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カテゴリー「354 アマーリエ」の6件の記事

2021年6月 8日 (火)

ヨアヒムの長男

1月23日の記事「ヨアヒムはヴィオラを弾いたか 」でブラームスの「アルトとヴィオラのための2つの歌曲」op91は、親友ヨアヒムの長男誕生を祝う作品だと書いた。ブラームスから夢のような祝福をされたヨアヒムの長男の名前を調べて驚いた。

Johannes Joachim、ヨハネス・ヨアヒムだ。もしこれが偶然だったら、神も仏もない。父親ヨアヒムの意思に違いない。ヨアヒムは大親友のブラームスのファーストネームを長男に与えたのだ。ヨハン・セバスチャン・ヨアヒムでもなく、ルードヴィッヒ・ヨアヒムでもなく、フェリックス・ヨアヒムでもなく、ロベルト・ヨアヒムでもないことに計り知れない意味がある。

おそらくブラームスは事前に打診を受けていたのだろう。「もし男の子なら」と。

だからブラームスは、いっそう張り切ってお祝いの作品を書いたと解したい。

2021年6月 7日 (月)

離婚訴訟

19世紀きっての大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムの夫人はアマーリエといって、優れたコントラルト歌手だった。ドイツレクイエム初演の際にはヘンデルのアリアを歌った。

もちろんヨアヒムは夫人を愛したが、後年しばしば常軌を逸するほどの嫉妬心を燃やすようになった。年々エスカレートし、レッスンも取れない状況に陥って、とうとう離婚にまで発展した。そしてお決まりの訴訟だ。

実はヨアヒムが夫人との仲を疑った相手こそ、ブログ「ブラームスの辞書」で頻繁に話題にしている出版商フリッツ・ジムロックだった。

ヨアヒムの大親友だったブラームスは、ヨアヒム夫人に深く同情し慰める手紙を書いた。この手紙が、夫人の側から潔白の証拠として法廷に提出された。これにヨアヒムは激怒し、両者は絶交状態になり、回復には数年を要した。

激怒したヨアヒムだったが、親友のブラームスが夫人を潔白だと信じていたことを、心の底では喜んでいたという後日談もある。

 

 

2021年6月 5日 (土)

ヨアヒムはヴィオラを弾いたか

ヴィオラは私の愛奏する楽器だ。ヴァイオリンと同様に首に挟んだ状態で弓を弦にあてて演奏する。ヴァイオリンより5度低い音域となる。厳密なことを言い始めるといろいろあるのだが、演奏の方法はヴァイオリンと同じである。独特なハ音記号に慣れてしまえば、奏法自体には共通する部分が多い。古来ヴァイオリンの名手たちの何人かはヴィオラでも名人芸を披露している。スーク、ズーカマン、ミンツなどなどCDで聴くことも出来る。

ブラームスの恩人にして親友、そして当時最高のヴァイオリニストにヨーゼフ・ヨアヒムがいる。ブラームス唯一のヴァイオリン協奏曲を献呈される栄誉に浴している。奏者としてはもちろん教師としても優秀なヨアヒムは、はたしてヴィオラを弾いたのだろうかというのが本日のお題である。

結論から申せば「YES」である。私がそう考える根拠を以下に述べる。

作品91に「独唱アルトとヴィオラのための2つの歌曲」という作品がある。実際にはピアノも加わるトリオになっている。このうちの2番は「聖なる子守歌」と呼ばれているが、実はヨアヒム夫妻の長男誕生のお祝いに贈られた作品である。ヴィオラが冒頭で奏するのは「愛するヨーゼフ」という古い子守歌の旋律だ。すでにこのタイトルがヨアヒムのファーストネームと一致している奇遇を味わうべきである。この上に独唱アルトがオリジナルの旋律を重ね合わせて行く。ヨアヒムの妻アマーリエは才能あるコントラルト歌手だ。ブラームス歌曲のいくつかを初演するほどの腕前の持ち主だ。

こんな曲を長男誕生のお祝いに贈った場合、その意図は明確である。「一緒にアンサンブルをしよう」というお誘いに等しいと見るべきだ。ブラームスのピアノに、ヨアヒム夫人の独唱、そしてヨアヒムのヴィオラというアンサンブルが演じられたことは確実だ。手が大きいらしいヨアヒムのことだから、初見だとしてもキッチリ弾きこなしたことは想像に難くない。赤ン坊の傍らで弾かれる曲だからヴィオラにバリバリの超絶技巧が要求されている訳ではない。公式記録こそ無いがブラームス、アマーリエ、ヨアヒムのメンバーが初演者であることは確実である。それどころか演奏が終わって3人が笑顔で微笑みを交わしあったに違いないとまで断言したいくらいだ。

おそらくヨアヒムはヴィオラを弾いた。無論それをブラームスは当然知っていた。

2019年11月 9日 (土)

伴奏者クララ

ここで言う「伴奏者」とは声楽の伴奏という意味だ。

19世紀屈指のピアニストだったクララが、公の場で歌曲の伴奏をしたケースは非常に少ない。クララを伴奏者に従えて歌ったことがある歌手は男女それぞれ1名だけだという。男性はバリトン歌手ユリウス・シュトックハウゼンで、女性はコントラルト歌手アマーリエ・ヴァイスだ。大ヴァイオリニストのヨアヒム夫人は、超一流の歌手だったことがわかる。

だからハンブルク女声合唱団の名誉会員だったクララが、たとえ練習の折にでも、ピアノ伴奏をしてくれていたら、それはそれで大変なことなのだが、なんだかやってそうな気がして仕方がない。

2009年7月 3日 (金)

夫婦揃って

ブラームス作品の献呈の話だ。

夫婦揃ってブラームスから作品を献呈されているカップルがいる。

クララ・シューマンはブラームスからたくさんの曲を贈られているし、その子供たちも「子供のための14のドイツ民謡」を贈られている。3女ユーリエは「シューマンの主題による変奏曲」op23を献呈されている。ところがクララの夫ロベルトは1曲も作品が献呈されていない。だからシューマン夫妻は失格だ。

夫婦揃って作品の献呈を受けているのは、ズバリ、ヨアヒム夫妻だ。夫ヨーゼフ・ヨアヒムは、ピアノソナタop1とヴァイオリン協奏曲op77の2曲が献呈されている。希代のヴァイオリニストにして無二の親友だから特別扱いもうなずける。

その妻アマーリエは、優秀なコントラルトの歌手。ドイツレクイエム初演で、ヘンデルのアリアを歌った。彼女は「アルトとバリトンのための4つのニ重唱」を献呈されている。

  1. 尼僧と騎士
  2. 戸口の前で
  3. 水はざわめき
  4. 狩人と恋人

まさか、ヨアヒムがヴァイオリンを置いてバリトンで歌ったなどということはあるまいな。

そして何よりも大切なこと。この作品に与えられた作品番号は「28」である。つまりこれが今回の謝恩クイズの賞品である。夫婦円満か縁結びのお守りにもなりそうだ。

2009年4月26日 (日)

少年の魔法の角笛

マーラーの歌曲集のタイトルだ。アルニムとブレンターノによるドイツ民謡詩集にテキストを求めた管弦楽伴奏の歌曲集である。1892年から1898年にかけて徐々に作曲され、全曲の完成を待たずにその都度初演されていった。

このうち最初の2曲、1番「歩哨の夜の歌」2番「むだな骨折り」の初演者を見て驚いた。

1892年12月12日にベルリン・フィルをバックに歌ったのは、他でもないアマーリエ・ヨアヒムだった。つまりブラームスの友人にして当代最高のヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムの夫人だ。若きブラームスを魅了したコントラルトはこのときもまだ健在だったのだ。

ヨアヒム夫人は只者ではないのだ。

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