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カテゴリー「523 食事」の43件の記事

2017年12月 6日 (水)

貧民施設の食事

出世を遂げた後のブラームスの食事については、十分とは言えないまでも複数の証言がある。これに比べてハンブルク時代の食事がなかなか判明しない。メニューが紙で残るのはレストランくらいで、一般家庭のメニューが理由もなしに記録されるとも思えない。

思わぬ手掛かりは教会。教会直営の福祉施設、貧民のための救済施設の献立が保存されていることがある。農分社刊行の「世界の食文化」の18巻「ドイツ」にブラウンシュヴァイクの貧民施設における1週間の献立が掲載されていた。1842年という絶妙な時期のものだ。

青字が昼食、赤字が夕食とする。ちなみに朝食は記録されていない。

  • 月 ひきわり大麦、ジャガイモバター付き黒パン、脱脂ミルク
  • 火 ニンジン、ジャガイモジャガイモスープ、脱脂ミルク
  • 水 レンズ豆、ジャガイモバター付き黒パン、脱脂ミルク
  • 木 えんどう豆、ジャガイモバター付き黒パン、脱脂ミルク
  • 金 スウェーデンカブ、ジャガイモあら引きオート麦、脱脂ミルク
  • 土 レンズ豆、ジャガイモ、バター付き黒パン、脱脂ミルク
  • 日 白いんげん豆、じゃがいもバター付き黒パン、脱脂ミルク

貧民施設の給食とはいえ気の毒だ。ブラームスの家は貧しかったことが頻繁に記述されている。これよりもっとシンプルな食事だったかもしれないし、これよりはマシだったかもしれない。いずれにしろジャガイモ中心で、肉は出ないと判る。ワインやビールはもとよりコーヒーだって現れない。ブラームスの伝記で言う貧乏とはつまりこの水準の話だということだ。

2017年12月 5日 (火)

イエンナーの昼食

グスタフ・イエンナーは、ほぼ唯一と申して良いブラームスの作曲の弟子。彼の残した回想録は、師匠ブラームスを活写していて面白い。

弟子入りした最初の頃、ブラームスとちょくちょく昼食を取ったと証言している。場所は毎度「赤いはりねずみ」だったらしい。ところが程なく自分だけ遠慮したという。その理由が、70~80グルデンの代金を支払うのが苦しかったからだとイェンナー本人が述べている。ほぼ1000円と思って良い。

記事「ランチのご予算」でブラームス本人がウィーンにいる間、ランチに費やす金額が2000円~3000円だと書いた。駆け出しの音楽家にとっては毎日1000円を昼食につぎ込むのが辛かったということだ。

やっぱりブラームスのランチはリッチだったのかもしれない。

2017年12月 2日 (土)

ランチのご予算

私の勤務先周辺では、お昼ともなるとお弁当の屋台が鈴なりになる。価格訴求の最先端を行く業者は390円を打ち出している。昼時にはサラリーマンが行列を作る。私は弁当を持参することもあるが、実質390円では作れないと母は断言する。節約するなら弁当を買った方がいいのだ。

さて、ウィーン定住後のブラームスは最早勤め人とは言えないが、友人たちがブラームスの昼食事情を証言している。行きつけのレストランで毎日2000円から3000円を費やしていたらしい。

微妙だ。普通のサラリーマンで毎日2000~3000円をランチに費やすとは思えない。たまになら考えられるが、毎日この金額をつぎ込むことはあり得まい。役員クラスでないと無理だ。かといって昼食に10000円投じているとならないところが、ブラームスらしい。昼間からビールかワインを飲んでたっぷり時間をかけた昼食なら、想像もつかないという訳ではない。上天丼、鰻重、サーロインステーキ、上ちらし寿司に少々のアルコールがからめば十分にあり得る。これが毎日だから凄いとも言える。もしかすると連れの支払いも自分持ちということも多かったと思われる。だとすれば2000~3000円も驚くには当たるまい。

リッチな昼食だが、欧州楽壇の重鎮にしては、至極まっとうだと思う。

2017年12月 1日 (金)

シュトーレン

ドイツのお菓子。クリスマスの代表的な味だ。元々ドレスデンの名物らしい。シューマン一家はデュッセルドルフに移る前にはドレスデンに居たから、シュトーレンを食べたかもしれない。けれども当時既にドイツ中で食べられるようになっていたとすればドレスデン以外でも口にすることは出来たと思われる。

ブラームスの母がシュトーレンを作ったかどうか確認中。

2017年11月29日 (水)

ザルツブルガーノッケル

ザルツブルクのお菓子。

ブラームスの母が得意にしていたと伝えられる。その他ホイベルガーがイシュルに出かけたブラームスに配慮して、レストランに好物を注文する一件にも名前が出てくる。レストランの対応は「ブラームス先生の健康に配慮して、ザルツブルガーノッケルはキャンセルにした」というものだった。「甘過ぎて身体に良くない」という意味だろう。

ブラームスのお菓子好きを今に伝えるエピソードだ。

2017年11月28日 (火)

お袋の味

おそらく「母の手料理」のことで間違いあるまい。我が家の子供たちにとっては「祖母の手料理」と同義である。もちろんおやつも含むと解してよかろう。

ブラームスにも「母の手料理」があった。

  1. エッグノッグ ラム酒と卵で作る飲み物。卵黄とラム酒にバニラや生クリームなどを加えて作るらしい。香辛料を一つまみ入れる。れっきとしたアルコール飲料なので子供にはきついと思うが、当時のドイツは現代の日本とは少し事情が違うと思われる。
  2. こけもものジャム こけももと砂糖それにレモン汁を加えて煮る。
  3. オートミールケーキ 母からの手紙に現われるが、レシピは不明。文脈からしてブラームスの好物と思われる。
  4. ザルツブルガーノッケル メレンゲを焼いて膨らませたもの。

1855年4月クララはハンブルクでの演奏会に際してブラームスの実家に滞在する。ブラームスの伝記であればほぼ必ず言及されるエポック。このときブラームスの母がクララを心を込めてもてなしたとされている。上記のうちどれかをクララに振舞った可能性がある。

2017年6月28日 (水)

支那のリンゴ

ハンブルクからウィーンに出たブラームスが早速困ったのではと思っていることがある。オレンジだ。オーストリアを含む南ドイツでは「Orange」というのに対して、ブラームスの故郷ハンブルクを含む北部ドイツでは「Appelsine」という。オレンジの言い方を比較してみる。

  1. 南部ドイツ Orange
  2. 北部ドイツ Appelsine
  3. オーストリア Orange
  4. 英語 Orange
  5. オランダ語 Appelsina
  6. スウェーデン語 Apelsin
  7. ノルウェー語 Appelsin
  8. アイスランド語 Appelsina

北部ドイツ語は北欧語に近い。「Appelsine」の「sine」は「中国」だ。そういう意味ではオランダ語の「sina」が一番近い。支那だ。オレンジとは「中国のリンゴ」という意味だった。イタリアから直接オレンジを供給された地域では「Orange」となり、ハンブルクやアムステルダムからもたらされた地域では「支那のリンゴ」と呼ばれたということになる。

2017年6月27日 (火)

梨とリンゴ

一昨日の記事でドイツの食生活におけるジャガイモの位置付けを確認した。じゃがいもはドイツ標準語で「Kartoffel」という。ところが南部に行くと以下の通りいろいろな言い方が存在する。

  1. Bodenbirne
  2. Erdbirne
  3. Grundbirne
  4. Grundbeene
  5. Erdapfel
  6. Herdapfel

上記1から3は語尾に「birne」を従えている。4番は少々なまっているがいずれも「梨」の意味だ。5と6番の語尾が「apfel」でリンゴの意味。つまりじゃがいもは「大地の梨」か「大地のリンゴ」の意味で、6番だけが「カマドのリンゴ」である。標準語もどちらかと言えば「リンゴ系」だろう。

どちらも球とは言えないゴツゴツした感じがよく出ている。俗語では品質の良くないサッカーボルのことを「Kartoffel」というらしい。

2017年6月26日 (月)

1811年

じゃがいもの普及について調べている間に興味深い話を掘り当てた。

1771年は「厳冬と夏の長雨」によって凶作だったらしい。ドイツの穀物生産が壊滅的な打撃を被ったとされている。その一方でじゃがいもの生産は維持されたことから、救荒作物としてのじゃがいもの優秀性が広く認識されるキッカケとなった。

「厳冬と長雨」に対して高い抵抗力を示したじゃがいもだが1811年は、不作に陥ったという。今度は夏の「旱魃」が原因とされている。

ご記憶だろうか。記事「ヴィンテージ」でワインの優良年を列挙した。その中で1811年は特筆されている。この年のワインの出来映えは単なる優良年にとどまらず、19世紀最高のヴィンテージとして記憶されている。シュタインベルクが始めて「カビネット」の称号を用いたり、ゲーテが絶賛したその年だ。

じゃがいもや穀物が深刻な不作に陥った同じ年が、ワインの当たり年になっているということだ。ワインの優良ヴィンテイージは豊作を意味していないということを割り引いても、面白い現象だ。ブドウ、とりわけ主力品種のリースリンクは、十分な日照によってその品質を一層際立たせる。他の作物にとっては旱魃になってしまうような状況が、マイナスに作用しないということかもしれない。

2017年6月25日 (日)

じゃがいも

ブラームスの伝記、食事の場面に出くわすことは多いとは言えない。けれどもブラームスがじゃがいもを食べていたことはほぼ確実だ。フリードリヒ2世が救荒作物として普及を奨励したと伝えられている。彼は1786年に没したが、当時のドイツ諸邦の人口は合計で1600万程度だったらしい。これは2600万のフランスに負けていた。ところが19世紀後半の普仏戦争の頃になるとフランス4000万に対しドイツは6000万となった。国境付近のアルザスやロートリンゲンをどのようにカウントするかにもよるが、人口が逆転したことは大きい。ドイツ帝国の成立はプロイセン、なかんずくビスマルクの功績大とされているが、この人口逆転も無視出来ぬファクターだったと思われる。

ここまで来れば本日の文脈はおよそ察しがつくだろう。つまりその人口増をささえたのがじゃがいもだったということだ。寒冷地ドイツで食糧の安定供給は簡単ではない。じゃがいもがこれを解決したことはとても大きい。もともと勤勉なドイツ人から飢えの不安を取り除いてやれば、国力の飛躍的な向上はさして不思議なことではなくなる。

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