サッカーの世界ではおなじみのフォーメーション用語。敵ゴールに近い位置に何人の選手を配置するかということを端的にあらわしている。3トップはフォワード3人ということだ。FW一人なら1トップだし、2人なら2トップである。4人以上は見かけない。どれがいいとは一概には言えない。監督の個性、選手の個性、相手との相性、チームの置かれた状況などにより左右される。
昨日の記事「師団長のための独和辞典」を思い出して欲しい。連隊以下の組織は、4つに細分化されることで成り立っている。これはプロイセン軍の伝統だ。兵を4分割して戦うことを意味する。それらは左翼、中堅、右翼、予備となって戦いに望む。だから3トップだ。
ところがフランスを調べて驚いた。フランスは4分割ではなくて3分割だ。3個小隊が中隊になり、3個中隊が大隊になる。連隊は大隊3個から構成される。それらが中堅を欠く両翼に、予備隊を構成するということだ。要するにフランスは2トップである。
プロイセンの軍制は、ナポレオンに蹂躙された苦い経験から編み出された。「どうすればナポレオンに勝てるか」「どうすれば負けずにすむか」を練りに練って考案された仕組みだという。人数を減じたユニットでフランスの両翼を各個撃破する戦術に対応して3トップがひねり出されたと解し得る。このあたりのいたちごっこはサッカーと同じだ。
少年時代からブリキの兵隊人形遊びに興じ、成人してからも大切にとってあったブラームスは、兵隊人形の隊形を3トップにしていた公算が高い。
正確な定義は私の手に余る。
音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第3巻99ページに現われる。どのようなドイツ語がこのように訳されたかは不明だ。
シューマンに認められて世に出る前、ハンブルクでの下積み時代を回想する中に現われる。食って行くためにダンスやマーチを編曲したり、オーケストラ作品をピアノに編曲したりという仕事を「手間賃仕事」とブラームス自身が表現していると読める。
作曲家として名を成した今、自らの芸術を世に問う創作以外の仕事を「手間賃仕事」と言っていると解したい。
昔の仕事の成果が、作者不明という形でブラームス本人の耳に入ってくることもあったのだろう。そうした経験が無駄だったと思ったことなど無いと結ばれる。嫌味のないしみじみとしたニュアンスだ。
ン十年前の手間賃仕事でも、自分の作品だと判るのだと、別の意味で感心した。
陣営に不可欠な重要人物を招聘する際に手厚く礼を尽くすこと。出典は大好きな三国志だ。前半のヤマ。主人公劉備玄徳が、隆中に隠遁中の伏竜こと諸葛亮を配下に加えるために、草庵を三度訪問して説得した故事にちなむ。諸葛亮は説得に応じ君臣水魚の交わりをなす。以降、劉備亡き後も蜀の屋台骨を支える活躍をする。てゆうか彼本人が屋台骨そのものだ。
現代でも選挙の出馬や、監督人事を報ずる際に用いられることがある。
ブラームスにもあった。
1843年のことだ。ブラームス最初の教師コッセルは、ブラームスの才能をさらにワンランク上へと押し上げるために、自らの師であるマルクゼンに推挙する。10歳のブラームスの才能こそ認めたものの、マルクゼンは今のままで充分と判断し要請を断る。数ヵ月後今度はブラームスの父がマルクゼンを訪れて、弟子に加えることを要請する。
これでマルクゼンは折れた。週一回のレッスンに応じたのだ。劉備よりも1回少ない。いわば「ニ顧の礼」だ。1回分はブラームスの才能により割引があったと見る。
音楽之友社刊行の「作曲家◎人と作品シリーズ」のブラームスの13ページに興味深い記述がある。6歳のブラームスがハインリヒ・フリードリヒ・フォースの経営する初等学校に入学したとある。「フォース」のスペルが不明なのが残念だ。ドイツ人の姓としてありふれたものではない。
昨日の記事で戦艦ビスマルクが建造された造船所について述べた。その共同設立者がエルンスト・フォスだと書いた。「フォス」は「Voss」である。「Voss」がカタカナに転写される際「フォス」または「フォース」になるのは自然だ。造船所の創設はブラームスの初等学校入学よりもかなり後だが、ありふれていない姓「フォス」がどうも共通しているような気がする。
米国では発生したハリケーンに名前を付ける。アルファベット順に男女交互の名前があらかじめ用意されている。日本の台風は毎年発生順に番号が付与されるに過ぎない。
台風には名前はつけなかったのだが、江戸時代にしばしば猛威をふるった大きな火事つまり大火には名前がついている。1657年の大火は「振り袖火事」、1682年のものは「お七火事」という具合だ。ハリケーンは発生と同時に命名されるが、火事は鎮火後だ。迫り来る火から逃れるだけで精一杯で名前をつけているヒマはない。大勢の人の命を奪う火事だが、その魔の手から逃げきった人々が後から名前を付けるのだ。
ブラームスの故郷ハンブルクも大火に見舞われた。
1842年5月5日午前1時に出火。折からの北西の風に煽られて丸2日燃え続けたという。消失面積は約160平方キロだ。ハンブルク市の下町ほとんど全てを焼き尽くしたこの火事の規模がどれだけかというと、神奈川県川崎市を焼き尽くしたくらいと思えばどれだけの一大事か想像が付く。
ブラームスの伝記のうちいくつかはこの大火に言及している。ブラームスはもちろん家族もこの火事で亡くなっていないが、親戚あるいは知人の中には命を落としたり家財を失ったりした人もいるだろう。それがブラームスのペシミスティックな人生観に影響を与えたという説を提示している記述もある。
何よりもブラームス9歳の誕生日の2日前だ。丸2日燃えたとあるから鎮火は5月7日だったハズだ。この年ブラームスは誕生日を祝ってもらえなかった可能性もある。
ハンブルクのシンボルと位置づけられる教会。ハンブルク港を目指す船乗りたちの目印にもなったが、第2次世界大戦の時は連合軍の爆撃作戦の目標にもなったという。エストウエスト通りという見抜き通りに面している。
1833年にハンブルクで生まれたブラームスが洗礼を受けたことでも知られている。
さてさて1897年グスタフ・マーラーがカトリックへの改宗のため洗礼を受けたのが、聖ミヒャエル教会だとされている。マーラーの伝記を読むと必ず言及されているエポックだが、「ハンブルクの聖ミヒャエル教会」とだけされていて、はたしてブラームスが洗礼を受けたのと同一の教会なのか確認が出来ない。
周知の通りブラームスはプロテスタントだ。マーラーの改宗はローマカトリックへの改宗だから、同じ教会ではあり得ないかとも思う。岩波書店の「グスタフ・マーラー事典」では「小さな聖ミヒャエル教会」という表現が見られる。「小さな」というのが気になる。ブラームスが洗礼を受けたハンブルクのシンボルであるところの聖ミヒャエル教会とは別のという意味が「小さな」に込められている可能性がある。
2つ以上のことを同時にする行う人々のこと。気のせいかもしれないがあまりポジティブな意味では用いられない気がする。かといって決定的に不都合かいうとそういうニュアンスでもない。「困ったものだ」くらいな緩い反省をも含む。聖徳太子はこれに含めないのが普通だ。
お菓子食べながらテレビ見る。ゲームしながら本を読む。音楽聴きながら勉強する。などなどいくらでも思いつく。
ブラームスの伝記には少年時代に家計を助けるために酒場でピアノ弾きのアルバイトをしていたことが、大抵書かれている。まれにピアノを弾きながら読書をしていたエピソードが披露されていることがある。
指は鍵盤の上を機械的に動きながら、目は譜面台の上に置かれた本を読んでいる状態だそうだ。本当に出来るのだろうか。
真偽は定かではない。ブラームスの読書好きの性格と、少年時代の苦労振りを強調する創作という可能性も否定しきれない。
もし事実ならピアノ演奏しながら読書する「ながら族」だ。
学生時代の収入源だった。
演奏会のチケットノルマ、部費、合宿費のほか、レッスン料、コンパ、楽器の維持費などなど、学生オーケストラもなかなかお金がかかるのだ。
私は家庭教師をメインに、遺跡調査、図書館の本の整理、パン工場の夜勤、家具の配送、オフィスの引越しなどを手がけたことがある。思いがけずにヴィオラの弦が切れたりすると大変だった。しかし、それは皆オーケストラ活動のためであって、けして家計を助けるためではなかった。
ブラームスの伝記を紐解けば、10歳を少し超えた頃、ブラームスが酒場でピアノを弾いて家計を助けたことが書かれている。教育上好ましくなさそうなバイトだし、健康にもよくないと思われる。一晩の収入は2マルクだったという。約1000円である。時給ではない。一晩である。労働条件がきついのに収入もよくない。つまりおいしいバイトではないのだ。
下級労働者の年収が1000マルクだったらしい。1日平均2.7マルクだ。その7割強を一晩で稼ぐのだから、たしかに家計の助けにはなると思われる。
後年オーストリア皇帝から勲章をもらったブラームスの下積み時代の話である。
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