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カテゴリー「550 楽友協会」の5件の記事

2015年7月23日 (木)

聴衆の無関心

後にブラームスザールと改称されることになる楽友協会小ホールの「こけら落とし」公演にクララ・シューマンが出演した話を昨日しておいた。そこで、当日のプログラムの冒頭がブラームスのホルン三重奏曲変ホ長調op40だと書いてはしゃいだ。

ところが、クララは後日友人に「聴衆には全く受けなかった」と書き送っている。クララ自身はこの三重奏曲を「真に精神性に溢れ、どこから見ても全く持って興味深い作品」と評価している。それなのに聴衆の反応が冷たいと嘆いているのだ。

ある程度は仕方が無い。当時クララは欧州最高のピアニストの位置にあった。シューマンとベートーヴェン作品の当代一の解釈者という位置づけだ。その彼女が満を持して杮落とし公演にのぞむのだから、ましてそのプログラムに冒頭には、絢爛豪華で華麗な作品を期待するのが人情というものだ。

ホルン三重奏曲は、1870年1月の同公演の段階で、ピアノ入りの室内楽としては最新の作品だ。クララの意気込みも判らぬでもないが、聴衆の期待するカリスマピアニスト、クララという価値観を存分に反映する演目とは言えない。クララの思いと聴衆の期待が完全にずれている。しかしクララの手紙には半ば想定内という諦めも見え隠れする。

後世の愛好家である私は、聴衆の好みとのズレも省みず、こけら落とし公演の冒頭にホルントリオを持ってきたクララの英断に心から拍手を送るものである。

申し遅れた。昨日8番目の室内楽ホルン三重奏曲にたどり着いた。

2015年7月22日 (水)

こけら落とし

劇場やホールのオープン公演のことだ。

1870年1月19日が、ウィーン楽友協会小ホールのこけら落としだった。現在ではブラームスザールと呼ばれているあのホールのことだ。

私も新婚旅行でウィーンを訪れた際に出かけたことがある。ヘルマン・プライのシューベルトの夕べだった。演奏もなのだが、トークが面白い感じのリサイタルだった記憶がある。その会場に上る階段踊り場に、クララ・シューマンの胸像が置かれていて嬉しかった覚えがある。

実は、ブラームスザールと後に命名されることになる、ウィーン楽友協会小ホールの杮落とし公演に出演したのは、他でもないクララ・シューマンだったのだ。後にブラームスの名前が奉られるなどとは誰も思っていなかったに違いないが、その動機のひとつになったような気がする。

今と違って、さまざまなジャンルがごちゃ混ぜのプログラムなのだが、最初の演目がブラームス作曲のホルン三重奏曲変ホ長調op40だった。ピアノを受け持ったのはもちろんクララだ。ブラームスザールの最初の演目が、ブラームスの室内楽で、あろうことかクララが出演していたというだけで半端無い由緒を感じる。

2009年10月27日 (火)

芸術監督の収入

第一交響曲に支払われた原稿料15000マルク(750万円)の重みを調べたくて、いろいろ資料を当たっている。リプリオ出版から出ているジュニア向けの伝記「人はみな草のごとく」に興味深い記述があった。

149ページにウィーン楽友協会芸術監督就任が言及され、その年収が3000フロリンだと書いてある。フロリンはグルデンと同じでこれがおよそ6000マルクに相当する。破格の待遇であったことも同時に仄めかされている。1872年の秋から3シーズンを務めた訳だから、ブラームスはこの仕事で合計18000マルクを得たと思われる。

ということはつまり、ブラームスの交響曲1曲には、楽友協会芸術監督3年分の報酬に近い額が支払われたという計算になる。

2009年5月 9日 (土)

バブル崩壊

今日本は昨年秋に始まった世界的不況のまっ只中にいる。それは「バブル崩壊」と形容される株価の暴落に象徴されている。

1873年5月9日だから今から136年前の今日、ウィーンの株式市場が大暴落を起こした。1871年の普仏戦争勝利により50億フランもの巨額の賠償金を獲得したドイツがバブル経済状態に陥った。その資金は一部がオーストリアに流れ込んでいた。ベルリン株式市場の暴落が波及するのはむしろ当然だった。1866年普墺戦争に敗れた混乱からようやく立ち直り、ウィーン万国博の開催にこぎつけた途端の出来事だった。これによって引き起こされた不況で何が起きたか、現代の日本人に説明が要るとは思えない。8つの銀行が破産し、40の銀行が清算に追い込まれたという。ドイツがこの不況から脱するのは1895年とされている。

1874年1月にはオーストリア政府つまり皇帝の旗振りで「中小企業支援のための皇帝フランツ・ヨーゼフ基金チャリティーコンサート」が開かれる。これにブラームスも出演しているのだ。伝記にもちゃんと書いてあるけれど前後の脈絡が語られていないことが多いので、ちょっとした違和感を感じることもある。この不況によって疲弊する中小企業の救済が目的とすれば、すんなりと腹にはいる。

そして庶民が生活を切りつめるのは明らかだ。ウィーン市民が演奏会に出かける回数を減らすことは想像に難くない。

これにブラームスの経歴を重ねてみる。1872年秋のシーズンから1875年春まで丸3年楽友協会の芸術監督の座にあった。つまりこのバブル崩壊は監督在任のまっ只中だったということだ。1872年秋に始まった最初のシーズンが4月に終わった後だから、影響を受けたのは1873年秋からの2年目のシーズンだ。

3年を勤め上げた後、契約の更新に応じなかった原因が伝記にも書いてある。ブラームスが取り上げるプログラムが渋すぎて、水面下でブーイングが貯まったことに原因を求めることが定着している。曲目を見ればその説明でも一応納得できるのだが、現実はもっとシビアで、はっきり言って演奏会の売り上げが落ちたというのが実態なのだと思う。でもそれはブラームスの選曲以前に、バブル不況で客足が遠のいたためだと解したい。しからばとばかりに何とか市民に来てもらおうと、選曲に匙加減を施す機転が利かなかったのだと想像したい。

成績不振の責任を監督に問うのは何もサッカーだけの話ではない。

2007年11月26日 (月)

音楽監督

何らかの音楽系団体において、その団体の音楽的方針の決定権を有する者くらいの認識しか思いつかないが当たっているのだろうか。もちろんヒットエンドランや送りバントのサインを出したりはしないが、団体の性格によっては相当偉いということもある。

ブラームスは1872年のシーズンから3シーズンの間、伝統あるウイーン楽友協会の音楽監督に就任していた。このことは「相当たいしたモン」である。演奏会のプログラミング決定の最終責任者ということを意味する。

ブラームスの選曲は、これまた異例だったらしい。一言で申せば「渋い選曲」だ。4年間で演奏された交響曲はハイドンのハ長調と変ホ長調が各1度だけだ。交響曲といえば現代では演奏会プログラムの華である。オペラを別格とすれば4番打者みたいなものだ。それが4年間で2回とは驚きだ。案の定水面下でのブーイングは凄まじかったらしい。1875年春、辞任に至った原因の一つになったといわれている。

ブラームス自身の交響曲はまだ1曲も完成していないから仕方ないとして、モーツアルト、ベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、シューマンといった面々の交響曲が全く取り上げられていないという徹底振りには、強固な意志さえ感じられる。リストの交響詩ならいざ知らず当事既に登場していた交響曲群を一顧だにしていない一方でベルリオーズの「イタリアのハロルド」が取り上げられていたりするから油断が出来ない。誰がヴィオラを弾いたのだろう。

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