喫煙具
ブラームスの生きた時代まで遡らなくても、タバコはステイタスだった。とりわけ男性にとってタバコを取り巻くファッションはこだわりの対象だった。
私の父もそうだった。上等のライターをもらえば嬉しそうだった。家の中ではタバコ関連の小道具を収納できる手提げ金庫大の灰皿付きの小箱をいつも持ち歩いていた。
1887年ウィーンを訪れたドヴォルザークに、ブラームスは上等の喫煙具をプレゼントした。それまでの会見から、ドヴォルザークがタバコを吸うことをブラームスが意識していたことは間違いない。タバコ自体に加えてタバコ周辺の小物は、男性への贈り物としてはきわめて一般的だったと思われる。そうドヴォルザークは、ブラームスの前でうまそうにタバコを吸ったのだ。
ブラームスから喫煙具をもらうとは、さぞや嬉しかったと思うが、実は事はそれほど単純ではなかったらしい。ドヴォルザークの妻アンナは、タバコ嫌いだったという。愛妻家のドヴォルザークは自宅で思うように喫煙出来なかったのだ。だから外出先でのタバコが楽しみだった。ブラームスの前でうまそうに吸ったのは、きっとその反動だ。
「比較伝記学」シリーズが昨日終わってひとまず一服。
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