ズーカマン、ミンツなどなどCDで聴くことも出来る。

ブラームスの恩人にして親友、そして当時最高のヴァイオリニストにヨーゼフ・ヨアヒムがいる。ブラームス唯一のヴァイオリン協奏曲を献呈される栄誉に浴している。奏者としてはもちろん教師としても優秀なヨアヒムは、はたしてヴィオラを弾いたのだろうかというのが本日のお題である。

結論から申せば「YES」である。私がそう考える根拠を以下に述べる。

作品91に「独唱アルトとヴィオラのための2つの歌曲」という作品がある。実際にはピアノも加わるトリオになっている。このうちの2番は「聖なる子守歌」と呼ばれているが、実はヨアヒム夫妻の長男誕生のお祝いに贈られた作品である。ヴィオラが冒頭で奏するのは「愛するヨーゼフ」という古い子守歌の旋律だ。すでにこのタイトルがヨアヒムのファーストネームと一致している奇遇を味わうべきである。この上に独唱アルトがオリジナルの旋律を重ね合わせて行く。ヨアヒムの妻アマーリエは才能あるコントラルト歌手だ。ブラームス歌曲のいくつかを初演するほどの腕前の持ち主だ。

こんな曲を長男誕生のお祝いに贈った場合、その意図は明確である。「一緒にアンサンブルをしよう」というお誘いに等しいと見るべきだ。ブラームスのピアノに、ヨアヒム夫人の独唱、そしてヨアヒムのヴィオラというアンサンブルが演じられたことは確実だ。手が大きいらしいヨアヒムのことだから、初見だとしてもキッチリ弾きこなしたことは想像に難くない。赤ン坊の傍らで弾かれる曲だからヴィオラにバリバリの超絶技巧が要求されている訳ではない。公式記録こそ無いがブラームス、アマーリエ、ヨアヒムのメンバーが初演者であることは確実である。それどころか演奏が終わって3人が笑顔で微笑みを交わしあったに違いないとまで断言したいくらいだ。

おそらくヨアヒムはヴィオラを弾いた。無論それをブラームスは当然知っていた。

2020年12月20日 (日)

愛するヨーゼフ

ブラームスの「2つの歌曲op91」は、ヨアヒムの長男出生を祝して作曲された。独唱をアルトと指定しているほか、伴奏にはピアノに加えてヴィオラが参加するという珍しさだ。

そのうちの2番「宗教的な子守歌」は、古いクリスマスの子もり歌「Joseph,Lieber Joseph mein」を定旋律として採用しヴィオラに受け持たせる一方、アルト独唱にはブラームス自らの旋律を歌わせるという凝った構造になっている。

このほど興味深いCDを入手した。

20180512_142100

クリスマスにちなんだ作品が、アンサンブルあり合唱ありでいろいろ取り混ぜられ13曲が収められている中の7曲目が、「Joseph,Lieber Joseph mein」だった。店頭で発見して、半信半疑で購入し、帰宅して再生したら思った通りだった。ブラームスのop91-2冒頭でヴィオラが奏でる旋律そのままが清らかなコーラスでが現れた。知識として「古いクリスマスソング」だとはわかっていたが、こうして実際のCDに収められているのを手に取ると、ひときわ味わい深い。

 

 

2019年12月18日 (水)

課外授業

1878年59歳のクララは、フランクフルト音楽院の教授に就任する。当時の院長はヨーゼフ・ラフだった。彼はリストの崇拝者だったが、ブラームスの奨めもあってクララはそこでクラスを持った。教授陣の中で女性はクララ一人だったが、当代最高のピアニストにしてロベルト・シューマン夫人の威光は、絶大だった。リスト崇拝者の院長にも一目置かれる存在となった。シューマンはもとより、メンデルスゾーン、ショパン、ブラームス、ベートーヴェンおよびバッハの諸作品解釈の第一人者というのが衆目の一致するところであったから、彼女のクラスに入りたい学生が欧州中からやってきた。

あまりの人気でクララのクラスは狭き門であったから、長女マリーを含む有能な弟子による代講もあったらしい。

晴れてクラスに迎えられた弟子たちには、夢のような特典があった。フランクフルトの私邸に招かれて、家庭演奏会に臨むことが出来たのだ。そこは並みの家庭ではないのだ。ヨアヒムやシュトックハウゼンのような超一流の音楽家たちが普通に出入りするところだ。そして何よりもブラームスもそのメンバーの一人だった。そこで繰り広げられるアンサンブルや会話は、お金に代え難い課外授業だったに決まっている。

2019年12月16日 (月)

賛辞

シューマンがブラームスを発見した喜びが、名高い論文「新しい道」に反映していることは有名だ。あるいは出会いの日以降のシューマン夫妻の日記はブラームスの記事で埋まっているし、シューマンの遺児もその様子を証言している。

さらに別な系統の証拠もある。それはシューマンからヨアヒムに送った手紙だ。周知の通り、ブラームスはデュッセルドルフのシューマン邸を訪れるにあたってヨアヒムからの紹介状を持参した。形の上ではヨアヒムの紹介により訪問したのだ。だからシューマンはその礼をヨアヒムに書き送る。「よくぞこいつを紹介してくれた」ということだ。「もしもう少し若ければ多韻律の詩を書いただろう」とブラームスと出会えた喜びを表現している。文学を志しただけのことはある。

さらに印象的なフレーズがある。「彼は40時間で地球の周りに輪を描ける男だ」というものだ。オリジナルのドイツ語がどういうものかわからないが、読めば読むほど魅力的な表現だ。

現在聴くことのできるブラームス作品のホンの数分の一の作品を聴いただけでこの熱狂ぶりだ。

2019年12月15日 (日)

立て続け

1853年9月30日ブラームスによるシューマン邸訪問は音楽史上のエポックになっている。このときブラームスはヨアヒムの紹介状を携えていたこともよく知られている。ブラームスよりたった2歳年長なだけのヨアヒムは既に相当顔が広かったということだが、シューマン夫妻との交流が始まったのは、そう古い話ではない。

1853年その年の低地ライン音楽祭に、シューマンとヨアヒムが出演して以来の付き合いらしい。シューマンはニ短調交響曲を指揮した一方、ヨアヒムはベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏した。ヨアヒムのこのときの演奏は圧倒的な成功で、シューマン夫妻との親密な交流のキッカケになったという。

そしてヨアヒムがデュッセルドルフのシューマン邸を初めて訪ねたのは8月28日である。ブラームスによる訪問のほぼ1ヶ月前だ。当時の夫妻の日記にはヨアヒムを賞賛する記述が見られる。ブラームスの出現と同じ扱いを受けているが、ブラームスがしばらく滞在したのに比べ、ヨアヒムの滞在は3日だった。

ロベルトはヨアヒムについて音楽誌に寄稿などしていない。先のコンチェルトのブレークで22歳のヨアヒムは既に世の中に知られていたから、スクープ性は低かったと思われる。

 

 

2019年11月11日 (月)

墓碑の完成披露

ボンの中央墓地にあるシューマンの墓には立派な墓碑がある。有名な墓碑だから写真くらいは見たことがある人も多いだろう。設立の費用4000ターラーは、チャリティー演奏会からの上がりでまかなわれた。この金額はエンデニヒへの入院費用8年分に相当する大金だ。

クララが月桂冠を捧げ持っている。この墓碑の建立は1880年5月2日だ。除幕式に際して演奏会が催された。

  • シューマン 「ミニヨンのレクイエム」
  • シューマン 「交響曲第3番」
  • ブラームス ヴァイオリン協奏曲 独奏:ヨーゼフ・ヨアヒム

管弦楽を指揮したのが他でもないブラームスその人。弱冠二十歳のブラームスをシューマンが楽壇に紹介してから27年、ブラームスは既にその道の泰斗になっていた。記念演奏会で、シューマン本人以外で唯一取り上げられたのがブラームス作品だったこと、それを指揮したのがブラームスだったことは象徴的だ。シューマンの後継者たる地位の追認に他なるまい。

2019年10月10日 (木)

コンサートツアー

クララ・シューマンにとってロベルトの入院後最初の演奏会シーズンとなった1854年秋の演奏会の記録を調べてみた。

  1. 10月16日 ハノーファー 宮廷演奏会
  2. 10月19日 ライプチヒ ゲヴァントハウス
  3. 10月23日 ライプチヒ ゲヴァントハウス
  4. 10月25日 ワイマール リストと共演
  5. 11月03日 フランクフルト・アム・マイン
  6. 11月04日 フランクフルト・アム・マイン
  7. 11月13日 ハンブルク フィルハーモニーとの共演
  8. 11月15日 ハンブルク・アルトナ
  9. 11月16日 ハンブルク
  10. 11月18日 リューベック
  11. 11月21日 ブレーメン
  12. 11月23日 ベルリン
  13. 11月29日 ブレスラウ
  14. 12月01日 ブレスラウ
  15. 12月04日 ベルリン ヨアヒムとジョイント
  16. 12月07日 フランクフルト・アム・オーデル
  17. 12月10日 ベルリン ヨアヒムとジョイント
  18. 12月16日 ベルリン ヨアヒムとジョイント 
  19. 12月20日 ベルリン ヨアヒムとジョイント
  20. 12月21日 ライプチヒ ヨアヒムとジョイント

いやはや意欲的である。1月以降はオランダにも足を伸ばすなど、ほぼこの調子で4月までのシーズンを乗り切った。これにより5000ターラーつまり15000マルクの収益があったとされている。

上記7から9の前後ハンブルク滞在の折、クララはブラームスの実家を訪れ、母ヨハンナから家族同然の歓待を受けている。

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