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カテゴリー「411 マンディ」の8件の記事

2021年9月12日 (日)

マンディの功績

マンディチェフスキーに対するブラームスのかわいがり方は昨日述べたばかりだが、フィッシャーディースカウ先生の「シューベルトの歌曲をたどって」の中でもよく取り上げられている。つまりシューベルトを論ずる際にも不可欠ということだ。そりゃ、ウイーン楽壇が総力を傾けたシューベルト全集の歌曲部門の編集主幹だから、当然と言えば当然だ。バッハ研究におけるシュピッタのような圧倒的な存在感を発する。

フィッシャーディースカウ先生はマンディチェフスキーはシューベルト歌曲の厳密な校正に際して下記を参照したと列挙する。

  1. 自筆草稿
  2. シューベルト自身が出版に関与した出版の初版
  3. シューベルトが関与しない出版の最古の版
  4. 同時代の親しい関係者の写本

これはまさに信頼性の高い順だ。資料に対するこうした厳密な姿勢はシュピッタに通ずるものがある。やがてブラームス全集の編集にも関わったのもうなずける。

 

2021年9月11日 (土)

マンディの証言

マンディとはオイゼビウス・マンディチェフスキー(1857-1929)のこと。ブラームスの伝記に現れるときは一の子分的な言われ方をする。ウイットに富んでいて、ブラームスが発するジョークに気の利いた対応を見せるあたりがたいそう 気に入られていたのだが、実はかなりの才人。楽友協会の司書、作曲家、合唱指揮者、音楽院で教えていたこともある。のちにブラームス全集の編集にも携わった。

シューベルトとの関係でいうなら、シューベルト全集歌曲部門の編集主幹。ブラームスはその編集方針をめぐり「出せばいいってものではない」などと苦言も呈するが、いざ出版されると自ら非を認め絶賛したばかりかポケットマネーからポンと一万マルクを贈る。

没する数か月前には、「物静かな不屈の仕事人で若者の鏡」とまでほめちぎる。

 

2021年7月10日 (土)

発起人団

高名な作曲家の作品全集は、個人や一出版社の手には余ることが多い。大作曲家ともなれば作品の総数は数百に届くし、ジャンルは多岐にわたる。バッハもベートーヴェンもモーツアルトも、もちろんブラームスもそうだ。だから全集の出版を目的として協会が設立され、人々が力を合わせることになる。

シューベルト協会は1884年に設立され、1897年にかけてシューベルト作品全集の出版にあたった。バッハ、ヘンデル、モーツアルト、ベートーヴェンに次ぐタイミングだ。メンバーには、クリュサンダー、シュピッタ、マンディチェフスキーに並んで、案の定ブラームスも名を連ねた。クリュサンダーはヘンデル、シュピッタはバッハの泰斗である。当時のウイーン楽壇の英知を結集するかぐわしいメンバーだ。

このうち歌曲編集の主幹はブラームス一の子分マンディことオイゼビウス・マンディチェフスキーその人だ。なんせウィーン楽友協会の司書だ。マンディは何かと師匠ブラームスに相談した。ブラームスはあれこれと苦言も呈するが基本的には仕事ぶりをほめている。

だから、ブラームスは当時のシューベルト研究の最先端の情報に頻繁に接していたと考えていい。

2021年7月 7日 (水)

D945

昨日の記事「D946」で思い出した。その一つ前の「D945」の一件だ。音楽之友社刊行のブラームス回想録集第2巻96ページ。ホイベルガーの証言。

ブライトコップフ最新刊のシューベルトがブラームスと話題になった。それまで知られていなかった歌曲数曲について、刊行の裏話をブラームスが披露したようだ。これによれば、ブラームスがあるアメリカ人の訪問を受け、持参した楽譜帳に意見を求められた。この系統の話は大抵眉唾なのだが、今回ばかりは違って必死に写譜したと言っている。1828年レルシュターブのテキストにシューベルトが付曲したものの、ノッテボームが紛失作品扱いしていた貴重な作品だということだ。シューベルト協会のマンディチェフスキーに言いつけブライトコップフから出版にこぎつけたと。これが「秋めいて冷たい風が吹く」D945だというのだ。1893年3月28日の出来事。

昨日のD946よりさらに25年遅れての出版ということだ。

2010年3月20日 (土)

出版のわきまえ

ブラームスの伝記を読んでいると随所に楽譜を出版した話が出てくる。それに関連したブラームスの意見も目にすることがある。

曰く「出しゃあいいってもんじゃない」である。

一の子分オイゼビウス・マンディチェフスキーが編集主幹となったシューベルト全集については、若書きまでが律儀に印刷されていることを嘆いている。シューベルトだって若い頃は変な作品を書いている。ベートーヴェンだって同じだという。ブラームスのこうした言葉には説得力がある。自らの作品への厳しい判断基準を我々は知っているからだ。世の中に楽譜出版が生業として認知されて行くと、出版されなければ書かなかったも同然なのだ。だから出版するしないにあたっては万全の判断をした。出版にあたらずと判断した作品の楽譜廃棄にも気を配った。

クララは夫ロベルトの若書きの出版に慎重だった。ブラームスは「あの人(クララ)はシューマンの若い頃の作品の楽譜を燃やしたンだと。立派な見識だ。なかなか出来ることではない」と述べている。

自らが世に送り出してその才能を賛美していたドヴォルザークに対しても「出せばいいとうものではない」という作品もあった。ドヴォルザークはプラハのオルガン学校を卒業してから作品が世に出るまで12年の歳月を要した。もちろんその間にも作曲は続けていた。スラブ舞曲でブレークした後、新作の注文が殺到したばかりか、初期の未出版作品にも白羽の矢が立った。ドヴォルザークには少々気の毒だが、「出しゃあいい」というノリがきっと出版社側に存在した。もしかするとジムロックの都合である。

2009年9月24日 (木)

1000マルク

シューベルト全集が1885年に完成を見た。ブラームスが深く校訂に携わっていたことは事実だが、責任者ではなかった。このとき編集主幹を務めていたのは、ブラームス一の子分というべきオイゼビウス・マンディチェフスキーだった。楽友協会の司書を務める切れ者だ。

ブラームスはシューベルトの若書きまでもが律儀に印刷されていると苦言も呈するが、若い子分のこの業績をねぎらった。何せシューベルト全集の編集主幹だ。よくやったとばかりに暖かなメッセージを添えて1000マルクをマンディチェフスキーに贈ったのだ。ポケットマネーをポンと50万円出したというわけだ。

ドヴォルザークの第8交響曲の原稿買取にジムロックが提示したのが1000マルクだった。これがブラームス第一交響曲の15分の1の金額に過ぎず、ドヴォルザークの逆鱗に触れ、交渉が決裂したことは一昨日取り上げたばかりだ。

ところが同じ1000マルクをブラームスは、子分の偉大な業績にご祝儀として自腹を切る。使いどころを心得たと言うか、生きたお金と言うか絶妙な金銭感覚だとうならざるを得ない。ジムロックとしては商売に徹しただけで、事情も考えもあったに違いないが、結果としてブラームスの太っ腹振りを印象付けるエピソードだ。これが当時のドイツの下級労働者の1年分の生活費に相当する大金だということも肝に銘じておきたい。

2008年9月18日 (木)

オルガンコラールのピアノ連弾版

バッハの編曲物の売り場を何気なく見ていて発見した。唖然とするほどのお宝だ。

Yaara Tal と Andreas Groethuysen という2人のピアニストが弾いている。 マックス・レーガーのオルガンコラールop30のピアノ連弾版。それからバッハのオルガンコラールのピアノ連弾版(Reinhard Febelという人の編曲)以下の7曲だ。

  • BWV734
  • BWV659
  • BWV694(version a)
  • BWV639
  • BWV663
  • BWV694(version b)
  • BWV721

見ての通り、オルガンコラールのピアノ連弾版」というテーマであることは明らかだ。アルバムタイトルは、そのものズバリの「Choral Preludes」となっている。2007年の発売で、収録した全ての曲に、どうやって調べたか「世界初録音」の文字が躍っている。ジャケットのデザインも何だかさめざめとした感じ。アルバム全体に、ただならぬ意図が充満している。

ピアノ連弾であることが意味あり気に迫ってくる。オルガン特有の量感が上手く表現されている。

そして何と言ってもこのアルバムの売りは、ブラームス最大の作品番号122を背負った「オルガンのための11のコラール前奏曲」のピアノ連弾版だ。編曲者はブラームス一の子分、オイゼビウス・マンディチェフスキーだ。

良い。端正な演奏だ。編曲者の存在を忘れさせてくれるほどだ。これは恐らくマンディチェフスキーの意思。ブラームスがバッハ作品の編曲で見せたストイックな姿勢と同質だ。マンディチェフスキーのブラームスへの敬意が素直に伝わって来る。もしかするとマンディチェフスキーは「何もせぬ事」を心がけたのではなかろうか。

極楽極楽。このCDをみつけたのがブラームスの売り場ではなくてバッハの売り場だったこともとっておき感を高めている。

2008年9月15日 (月)

マンディチェフスキー

オイゼビウス・マンディチェフスキー(Eusebius Mandyczewski1857-1929)はブラームスの友人だ。少し詳しい伝記には載っている。友人というより「一の子分」という雰囲気である。もちろんキチンとした音楽家である。私がオケにのめり込み始めた頃のスター指揮者だったカール・ベームやジョージョ・セルの恩師でもあるくらいだから、よっぽどの人物なのだ。

彼はブラームスに心酔するあまりほとんど「無給の秘書」状態だったという。

さて晩年になって十分な収入を得るようになっても、ブラームスは質素な生活をした。趣味は古楽譜や書籍の収集だ。だから彼は膨大なコレクションを残した。手回しのいいブラームスは貴重な文献の寄贈先を生前に決定していた。それはつまりウイーン楽友協会だ。そのウイーン楽友協会の司書を務めていたのがマンディチェフスキーその人である。司書とはまさに楽友協会の蔵書の番人だ。ブラームスライブラリーの管理人としてうってつけの人物である。

もちろん彼の功績はそれにとどまらない。楽譜校訂をさせても一流だった。シューベルト全集の編集主幹として仕切ったことをブラームスに誉められている。そのほかブラームスと共同で何人かの作曲家の楽譜を校訂している上に、御大ブラームス作品の校訂者にもなっている。我が家にもある。「4手のためのピアノ曲楽友協会版」の校訂者がマンディチェフスキーその人になっている。

ブラームスの生きた19世紀後半は、バッハ再興と平行して音楽学が根付いて行った時代だ。ブラームスは気鋭の音楽学者たちとの交流を通じて、最先端の音楽学を吸収していた。音楽の研究にとって、作曲家の自筆譜を含む古楽譜が超一級の資料であることを自覚していたハズだ。自らのコレクションが音楽学に多大な貢献をする宝の山であることさえ知っていたに決まっている。

だからブラームスは迷わずマンディチェフスキーにコレクションを委ねた。ブラームスのコレクションはその全量が散逸することなく今日に伝えられた。

思いがけないところから貴重な楽譜が発見されるという楽しみと引き換えだ。

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