昨日の記事「標準小売価格」を書くためにマッコークルを調べていて、わくわくするような仮説にたどり着いた。ジムロック社がボンからベルリンへ移転するのは1866年のホルントリオop40の後だ。おそらくこの間に社長の交代があり、ブラームスの友人フリッツ・ジムロックが父から経営権を譲り受けた。それを前提に以下の表をご覧いただく。歌曲の作品一覧と、初版のページ数を示す。
op19のジムロックは父だが、op46は息子である。息子つまりベルリンのジムロックになって初めて手がけたブラームス作品がop46だった。その後op49まで4つの歌曲が続けざまにジムロックから刊行されたが、全て刷り上り15ページになっている。収録曲数は4、5、7、5とまちまちだが、全部15ページだ。
- 6つの歌曲op3 15ページ ブライトコップフ
- 6つの歌曲op6 23ページ ゼンフ
- 6つの歌曲op7 13ページ ブライトコップフ
- 8つの歌曲op14 23ページ リーターヴィーダーマン
- 5つの歌曲op19 13ページ ジムロック
- 9つの歌曲op32 26ページ リーターヴィーダーマン
- 4つの歌曲op43 19ページ リーターヴィーダーマン
- 4つの歌曲op46 15ページ ジムロック
- 5つの歌曲op47 15ページ ジムロック
- 7つの歌曲op48 15ページ ジムロック
- 5つの歌曲op49 15ページ ジムロック
- 8つの歌曲op57 15ページ リーターヴィーダーマン
- 8つの歌曲op58 15ページ リーターヴィーダーマン
- 8つの歌曲op59 上巻21ページ リーターヴィーダーマン
- 8つの歌曲op59 下巻14ページ リーターヴィーダーマン
- 9つの歌曲op63 上巻20ページ ペータース
- 9つの歌曲op63 下巻20ページ ペータース
- 9つの歌曲op69 上巻19ページ ジムロック
- 9つの歌曲op69 下巻22ページ ジムロック
- 4つの歌曲op70 15ページ ジムロック
- 5つの歌曲op71 19ページ ジムロック
- 5つの歌曲op72 19ページ ジムロック
- 5つの歌曲op84 23ページ ジムロック
- 6つの歌曲op85 19ページ ジムロック
- 6つの歌曲op86 21ページ ジムロック
- 5つの歌曲op94 14ページ ジムロック
- 7つの歌曲op95 23ページ ジムロック
- 4つの歌曲op96 15ページ ジムロック
- 6つの歌曲op97 19ページ ジムロック
- 5つの歌曲op105 21ページ ジムロック
- 5つの歌曲op106 19ページ ジムロック
- 5つの歌曲op107 15ページ ジムロック
- 4つの厳粛な歌op121 19ページ ジムロック
私は自費出版に向けたやりとりの中で、ページ数は出来れば16の倍数がいいと言われた。どうしてもだめなら8の倍数になるようにと薦められた。そうすると組版の効率がいいからだ。効率がいいとはすなわちコストを下げられるということだ。上記のページ数は表紙を「1」と数えている。たとえば15ページと言えば8枚の紙に両面印刷して綴じた感じである。つまり実質16ページだ。
交響曲など大作については刷り上りページ数を考慮することなど無理に決まっているが、書き溜めたストックからその都度適宜印刷に回していた歌曲の場合、組版効率のいいページ数に収まるように作品を選んでいた可能性を考えている。上記の表の中で色をつけたのが「4n-1」というページ数を持つ作品だ。実質のページ数が4の倍数になるということだ。
歌曲において一つの作品番号に収める作品の数に規則性がありはせぬかと、ずっと考えていたが極めて難解だった。組版効率のよいページ数になるようブラームスが協力していたということは無いだろうか。ジムロック社の経営実権を握ったフリッツの提案で、ブラームスが協力したなどということは考えすぎだろうか。
「4n-1」になっていない作品のうちop63とop69にはその理由もある。これらは「青春」「郷愁」というテーマを持たせた事実上の連作歌曲だから刷り上がりページ数の調整が難しい。
ピアノ小品の事情も歌曲と似ている。
- バラードop10 23ページ ブライトコップフ
- 8つの小品op76 上下各18ページ ジムロック
- 7つの幻想曲 op116 上巻18ページ ジムロック
- 7つの幻想曲 op116 下巻15ページ ジムロック
- 3つのインテルメッツォop117 15ページ ジムロック
- 6つの小品 op118 19ページ ジムロック
- 4つの小品 op119 19ページ ジムロック
見ての通り「4n-1」が目立つ。
作品が一定数たまるとその都度印刷に回すという出版形態の場合、単一作品番号にどう収録するかには、組版効率も十分に考慮され、演奏に支障の無い限りブラームスも承知していたと考えたい。
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