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カテゴリー「556 初版」の20件の記事

2023年1月23日 (月)

西暦抜きと年齢抜き

おバカなタイトルだ。作品番号を使ったちょっとしたお遊びの話である。

まずは西暦抜きから説明する。西暦の下二桁と作品番号を見比べる。ブラームスの場合op1の出版は1853年だ。生前最後の出版作品「4つの厳粛な歌」op121は1896年である。つまり53から97までのどこかで作品番号が西暦を追い抜いている計算になる。1878年のヴァイオリンソナタ第一番ト長調op78が「西暦抜き」の一品となる。

年齢抜きは同様のことを年齢で考える。どんなに早熟の天才でも1歳でop1にはなるまい。生後1年で「1」を付与されてから、没するまで毎年1のペースで増えていく年齢に対し、作品番号は立ち上がりこそ遅れるものの、年齢よりは急ピッチで増えてゆくことでどこかで年齢を追い抜く。ブラームスの場合1865年32歳で出版された「8つの歌曲」op32がこれにあたる。

バロック以前の多作時代ではあまり盛り上がらない。また没後後世の研究家によって付与された番号体系もふさわしくないからこの遊びが出来る作曲家は意外に限られる。

困った。明日63歳になるというのに、まだ作品1が出せていない。

2022年8月 1日 (月)

出版の意味

ブラームスの作品出版は、本人が関与していた。ブラームスが出版用の原稿を出版社に渡す順番に番号が付与され、それをブラームス本人が管理していたと目される。原稿を渡したのちに何らかの事情で、順序の逆転がおきることがまれに発生したが、網羅性という観点からは問題はない。作品番号順がほぼ出版順になっていると考えていい。

ところがバロック時代はとなると状況が一変する。

「出版」は作曲家が自作を世に問うための一手段に過ぎない。当時の作品演奏の場は、王侯貴族の館、オペラハウス、教会、コレギウムムジクムとに大別できる。演奏に際しては出版譜ではなく手書きの筆者譜で事足りる。ブラームスの時代は音楽の受け手が担い手が市民になったから出版こそがポイントになるのだが、バロック時代は違った。

ヴィヴァルディの作品は、未発見のものもあると見込んで800とも1000とも言われているが、作品番号を持っているのはそのうちの114作に過ぎないし、声楽作品は全滅だ。

ヴィヴァルディ作品の出版は下記の通りだ。

  • op1 1705年
  • op2 1709年
  • op3 1712年
  • op4 1712年
  • op5 1716年
  • op6 1716年
  • op7 1716年
  • op8 1725年
  • op9 1727年
  • op10 1729年
  • op11 1729年
  • op12 1729年
  • op13 1737年
  • op14 1740年

ヴィヴァルディの生年は1678年、没年は1741年ということを頭に入れて上記のリストを見る。op1は27歳、op14は62歳だ。35年にわたる出版生活だが、網羅性という意味でははなはだ心細い。そのうえop13とop14は本人が出版に関与していない疑いまであるらしい。

それなりに様式の変遷は見てとれるから、定点観測のツール程度には役立つが、作品番号付きの作品だけを分析したところで大した結論にはならない。

2021年7月 7日 (水)

D945

昨日の記事「D946」で思い出した。その一つ前の「D945」の一件だ。音楽之友社刊行のブラームス回想録集第2巻96ページ。ホイベルガーの証言。

ブライトコップフ最新刊のシューベルトがブラームスと話題になった。それまで知られていなかった歌曲数曲について、刊行の裏話をブラームスが披露したようだ。これによれば、ブラームスがあるアメリカ人の訪問を受け、持参した楽譜帳に意見を求められた。この系統の話は大抵眉唾なのだが、今回ばかりは違って必死に写譜したと言っている。1828年レルシュターブのテキストにシューベルトが付曲したものの、ノッテボームが紛失作品扱いしていた貴重な作品だということだ。シューベルト協会のマンディチェフスキーに言いつけブライトコップフから出版にこぎつけたと。これが「秋めいて冷たい風が吹く」D945だというのだ。1893年3月28日の出来事。

昨日のD946よりさらに25年遅れての出版ということだ。

2021年7月 6日 (火)

D946

「3つのピアノ小品」という。構成は下記。

  1. 変ホ短調
  2. 変ホ長調
  3. ハ長調

1番の自筆譜の日付から死の年1828年の作曲だと考えられている。出版は没後40年を経た1868年。スケッチの状態で発見されたものを編集して出版にこぎつけたが、この時の編集者はなんとなんとブラームスだった。1862年のウイーン進出直後からしばらく続いたシューベルト研究の成果と位置付け得るのだが、当時ブラームスの名前は伏せられていた。

タイトルに明記こそされないが、事実上の「即興曲」だ。1番変ホ短調は、ブラームスのピアノ作品演奏では一番のお気に入りペーターレーゼルの全集に入っていたのを聴いて、望外の収穫だと狂喜した。根拠不明ながらブラームスのインテルメッツォの遠い先祖な感じがする。出版せねばと思い込んだブラームスの着眼が嬉しい。2番変ホ長調は、ブラームスのop117-1変ホ長調のインテルメッツォ然とした風情で立ち上がる。旋律が3度で重ねられるのもブラームスっぽいなどと言っていると中間部のしゃれたいでたちにハッとさせられる。3番ハ長調はブラームスのop116-1のようなリズムのいたずら。聴いた感じと楽譜の落差が際立つ。

3曲とも小洒落たと言うか、気が利いている言うか、垢ぬけてると言うか、シューベルトの公式な即興曲と何ら遜色はないどころか、今やこちらの方がお気に入りだ。

レーゼルもレーゼルで、全集のボックスに収録されたシューベルトの中にソナタや即興曲もなく、小品が少しばかりにとどまっている中、この3曲はキッチリ入っている。ブラームス全集には定評のある人だから、ブラームスの手による編集ということで特段の愛着があったのかもしれないと勘ぐっている。

ブラームスとシューベルトの深い絆を象徴するエピソード。

なんだか温まってきた。

2015年5月18日 (月)

初版の所見

記事「室内楽の出版」で室内楽作品24曲に、ピアノ三重奏曲第1番の改訂版にFAEソナタを加えた26曲の初版データを掲載した。

26曲のうち22曲がジムロック社からの出版になっている。ブライトコップフが1曲、リーターヴィーダーマンが2曲、ドイツブラームス協会が1曲だ。大したもんだ。

記事「室内楽の初演」と見比べることで、興味深い現象が浮かび上がる。ピアノ三重奏曲第1番の初版を唯一例外として、残り全ての作品が、出版前に初演されている。作るそばから演奏され、出版は後からついてきたことがわかる。

2015年5月17日 (日)

室内楽の出版

ブラームスの室内楽作品について、その最初の出版についてデータを集約掲載しておく

  1. ピアノ三重奏曲第1番ロ長調op8初版 ブライトコップフ社 1854年6月10日
  2. ピアノ三重奏曲第1番ロ長調op8改訂版 ジムロック社ベルリン 1890年12月13日
  3. 弦楽六重奏曲第1番変ロ長調op18 ジムロック社ボン 1862年1月
  4. ピアノ四重奏曲第1番ト短調op25 ジムロック社ボン 1863年夏
  5. ピアノ四重奏曲第2番イ長調op26 ジムロック社ボン 1863年6月
  6. ピアノ五重奏曲ヘ短調op34 リーターヴィーダーマン社 1865年12月
  7. 弦楽六重奏曲第2番ト長調op36 1866年7月 ジムロック社ボン
  8. チェロソナタ第1番ホ短調op38 1865年7月 リーターヴィーダーマン社
  9. ホルン三重奏曲変ホ長調op40 1866年7月 ジムロック社ボン
  10. 弦楽四重奏曲第1番ハ短調op51-1 1873年11月 ジムロック社ベルリン
  11. 弦楽四重奏曲第2番イ短調op51-2 同上
  12. ピアノ四重奏曲第3番ハ短調op60 1875年11月 ジムロック社ベルリン
  13. 弦楽四重奏曲第3番変ロ長調op67 1876年11月 ジムロック社ベルリン
  14. ヴァイオリンソナタ第1番ト長調op78 1879年11月 ジムロック社ベルリン
  15. ピアノ三重奏曲第2番ハ長調op87 1882年12月 ジムロック社ベルリン
  16. 弦楽五重奏曲第1番ヘ長調op88 1882年11月 ジムロック社ベルリン
  17. チェロソナタ第2番ヘ長調op99 1887年4月 ジムロック社ベルリン
  18. ヴァイオリンソナタ第2番イ長調op100 1887年4月 ジムロック社ベルリン
  19. ピアノ三重奏曲第3番ハ短調op101 1887年4月 ジムロック社ベルリン
  20. ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調op108 1889年4月 ジムロック社ベルリン
  21. 弦楽五重奏曲第2番ト長調op111 1891年2月 ジムロック社ベルリン
  22. クラリネット三重奏曲イ短調op114 1892年3月 ジムロック社ベルリン
  23. クラリネット五重奏曲ロ短調op115 1892年3月 ジムロック社ベルリン
  24. クラリネットソナタ第1番ヘ短調op120-1 1895年6月 ジムロック社ベルリン
  25. クラリネットソナタ第2番変ホ長調op120-2 同上
  26. FAEソナタ 1906年 ドイツブラームス協会

2012年7月25日 (水)

出版の仲介

ロベルト・シューマンは、若きブラームスを楽壇に紹介したことと並んで、有力出版社にブラームスを紹介したことはよく知られている。ライプチヒのブライトコップフ社だ。

あまり知られていないが、ブライトコップフ社にブラームスを紹介しようと試みた人物がもう一人いる。最近ブログで話題にしているフランツ・リストその人だ。

演奏旅行のパートナー・ヴァイオリニストのレーメニとの決裂を報告したヨアヒム宛の手紙でブラームス本人がそのことに言及している。このままでは故郷には帰れないから、リスト先生からブライトコップフ社に手紙を書いてもらうのに期待するかというニュアンスだ。リストは「なんならブライトコップフを紹介してもいいよ」くらいの口約束はしていたのだと思う。

作品の演奏中に居眠りした挙句に、早々にワイマールを辞したという話が、どうも浮いてしまうエピソードである。

2011年3月11日 (金)

初版特集総集編

ワイン、初演に継ぐ企画マラソンの3弾「初版特集」が昨日終わった。以下の総集編である。

  1. 2011年01月25日 発売初日 第4交響曲発売初日の風景。 
  2. 2011年01月26日 初演と初版 初版と出版社に関するあれこれ。
  3. 2011年01月27日 初版出版社一覧 全作品の初版出版社リスト。
  4. 2011年01月29日 初版刊行ランキング ジムロック絶対有利の物証。
  5. 2011年01月31日  シュピーナ シューベルトゆかりの出版社。
  6. 2011年02月03日 ヘンレはどうした 出版社ヘンレは戦後の創業である。    
  7. 2011年02月04日 失態 ゼンフ社が写譜していれば散逸は免れた。
  8. 2011年02月05日  自筆譜の所在 ブラームスの自筆譜はよく残っている。
  9. 2011年02月06日 自筆譜の権威 自筆譜より校正済みスコアのほうが大切。
  10. 2011年02月07日  為替差損 原稿料はマルク建てに限る。
  11. 2011年02月08日 出版社選びのバランス ブライトコップフに絞らない。
  12. 2011年02月09日  声楽得意の出版社 リータービーダーマン社のこと。
  13. 2011年02月10日 本社移転 ジムロックの本社はボンからベルリンに移転した。
  14. 2011年02月11日 代替わり ジムロック社の社長交代の話。
  15. 2011年02月12日 聖霊降臨祭 1860年の聖霊降臨祭の矛盾。
  16. 2011年02月13日 第3ソナタをめぐって 急遽op5におさまったソナタ。
  17. 2011年02月14日  版権 ブライトコップフから版権を買うジムロック。
  18. 2011年02年15日 版権買い取りの範囲 ジムロックはどことどこから買ったか。
  19. 2011年02月16日  もう一つの別れ アガーテ六重奏曲の出版について。
  20. 2011年02月18日 筋を通す ピアノ三重奏曲第1番の改訂で筋を通したか。
  21. 2011年02月19日 ある疑問 ゼンフからブライトコップフへの版権譲渡か。
  22. 2011年02月21日 標準小売価格 楽譜の価格の件。
  23. 2011年02月22日 歌曲の発売単位 楽譜の組版効率で曲数を決めたか。
  24. 2011年02月23日  組版の知識 第3交響曲の組版は早く終わるという見解。
  25. 2011年02月24日  絶版譜の復刻 版権購入の真の目的。
  26. 2011年02月26日  ジムロックの会計年度 出版の空白年度を作らない配慮。 
  27. 2011年02月27日  衰えの兆候 創作力の衰えをジムロックは認識したか。
  28. 2011年02月28日 空白の理由 作品出版の空白年について。 
  29. 2011年03月01日 公然の秘密 ジムロックとブラームスの蜜月は周知か。  
  30. 2011年03月02日 悪ノリついで 初版刊行空白の普仏戦争。
  31. 2011年03月03日  発番の担い手 作品番号付与を本人がコントロール。
  32. 2011年03月04日  出版の遅れ 作曲順と刊行順の違いから読み取る。 
  33. 2011年03月05日  マーケトシェア 19世紀欧州楽譜出版業界の趨勢は。 
  34. 2011年03月06日 ヘルテルの牙城 ブライトコップフ&ヘルテル社の位置付け。 
  35. 2011年03月07日  作曲家全集 ブライトコップフ&ヘルテル社の威光。 
  36. 2011年03月08日  印税 ブラームスの楽譜は印税方式ではなかった。 
  37. 2011年03月10日 熊の由来 ブライトコップフ社の熊についておバカな仮説。
  38. 2011年03月11日 本日のこの記事。

進捗の報告はこちら。   

2011年3月 2日 (水)

悪乗りついで

普仏戦争」が1870年に始まったと書いた。もっと詳しく申せば、1870年7月に始まって翌1871年5月には終結を見た。このことを頭に入れた上で、2月26日の記事「ジムロックの会計年度」をご覧願う。

1869年以降で、ジムロックからブラームスの新作が刊行されなかったのが1度だけある。それはいわゆる「70~71会計年度」だ。1870年10月に始まって1871年9月に終わる1年である。

そうだ。その年度は普仏戦争とピタリと重なっている。もちろんプロイセン率いるドイツ諸邦連合の圧勝だったとはいえ、作品の出版が滞るというのは十分あり得る話だ。プロイセンひいてはドイツにとっての「危急存亡」のいくさだ。たとえ出版したところで売れ行きが芳しくなかろうと、ジムロックが計算をしていたと考えたら行き過ぎだろうか。

悪乗りも味わいのうち。

2011年2月28日 (月)

空白の理由

1月27日の記事「初版出版社一覧表」でブラームス作品の初版刊行を手がけた出版社を一覧化した。そこには出版社の名前と合わせて刊行年月を添えておいた。本日の記事はその出版年月に注目する。

1853年12月に記念すべきop1が出版されてから、1896年7月に「4つの厳粛な歌」op121が出版されるまで、ブラームスの創作史を作品の出版という切り口から眺めることが出来る。

注意深く眺めていると、作品が出版されていない年があることに気付く。新作の出版が無かった年だ。

  1. 1855年 前年2月27日シューマンのライン川への投身以降、一身を投げ打った献身のためだ。
  2. 1857年~1859年 1856年7月ロベルト・シューマン没に伴う停滞期。
  3. 1885年 10月~翌年9月の欧米風の決算期で見るとかろうじて空白を免れる。
  4. 1894年 「49のドイツ民謡集」WoO33が出ているから事実上セーフ。

1860年以降コンスタントに作品を出し続けていた様子がよくわかる。

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ブラームスの辞書写真集

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    はじめての自費出版作品「ブラームスの辞書」の姿を公開します。 カバーも表紙もブラウン基調にしました。 A5判、上製本、400ページの厚みをご覧ください。
2024年12月
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