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カテゴリー「503 学習」の12件の記事

2012年5月 9日 (水)

4カ国語

2010年2月22日の記事「マルチリンガル」でドヴォルザークの語学力に言及した。チェコ語、ドイツ語、英語、ロシア語を操ったと思われる。この中ではロシア語が一番弱くてカタコトだった可能性もある。

それではビスマルクはいかがか。

ギムナジウムの成績では、国語つまりドイツ語が抜きんでていたとされている。語彙、表現力がとりわけ称賛されている。彼の自伝や演説の巧みさは若い頃から身に着けていたものだと判る。これに加えて英語とフランス語も上級の成績だった。日常会話には困らなかったと考えていい。さらにもう一つはラテン語。こちらは会話ではなくて読み書きが出来たとされている。

英語、フランス語、ドイツ語、ラテン語の4つを縦横に操ったと考えていい。当時の列強、英仏墺の言葉を全て理解したということだ。政治家外交官としては理想的だ。シラーやシェイクスピアの成句をたくみに引用した彼の演説は、反対派にも耳を傾けさせる内容だったという。

さてさて操った言葉の数という意味では、参謀総長モルトケがさらにその上を行く。独仏英の主要3カ国語に加え、イタリア語、トルコ語、デンマーク語にも堪能だった。合計6ヶ国語を操ったのだが、何せ彼は寡黙だ。宝の持ち腐れに近い。

2012年2月20日 (月)

仮入会

昔の本を読み返していると思わぬ発見がある。日音楽譜出版社から刊行された「BBCミュージックガイドシリーズ」の15巻「ブラームス管弦楽曲」という書物がある。刊行日は1982年6月20日とある。私が就職した年だ。当時この本は私の宝物で、隅から隅まで読んだのだが、最近また読み返してシャープな発見をした。

73ページ「大学祝典序曲」の章。1853年ブラームスはヨアヒムが聴講生になっていたゲッティンゲン大学で、学士会の祝賀行事に参加し、学生集会室でヨアヒムともに新入生歓迎の「狐の騎行」(Fucheritt)に興じたと明記されている。

狐の騎行に興じたということは、学士会入会の手続きを踏んだということではないか。ブラームスはヨアヒムとともに新入生の扱いを受け、歓迎の行事に参加するのみならず、椅子に逆向きに座っておバカな騎行に興じた。当時は作曲家としてはまだまだ駆け出しであったから、名誉会員に列せられたとは考えにくいが、仮会員とみなされていた可能性は低くない。

2011年12月22日 (木)

ゲッティンゲン大学

ドイツ有数の大学。学士会活動が盛んなことでも知られている。ブラームスの伝記を紐解くとしばしば名前が出て来る。ビスマルクが在籍していたこともある。1853年リストやレーメニと決別したブラームスは、ヨアヒムと合流してゲッティンゲンで過ごす。哲学の講義を聴講したとされている。ここで重要な出会いがあった。後に「バッハ伝」を著すシュピッタや詩人ファーラースレーベンと面識を得た。1858年頃にはアガーテと会うためにデトモルトからゲッティンゲンに駆けつける。何しろアガーテの父はゲッティンゲン大学の教授である。

さらにゲッティンゲン大学について調べていてお宝情報に出会った。ゲッティンゲン大学の正式名称だ。

Georg-August-Universitat

これが大学の正式名称なのだ。ゲオルグ・アウグスト大学とでも言うのだろう。創立者ハノーファー選帝侯ゲオルグ・アウグストに因む。ハノーファー宮廷楽団のコンマスだったヨアヒムがやってくるのもうなずける。さてゴルフ4大トーナメントの一つマスターズは、毎年米国ジョージア州オーガスタのナショナルゴルフクラブで開催される。「ジョージア州オーガスタ」が、ゲオルグ・アウグストと完全に一致しているのだが、これは単に偶然と思っていいのだろうかなどと毎度毎度の与太話をしている場合では無かった。

実は彼の地の大学にはドイツ語名の他にラテン語による正式名称が存在する。おおかた「Universitus何ちゃら」とでもいうのだろうと思っていたが違った。

Alma Georgia Augusta

「Alma」は「心」「魂」「精神」という意味だから「ゲオルグ・アウグストの魂」とでも申すのだろうか。何故私がこれで驚喜するかは内緒の方向で。

2011年7月12日 (火)

授業料

教育の対価として支払われるお金のことだ。幼稚園や保育園では月謝と呼ばれることが多い。個人のレッスンでも月謝袋が使われている。単発の研修会などにおいては受講料となる。いろいろ不文律もあるのだろう。

1843年10歳のブラームスの腕前を見込んだ興行師が、渡米を提案した。両親はコロリと賛成したが、当時の教師コッセルは反対した。1ランク上の教師を紹介することで両親を説得した。紹介したのはコッセル自身の教師でもあるエドゥワルド・マルクゼンだ。「二顧の礼」の結果、週1回1時間ブラームスのための時間を割くことになった。

マルクゼンは当時ハンブルク随一の教師だったが、ブラームスから授業料を受け取らなかったという。現在たとえば東京で最高のピアノ教師から1時間の個人レッスンをつけてもらったら、いくらになるのだろう。毎週1時間、およそ10年続いたのだ。計算するのも恐ろしい。

それ程貧しかったということだ。つまり取ろうにも取れなかったのだと思われる。程なくマルクゼンがその才能に気付いたというのが真相だろう。太っ腹な話である。

ありがとうマルクゼン。

2011年6月29日 (水)

初等学校

音楽之友社刊行の「作曲家◎人と作品シリーズ」のブラームスの13ページに興味深い記述がある。6歳のブラームスがハインリヒ・フリードリヒ・フォースの経営する初等学校に入学したとある。「フォース」のスペルが不明なのが残念だ。ドイツ人の姓としてありふれたものではない。

昨日の記事で戦艦ビスマルクが建造された造船所について述べた。その共同設立者がエルンスト・フォスだと書いた。「フォス」は「Voss」である。「Voss」がカタカナに転写される際「フォス」または「フォース」になるのは自然だ。造船所の創設はブラームスの初等学校入学よりもかなり後だが、ありふれていない姓「フォス」がどうも共通しているような気がする。

2008年12月 3日 (水)

クライスラー

2007年11月9日の記事「ダヴィッド同盟」の中で、オイゼビウスとフロレスタンがロベルト・シューマンの内なる二面性の擬人化であることはすでに述べた。この2人がダヴィッド同盟の中心人物である。謝肉祭の中に現れる作品にこの2人のイニシャルが付与されている。

実はブラームスもこの手のお遊びに興じたことがある。作品に「B」と「Kr」が付されているケースがあるのだ。作品9を背負った「シューマンの主題による変奏曲」だ。4,7,8,14の各変奏に「B」、5,6,9,12,13には「Kr」と記されている。「B」はもちろんブラームスだが、もう片方の「Kr」こそが本日話題の「クライスラー」に相当する。クライスラーはETAホフマンの代表作「牡猫ムルの人生観」に登場する主人公で楽隊の隊長の名前だ。この人はどちらかというと激しやすい性格だったとされている。シューマンの名高いピアノ作品「クライスレリアーナ」はこのクライスラーに因んでいる。シューマンは、ひょっとすると心の中でダヴィッド同盟に加えていたかもしれない。

ブラームスは、自らをクライスラーになぞらえていたという。自らの内なる相反する側面に名前を付けるのは、シューマンの影響だと思われる。

2008年12月 1日 (月)

ペンネーム

作品を発表する際に自ら名乗る名前。本名と全く同じ場合だけはペンネームとは言えないと思われる。文学、音楽、美術の諸分野で当たり前に見られる。芸名や力士の四股名あるいはプロ野球選手の登録名までもこれに近い概念だろう。ネット上を徘徊する際のハンドルネームもその亜種と言えるかもしれない。

作品を出版する際に本名を用いなかったという意味でならば、ブラームスもペンネームを使った可能性がある。「4手のためのロシアの思い出」という作品だ。1850年頃ハンブルグで出版されている。耳に心地よい旋律をメドレーにした編曲物6曲だ。真作かどうか疑わしいと見る向きもある。

ハンス・フォン・ビューローの遺品の中から発見された楽譜に、ビューロー自身の筆跡でブラームスと書いてあったことから、真作とする説が有力らしい。

GWマルクスという名前で出版されているので、これがブラームスの真作なら、GWマルクスはペンネームということになる。

2008年6月17日 (火)

余分に暗譜

グノーのアヴェマリアは、バッハの平均律クラヴィーア曲集の第1巻第1番の前奏曲をそっくりそのまま伴奏に借用して、旋律を追加したという作品だ。大抵はそう説明されている。

しかし「そっくりそのまま」という言葉には注意が必要だ。グノーの側には、バッハオリジナルには存在しない小節が1つだけ加えられている。原曲の22小節目と23小節目の間に1小節加えられているのだ。だから厳密にはそっくりそのままではないのだ。

原曲となった前奏曲ハ長調を含む「平均律クラヴィーア曲集」は古来、ピアノ演奏の「旧約聖書」にもたとえられるほどの名曲だから、おびただしい数の筆写譜が存在した。18世紀から台頭した楽譜出版社は、出版にあたって特定の筆写譜を底本に採用した。問題の1小節は、数多い筆写譜のうち、1783年にシュヴェンケという人の残した筆写譜にしか現れない。困ったことに18世紀から19世紀にかけて、当時もっとも普及していたチェルニー版をはじめ多くの版が、このシュヴェンケの筆写譜を底本にしていたのだ。

1883年、この点に注意を喚起したビショフ版が出現するまで、1小節多いバージョンが一般に流通していたことになる。グノーのアヴェマリアは1859年の発表だ。アヴェマリア作曲の際、グノーの手元にあったのは、シュヴェンケに準拠した楽譜であったことは間違いない。アヴェマリアの余分な1小節はこれで説明が付く。グノーはバッハ作品に勝手に1小節挿入する程傲慢ではなかったのだ。

音楽之友社刊行の「ブラームス回想録集」第1巻162ページに興味深い記述がある。クララ・シューマンの高弟であるフローレンス・メイの証言だ。ブラームスはピアノレッスンの教材にバッハの作品を使う場合、チェルニー版を推奨しているのだ。彼女の証言は1871年のことだ。つまりビショフ版が出る前である。だからその中のハ長調の前奏曲は、シュヴェンケの写本の通り1小節多い版であることは確実だ。

それからさらに遡って少年時代のブラームスはマルクセン先生の許でバッハを学び、「平均律クラヴィーア曲集」全48曲を暗譜していたらしいが、この1小節分を余分に暗譜していた可能性が高い。

今日はグノーさんの190回目の誕生日である。

2008年2月21日 (木)

相互添削

単に「添削」といえば、提出されたレポートや作品について、内容の不備や過不足を指摘することだ。先生に当たる人が教育目的で加筆修正をする。通信学習では一般的な手法である。

本日のお題のように「相互」が付くと、少々ニュアンスが変わる。同格にある2人の意見交換という側面が強まる。

1856年2月。ブラームスは親友でヴァイオリニスト兼作曲家のヨーゼフ・ヨアヒムと「相互添削」を始めた。対位法上の課題を盛り込んだ作品を定期的に送り合って意見交換をしようという趣旨だ。ここから4年も続いたのだ。頻繁に交換されていたのは実質2年だったとはいえ素晴らしいことだ。定期的というからには提出期限があった。ヴァイオリニストとして既に著名だったヨアヒムは、滞りがちでしばしば罰金を支払ったという。

この罰金は使い道が書物を購入することに限定されていた。ブラームスの遺品にはヨアヒムの罰金から購入したことを伺わせる書き込みを持った書籍が数点含まれていた。有意義な罰金である。

1856年2月というタイミングに注目したい。ロベルト・シューマンの没する5ヶ月前の話だ。ということはつまり、ブラームスがシューマン一家のために献身していた時期だ。そのために作品の出版が滞っていたことは既に昨年7月29日の記事「出版の空白」で述べた。シューマン一家の力になってやっていたことで作品の出版どころではなかったという論旨だ。その一方でヨアヒムとこうした取り組みをしていたことは注目に値する。ロベルト・シューマンの絶望的病状の中、自己研鑽だけは怠らなかったということだ。ヨアヒムの提出が途切れがちだったことを責めてはなるまい。むしろ過酷な境遇にいるブラームスの気分転換をヨアヒムが助けたと見るべきではなかろうか。

結果としてこの取り組みは無駄ではなかった。円熟期のブラームスが当代最高の対位法の泰斗となって行くのは周知の通りである。

2008年2月 6日 (水)

学者交友録

以下の人物のリストをご覧頂きたい。

  1. カルベック(ブラームス)
  2. クリュサンダー(ヘンデル)
  3. シュピッタ(バッハ)
  4. シュピーナ(シューベルト)
  5. ノッテボーム(ベートーヴェン)
  6. ポール(ハイドン)

6人ともブラームスの友人だ。当代きっての音楽学者たちであり名前の後ろに記した作曲家についてのスペシャリストである。「カルベック=ブラームス」という冗談はさておき何とも華麗な交友録である。

これらの友人たちから吸収した情報がブラームスの作品に反映されていることは想像に難くない。こうしてブラームスは自らが第一級の作曲家でありながら、当代最高級の古楽譜の収集家となり、同時に超一流の楽譜校訂者となってゆくのだ。

ブラームスが楽譜の校訂に携わったり、全集の出版に関わった作曲家をざっと列挙する。

  1. カール・フィリップ・エマニュエル・バッハ JSバッハの次男。
  2. ウイルヘルム・フリードリヒ・バッハ バッハの長男。
  3. クープラン
  4. モーツアルト
  5. ベートーヴェン
  6. フランツ・シューベルト
  7. ロベルト・シューマン

まさに学者顔負けである。さらに驚くべきことにこれらの校訂への関与は無署名で行われているのだ。

もしも当時携帯電話があったらブラームスのアドレス帳は華麗な学者の名前で埋まっていたに違いない。

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