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カテゴリー「552 ハンブルク女声合唱団」の9件の記事

2011年9月22日 (木)

Christophorus

ドイツのCDレーベルの名前。ハイデルベルクが本拠地らしい。

ショップをうろついていてお宝に遭遇。「Volkslieder der Deutschen romantik」というCD。演奏は「KONZERTOCHOR DARMSTADT」という混声合唱団。アカペラ混声合唱によるドイツ民謡集だ。「菩提樹」「ローレライ」「野バラ」の有名どころがおさえられ「ドイツ民謡愛唱歌集」の雰囲気が充満しているが一部の選曲はオタクだ。

我が家のコレクションで大空白地帯となっているのが、女声合唱用のドイツ民謡だ。作品番号で申せばWoO36、WoO37、WoO38となる。特にWoO36とWoO37は楽譜もCDも無い。頼りはマッコークルの譜例だけという惨状だ。

本日入手のCDには、ブラームスに関係する作品が下記の通り収められている。

  1. 「Es waren zwei Konigkinder」WoO36-6(ただしこれはレーガー編曲)
  2. 「Ich hab die Nacht getraumet」WoO36-4
  3. 「Ich horte ein Sichlein rauschen」WoO37-2
  4. 「Schwestelein」WoO33-15
  5. 「Schnitter Tod」WoO34-13
  6. 「Waldnacht」op62-3
  7. 「Wiegenlied」op49-4

「子守唄」が無伴奏混声四部合唱で聴けるのもありがたい。ブラームス本人の編曲ではないが、やけに味わいが深い。

合計25曲が収められていて1500円である。ドイツの中堅レーベルにはこの手のお宝が溢れているのだと思う。WoO36~38をすっきりと収録したCDが発売されていても不思議ではない。

2011年8月15日 (月)

インクスタンド

卓上でインクを入れておく容器のことだ。万年筆の発明は19世紀初頭に遡るものの、普及し始めるのは19世紀後半から20世紀にかけてだ。時間関係で申せばベートーヴェンは持っていなかったのは確実だが、ブラームスは持っていたかもしれないという感じである。

万年筆の普及以前にも作曲家は楽譜への記入にインクを使っていた。いちいちペン先をインクに浸しながら、せっせと書いていたのだ。だからときどき楽譜にはインクのシミがある。誤りを修正するときは、紙を薄く削った。バッハ研究において、筆跡の他これらの痕跡は、様式判定の重要なファクターになっていることは、良く知られている。

おそらくブラームスも作曲にはインクを用いていた。万年筆も出始めたとはいえ、ペンが作曲家にとっては必需品だったことも想像がつく。

1862年ウィーンに定住を決めたブラームスは、ハンブルク女声合唱団の定期的な指導が出来なくなった。このときハンブルク女声合唱団のメンバーは、ブラームスを気持ちよく送り出す。喧嘩別れではないし、むしろ団員からの信頼厚いブラームスだから、後ろ髪を引かれる思いもあったはずだ。彼女たちはブラームスに心をこめた餞別を贈る。銀製のインクスタンドだ。とても高価な品物だが、むしろ大切なのはそこにこめられた意味。それはその後のブラームスの仕事にとっての必需品だという認識だ。これには「ウィーンへ行って作曲でがんばってね」というメッセージに違いない。クララやヨアヒム、あるいはビューローなど、演奏家への餞別なら別の品物になっていたはずだ。紛れもなく「作曲家ブラームス」への餞別だ。

このときまだ、第一交響曲はおろか、ドイツレクイエムも世に出ていない。けれども彼女たちは、ブラームスの指導振りにもまして、団のための次々と書き下ろす作品の出来映えを見て作曲家ブラームスの可能性を肌で感じていたということだ。その証拠に団員の何人かは自分が受け持ったパートを写譜して持ち帰っていた。それらはブラームスから返却要請されることもなく現在に伝えられた。

ハンブルクを旅立つブラームスへの餞別ネタを以って5月20日から始まったハンブルク特集を収めることとする。

2011年8月13日 (土)

受容の裾野

ブラームスのウィーン進出は、ハンブルク女声合唱団との別れを意味した。総勢40名にも及ぶ乙女たちとの記憶を胸にブラームスがウィーンに旅立ったことはほぼ確実だ。40名の乙女たちというのが、重要だ。彼女たちは一部の例外を除いて、結婚した。ほぼハンブルク近郊の出身者で占められていたハズだが、結婚を契機にドイツあるいは欧州中に散っていったと思われる。そして子供を産み母となった。それぞれの家庭の音楽シーンの中で、母となった彼女たちは、必ずブラームスに言及したに決まっている。

ウィーンに雄飛して、めきめき頭角を現すブラームスのニュースを聞くにつけ、夫や子供に自慢する。「私は彼の指導を受けたことがある」「彼の新作を初演したことがある」「今も手書きのパート譜を持っている」などなどだ。やがては孫にだってその話を繰り返し聞かせることもあっただろう。

そうした受容の地盤が、ドイツ中に広がっていたのだ。彼女らの家族や子孫がブラームスの名声を下支えしたと思って間違いない。ドイツの家庭には音楽の下地がある。その流れの中に、ブラームスの話が自然に定着していたことを疑うことは出来ない。

ハンスリックが音楽誌に寄稿する論文が、強大な影響力を持った空軍だとするなら、彼女たちによる口伝は、精鋭の集まった歩兵部隊だ。空爆だけではけして都市を制圧することは出来ない。歩兵部隊の活躍は必須でさえある。

2011年8月12日 (金)

まわりみち

8月8日の記事で「Fix oder Nix」の意味をあれこれ詮索した。音楽之友社刊行の「作曲家◎人と作品」シリーズのブラームスの63ページには「全てか無か」とされているが、同社の刊行する「ブラームス回想録集」第1巻アルバート・ディートリヒの記事の中に、それとおぼしき記述があった。

43ページに「さっさとやるか何もやらぬか」とある。こちらには原文のドイツ語の標記が記されていない。もちろんハンブルク女声合唱団に関する描写の中だ。日本語としてフィット感としてはこちらが上だと感じる。うら若き乙女たちに奉るウィット溢れる規約であることを考えると「全てか無か」では大げさ過ぎると感じていたが、これでピッタリ来る。

2011年8月10日 (水)

ハンブルク女声合唱団

1958年ブラームスはハンブルク近郊ハムに下宿した。ピアノ四重奏曲第2番が完成するなど恵まれた環境だったという。そしてその下宿にほど近いとある家の庭先で、上手に歌う2人の少女を見かけて声をかけた。万葉時代を彷彿とさせる光景を連想する。実態はいわゆるナンパに近かったのではあるまいか。

彼等は、女声アンサンブルを結成しようということで意気投合した。仲間を2人加えて女声四重唱団になった。翌1859年1月ピアノ協奏曲第1番の初演が逆風に遭遇し、ハンブルクに舞い戻った頃には、その人数は28名にまで膨れあがっていた。やがては40名の団員を擁する立派な合唱団になった。1861年までブラームスは無報酬で、定期的な指導を引き受けたという。ブラームスの人柄と才能が一役買っていたと思われる。この合唱団の主たるメンバーには、生涯独身または晩婚の人が多いと指摘する切れ者もいるようだ。

レパートリーの中心はブラームスだ。ドイツ民謡をブラームスが編曲した作品が52、ブラームス自身のオリジナル作品が36、他の作曲家の作品をブラームスが編曲した作品が14で合わせて102曲が同女声合唱団のレパートリーだった。

ブラームス自筆のスコアが9種類、他者の手による筆写スコアが9種類、他者の手によるパート譜が25種類、現在に伝えられている。

筆写したのは主に団員だ。名前の判明しているのは以下の通り。

  • リープヒェン・ワーグナー嬢
  • ベティ・フェルカース嬢
  • マリー・フェルカース嬢
  • フランチェスカ・レンツ嬢
  • ラウラ・ガルベ嬢
  • ベルタ・ポルプスキー嬢 子守歌を贈られた人。

この他名前のわからぬ2名か3名が、筆写に関わっていたとされている。

そして何とクララ・シューマンの筆写譜も残っている。まさか大ピアニスト・クララにパート譜作りを手伝わせたのではあるまいな。

2011年8月 8日 (月)

Fix oder Nix

音楽の友社刊行の作曲家◎人と作品シリーズの「ブラームス」に興味深い記述を見つけた。63ページだ。

ブラームスがハンブルグ女声合唱団を指導していた時代のエピソードである。団員の心得を記した規約をブラームスが起草したとある。起草にあたってのモットーが本日のお題「Fix oder Nix」だったとされている。「全てか無か」という訳語が添えられている。独話辞典を引くと「Nix」「Nichts」と同じ意味とある。「無」という解釈で混乱はない。一方の「Fix」を「全て」と記述した辞書は見当たらなかった。それ以前に名詞として収録されていない。「確固たる」とかいう意味の形容詞として載っていた。「oder」は英語で言うところの「or」だ。おそらくブラームスは「ix」という語尾の押韻を意識していたと思う。歌曲のテキストについての繊細な感覚を見る限り間違いのないところだ。「Fix」が少々無理目なのはそのせいかもしれぬ。

「さっさと決めてやっちまおうぜ」というノリを想定したい。

「Fix」の訳語が「全て」でいいのかどうかは棚上げするとして、若きブラームスがこのようなモットーを掲げていたこと自体が大変興味深い。どの程度マジだったのかは伺うことは出来ないが、心にもないことではあるまい。規約本文には「出席の義務」や「時間厳守」が謳われていたらしい。欠席者が多かったことや、時間が守れない人がいたことの裏返しであり、驚くには当たらないが、こうした雑務に関わっていたブラームスを思うと微笑ましい。

「全てか無か」というモットーは、満足できない作品を廃棄しまくったブラームスの行動と矛盾しない。私としては「Frei aber Froh」というモットーよりは数段納得性が高い。頭文字を並べて「FON」にした場合、音名に存在するのが「F」だけなので楽想に発展しにくいのが唯一の難点かもしれない。

後に子守歌を贈られるベルタ・ファーバーはこの女声合唱団のメンバーであった。

2011年8月 7日 (日)

女声合唱のための日曜日

「Sontag」op47-3は、ブラームス歌曲に初めて触れた思い出とともに不滅になっている。最近、ハンブルク女声合唱団について調べていて興味深い発見があった。

ハンブルク女声合唱団のレパートリーに「Sontag」があるのだ。ソプラノ2部とアルトのための女声三部合唱だ。テキストの歌い出しがop47-3と同じだ。ブラームス本人による編曲であることは間違いないとほくそえんだ。

ところが、念のために「5つの歌曲」op47の出版年を調べて驚いた。1968年の出版だ。ハンブルク女声合唱団での活躍は1861年、遅くも1862年春までだ。元々ハンブルク女声合唱団のために書いたものをあとから独唱用に編曲したと見るべきだ。女声合唱版はアカペラだから、日曜日独唱版の可憐なピアノ伴奏は後からつけたということだ。

マッコークルをよく見ると「5つの歌曲」op47の末尾に譜例付きで載っていた。1968年米国で出版されたと書いてある。楽譜があるのだ。

今日は日曜日というささやかなこだわり。

2011年8月 5日 (金)

女声四重唱団

1859年春、アガーテ・フォン・ジーボルトとの手痛い破局の後、ブラームスは故郷ハンブルクに半ば引きこもる。そこでふとした偶然からハンブルク女声合唱団の指導を引き受ける。快活な女性たちとの交流が、傷ついたブラームスを慰めたことはほとんど確実だ。

最終的には40名の大所帯になった合唱団のメンバーから特に優秀な4名が集まって女声四重唱団が結成された。もちろんブラームスが合唱団とは別にこれを指導した。

  • ベティ・フェルカース
  • マリー・フェルカース
  • ラウラ・ガルベ
  • マリー・ロイター

これがそのメンバーである。ベティ・フォルカースとマリー・フォルカースは姉妹だ。才能溢れるこの四重唱団は、クララやヨアヒムの前でブラームスの作品を歌ったことさえあるという。ウィーンに進出したブラームスは、この4名の写真を所望し彼女らもそれに答えている。ブラームスは姉エリーゼへの手紙の中で本気度は不明ながらラウラとの結婚の可能性について言及したこともある。

1868年4月10日ブレーメンにおけるドイツレクイエムの初演にあたり、この4人は合唱団の一員として演奏に参加している。

ブラームスの暖かい性格と才能は、これに親しく触れた乙女たちの人生にも少なからぬ影響を与えたようだ。ベティ・フェルカースを除く3名は当時としては晩婚または生涯独身だったらしい。

2011年7月10日 (日)

ゲーテの暗号

113という大き目の作品番号を背負っていながら、その成立は大きく遡って1859年~63年頃とされている。「女声合唱のための13のカノン」である。成立時期と女声合唱という形態から見て、ハンブルク女声合唱団を念頭に作曲されたと考えられる。どの作品も短いながらも本当に愛らしい。

その中の第1番に「Gottlicher Morpheus」という作品がある。調号無しながら実質ホ短調かもしれない。そのテキストを以下に記す。

Gottlichr Morpheus,umsonst  神々しいモルフォイスよ、貴方はいたずらに

bewegst du die liebchen Mohne, 愛らしい芥子の花を感動させようとしているけれど、

Bleibt das Auge doch wach, アーモルが私の目を閉じてくれなければ、

wenn mir es Amor nicht schliesst. その目は覚めたままなんですよ。

作者は御大ヨハン・ウォルフガング・フォン・ゲーテだが、日本語訳を読んでもどこか抽象的でピンと来ない。

さて芥子の開花後の未熟果から採取される液に強力な鎮痛成分が存在する。アヘンだ。この有効成分が19世紀初頭にドイツで初めて分離に成功し、「モルフィウム」(Morphium)と命名された。ギリシャ神話の夢の神モルフォイス(Morpheus)に因む。「モルヒネ」の始まりである。優秀な鎮痛剤だが、依存性という厄介な副作用もある。眠くなるという副作用も知られている。

臨床現場での実用は19世紀中盤以降だ。普仏戦争の負傷者に使用されたが、一方でモルヒネ中毒患者も生み出したらしい。シューマン夫妻の次男フェルディナンドもこの戦争に従軍し、ケガの治療の過程でモルヒネを投与されたとされている。

そこで、もう一度先のテキストを見直す。アーモルは愛の神だ。抽象的過ぎてわかりにくいと書いたが、「夢の神モルフィス」と「芥子」が目立つ。後半2段は眠りを暗示していると感じる。つまり難解に見えるこのテキストは、鎮痛剤モルヒネの由来と薬効をトレースしていはしないか。

大文豪ゲーテは、自然科学にも造詣が深いという事実がやけに重い。

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