記事「グリム兄弟」で少しだけ言及した。兄弟のライフワークだ。原題を「Deutshes Worterbuch von Jakob Grimm und Wilhelm Grimm」という。全16巻32冊の大著だ。世に名高い「ゲッティンゲン7教授事件」に巻き込まれて失職した兄弟の救援事業として発案されたとも言われている。32冊の1冊1冊が数百ページに及ぶというヴォリュームには圧倒される。
単語の意味の解説はシンプルなものだ。記述の力点は用例の列挙や歴史的背景の解説にある。ルターからゲーテにいたる広範な書物の中から適切な用例が列挙されている。オランダ語、デンマーク語などゲルマン兄弟語への言及や、ゴート語など古語への配慮も手厚くなっているらしい。刊行が始まると同時に「非実用的だ」という批判も後を絶たなかったとされる一方で、リルケ、ホーフマンスタール、トーマス・マン、ヘッセなど錚々たるメンバーが絶賛している。一度ページを開くとしばらく読み耽ってしまうという証言が複数存在する。
少なくともグリム童話のような家庭的な内容を期待した人々はがっかりしたと思われる。アルフェベット順に執筆が進められたが兄弟の生前には完成するはずもなく、最後まで残ったヤーコプは、「Fruicht」(果実)の項まで書いたところでこの世を去ったという。
「意味の解説はごくごくシンプルで、用例の列挙に力点がある」という編集方針を読む。事実上辞書の体裁を持った博物誌だ。僭越ながら「ブラームスの辞書」と同じである。必要箇所を引くというより最初から読まれたいという点でも一致するような気がする。
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