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カテゴリー「403 ジムロック」の58件の記事

2019年10月30日 (水)

エンデニヒの患者

シューマンが収容されたエンデニヒの療養所には1818年の創設から1934年の閉鎖まで、入院患者の詳細な記録が残っている。シューマン研究上のお宝であるのだが、そこには「ボンのジムロック」という人物が含まれている。

ブラームスの親友にして大出版社の経営者フリッツ・ジムロックはボンの出身だ。ブラームスやドヴォルザークの伝記を読む限り精神疾患の兆候は見られない。ジムロック社の創業者はフリッツの祖父ニコラウスで、創業の地はボン。フリッツその人がベルリンへ移転を挙行した。

「ボンのジムロック」という表現はフリッツの父か祖父を指していると解したい。

2019年10月21日 (月)

低地ライン音楽祭

ブラームスの伝記にしばしば現れる。1818年にロベルト・シューマンらによって創設された。「低地」とは「Nieder」だ。デュッセルドルフを含むルール地方はドイツの中ではライン川の最下流域に属する。

当時ドイツ国内における音楽活動の中心は、ライプチヒ、ベルリンあるいはミュンヘンだったから低地ライン地方での音楽活動を盛り上げる目的で作られた。デュッセルドルフの他、アーヘンやケルンなどの持ち回りで開催されていた。5月の聖霊降臨祭を含む期間が会期となる。

ジムロックとの出会いも実は低地ライン音楽祭だった。

2019年8月23日 (金)

祖父ニコラウス

ブラームスの財産管理人にして親友。後半生の作品ほとんどすべてを出版したのがフリッツ・ジムロック。その人の祖父はニコラウスという。彼が1790年にボンで創業したのが楽譜出版社ジムロックだ。

おそるべしとはこのことで、1802年同社はバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータを出版した。これがおそらく同作品集全曲の最古の出版だと目されている。現在のベルリン国立図書館所蔵の手書き譜のうち、当時バッハ本人の自筆と信じられてきた妻アンナ・マグダレーナの筆者譜を底本とした出版で、そこそこ売れたという。同筆写譜が妻の手によるものと判明したのは第二次大戦後だから、当時はまだ本人の自筆譜だと思われていた。

のちにベルリンに本社移転させたのはブラームスとの交友で知られる孫のフリッツというわけだ。名うての古楽譜収集家のブラームスとフリッツ・ジムロックの会話に「バッハの無伴奏パルティータ」が話題にならない方が不自然だ。

2019年7月30日 (火)

もう一人の候補者

1890年、ルスト未亡人の所有していた無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータの手稿譜を、ブラームスが出版を前提に友人と共同で買取を画策したことを話題にした。その友人をジムロックではないかと昨日書いたばかりだが、もう一人候補者がいる。「バッハ伝」の著者で友人のフィリップ・シュピッタだ。

1890年6月16日にシュピッタからブラームスにあてた書簡の中に、同手稿譜についての言及がある。内容までは不明だが、タイミングはピタリである。「ウィーン写本」と表記されている、これに対するブラームスの返信が残っていないなど謎も多く、まだまだ確認も必要だ。

「バッハ伝」第二巻の刊行が1879年、バッハ協会による旧バッハ全集の刊行が着々と進む中、シュピッタとブラームスの間で、シャコンヌを含む無伴奏ヴァイオリン作品が話題となったことは確実だ。

 

 

 

 

 

 

2015年8月26日 (水)

1:3:5

おかしなタイトルだがご辛抱いただく。

1873年だからドイツ帝国成立の2年後、通貨としてのマルクが導入された。ブラームス作品はこれ以降、事実上の独占出版権を持ったジムロック社からマルク建てで支払いを受けることになった。ブラームスから作品の原稿を買い上げる際に、ジムロックが支払った代金には、以下の通り取り決めがあった。

  1. 室内楽  3000マルク(およそ150万円)/曲
  2. 協奏曲  9000マルク(およそ450万円)/曲
  3. 交響曲 15000マルク(およそ750万円)/曲

交響曲は室内楽の5倍で、協奏曲は3倍だ。1891年に改訂されたピアノ三重奏には、ちょうど半額の1500マルクが支払われている。妙に整然とした体系で感心するばかりである。

ジムロックから支払われる原稿料は、楽譜に記される音符の数で決まっていたと思われる。編成が大きいほど、そして小節数が多いほど、高い金額が設定されていたとわかる。愛好家の間に巻き起こる感動の大きさとは必ずしもリンクしない。作り手のブラームスからしたら、脳内に出来た音楽を総譜に写す手間だけの差に違いないから、こうしたクールな設定で折り合っていたものと思われる。

その証拠に室内楽の買い取り価格3000マルクは、弦楽四重奏曲第3番op67から、最後の室内楽、クラリネットソナタ第2番まで、揺らぐことなく維持された。

問題は協奏曲だ。特にピアノ協奏曲第2番は、交響曲と同じ4楽章構成だったから小節数も多い上に、独奏楽器がピアノだから、音符の数が交響曲よりも膨らむ。少なくとも規模が小さいことで有名な第3交響曲よりは、手間がかかったのは確実だ。

おそらく、価格の見直しがあったのだろう。マッコークルの作品目録では、最後の交響曲と最後の協奏曲となった第4交響曲と、二重協奏曲において、原稿料不明としている。第四交響曲を20000マルクとし、二重協奏曲は15000マルクになったとにらんでいる。

2012年1月23日 (月)

軍楽隊の編成

実はドイツでは我々が日常親しんでいるクラシック音楽業界と平行して、ミリタリーマーチの世界が音楽界に並存している。一部クラシック系音楽との交流も起きているようだ。強国プロイセンの軍隊には行進曲の伝統があったのだ。

さて、我がブログの主人公ブラームスは軍隊系のマーチを遺してはいないが、それらの知識には事欠かなかったというささやかな証拠がある。親友にして大出版社の経営者ジムロックの証言だ。

大学祝典序曲の出版をめぐるブラームスとのやりとりの中で、ジムロックはブラームスに大学祝典序曲を軍楽隊の編成で出版するように薦めたという。もちろん結論から申せばこの話は却下になっているのだが、興味深い。

周知の通り大学祝典序曲はブラームスの管弦楽作品の中では、使用楽器の幅がもっとも広い。特に管楽器と打楽器の見本市だ。ジムロックはこの作品がブラームスの通常の管弦楽に無い特徴をもった編成だと瞬時に見破って、軍楽隊の編成を提案したと思われる。現行の大学祝典序曲の編成から弦楽器を省けという意味だ。

別人の編曲で恐縮だが1889年になって軍楽隊用の編曲版が出版されている。ブラームスの管弦楽曲で軍楽隊版が存在するのは大学祝典序曲だけである。

2011年7月16日 (土)

お盆のファンタジー8

昨日昼頃になって二日酔いで起きてきたブラームスと対照的に、ジムロックはまた冷静な口調で何卒サインをと言ってきた。交渉の続きがお望みらしい。すっかり打ち解けて度胸がついた私は「英語版の版権もつけて20000マルクではいかがか」と言ってみた。ジムロックさんが困った顔をしているのを見てブラームスが「わしもつきあいは長いが、こいつの困った顔をみるのは珍しい」としゃしゃり出る。茶化し専門だ。ジムロックはここでブラームスとひそひそ話を始めた。

やがてこちらにむきなおったジムロックは「英語版込みで15000マルクではいかがか」と譲歩して見せた。ブラームスは「わしの交響曲1曲と同じじゃよ」と何気にアシスト。ブラームスにアシストされてはこれ以上ごねるのも無理だ。「OK」と言うとジムロックは嬉しそうに握手を求めてきた。私が「で、英語版の翻訳は誰に頼むの?」と訊くとあっと驚く答えが返ってきた。「ドヴォルザークにお願いする」とは転んでもタダでは起きない商売人だ。

こちらも提案することにした。15000マルクは要らないから「ドヴォルザーク全作品の楽譜をくれ」と言うとジムロックもブラームスも腰を抜かさんばかりに驚いた。「本当にそれでいいのか」と私の顔をマジマジとのぞき込んだ。「出来ればドヴォルザークのサイン入りがいい」と言うと「それが一番難しい」と腕組み。

たった今帰っていった。フランクフルトに寄って帰るらしい。決勝戦を生で見るのだろう。今年は全く楽器に触らずに商談に徹した感じだった。驚いたのは帰り際に漏らしたジムロックの一言だ。「ドヴォルザークの辞書を書いたらまた版権を売ってくれ」とは仰天の申し出だ。この手の先読みが敏腕経営者の条件に違いない。

次女が高校オケに入った話しもしそこなった。

2011年7月15日 (金)

大看板

もはやジムロックは我がブログ「ブラームスの辞書」の大看板だ。先般のお盆記事「お盆のファンタジー」ので立て続けにジムロックを取り上げたおかげで、今日とうとうカテゴリー「403 ジムロック」に属する記事が50本に到達した。人名のカテゴリーで現在記事が50本を越えているのは我が家の長女と次女を除けば「ドヴォルザーク」「バッハ」「クララ」の3名だけだ。シューマンやベートーヴェンより先にジムロックが50本に達するあたりがブログ「ブラームスの辞書」の個性である。

継続中のハンブルク特集の中休みという形でお盆ネタを公開している。

女子サッカー日本代表にブラームスのご加護を。

2011年7月14日 (木)

お盆のファンタジー7

地震と女子サッカーの話が一段落するとブラームスはジムロックに話を振りながら「昨年連れてこようと思ったが、ドヴォルザークと一緒では、喧嘩になるからな」とジョークの先制攻撃。

そこに入ってきた娘たちは「誰この人」という反応だ。渋過ぎる来客だ。難しいので説明は諦めた。やがてジムロックがバッグから一枚の紙を取り出した。一番末尾を指さしながら、ペンを差し出してくる。私にサインをしろということらしい。ブラームスはニヤニヤしている。文面はきれいにタイピングされたドイツ語だが、全く読めない。困っていると横からブラームスが「こいつはいつもこんなだ。地震よりビジネスばかりだよ」と口を出す。「うっかりサインなんぞしちゃいかん。これは契約書だ」

おおってなもんだ。よく見ると中程に「Brahms no jisho」と書いてある。ジムロックは私の著書「ブラームスの辞書」のドイツ語版の版権を買いたいと低い声で切り出した。ライプチヒのドイツ国立図書館で見かけたと言っている。「ホントはオレが教えたんだ」とまたまた口を出すブラームス。「こいつと駆け引きしても無駄だよ。さっさとサインしちまいな」などとさっきと逆のことをけしかける。

買い取り価格の提示を見て驚いた。10000マルクだ。目を丸くしているとまたもやブラームスが「あんたもこの辞書を書くのに一年かけたんだろ、だから奴の気が変わらぬうちにさっさとサインをするに限るさ」とウインクするお茶目なブラームスだ。

成り行きを見ていたジムロックは「ドヴォルザークさんには黙っていて下さい」とも言っている。そりゃあそうだ。交響曲第8番に1000マルクを提示して紛糾したことは有名だ。「ドイツ語への翻訳は、天国で森鴎外先生にお引き受け頂きます」と仰天の提示があった。さすがジムロックだ。手回しがいい。

ここで長女がビールの用意が出来たといって入ってきた。商談はそこで止まってしまった。

2011年7月13日 (水)

お盆のファンタジー6

いつもの年より神妙にブラームスはやってきた。「今年日本は大変な災害があったのだろう」と汗も拭かずに切り出した。どうやらほとんどの事情を知っている口ぶりだ。2万人以上の犠牲者ということに衝撃を受けたという。

同行の紳士がおずおずと口を挟む。ブラームスはあわてて紹介してくれた。その紳士はフリッツ・ジムロックと名乗った。大出版社ジムロックの総帥にしてブラームスの友人だ。ビジネスマンというより大学教授か何かという雰囲気だ。おもむろに懐から封筒を取り出すと、私に握らせる。日本の人たちへの見舞金だという。「ブラームス先生と私からです」とジムロック。おお。そういえば彼はブラームスの銀行口座を管理していた。

ブラームスに向き直って礼を言おうとすると、ブラームスは別の封筒を取り出して私に手渡す。「私が身近の友人に声をかけて集めた分だ」と説明してくれた。封筒とは別に用意したノートには賛同者の自筆サインがある。「シューマン夫妻、ヨアヒム、ドヴォルザーク、メンデルスゾーン、ビューロー、マーラー、カルベック、ハンスリック、ミュールフェルト、イェンナー、マンディチェフスキー、ワーグナー、リスト・・・・・・・」ちっとも身近ではない。ブラームスはあちこちの友人に広く声をかけたに違いない。友人どころかあちら側陣営のワーグナーやリストにも頭を下げてくれたのだ。

「ありがとう」と手を握ると「サッカーの借りは必ず返すからな」とはぐらかすブラームスだった。

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    はじめての自費出版作品「ブラームスの辞書」の姿を公開します。 カバーも表紙もブラウン基調にしました。 A5判、上製本、400ページの厚みをご覧ください。
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