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カテゴリー「404 シュピッタ」の18件の記事

2021年7月10日 (土)

発起人団

高名な作曲家の作品全集は、個人や一出版社の手には余ることが多い。大作曲家ともなれば作品の総数は数百に届くし、ジャンルは多岐にわたる。バッハもベートーヴェンもモーツアルトも、もちろんブラームスもそうだ。だから全集の出版を目的として協会が設立され、人々が力を合わせることになる。

シューベルト協会は1884年に設立され、1897年にかけてシューベルト作品全集の出版にあたった。バッハ、ヘンデル、モーツアルト、ベートーヴェンに次ぐタイミングだ。メンバーには、クリュサンダー、シュピッタ、マンディチェフスキーに並んで、案の定ブラームスも名を連ねた。クリュサンダーはヘンデル、シュピッタはバッハの泰斗である。当時のウイーン楽壇の英知を結集するかぐわしいメンバーだ。

このうち歌曲編集の主幹はブラームス一の子分マンディことオイゼビウス・マンディチェフスキーその人だ。なんせウィーン楽友協会の司書だ。マンディは何かと師匠ブラームスに相談した。ブラームスはあれこれと苦言も呈するが基本的には仕事ぶりをほめている。

だから、ブラームスは当時のシューベルト研究の最先端の情報に頻繁に接していたと考えていい。

2021年3月25日 (木)

種々の楽器のための協奏曲集

オリジナルはフランス語「Concerts avec plusiurs insturments」と綴る。

バッハはブランデンブルク辺境伯へこの言葉を添えて6曲の協奏曲を献じた。就活の一環だったともささやかれているが、バッハの思いは「いろんな楽器を使ってみました」であった。

19世紀にはいって、バッハ復興が着々と進む中、フィリップ・シュピッタが登場する。バッハ研究の泰斗で、浩瀚な「バッハ伝」の著者であるばかりか、ブラームスの親友だ。

この人こそがこの6曲を「ブランデンブルク協奏曲」と命名したその人に他ならない。「種々の楽器のための協奏曲集」のままであったら、ここまで普及したかどうか疑問だ。CDショップ店頭でのオーラも低次元にとどまっていたことだろう。

 

2021年3月24日 (水)

ブランデンブルク協奏曲300年

バッハは就職活動の一環として6つの協奏曲をブランデンブルク辺境伯に献じた。世にいう「ブランデンブルク協奏曲」だ。自筆譜の表紙には自筆の献呈文がフランス語で添えられており、その日付が1721年3月24日となっている。だから今日は300年のメモリアアルデーだ。昨年末のベートーヴェンの生誕250年に比べれば世の中の扱いは小さかろう。本日このことに言及する人がどれほどいるのやら。ささやかなオリジナリティを発揮して明日から心ばかりの「ブランデンブルク協奏曲」特集を発信する。

 

2021年3月21日 (日)

リアライゼーション

ブラームスがバッハのカンタータ演奏の実績を積み上げたことは既に書いた。その中でBWV4「キリストは死の縄目につながれたり」が含まれている。「バッハ伝」の著者シュピッタは、同曲の演奏に際し、すでに演奏経験のあるブラームスからオルガンのパート譜の提供を受けた。1874年10月の書簡にそのことが書いてある。

通奏低音を受け持つオルガンのパート譜だ。バロック時代のしきたりに従えば、通奏低音には単音が記され、そこに付与された数字を見ながら、演奏者がアドリブで和音をさしはさむのだが、19世紀のロマン派の時代にあっては、もはや現実的ではなく、だれかがあらかじめ演奏すべき音を記した楽譜を使うことになる。本来アドリブで埋めるべき音を、あらかじめ楽譜に転写しておくことをリアライゼーションという。

シュピッタが所望したオルガンのパート譜には、ブラームスのリアライゼーションが施されていたということだ。シュピッタは同曲の演奏にあたりブラームスのリアライゼーションを採用したのだ。このときブラームスは41歳だが、バッハの校訂者、解釈者、演奏者としての位置づけが確立していた証拠だ。超一級のバッハ学者からリアライゼーションを所望されることの意味は大きくて深い。

ウィーン楽友協会に残されたブラームスの遺品には、「おお永遠の火、愛の源よ」BWV34のフルスコアがある。1875年1月10日の楽友協会コンサートのためにブラームスが準備したスコアだ。その最下段オルガンのパートのみブラームス自身の筆跡であることから、これがブラームスの手によるリアライゼーションだと考えられている。つまり、ブラームスはバッハのカンタータの演奏のたびに通奏低音としてのオルガンパートにリアライゼーションを施していた可能性が高い。

どこかにリアライゼーション・ブラームス版に準拠したCDはないものか。

本日バッハさんのお誕生日。

 

 

2021年2月22日 (月)

共同校訂者

ブラームスはフランソワ・クープランの出版にも関与していた。校訂者という位置づけなのだが、クリュザンダーとの共同作業ということになっている。クリュザンダーは、ブラームスのお友達だ。ヘンデル研究の泰斗として知られている。

ブラームスはバッハ伝の著者で友人のフィリップ・シュピッタへの書簡において、クリュザンダーのことを話題にしている。1870年2月のことだ。どちらかといえばネガティブな話題で、グチに近い。一か月後シュピッタからの返信はこれに同調する内容だ。

タイミングから見て、おそらく共同校訂の相棒に対するグチだと推測される。

 

 

 

 

 

 

2019年7月22日 (月)

何たる情報網

旧バッハ全集出版の段階で、一連の無伴奏ヴァイオリン作品6曲は、バッハ本人の自筆譜が参照されていなかった。2人目の妻アンナ・マグダレーナの手による精巧な筆写譜が自筆譜だと思われていた関係もあっての仕方のない現象だ。

1906年ヨアヒム主導で自筆譜が再発見されるまで、ずっと日の目を見ることがなかった。旧バッハ全集刊行後に同自筆譜の所有者となったウィルヘルム・ルストは1892年に没するまで少なくとも公には沈黙していた思われる。1892年に没した後、未亡人オルガが同楽譜の処遇を関係者に相談するようになって、その存在が本格的に取り沙汰されるようになった。シュレーダー先生の著書、「バッハ 無伴奏ヴァイオリン作品を弾く」の57ページ脚注に驚くべき記述がある。

バッハの無伴奏ヴァイオリン作品の自筆譜の存在に関して、最も早い言及は1890年のブラームスシュピッタの往復書簡の中に現れると断言している。

シュレーダー先生の原著は2007年の出版だ。20世紀のバッハ研究の成果を反映しきった最先端の書物だから、そこで最初の言及だとお墨付きをもらうということは大変なことだ。誰から聞いたのだろう。死没直前のルスト本人から相談されていた可能性さえ感じる。

2019年6月 7日 (金)

あっと驚くシュピッタ

オルガンコラールの重複も顧みず、オルガン自由曲の楽譜欲しさに、ブクステフーデオルガン作品全集のスコアを入手して、BuxWV137のペダルソロを見つけた喜んだ。ところがそれはほんの序奏だった。

 

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新しく買い求めた左側の楽譜、店頭でいきなり目次に目を通してしめしめとほくそ笑んだ。だから見開きを見落としていた。

 

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校訂者がフィリップシュピッタになっている。えーっ!!!!てなもんだ。先に買い求めていた写真右の楽譜の見開きにはシュピッタの名前などない。

我が家所有のバッハのオルガン作品の楽譜にもシュピッタの名前はなくバッハゲゼルシャフトとなっている。BuxWV番号順の収載そのものにはシュピッタの関与はないが、作品個々の校訂者としては名前が残っているということだ。

ブラームスからブクステフーデ作品の出版を薦められたエピソードに迫真の説得力を付与する記載だ。ブラームスの親友にして、19世紀最高のバッハ研究家だったシュピッタは、ほぼ間違いなく、ブクステフーデ研究の第一人者でもあったということだ。ブラームスはシュピッタから、ブクステフーデの楽譜を含む、さまざまな情報を得ていたと考えるのが自然だ。

なんだかうれしい。

2019年5月11日 (土)

パッサカリアニ短調BuxWV161

ブラームスとブクステフーデの関係を語る上で避けて通れないブクステフーデのオルガン作品。1875年に最初に出版された時の校訂者が、ブラームスの親友で、当代最高のバッハ研究家のシュピッタだった。この時期ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」の作曲とタイミングがあっている。フィナーレにパッサカリアが来ることは周知のとおりだ。

ブクステフーデのパッサカリアニ短調は、自筆譜が失われている。毎度のことだ。バッハの長兄ヨハン・クリストフによる写本によって現代に伝えられている。

作品冒頭低音主題が28回繰り返される。7回ずつ一組の4部構成という端正な設計である。おそらくブクステフーデのオルガン作品としては最も有名な部類に属する。

ああ。何を隠そう、本作の出版をシュピッタに勧めたのはブラームスだった。

 

 

 

 

2018年5月 3日 (木)

バッハ伝とブラームス伝

断りなく「バッハ伝」と言えば、ブラームスの友人フィリップ・シュピッタの著作を指す。19世紀を通じて高揚した音楽学を象徴する功績である。後に続く作曲家研究の学問的手法着眼を確立した功績はまことに大きい。

ベートーヴェンのノッテボーム、ハイドンのポール、モーツアルトのヤーン、ヘンデルのクリュザンダーなどがシュピッタに続くことになる。ブラームスはこうした研究者と親しく交流することで、最先端の研究に深く触れることができた。

一方「ブラームス伝」といえば、20世紀に入って刊行されたカルベックの著作を指すのが一般的だ。

ところが、カルベックは、シュピッタを筆頭とする綺羅星のごとき研究者の一群に算入されていない。これはカルベックの「ブラームス伝」の執筆方針、資料解釈に疑義があることに起因する。全8巻の膨大な著述が、研究書としての位置づけを獲得していないことに他ならない。

思い込みを含めたカルベックの考えに沿うよう、資料の意図的な取捨が行われている。著述には小説然とした大仰な装飾も一部散見される。哲学書を思わせる難解な記述もある。事実の羅列になっていない。かといって正当な仮説の提示というわけでもない。「ブラームス初の伝記」の域を出るものではないという厳しい意見もある。

2018年4月 6日 (金)

モテット

ミサ曲以外の宗教的声楽曲の総称。起源はルネサンス期に遡るという。バッハも数多くのモテットを書いたし、モーツアルトには名高い「アヴェ・ヴェヌム・コルプス」がある。

バロック時代には欧州各地で地域ごとに独自の発展を遂げる。ロマン派の興隆により、宗教曲の相対的な地位が下がるともに下火に転じたとされている。

ロマン派も土壇場に近いブラームスも合計7曲のモテットを書いている。

  1. 2つのモテットop29
  2. 2つのモテットop74
  3. 3つのモテットop110

律儀なことに初期中期後期に一度ずつ置かれている。宗教曲らしく全てが無伴奏つまりアカペラと明示されている。バッハやシュッツのようなドイツの大先輩たちの向こうを張った作風だ。このうちのop74は、当代最高のバッハ研究家、フィリップ・シュピッタに献呈されている。

こういう曲を書くから保守的だのなんなのと外野席から野次が飛ぶのだと思う。

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