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カテゴリー「528 手紙」の15件の記事

2019年10月 8日 (火)

友情の書簡

みすず社という出版社からブラームスとクララの書簡集が出版されている。1950年原田光子訳で出版されたものの復刻だ。長らくその存在だけは知っていたが、復刻されたので思わず購入した。

かなりの分量だ。お互いに手紙を変換し合って廃棄したが、そうでもないようだ。クララ側の廃棄が甘いことが見て取れる。どうもクララの娘たちが、捨てたと見せて拾っておいたらしい。

 

 

2016年10月13日 (木)

タクシス家

欧州郵便事業を確立したのはハプスブルク家のマクシミリアン1世だ。自らの居城インスブルックと、息子のフィリップ美王の住むブリュッセルの間に定期郵便を開設したのが始まり。ネーデルランドとミラノに所領を有した彼は、統治の効率を上げるために情報インフラの整備に着手した。16世紀初頭の話だ。

イタリアはベルガモのタッシス家に命じて皇帝の郵便物を無料で配送するよう命じたのだ。当初郵便は公用に限られていたが、ミラノとネーデルランドは欧州随一の貿易の拠点だから、有力商人たちの郵便ニーズがあったのだ。程なく一般郵便も認められた。タクシス家は、皇帝の信任厚く、事業の独占権と世襲権を認められて勢いに乗った。やがて貴族に列せられてトゥルンウントタクシス家となる。

以降、トゥルンウントタクシス家は、宗教改革、30年戦争などの幾多の困難を乗り越えて、血縁関係を縦横に駆使しながら現代まで続く郵便制度の基礎を築いた。欧州の偉人研究において確固たる位置づけにある書簡は、信頼性高くかつ安価な郵便制度がその基礎になっていた。研究者によってはこれを、グーテンベルクの活版印刷に匹敵するとまで評価している。

2016年4月29日 (金)

ラッパ信号規定

ブラームスに限らず伝記作者の一番の資料は手紙や日記である。本人直筆であれば尚更価値が高い。ブラームスは家族や友人との情報交換のほかに、出版や演奏に関するこまごまとした打ち合わせを手紙で行った。後世の研究家にとってこれが宝のヤマである。あまり語られないことだが、当時の欧州の郵便の充実には目を見張るものがある。

道路事情や治安の向上により、郵便の信頼性は見違えるばかりになる。駅伝式のリレーによって、急行便なるものも生まれスピーディーな対応も可能になる。19世紀はそういう時代だった。郵便馬車が交換駅に近づくと、それを遠方から伝えるためのラッパが吹かれる。次の馬車を予め用意してもらうためだ。そうした場合の合図の音形が法律で定められるところがいかにもドイツっぽい。1828年プロイセンではじめて「ラッパ信号規定」が制定された。目的別に12種類の音形が決められた。プロイセン近隣の諸邦にまたたくまに広まった。1839年のバイエルンの規定音形を作曲したのがRシュトラウスの父だとされている。

つまりこれがポストホルンだ。

プロイセンの12のうち6つがドイツ帝国に引き継がれて20世紀まで存続した。

  1. 騎馬便の出発と到着
  2. 急行便の出発と到着
  3. 特急便の出発と到着
  4. 至急便の出発と到着
  5. 駅逓馬車の出発と到着
  6. 緊急信号

一説によれば、ベートーヴェンはカールスバートで聞いたラッパ信号を交響曲第8番の第3楽章に取り入れたという。

スペシャルコンサート まであと16日。

2014年2月 7日 (金)

鉄道郵便

軍事、産業面において鉄道の果たした役割がいかに大きなものだったか、繰り返し述べてきた。さらに付け加えるべき話がある。それが郵便だ。

鉄道の登場以前、郵便物輸送の担い手は郵便馬車だった。一定の距離ごとにリレーステーションを設け、そこで馬と御者を替えた。そのリレーステーションの利用権を独占することでタクシス家は他社を圧倒した。皇帝のお墨付きのもとに、後発者の参入を阻止し続けた。輸送手段が馬車である限りそれで磐石だった。

鉄道の輸送効率は、タクシス家が手塩にかけて構築した駅逓制度をはるかに上回っていた。鉄道国家プロイセンは、鉄道利用の優位性をとことん研究しており、1850年には驚くべき施策を講じる。郵便事業を鉄道事業に吸収させたのだ。郵便は鉄道事業の一部に組み入れられた。郵便物輸送の主役を鉄道と決め付けたということ。同時に各地の主要駅に郵便局が設置されることになる。これが軌道に乗れば、タクシス家自慢の駅逓制度は完全に宙に浮く。

1867年にプロイセンが事業譲渡を迫ったとき、タクシス家は補償金1000万ターラーを主張したのに対し、足元を見て300万に値切った。

2012年10月13日 (土)

ハインリヒ・フォン・シュテファン

ドイツ郵便の父。ハプスブルク家ご用達のタクシス家から郵便事業接収した際、ビスマルクの片腕としてタクシス家との交渉にあたった人物。ドイツ帝国成立と共にドイツ帝国郵便の総裁になった。日本では前島密、英国ではローランド・ヒルが有名だがドイツではこの人。

ベルリン市内地下にエアシューター網を張り巡らしたりアイデア豊富な人だったが、1874年に諸国に呼びかけて万国郵便連合を創設した。国境をまたぐ郵便のアイデアが当時としては斬新だった。日本の加盟は1877年で23番目、つまりオリジナルの22カ国の次ということになる。

森鴎外の「独逸日記」にはいたるところに「家書」という単語が現れる。東京に遺した家族からの手紙のことだ。そりゃあもうしょっちゅうで、いちいちそれを日記につけていた鴎外が、これを楽しみにしていた証拠だ。万国郵便連合に加盟していた恩恵ともいえる。

さて、この人が没したのは1897年4月8日。ブラームス没の5日後ということになる。

2012年10月12日 (金)

事業譲渡

1850年に締結されたドイツオーストリア郵便連盟は、踊り場に過ぎなかった。ハプスブルク家との深い関係にたって、域内の郵便事業を一手に握るタクシス家は、ドイツ統一を進めるプロイセンには大きな障害だ。国家の近代化にとって鉄道事業と通信事業の体系的な発展は不可欠という認識。

普墺戦争によってドイツ連邦の主導権がオーストリアからプロイセンに移ると、時をおかずに改革に着手する。1867年1月28日にプロイセンはタクシス家に対して、郵便事業に必要な全ての権利と設備をプロイセンに譲渡するよう申し入れた。タクシス家に支払われる補償額は300万ターラー。900万マルクだからおよそ45億円。もちろん宰相ビスマルクの意思である。

1866年の普墺戦争勝利後、ビスマルクは敗者オーストリアに寛大だったと書いた。確かに領土は要求していないし、軍隊をウィーンに入れることも無かったが、郵便事業をハプスブルク家の息がかかったタクシス家から取り上げたのは、何気なく凄い。

これによりプロイセンは郵便事業の国有化に一歩踏み出した。

2012年10月11日 (木)

郵便連盟

正確には「ドイツオーストリア郵便連盟」という。1850年に成立した。鉄道の開業、関税同盟の成立と並ぶドイツ産業革命の牽引役と評価する学者もいる。ドイツ連邦内の郵便事業の統一が実現した意義は大きい。それまでドイツとオーストリアには郵便の事業母体が16も存在し、競争状態にあった。同じ都市間の郵便でも、どこを経由させるかで配達までの時間や料金が違っていた。名高いタクシスを使うのが安価だったが、郵便馬車の通行に課金する国もあって、結果として複雑な料金体系になっていた。

これを一気に解消したのが郵便連盟だ。交渉の場はフランクフルト国民議会。ドイツ連邦の議決機関。メッテルニヒ無きあととはいえ、あくまでも主役はハプスブルク家率いるオーストリアだった。普墺戦争の16年前だから、神聖ローマ帝国は消滅したものの、ハプスブルク家の威光はまだ健在だった。だから関税同盟においてはその推進役だったプロイセンも、ハプスブルク家と姻戚関係にあるタクシス家を無視できなかった。よってドイツとオーストリアの名前が仲良く併記されている。

連盟成立の翌1851年に、プロイセンから同議会の公使に抜擢された男こそがビスマルクだ。何事につけオーストリア主導の方針に対抗して行くようになる。

2011年7月30日 (土)

市営切手

切手は近代郵便の象徴だ。「代金先払い済み」を証明する紙片である。発祥は1840年の英国。ドイツ帝国成立前のドイツ語圏ではあったが、諸領邦は続々と切手の発行に踏み切った。ドイツ語圏初の切手は1849年11月1日のバイエルン王国。翌年6月1日にはオーストリアがこれに続く。プロイセンは11月15日に発行にこぎつけた。

ハンブルクは、当時も今も自由ハンザ都市として自治独立を貫いているから、1859年1月1日に切手を発行する。つまり「市営切手」だ。ブレーメンやリューベックも「市営切手」を出していた。

ロベルト・シューマン没後の充電期間真只中のブラームスは、まだ生活の本拠をウイーンに移していなかった。とはいえ、作品の出版が軌道に乗り始めていた時期だけに、出版社との間に膨大な通信事務が発生していた。これに加えてクララやヨアヒムなど友人たちとの情報交換もあったから、メール時代に生きる我々よりも郵便の重要性は高かった。貼り付け用の裏面のノリや、切り離しに便利な目打ちは既に一般化していたという。

ブラームスがハンブルク市発行の切手を使っていたことはほぼ確実。

2011年6月15日 (水)

郵便番号

郵便物配送の効率化を狙って住所をコード化したもの。わが国では7桁の数字になっているが、もちろんドイツにもある。自動車の登録番号では登録地の地名がアルファベット1文字から3文字の略号になっていたが、こちらは5桁の数字である。ドイツ語で「Postleitzahl」といい、しばしば「PLZ」と略記される。

以下に主要都市のPLZを示す。

  • ベルリン 10115~14199
  • ハンブルク 20000~27999
  • ブランデンブルク州 01000~01999
  • ブレーメン 27000~27999
  • ハノーファー 30000~30999
  • ゲッティンゲン 37073、37077、37081
  • アイゼナハ 99801~99817
  • デトモルト 32756、32758、32760
  • デュッセルドルフ 40547
  • ドルトムント 44000~44399
  • ケルン 51060~51149
  • ボン 53110~53119
  • フランクフルト 60000~60999
  • ウイースバーデン 65183~65207
  • シュトゥットガルト 70173~70629
  • カールスルーエ 76131~76229
  • ミュンヘン 80000~80999
  • ニュルンベルク 90300~90499
  • バイロイト 95441~95448

欠番も多いので注意が必要だ。概ね北から南に行くに従って高い番号になるようだ。

自動車の登録番号に次ぐコードネタだが、意外にはまりそうだ。

2011年2月 6日 (日)

自筆譜の権威

大作曲家の自筆譜ともなれば、音楽的価値に加えて骨董的価値も計り知れない。ブラームスの自筆譜の所在は、マッコークルにほとんど掲載されていて、博物館や図書館をはじめとする、確かな場所に収蔵されている。それなりの丁寧な扱いを受けているということだ。

ところが、ブラームスは友人で出版人のジムロックへの手紙の中で、自筆譜の価値について興味深い見解を述べている。

「権威があるのは、手書きの原稿ではなくて、私自身が校正したスコアです」

ブラームス本人の言葉であることでいっそう重みが増している。当代一級の音楽学者たちとの交流があったブラームスだから、作曲家の自筆譜が研究面での超一級の資料であることは、百も承知でなおこの発言である。

むしろブラームスは自筆譜の持つ弱点にも知悉していたと思われる。骨董的な価値は棚上げにして、広く世間に公開する手段としての出版に重きを置き、その出版においては、何が重要かを語った言葉だと感じる。手書きの原稿には間違いもあるし、作曲家が必ずしも達筆ではないことに起因する誤解も生じる。それらを全てお見通しの作曲家本人の手により校正済みのスコアこそが、出版譜の底本になるべきだという見解だ。

最近こういう話を聞いてカッコいいと思うようになってきた。歳だろうか。

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