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カテゴリー「416 カルベック」の3件の記事

2009年5月 4日 (月)

カルベック

今日はマックス・カルベック(Max Kalbeck1844-1921)の命日だ。

ブラームスの友人。20世紀になってから全4巻からなる大著「ブラームス伝」を著した。現在もなおブラームス研究の最重要文献の座に君臨中だ。

音楽評論家としても名高い。ブラームス擁護の論客だ。ウィーンの有力誌への執筆活動を通じた影響力は、ハンスリックにさえ匹敵している。作品の評価をめぐってのブラームス本人との丁々発止のやりとりは、後世の愛好家にとって大変興味深いものである。

この人にはさらに作家の一面もある。脚本家、翻訳家としても活躍した。

もっとある。ブラームスの歌曲「夢に遊ぶ人」(Nachtwandler)のテキストはカルベックによるものだ。op104-3を背負ったアカペラの合唱曲のテキストもカルベック。ブラームスがカルベックの作品に曲を付けたのはこの2例だけだ。

たった2例とはいえ、この「夢に遊ぶ人」は絶品だ。一つ前の作品番号op86-2絶唱「Feldeinsamkeit」を何回も聴いているうちに見つけた。ベスト10に入る。

2008年2月 6日 (水)

学者交友録

以下の人物のリストをご覧頂きたい。

  1. カルベック(ブラームス)
  2. クリュサンダー(ヘンデル)
  3. シュピッタ(バッハ)
  4. シュピーナ(シューベルト)
  5. ノッテボーム(ベートーヴェン)
  6. ポール(ハイドン)

6人ともブラームスの友人だ。当代きっての音楽学者たちであり名前の後ろに記した作曲家についてのスペシャリストである。「カルベック=ブラームス」という冗談はさておき何とも華麗な交友録である。

これらの友人たちから吸収した情報がブラームスの作品に反映されていることは想像に難くない。こうしてブラームスは自らが第一級の作曲家でありながら、当代最高級の古楽譜の収集家となり、同時に超一流の楽譜校訂者となってゆくのだ。

ブラームスが楽譜の校訂に携わったり、全集の出版に関わった作曲家をざっと列挙する。

  1. カール・フィリップ・エマニュエル・バッハ JSバッハの次男。
  2. ウイルヘルム・フリードリヒ・バッハ バッハの長男。
  3. クープラン
  4. モーツアルト
  5. ベートーヴェン
  6. フランツ・シューベルト
  7. ロベルト・シューマン

まさに学者顔負けである。さらに驚くべきことにこれらの校訂への関与は無署名で行われているのだ。

もしも当時携帯電話があったらブラームスのアドレス帳は華麗な学者の名前で埋まっていたに違いない。

2006年10月20日 (金)

Komm Bald

作品97-5を背負った歌曲で「早く来て」と訳される。

作詞者はブラームスの友人のスイスの詩人クラウス・グロ-トだ。1885年5月7日つまりブラームス52歳の誕生日にこの詩を贈ったところ、ブラームスがその場で作曲したと、贈り手のグロートが証言している。

だとすると10月16日の記事「焼却漏れ」でも話題にした作曲の途中経過はどうなっていたのだろう。よく寄席の会場で、客席からお題を募って、その場で小話を作ってしまう名人芸に似ている。

ブラームスは贈られた詩をその場で読んで意味内容意図を理解したばかりか、韻律をも呑み込んで瞬時に曲をつけて見せたことになる。誕生日に詩を贈られたことに対する、最高の返礼なのだろう。

実際に曲を聴く。ブラームス特有の「インテルメッツォ系遅めの3拍子」だ。中音域でたゆとう旋律の微妙な進行が悩ましくも美しい。この規模の曲で、苦心惨憺推敲三昧ではかえって良い作品にはならないのだとも思えてくる。ブラームスは別の知人に「よかれと思って出来上がった曲をいじると大抵は元よりダメになる」とも語っていた。

もちろん現在流布している「Komm Bald」の楽譜が、この時グロートに示されたものと全く同一である保証はないが、興味深い話である。

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