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カテゴリー「532 恩人」の5件の記事

2019年10月26日 (土)

エンデニヒの見舞客

1854年2月27日ライン川に投身したロベルト・シューマンは、一命を取り留めたものの、3月4日にはボン郊外エンデニヒにあった療養所に収容される。精神科医フランツ・リヒャルツ博士が1818年に開設した療養所で、当時としては最先端を行く施設だった。夫人であるクララはリヒャルツ博士の方針で面会を認められなかったため、ブラームスが見舞いを買って出る。

  1. 1854年3月31日
  2. 1854年8月13日
  3. 1855年1月12日
  4. 1855年2月23日
  5. 1856年4月10日 地名を熱心に羅列しているのを目撃。
  6. 1856年6月08日 シューマン生前最後の誕生日。大判の地図を贈る。
  7. 1856年7月23日 このまま臨終まで滞在。埋葬は31日。

以上7回。おそらく最多の見舞い回数。そのたびにクララに様子を報告している。

2015年1月18日 (日)

ミネルヴァ

文豪・森鴎外の「舞姫」はカフェミネルヴァから始まる。「ミネルヴァ」はローマ神話に出てくる知恵の女神。ジュピターの頭から生まれてきたときすでに完全な姿だった。

ロベルト・シューマンはブラームスを世に紹介する文章の中で、ブラームスを「ミネルヴァのような」と表現している。目の前に現れたときすでに完全だったという意味だ。

それにしてもだ。作品番号でいう7番までの最初期の作品や破棄されて現存しない作品を一度聴いただけで、この持ち上げようだ。先見の明というか慧眼というかかなりラジカルだ。

鴎外の記述はカフェというよりむしろビアホールだ。揺り越すばかりの泡をたたえたジョッキが描写されているから、コーヒーネタとしては苦しい。

2011年7月12日 (火)

授業料

教育の対価として支払われるお金のことだ。幼稚園や保育園では月謝と呼ばれることが多い。個人のレッスンでも月謝袋が使われている。単発の研修会などにおいては受講料となる。いろいろ不文律もあるのだろう。

1843年10歳のブラームスの腕前を見込んだ興行師が、渡米を提案した。両親はコロリと賛成したが、当時の教師コッセルは反対した。1ランク上の教師を紹介することで両親を説得した。紹介したのはコッセル自身の教師でもあるエドゥワルド・マルクゼンだ。「二顧の礼」の結果、週1回1時間ブラームスのための時間を割くことになった。

マルクゼンは当時ハンブルク随一の教師だったが、ブラームスから授業料を受け取らなかったという。現在たとえば東京で最高のピアノ教師から1時間の個人レッスンをつけてもらったら、いくらになるのだろう。毎週1時間、およそ10年続いたのだ。計算するのも恐ろしい。

それ程貧しかったということだ。つまり取ろうにも取れなかったのだと思われる。程なくマルクゼンがその才能に気付いたというのが真相だろう。太っ腹な話である。

ありがとうマルクゼン。

2011年7月 9日 (土)

三顧の礼

陣営に不可欠な重要人物を招聘する際に手厚く礼を尽くすこと。出典は大好きな三国志だ。前半のヤマ。主人公劉備玄徳が、隆中に隠遁中の伏竜こと諸葛亮を配下に加えるために、草庵を三度訪問して説得した故事にちなむ。諸葛亮は説得に応じ君臣水魚の交わりをなす。以降、劉備亡き後も蜀の屋台骨を支える活躍をする。てゆうか彼本人が屋台骨そのものだ。

現代でも選挙の出馬や、監督人事を報ずる際に用いられることがある。

ブラームスにもあった。

1843年のことだ。ブラームス最初の教師コッセルは、ブラームスの才能をさらにワンランク上へと押し上げるために、自らの師であるマルクゼンに推挙する。10歳のブラームスの才能こそ認めたものの、マルクゼンは今のままで充分と判断し要請を断る。数ヵ月後今度はブラームスの父がマルクゼンを訪れて、弟子に加えることを要請する。

これでマルクゼンは折れた。週一回のレッスンに応じたのだ。劉備よりも1回少ない。いわば「ニ顧の礼」だ。1回分はブラームスの才能により割引があったと見る。

2010年8月16日 (月)

ヨアヒムの判断

ヨーゼフ・ヨアヒムは1831年に生まれ1907年に没した19世紀を代表するヴァイオリニストの一人である。ヴァイオリン教師、指揮者、作曲家としても才能を発揮した。

さすがに名人なので同世代の作曲家たちの創作意欲を刺激してきた。ブラームスも唯一のヴァイオリン協奏曲をヨアヒムに献呈している。実際にヨアヒムはこれを初演した。初演後もしばらくほぼ独奏者の栄誉を独占し続けた。自らの弟子たちにブラームスのヴァイオリン協奏曲を広めたのも彼である。ブラームスのヴァイオリン協奏曲が現在の位置づけにあることについてヨアヒムの功績は大きい。

またヨアヒム四重奏団のリーダーとしてブラームスの室内楽作品の演奏にも積極的だったし、指揮者としていくつかの管弦楽曲を初演するなど、ブラームス作品全般への傾倒が顕著である。ハンガリア舞曲のヴァイオリン版への編曲も彼の功績の一つである。

さらに当時あまり演奏されることがなくなっていたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の再評価にも功績があった。現在ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲がスタンダードな位置にあるのはヨアヒムのお陰である。

一方ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲もヨアヒムに献呈されたかの様相だ。ヨアヒムは作曲の過程でドヴォルザークからあれこれと相談を持ちかけられてもいる。シューマンもヴァイオリン協奏曲の初演をヨアヒムに依頼している。なのにヨアヒムはこの2曲の協奏曲を生涯一度も演奏しなかった。また、シューマン、ディートリヒ、ブラームスの3人がヨアヒム歓迎のために共作した「FAEソナタ」も、ブラームス作の第3楽章以外は公に演奏していないらしい。これらはブラームスやベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲に対する態度と対照的である。何より彼は演奏家であるから、中途半端にコメントが残っているよりも、演奏していないという事実は雄弁だと思う。

その一方で、ドヴォルザークの弦楽四重奏の10番と11番をヨアヒム四重奏団が初演しているから、ドヴォルザークを嫌っていた訳では無さそうだ。

晩年、若い頃の様な友情が保てなくなった後も、ブラームスの作品に対するヨアヒムの高評価は一貫している。ベートーヴェンよりもブラームスを高く評価していた形跡さえあるという。

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