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カテゴリー「558 伝記」の19件の記事

2021年7月16日 (金)

シューベルトの歌曲をたどって

素晴らしい書物のタイトル。オリジナルは「Auf den spuren der Schubert-Lieder」という。著者は不世出の大歌手ディートリヒ・フィッシャーディースカウ先生だ。1971年の出版で、全訳の出版は1976年。この度の歌曲特集を展開するために不可欠ということでネットで購入。

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2012年のフィッシャーディースカウ追悼の復刻版である。定価より高いというよくあるパターンだが背に腹は何とかで購入。

すごい本だ。買ってよかった。シューベルトの生涯を折々の歌曲作品で辿るという趣旨なのだが、学者然とした目線と大芸術家というスタンスが絶妙なバランスを見せる。ほぼ作曲順に作品をトレースするという縦糸に、テキストの作者という横糸を混ぜ、楽譜、手紙、批評、日記などの様々な資料に裏付けられた堂々たる学問書だ。

シューベルトの歌曲作品をブログ上で辿る際の優秀なガイドブックとしてこの先頻繁に引用することとする。

フィッシャーディースカウおそるべし。

2018年5月 3日 (木)

バッハ伝とブラームス伝

断りなく「バッハ伝」と言えば、ブラームスの友人フィリップ・シュピッタの著作を指す。19世紀を通じて高揚した音楽学を象徴する功績である。後に続く作曲家研究の学問的手法着眼を確立した功績はまことに大きい。

ベートーヴェンのノッテボーム、ハイドンのポール、モーツアルトのヤーン、ヘンデルのクリュザンダーなどがシュピッタに続くことになる。ブラームスはこうした研究者と親しく交流することで、最先端の研究に深く触れることができた。

一方「ブラームス伝」といえば、20世紀に入って刊行されたカルベックの著作を指すのが一般的だ。

ところが、カルベックは、シュピッタを筆頭とする綺羅星のごとき研究者の一群に算入されていない。これはカルベックの「ブラームス伝」の執筆方針、資料解釈に疑義があることに起因する。全8巻の膨大な著述が、研究書としての位置づけを獲得していないことに他ならない。

思い込みを含めたカルベックの考えに沿うよう、資料の意図的な取捨が行われている。著述には小説然とした大仰な装飾も一部散見される。哲学書を思わせる難解な記述もある。事実の羅列になっていない。かといって正当な仮説の提示というわけでもない。「ブラームス初の伝記」の域を出るものではないという厳しい意見もある。

2016年6月 3日 (金)

伝記特集総集編

伝記特集を終えた。

  1. 2016年05月21日 最後のページ
  2. 2016年05月22日 伝記
  3. 2016年05月23日 エピソードの功績
  4. 2016年05月24日 ヴァジレフスキー
  5. 2016年05月25日 ウルトラマン
  6. 2016年05月26日 じんわりと伝記
  7. 2016年05月27日 伝記の罠
  8. 2016年05月28日 ヨコ展開
  9. 2016年05月29日 伝記1冊記事10本
  10. 2016年05月30日 伝記たるもの
  11. 2016年05月31日 伝記たるもの2
  12. 2016年06月01日 再読のすすめ
  13. 2016年06月02日 貴重な伝記
  14. 2016年06月03日 本日のこの記事

特集というには本数が少ない。

2016年6月 2日 (木)

貴重な伝記

現在のところ、クララ・シューマンの伝記の決定版か。春秋社刊行の「クララ・シューマン」だ。

Monica Steegmann著の「Clara Schumann」の全訳。玉川裕子訳。記述が客観的なことが冷たさに直結していない点好感がもてる。巻末の付録、人名索引、クララの作品リスト、国外演奏の記録、クララへの論評集など盛りだくさんで楽しい。出典元の提示もシンプルで明快なのが気持ちいい。

女子であることを極端にクローズアップしない姿勢が、説得力の増強に貢献している印象だ。ロマン派の二大巨星、シューマンとブラームスとのかかわりばかりが、バランスを欠く形で取り上げられることも多い中、節度ある姿勢に留まっていてなお、事実の提示だけは怠らない感じだ。

第一刷の発行年月日が2014年9月13日だというところに、こだわりと愛を感じる。

2016年5月29日 (日)

伝記1冊記事10本

以前ドヴォルザークイヤーの間、いろいろな調べ物のために書物をあたった。つくづく感じたのは、ブラームスに関する資料の豊富さだった。もちろんバッハやモーツアルト、ショパン、ベートーヴェンというようなスーパースターに比べれば劣るものの、ドヴォルザーク系の資料に比べれば遙かに恵まれている。ドヴォルザークだって相当な人気者のはずだが、日本語で読める資料はあまり多くないと感じた。

ブラームスの伝記は日本語で読めるという条件で絞ったとしても豊富だ。

未読の伝記1冊を買って来るとそれだけでネタが10本分は集まる感じだ。伝記作者が違えば元にした執筆の方針も範囲も変わってくる。根本のソースは同じでもキチンと全てを晒してくれる場合もある。初耳のネタにはもちろん飛びつくが、既知のネタであっても掘り下げ方が様々で面白い。複数の伝記において言及されるネタは、ブログ記事にするにも安心感がある。また伝記によって内容が微妙にずれているエピソードもあって興味深い。

今までどうにも納得が出来なかった事実関係が、新規入手の伝記1冊で解決ということもある。

2016年5月28日 (土)

ヨコ展開

話題の展開のさせ方の話だ。

ブログ「ブラームスの辞書」は話題をブラームスに限っている。ざっと見て7割はブラームスネタだ。何を血迷ったかこのノリで2033年のブラームス生誕200年まで継続しようと決めたから記事のネタを確保しなければならない。

従来はブラームスの伝記に登場する他の作曲家にも話題を広げるという手法用いてきた。バッハがその代表だ。実は最近この逆を考えている。他の作曲家の伝記にブラームスがどの程度引用されているかという視点だ。

私がブラームス以外で伝記をまともに読んだことのある作曲家は多くない。ベートーヴェン、バッハ、モーツアルト、ドヴォルザーク、シューマンくらいだ。この中で言えばシューマンとドヴォルザークの伝記にはブラームスの名前が頻繁に出てくる。バッハの伝記にはまず登場しないが研究書になると見かけるようになる。ベートーヴェンとモーツアルトではブラームスにはほとんど言及されない。

感心したのはドヴォルザークだ。予想以上にブラームスが出てくる。2人の関係を思うと当然だ。ブラームス本人の伝記では載っていないようなことまで言及されている。ということはシューマンが長生きしていたらもっと伝記にブラームスの名前が出たのだと思う。代わりにクララの伝記の中でたくさん言及されているのもうなずける。ワーグナーやリスト、あるいはブルックナーの伝記を調べたら面白そうだ。

面白そうだとは思うのだが、気が進まない。

2016年5月27日 (金)

伝記の罠

伝記の目的は、主人公の宣伝だ。もっと思い切って断言するなら長所の宣伝だ。凄さ、偉さを読者に伝えることが主眼である。この目的に照らして誇張と省略が行われているのが普通だ。さらに資本主義の論理がこれに加わる。伝記といえども書物である以上、出版社にとっては飯のタネだ。売れなければならない。売れる内容が、真実よりも優先されるという事態も起きる。

たとえばクララ・シューマンの伝記は、主人公クララの凄さ、偉さを読者に伝えることが目的だ。読者はそれを期待している。登場人物はそうした目的に合致するよう描写されている。クララの伝記の中に出現する以上、それがヨハネス・ブラームスであっても例外にはならない。あとがきに「これをキッカケにクララのことを好きな人が少しでも増えれば幸いです」などという著者のメッセージが書かれているようだといよいよ覚悟が要る。

一方わが「ブラームスの辞書」はこれら伝記とは以下の点で一線を画す。

  1. ブラームスの凄さなんぞ、読者の方が既によく知っているという前提に立っている。だからブラームスの凄さ、偉さを今更改まって伝える必要がない。
  2. 伝えたいのはブラームスの凄さではなくて、私自身がどれほどブラームスを好きかという点にある。

とはいえ、「ブラームスの辞書」の情報ソースは伝記を含む書物である。クララをはじめとする他者の伝記が、それ相応の誇張や省略を含むことは十分承知だ。もっとも注意しなければいけないのは、ブラームス自身の伝記に含まれるこの手の操作だ。かく申す私自身既に誰かの思うツボの中にいる可能性は低くない。

その点で一番安心なのは作品かもしれない。

2016年5月26日 (木)

じんわりと伝記

お気づきの方は少なくないはずだ。5月20日にクララシューマンの没後120年を話題にしてから、実は伝記特集に突入していた。

乙女たちの引退公演の余韻は余韻で楽しむのだが、ブログ記事の更新だけは別物だ。粛々と話題をつないでゆく。

2016年5月25日 (水)

ウルトラマン

1966年7月17日から放送された、「特撮変身巨大ヒーロー物」の嚆矢。当時小学校1年だった私ももちろん夢中になった。お化け視聴率をたたき出した伝説には事欠かない。これをキッカケに「巨大ヒーロー」が続々と登場した。人類のために宇宙人や巨大生物と戦うのだから、どこかでマグマ大使とバッタリ鉢合わせしないかと真剣に悩んでいた。大人の事情を全く考えずに、手に負えない敵が現れたら協力すればいいのにとマジで思っていた。だからウルトラセブンとウルトラマンの共演が実現したときは、心から嬉しかった。

これらのヒーロー物は完全に一つのワールドを形作っている。ウルトラマンの世界はそれだけで完結していて、マグマ大使は入り込む余地がないのだ。仮面ライダーやサンダーバードだって同じだ。

大作曲家も事情が似ている。特定の個人にとことんのめり込んでいると、あたかも独立の世界が存在しているような錯覚に陥る。ブラームスに傾倒するあまり、他の作曲家が見えなかったり聴けなかったりする。身に覚えありまくりだ。確かに大作曲家と目される面々は、強烈な個性が宿っているのだが、生存当時は社会から超越したり隔絶されていた訳ではないのだ。特定作曲家の作品全集がCDや楽譜で手軽に入手出来るという環境は、よく考えると不思議だ。

ブラームスの生涯を詳しく観察すると、大作曲家のエピソードが必ず存在する。ブラームスの時代には既に亡くなっていた人もいれば、同世代を生きたライヴァルたちの痕跡が記されている。ウルトラマンとウルトラセブンの共演みたいなものだ。

2016年5月23日 (月)

エピソードの効能

クラシック音楽のとりわけ名曲と位置づけられる作品には、様々なエピソードがセットになっているケースが少なくない。ブラームスにだってヤマほどある。

たとえばヴァイオリンソナタ第1番を「雨の歌」たらしめている事情は、シューマン夫妻の末っ子フェリクス抜きには説明出来ない。ブログ「ブラームスの辞書」でもしばしば言及してきた通りだ。

そこで疑問。ヴァイオリニストがそうしたエピソードを知っているのといないのとでは演奏に差が出るものなのだろうか?エピソードを知っていてもただちに素晴らしい演奏が出来る訳ではないことは私を見れば明らかだ。たとえばテクニック面で差の無いヴァイオリニストが2人いたとする。一人は音楽の本質とは関係ない伝記的事項に精通しているが、もう一人はさっぱりだった。はたして2人が演奏する「雨の歌」には差が出るのだろうか?

私の考えは既に固まっている。「差が出ない」と思う。「知っていた方が良い」とさえ言えないと思う。2種類のCDを用意されて「さてこれらの演奏のうち、フェリクスのエピソードを知らずに弾いているのはどちらでしょう」と問われたらお手上げだ。暗譜もこれに似ている。「さてこれらの演奏のうち暗譜で弾いているのはどちらでしょう」は、究極の難問だ。つまり区別出来はしないのだ。

弾き手側の知識の有無は演奏の出来に影響しないとは思うが、聴き手になると無視出来ないと思う。そうしたエピソードは、聴き手側の脳裏に深く進入して、鑑賞の味わいに影響する。エピソードを知る前と後では、同じCDを聴かされても感じ方が変わることは多いにあり得る。少なくとも私の聴き方はそうだ。

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