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カテゴリー「072 地名探検」の252件の記事

2017年7月10日 (月)

ベルギー

ブラームスはしばしばベルギーへの演奏旅行に出かけている。赴いた街はブリュッセルやアントワープだ。ベルギー国内では、3つの言語が用いられている。オランダ語(フランドル語)、フランス語(ワロン語)、ドイツ語。このうちドイツ語はルクセンブルクの北側一帯、ドイツとベルギーが国境を接するあたり。

オランダ語とフランス語の境界は、リエージュという街からほぼ真西に向かう直線。首都ブリュッセルの南およそ30kmの地点を東西に走るとも言える。ローマの時代には現在のベルギー一帯は既にローマ人が侵入していたが、10世紀までに東や北からフランク人が侵入した。このときのフランク人の侵入の南限が、言語境界線と一致しているというから、1000年の由緒ある線だということになる。

この境界線を東に延長し、ドイツ国境に到達するとそこにはアーヘンがある。ベルギーの言語を南北に分かつ境界線は、ベンラート線と接続するということだ。

ベンラート線は、「第2次子音推移」の影響をこうむった地域とそうでない地域の境界だった。ベルギー側の境界はフランク人侵入の南限だ。これがアーヘンで接続するとは恐れ入った。

2017年7月 1日 (土)

ドイツ系アメリカ人

昨日、キッシンジャー元国務長官がドイツの出身だと書いたばかりだが、ドイツからの移民を先祖に持つアメリカ人のこと。これがちっとも舐めたモンではなくて、場合によっては米国民の20%と見積もる人もいる。ペンシルバニア州や五大湖沿岸を中心に北東部に多く住んでいる。

独立戦争の際、英国軍にはヘッセンの出身者が多かった話を思い出した。19世紀までに10万人がアメリカに渡ったとされている。アイゼンハワー大統領の名前も何やらドイツっぽい。

メジャーリーグやフットボールの中継を観ていてもドイツっぽいと感じる名前が出てくる。たとえばニューヨークヤンキースの永久欠番3番と4番だ。3番ベーブルースの本名はGeorge Herman Ruth だ。ドイツ風に読むと「ゲオルグ・ヘルマン・ルート」で、最後の「Ruth」は、開墾地を表す「Reuth」や「Roth」との関係を伺わせる。4番はルーゲーリッグだ。Gehrigという綴りがいかにもな感じである。

かの地では「ドイツ訛りの英語」あるいは「英語訛りのドイツ語」が話されている。ドイツ語の一方言として捉える研究者もいるらしい。

2017年6月21日 (水)

大胆過ぎる仮説

グリム兄弟が編んだ「ドイツ伝説集」下巻に登場する話の舞台が、ドイツの南部か西部に偏っている話は既にしておいた。その領域がカール大帝の勢力圏と一致する可能性については、グリム兄弟自身が序文で言及している。いやはや、この序文は面白い。本文に負けないくらい貴重な情報が埋もれている。

既に私は地名語尾「heim」の分布が、カール大帝に何らかの関係があるのではないかと述べた。本日はそこから話を一歩進める。

「ドイツ伝説集」下巻収載のエピソードの分布域と、地名語尾「heim」の分布域が似ているのだ。どちらも南あるいは西に手厚い。ドナウ・ライン両大河の流域に分布する。

2017年6月20日 (火)

ハイムとハウゼン

「Heim」「Hausen」どちらも「家」を意味する。ドイツ語のネイティブな使い手でもない限り、これらの区別は難しい。これらが地名末尾に据えられるケースがある。「インゲルハイム」「ザンクトゴアハウゼン」などだ。

例によって毎度毎度の道路地図の巻末索引を頼りに分布図を作成した。まずは地名語尾「heim」から掲示する。

20170609_104541

見ての通りだ。南部とりわけライン川流域、ワインの産地で言うラインヘッセンに特異的に分布する。カール大帝の御所があったインゲルハイム近郊にと申したらお叱りを頂戴するだろうか。

20170609_104529

次いで地名語尾「hausen」の分布。「heim」とのすみわけが美しい。地名語尾「ハイム」の密集域(赤囲み)が見事に空白になっている。

「蝸牛考」に従うなら、インゲルハイム近郊が「京都」だ。あとから起こったハイムに、旧来のハウゼンが駆逐され、僻遠の地に残るという図式が容易に思い起こされる。

こうした地名の分布が何らかの歴史的事実や方言分布の反映でないとしたら恐ろしい。

2017年6月18日 (日)

地名語尾「itz」の分布

記事「ザーレの東」でザーレ川が方言、地名の境界を形成すると提起した。本日はその鮮やかな実例をあげる。

例によって、ドイツFALK社製の道路地図の巻末にある地名索引のうちその語尾に「itz」を伴うものが308個、2.5%出現する。地名索引だから、その地名が何ページのどのあたりと特定する仕組みになっていることを利用した。見開き1ページが左右つまり東西に8つ、南北に6つに区切られている。東西にはアルファベットのA~Hが、南北には数字の1~6が割り振られている。これらの組み合わせで「A-1」となれば、見開き1ページの左上隅のマスを探せば目的の地名にたどりつくという寸法だ。「A-1」のマスは1辺7kmの正方形だ。

この要領で地名語尾「itz」を伴う地名がどこにあるのかドイツ全土にプロットしてみたのが以下の画像だ。

20170609_093548_2


鮮やかなもんだ。ドイツの東半分に集中する。「itz」はスラブ語起源で「~の場所」を意味するというのが定説である。図上鮮やかに浮かび上がった中央を南北に走る線、これが地理上のザーレ川に一致する。

2017年6月16日 (金)

ライン扇状地

単に扇状地と言えば中学校の地理の時間に習う。河川が山地から平地に出る場所に現れる地形のことだ。山地から平地への出口を要にした扇状になることからその名がある。

だから「ライン扇状地」などと申せばライン川が作りだす扇状地だと思われかねないが、これが大間違いで、れっきとした方言用語だ。ライン川周辺の方言の分布図が扇形に似ていることから来るネーミングだ。ドイツ語で「Rheinischer Facher」(aはウムラウト)という。ドイツ中部の中のライン沿岸は北に行くほど低地ドイツ語の影響を受けている。ライン川により交易が古来盛んだった名残りと受け止められている。その結果東西に広がる方言域をライン川が貫通しているという様相を呈している。

  1. リプリアリ語 フランク族の支族リプリアリ族にちなむ。ケルン、アーヘン、デュッセルドルフ周辺の言葉。
  2. 中部フランケン語 ボン周辺の言葉。
  3. モーゼル・フランケン語 ルクセンブルクからトーリア、コブレンツあたりのモーゼル川流域の言葉。
  4. ラインフランケン語 ザールラントからプファルツ、マインツあたりの言葉。
  5. ヘッセン語 ウィースバーデン、ダルムシュタットあたり。

2017年6月 9日 (金)

早生まれ

1月から3月までに生まれた子供は、前年に生まれた子供たちと一緒に、一足早く小学校に入る。その子供たちのことを「早生まれ」と呼んでいる。私も早生まれだ。

ハンブルクの北北西約20kmの位置に「Quickborn」という地名がある。英語に慣れきった脳味噌には「早生まれ」あるいは「速生まれ」に読める。ハンブルクのような北ドイツには、英語からの影響も少なくないから余計怪しい。

案の定とんだ早合点で、ドイツ語で「こんこんと湧く泉」の意味だ。「born」は泉なのだ。「quick」は豊かな水量の暗示である。

先日から方言詩人クラウス・グロートについて調べていたら思わぬお宝情報にめぐり合った。グロートは多数の著作を遺した。語学文学関係だが、得意は方言だった。低地ドイツの抒情詩の研究書がその代表作なのだが、そのタイトルを見て驚いた。何と「Quickborn」だった。先の地名の所在地は低地ドイツの真っ只中な上に、彼の故郷にも近い。私がまだ知らない必然がもう1つや2つ横たわっていそうである。

2017年6月 2日 (金)

地名と方言

記事「民謡と方言」および「民話と方言」で、民謡や民話と方言の関係を話題にした。

民謡や民話は伝承の段階ではほぼ100%方言が用いられているのと同様、地名も命名した人々が共通に理解する言語の範囲内で言葉が選ばれているに決まっている。命名の場所と時期がとても重要だ。

「民話」「民謡」「地名」これらの全てが「方言」と密接なかかわりを持っている。

明日以降実例をあげてこの点を掘り下げる。

2017年5月23日 (火)

ドイツ語圏

ドイツ語を話す人々が住む地域のことか。これが国としてのドイツの領域とピタリと一致しないところが面白い。英語圏、スペイン語圏、ポルトガル語圏、フランス語圏など様々な国名を冠して言いまわされる。日本語圏はあまり用いられない気がする。国としての領域と一致してしまう場合には定着しにくかろう。つまり「~語圏」という言葉は、国の領土と一致しないことを前提に発せられていると思われる。

ドイツ語の場合、本国に加えてオーストリア、リヒテンシュタイン全域と、スイスの一部がこれに該当する。1億人強が公用語として使っている言葉だ。地名語尾を調べる時それを実感したことがある。オランダやベルギーの地図には、ドイツ語の知識ではどうにもならない地名がゴロゴロ出てくるのに対し、オーストリアやスイスではずっと楽に読める。これがつまりドイツ語圏なのかと思った。一方でドイツ本国には現れない言い回しもチラホラ目に付くところが楽しくもあり悩ましくもある。

ドイツ国内の州による格差もおぼろげながら浮かび上がってきた。ドイツ語圏内での微妙な差の方がよっぽど面白そうな気がする。

2017年5月20日 (土)

ベンラート線

ドイツ語で「Benrather -Linie」と綴る。

ベルギー国境の街、カール大帝の都アーヘンと、ポーランド国境フランクフルト・アム・オーデルを結ぶ線。アーヘンから北東に進んでデュッセルドルフ南郊でライン川を渡るとほぼ真東に伸びる。カッセルの南を過ぎたあたりで北東に向きを変え、マグデブルク南郊からまた真東に進む。ベルリンの南端をかすめつつそのままフランクフルト・アム・オーデルに至る。

ドイツ方言学上もっとも重要かつ有名な線だ。ドイツ語の歴史にとってはずせない線だ。印欧祖語から第1次子音推移によって、他の言語と一線を画したドイツ語だが、その後中世になって第2次子音推移が起きた。この変化が起きたか起きなかったかの境界がこのベンラート線だ。第2次子音推移が起きなかったのがこの線より北側で低地ドイツ語と呼び、南側を上部ドイツ語と呼ぶ。南部は広いのでさらに南北に二分されるが、方言間の差異はこのベンラート線ほどは劇的でない。

低地ドイツ語は、第2次子音推移を被っていないため、オランダ語や英語に近い。第2次子音推移はドイツ語の音声的な特徴から設定された線だが、語彙、構文などの諸現象の分布もこの線が境界になっているケースが見られる。

現在のドイツ標準語がこの線の南に属するザクセン語が母体になっていることから、ベンラート線は現在も北上中というのが定説である。

さてベンラート(Benrath)は人名かと思ったらそうではなかった。地名である。デュッセルドルフ南郊ライン川に面したところにベンラート(Benrath)という街があった。この街が線の名前の由来だ。方言学上大切な線が、これまた大切な父なるラインを横切る街の名を取ったと思われる。

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